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主観的予備的併合 (同時審判申出共同訴訟)

XはY₁から350万円借り入れた際,X所有の本件土地の登記をY₁に移転した。Xは弁済の提供をしたが,Y₁は土地を返さない。そこで,Y₁への登記移転は担保目的であり,所有権の移転の意思によるものではなかったとして,Y₁に対する所有権移転登記の抹消登記を提起した。ところが,Xの新訴提起直前に,Y₁はY₂(本件土地を使用し所有権移転登記をした。そのため,Xは,主位的にY₁に対して所有権移転登記を請求するとともに,仮にその請求が認容されない場合にはY₂がXの権利行使を妨げ,Xに損害を被らせたことになるとして,Y₂に対して予備的に1400万円(土地代金から借入金債務を引いた額)の損害賠償請求をした。このようにXがY₁・Y₂に対して順位を付け,主位的被告Y₁に対する請求認容を解除条件として,予備的被告Y₂に対する請求で訴えを求めることはできるか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 43・8・8 民集 22 巻 8 号 551 頁[⚫] 解説 [⚫]1 主観的予備的併合の意義数人のまたは数人に対する請求が論理上両立し得ない関係にあって,いずれが認められるか判定し難い場合に,共同訴訟の形態をとりつつ,それぞれの請求に順序を付けて審判を申し立てることを,訴えの主観的予備的併合と呼ぶ。例えば,代理人 (代表者) と契約したが無権代理の疑いがあるときに,第1次的に本人 (会社) に請求し,これが棄却される場合に備えて予備的に代理人 (代表者) に対する請求をも併合提起する場合 (民訴 117 条 1項),土地の工作物の瑕疵による請求を第1次的に占有者に,第2次的に所有者に対して請求する場合 (民法 717 条) などである。この併合形態をとらず,両被告を別々に訴えることはできるが,別訴だと一方では代理権がないとして本人に対する請求を棄却,他方では代理権ありとして代理人に対する請求を棄却されて両方で敗訴するおそれがある。被告側のみならず原告側に順位付けがなされる場合も含まれるが,ここでは本問のとおり前者をおもな対象としていく。2 この併合形態の問題点同一当事者の請求の複数に順位を付ける,訴えの客観的予備的併合は問題なく認められるのに,主観的予備的併合については議論が分かれている。否定説の理由は主に,①予備的被告の地位が不安定であること,②審理の統一が保障されているわけでないことの2点にまとめられる。すなわち,①この併合形態は,第1次被告に対する請求が認められれば予備的被告に対する請求の判断がされないので,第2次被告の地位が極めて不安定であること,②第1次被告に対する請求認容判決が確定すれば,予備的被告に対する訴訟は遡及的に訴訟係属を消滅させられ,予備的被告の地位が不安定なものになること,と。③この併合形態には共同訴訟人独立の原則 (39 条) [→問題61]が適用される結果,いずれか一方に対し勝訴できるという原告の保護の統一の保障は必ずしも図られず,この併合形態を認めるメリットはあまり大きくないこと,とくに原告との関係では,第1次被告に対する請求が認容されれば,判決は第1次被告との間でしか言われず,控訴審ではじめて第1次被告で敗訴となり,被控訴審にいくのに主観予備的併合だけでできる。また第1次被告につき請求棄却,予備的被告に対し請求認容となるも通常共同訴訟であって,原告が控訴したとき予備的被告にいくのは第1次被告に対するとおりであり,結局,どちらにも負けることを防止するという趣旨が害される危険がある。参考判例①は主観的予備的併合の当否について初めて明示し,否定説に立つことを明示したが,その後も下級審においてはこれを認容する判例が報告されている。3 肯定説からの反論肯定説は,上記問題点は致命的なものではない。①は,通常共同訴訟における独立原則を修正して必要的共同訴訟の規定 (40 条) を準用すれば,主張の問題だけでなく,攻撃防御方法の提出や自白,和解を含めて一応解決できる。もともとこの併合形態を否定するより肯定するほうが,より統一的裁判を保障できる。①についても,両立しない請求の関係から,主位的請求認容判決は同時に予備的請求棄却を意味し,両者が確定すれば申立ての趣旨の再判断を迫ること解消すると解すればよい。これらは技術的問題として,クリアできるのである。ただし,根本問題につながる①については,もう少し検討しておこう。①は,主位請求が認容されると予備的請求は棄却判決を受けることなく消滅するという判決脱漏での不利益のほかに,⑥原告申立ての自分に対する請求に審理に入るのか不明で,終始訴訟に関与していなければならず,しかも主位請求に対する請求の審理中はほとんど何もできない,という審理過程での不利益がある。③④前述のとおり技術的にクリアできた。⑥も,予備的被告に対する請求に関する弁論,証拠調べは第1次被告に対する請求が棄却されてから始めるという条件付きにできる。請求である以上,2つの同時並行的に審理されると考えられ,予備的被告がいつ自分に対する審理が始まるか不明という不安定な地位に置かれるというより,むしろ終始弁論の機会があることは否定も考えられる。4 肯定説の展開と本問への対応問題なのは,原告が「択一的に」両被告を相手にしている状況において,なぜ両被告,とくに予備的被告に不利益をかけるのか不満な原告の申立てで許してよいか。この不利益の根拠を,両請求が両立し得ないという請求の実体的関係に求める考え方もある。しかしそうではなく,訴訟主体間の関係を重視し,予備的被告が異議を述べずに応答している場合や,紛争の経緯から両被告がともに1人に絞る責任がない場合に,この併合形態を認めようとする考え方が主張されている。以上によれば,本問では,厳密な意味で両請求が両立し得ない関係にあるのか若干疑義もあるが,Y₂に対する請求はXに所有権が存在することを前提とし,Y₁に対する請求はXに所有権がないことを前提とする点で法的に両立し得ない関係にあると考えられ,Y₂に対する損害賠償請求が本件土地の代物であるから,実質的経済的にみても主観的予備的併合を許す方向へ傾く。また何より,原告がこのような併合形態をとらざるを得なくなったのは,係争物処分 (土地の売買) という Y₁の行為によるものであり,この場合 Y₂は係争物処分という問題の根拠を承継した,本問ではXが訴えを提起しようとした直前に,Y₁は土地を処分し始めたと想定したことから,もっぱら参考判例①の事案のように,土地は登記は無効であった,実際の売買のほうY₂のほうがより安い値段で買い取ったとすると,いずれにせよ X の所有権が真実にもとづいてその処分を許さず,かつ Y₂が原告からより安い値段で買い取ったわけではないのである。このようなY₂の行動からも,Y₂は被告にされること当然ともいえるし,Xとしては土地を返してもらいたいのが第1であるから,まずY₁に対する所有権移転登記請求,それが認められなかったらY₂に損害賠償請求という順序付けがあるので,このうに紛争の経緯,当事者間の関係からみて,主観的予備的併合が自然であり必要でもある。5 同時審判申出現行民事訴訟法では,主観的予備的併合を巡る議論の意見は相対的に縮小した。法律上併存し得ない2人 (以上) の被告に対する訴訟につき,原告が申出があれば,弁論および裁判を分離しないで行う共同訴訟の申出があったとは (41 条)。そこで前述の民法 117 条や 717 条の例は,原告が申し出れば両被告に対する請求の審理判決は同一手続でされるので,事実上裁かれる,両共同被告が届け出られる。なお,この裁判の形態は,通常共同訴訟として,共同訴訟人独立の原則が適用される。主観的予備的併合のニーズは,この同時審判申出によってもかなり吸収されうるだろうが,今後も主観的予備的併合を必要とする立場も有力である。まず,共同訴訟への訴訟を請求が法律上併存し得ない場合 (法律上排他) で,請求が両立しないこと。前述の本人と無権代理人ケースでは代理権を授与したとの真実が本人に対する請求原因事実,無権代理の主張は抗弁になり,主観的予備的併合の請求で両立しないと仮定すると,本問のような場合が認められるか微妙になる (ただし前述のとおり,請求は両立しない関係にあるこを前提とし,Y₁に対する請求はXに所有権がないことを前提とする点で法的に両立し得ない関係にあるとの説もある)。加えて,事実上被告をどちらにしてよいかわからないような場合 (契約相手や不法行為の加害者が確定できない等) が取り残されてしまう。また,この条文では複数の被告に対する請求の同時審判を原告が申し出た場合にしか規定されていないが,逆に原告が複数で単一被告に対する請求が両立できない場合も,主観的予備的併合の領域とされてきた。そこで,これらにも条文を類推すべきであろう。さらに,同時審判申出では,当事者が請求に順位を付けることができないし,手続を分離しないというだけで完全に通常共同訴訟であれば,統一的審判の問題は弱い,とくに上訴審では,2つの控訴がされた場合には当事者が併合される (41条3項),控訴するかどうかは各自の自由なので,片方だけが上訴された場合には審判の統一はない,例えば「代理権なし」として X が Y に敗訴,X が Y₁ に勝訴という場合,負けた Y₂ は控訴したが X は Y₁ に控訴しないで,控訴審では判断が逆転して「代理権あり」となったとすると,控訴審でXはY₂に勝訴し,結局Xは両方に敗訴する。これを防ぐには,X は,Y₂に対して勝訴しある程度の利益を確保していても,常に控訴しておかなければならず (Y₂が控訴してくるかどうかわからなくても,控訴期間経過直前に控訴してくることもあり得,Y₂の控訴提起を知ったときには間に合わないことにならないように),制度上の不備とされている。[⚫] 参考文献 [⚫]井上治典『多数当事者の訴訟』(信山社・1992) 3頁/重点講義I 94 頁(安西明子)