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権利自白

Xの夫Aは、函館発の民間機に乗って松島に向かっていたところ、この民間機は飛行中に、訓練中の自衛隊機と空中接触して墜落し、この事故によって死亡した。国(Y)との和解交渉が不調に終わったXは、Yに対して国家賠償請求訴訟を提起した。Xは、自衛隊機のパイロットは、事故の発生状況や態様について詳細に指摘した上で、自衛隊機の飛行に過失があるにもかかわらず、これに言及しない、過失があることを主張した。これに対して、Yは、Xの主張する具体的な事実のうち衝突態様や損害額などについては争いつつも、本件事故の発生について、自衛隊機のパイロットに安全確認上の注意義務に反した包括的一般的過失があると陳述した。裁判所は証拠調べをすることなく、Yの過失を認定することができるか。●参考判例●① 東京地判昭和49・3・1民集25巻1号129頁② 最判昭和30・7・5民集9巻9号985頁●解説●1 権利自白の対象弁論主義の第2テーゼにより、当事者が口頭弁論期日または準備手続期日に相手方の主張と一致した事実を陳述した場合、すなわち当事者間に不利益な事実を拘束する(179条)。これを裁判上の自白というが、この自白の対象が主要事実に限られるのか、あるいは間接事実白というのが、この自白の対象が主要事実に限られるのか、あるいは間接事実についての及ぶのかについては争いがあるものの[→問題30]、基本的には事実の陳述について成立する。しかしながら、訴訟上主張される事実は、実体法上の要件に該当するものとして主張される事実、事実を適用した結果である法律上の陳述についても、一方当事者の主張が相手方の主張と一致することがあり得る。法律上の陳述については、①法規や経験則の内容や存否に関する陳述、②特定の事実の存否とは無関係に法効果にかかる評価を断定する陳述、③権利関係、法的効果に関する陳述があり得る。このうち、①については、本来的に裁判所の職責であるために自白の対象とはならない。②についても、事実の陳述として評価される場合があるが、一般には自白の対象とはならない。これに対して③については見解が分かれる。例えば、所有権に基づく物件引渡請求訴訟において所有権の存在を認める場合や、売掛金請求訴訟において売買契約の成立を認める場合である。これらは、訴訟物の前提となる権利関係や法律関係の陳述であり、権利自白といわれる。判例は、権利自白について、裁判上の自白としての効力を否定するが、事実の自白として評価することができるのであれば、自白の拘束力を肯定する(参考判例②)。学説においても権利自白を否定する見解があるが、それは法律判断は裁判所の専権に属する事項であり、当事者が自由に処分することができないことを理由とする。しかしながら、訴訟物である権利関係、法律関係については当事者の自由な処分が認められている以上、そもそも、法律関係については当事者の処分に一切ゆだねられているとはいえない。また、例えば、所有権に基づく引渡請求訴訟で、所有権の確認を求める中間確認の訴えが提起され、これが認容された場合は、所有権の存在を認める判決である[→問題29]、権利関係・法律関係についての当事者による処分が問題といえる。そこで、一定程度、権利自白にも効力を認める見解も主張されている。例えば、権利自白があれば、権利の存在については一応証明をする必要はなくなるが、この権利の存在を否定する事実が弁論に顕出されれば、異なる法律判断をすることができるという見解がある。さらに、権利自白の拘束を原則として否定しつつも、事実の自白の問題に引きつけて考え、事実の自白としての効力を肯定する見解もある。すなわち、日常的な法律観念に関する陳述について、法規の構成要件に該当する事実を包括的に自白したと評価して権利自白を肯定する見解や、権利と合わせて具体的事実が併せて主張され、それらについて包括的な趣旨が認められるのであれば、事実としての自白の成立を認める見解などである。さらに、正面から権利自白を肯定する見解もある。ただし、無条件に認めるのではなく、日常用いられる通常人が内容を理解している上で法律観念であることを求める見解や、法律関係の内容を理解した上で、それを争わない意思が明らかになった場合にのみ自白の成立を認めるという見解、法律自白が自白主体側の経験によって検証されうる場合に限られるという見解、当事者が十分に把握した上で陳述している場合に限られるという見解のように、自白の成立範囲を限定している。これらは、不十分な知識や認識に基づいて権利自白をした当事者の利益を保護するためである。同様の理由から、自白の範囲も、通常の事実の自白よりも緩やかな要件の下で認められる。また、訴訟物レベルでの請求の放棄・認諾・和解についても、強行法規や公序良俗に違反しない場合、物権法定主義に反しない場合のように、一定の要件の下でしか認められないこととの均衡上、権利自白も同じ要件の下でしか認められない。2 適用について(本問の扱い)同種の問題は、過失を正当事由など、具体的な事実に関する陳述ではなく、これに対する評価を前提とした法律判断についての自白がなされた場合にも生ずる。過失等の法的な評価が主要事実であるという伝統的な見解によれば、当事者が抽象的に過失の存在を自白した場合であっても、事実の自白としての拘束力を認めることになる。これに対しては、法的な評価そのものではなく、これを基礎付ける具体的事実こそが主要事実であるとする近時の有力な見解によれば、当事者が過失等を自白した場合には事実自白の問題となる。そうであると、権利自白を否定する見解であっても、本問のように、Xが過失を基礎付ける具体的事実を指摘しつつYの過失を主張し、YもX主張の事実を基礎付けについて争いつつもその点の結論については認め、包括的に過失を認める陳述をしている場合には、証拠調べをすることなく過失を認定することができるであろう(参考判例①)。また、肯定説の立場でも、Yは本件事故の状況について、事前に調査を行ったりして事実を認識し、これを正しく法的評価をする能力を有していると思われ、Xの陳述の内容を正確に理解した上で、自衛隊機のパイロットの過失を裁判の基礎に含めてよいと自認していると評価できるため、裁判上の自白としての効力は生じよう。●参考文献●高見澤民・民事事実認定41頁 / 鷹巣満・百選106頁 / 松本博之・百選1(新法対応補正版)(1998)216頁 / 山本克己・百選110頁(杉山悦子)