東京都、神奈川県、埼玉県、大阪府、滋賀県で離婚・男女問題にお悩みなら
受付/月〜土10:00〜19:00 定休日/日曜・祝日
お問い合わせ
ラインお問い合わせ

和解契約の解除

XはYに対して売買代金ならびに遅延損害金の支払請求訴訟(前訴)を提起しこれが係属していたところ、第1審の口頭弁論期日において以下の内容の訴訟上の和解が成立し、これによって訴訟は終了した。「1. Yは、Xに対する売買代金の支払義務が存在することを認める。2. Xは、上記売買代金のかわりに、Yの有する甲土地をXに譲渡する。3. Xは、Yの遅延損害金支払債務については免除する。」しかし、甲土地の引渡期日が経過したにもかかわらず、YはXに対して一向に甲土地の引渡しを履行しようとしないので、XはYに対する履行の催告を怠った上で上記の和解契約を解除し、あらためて売買代金の支払を求める訴え(後訴)を提起した。これに対し、Yは、本案前の抗弁として、和解契約が解除されたのであれば、訴訟上の和解による前訴の終了効果も遡及的に消滅しているはずであるから、前訴はいまだ訴訟係属状態にあり後訴は二重起訴に当たると主張した。後訴裁判所としては、後訴提起されたこの提訴をどのように扱うべきか。また、Xとしては、後訴提起という手段以外にどのような方法でもって和解の解除を主張し得るか。●参考判例●最判昭和43・2・15民集22巻2号184頁●解説●1 訴訟上の和解の解除の可否本問のように、和解の内容についてその後に不履行があった場合に、Xが和解契約の解除をせず、和解条項の内容の履行を求めて強制執行(甲土地についての引渡執行)をすることは、訴訟上の和解の効力として執行力が認められている(民執22条7号)ことから、問題なく認められる。それでは、Xとしては、私法上の和解契約を法定解除し得ること(異論はない)として、さらに訴訟上の和解をも解除することができるであろうか。訴訟上の和解に私法上の和解としての要素を認め(→問題57)、既判力を否定する立場にある場合には、当然に債務不履行に基づく解除は肯定される。他方、訴訟上の和解の効力につき既判力肯定説に基づく判決の代用立つ場合であっても、その後の不履行に基づく解除の訴えは、基準時(訴訟上の和解の効力発生時)後に生じた新たな事由といえ既判力によっては遮断されないことから同じく解除は肯定される。問題なのは、解除に伴って生じた訴訟終了も消滅する(民545条1項参照)のか否かという点についてであり、解除の訴訟上の主張方法の問題とも相まって議論のあるところである。2 解除の主張方法この問題は、理論的には、解除権行使の効果として訴訟上の和解により生じていた訴訟終了効が遡及的に消滅するのか否か、という点に関わってくる問題である。解除により訴訟終了効も消滅すると捉えるならば、前訴はいまだ終了していないことになることから、当事者に対しては期日指定を申し立てるということになる(期日指定申立説)。これに対して、訴訟終了効はもはや消滅せず別個の紛争が新たに生じたに捉えるならば、当事者としては新訴を提起することになる(新訴提起説)。以下、両説の長短を検討するとともに、この2説以外の考え方についても検討する。(1) 期日指定申立説期日指定申立によると、和解の解除により訴訟終了効も消滅し、前訴が復活し審理が続行されることになる。これにより、前訴の訴訟状態を利用することができること、申立手続が簡便である、不履行の有無の判断の前提としての和解条項の解釈には前訴において関与した裁判官が適任である、といった利点がある。他方で、不履行の有無(=解除の有効無効)は、和解自体に付着していた瑕疵ではなく新たな紛争と捉えるべきであるにもかかわらず、場合によっては審級の利益が保障されないという難点がある。(2) 新訴提起説新訴提起説では、和解が解除されても訴訟終了効は消滅しない。この立場によると、和解を解除して新たに生じたと見なされるうえ、前訴とは別個の新たな紛念というになり、審級の利益が保障されるという利点がある。他方で、前訴の訴訟状態を利用できず不便であるという難点を伴う。参考判例①もこの立場に立っており、和解を解除した当事者が前訴と同じ訴訟物をあらためて後訴という形で請求しても、二重起訴の禁止(142条)にはふれないとしている。(3) 選択説訴訟終了効の消長とは別に、解除主張者に期日指定申立てと新訴提起のいずれかを選択させるとする立場(選択説)も有力に唱えられている。解除主張者の意思を尊重した考え方といえるが、相手方の利益や審理を実効的にするためには合理的な主張方法を定めておくべき、との指摘も他方ではなされている。3 本問の検討訴訟上の和解が解除されることにより、前訴について生じた訴訟終了効を消滅するという見解を前提とすると、本問のようにXが前訴と同じ訴訟物を後訴で提起することは二重起訴の禁止にふれた不適法な訴えとして却下されることになる。この立場に立つ場合には、Xとしては、前訴についての期日指定の申立てをすべきことになる。他方、参考判例①の新訴提起説のように、訴訟上の和解が解除されても前訴についての訴訟終了効は消滅しないという見解を前提とすると、Xにより提起された後訴は二重起訴の禁止にはふれないということになる。また、訴訟終了効の消長とは別に、前訴についての期日指定申立てと後訴のいずれかを選択可能とする選択説の立場からは、Xによる後訴の提起以外にも、前訴についての期日指定申立てという手段を認めることになる。