訴え取下げと再訴の禁止
Yに対する貸金債権(甲債権:1000万円)を有する債権者Xは、Yを相手どって同貸金の返還を求める訴え(前訴)を提起した。審理の結果、第1審では請求認容判決が下されたのに対し、Yは控訴を提起したが、控訴審係属中、Yは「即座に1000万円全額を支払うことはできないが、全額の6割にあたる600万円の支払をしたら『い』旨をXに申し出、Xもこれを了承する旨の裁判外の和解が成立したので、XはYの同意を得てこの訴えを取り下げた。上記の裁判外の和解に従い、Xは前訴の取下げ後6か月間、Yに対する支払を求めなかったが、同期間を過ぎてもなおYはXに対して甲債権の履行をしなかった。そこでXは、Yに対し甲債権の履行を求めたが、Yは上記のような裁判外の和解は成立していないと主張して甲債権の支払を拒んだことから、甲債権の支払を求める訴えをあらためてYに対して提起した。裁判所は、この再訴をいかに扱うべきかについて検討しなさい。●参考判例●最判昭和52・7・19民集31巻4号693頁最判昭和55・1・18判時961号74頁●解説●1 訴えの取下げの要件・効果訴訟終了に関する処分権主義より、判決が確定するに至るまでのいつでも訴えを取り下げることができる(261条1項)。ここに、訴えの取下げとは、訴えによる審判申立ての全部の撤回を内容とする原告の意思表示をいう。これがなされると訴訟係属の遡及的消滅という効果が生じる(262条1項)。訴えの取下げ自体は原告によってなされる行為であるが、相手方が本案について準備書面を提出し、準備的口頭弁論において申述し、または口頭弁論(以下、「本案についての主張」という)後においては、相手方の同意を要しなければ取下げの効力を生じない(261条2項)。この相手方の同意という要件が加重されている趣旨については、原告の訴えの取下げの自由が認められる一方で、被告についても請求棄却判決を得て原告の請求権について本案についての主張をした後には、被告についても請求棄却判決を得て原告の請求を認めないことをもって確定するという利益を有しており、これを保護する必要があるためと理解されている。また、本案について終局判決が言い渡された後に訴えの取下げがなされた場合、当事者は同一の事件について再度訴えを提起することができなくなる(262条2項)。これを再訴禁止効という。2 再訴禁止効(1) 再訴禁止効の趣旨本案について終局判決が言い渡された後にする訴えの取下げに「再訴禁止効」が生じるとされる趣旨については、従来より大別して取下濫用制裁説と訴訟費用追求防止説という2つの考え方が唱えられている。取下濫用制裁説とは、訴えが取り下げられることにより、本案の審理に関与し判決までした裁判所の労力を徒労に帰せしめたことに対する「制裁」と捉える立場であり、学説上は多数説に立つといえる(兼子一『新民事訴訟法体系(増訂版)』〔酒井書店・1965〕297頁、三ヶ月・前掲355-356頁、松本=上野559頁など)。これに対し、再訴費用追求防止説は、訴えの取下げが繰り返されることにより裁判所が翻弄されるとともに、相手方にとってもその訴訟追行の紛争の解決を図ろうとする利益を不当に害することから訴えを提起するのは訴権濫用に当たると説く(上告棄却〔著〕「民事訴訟法(第2版)」(弘文堂・2011)152頁〔長谷部恭男〕、竹下=藤田『民事訴訟法(第4版)』〔有斐閣・2009〕991頁など)。取下濫用制裁説に対しては、終局判決後の取下げ行為が非難の対象であるにもかかわらず、取下げ行為自体を法が認めていることとの一貫性を欠くといった批判が挙げられる。他方、再訴費用追求防止策に対しては、訴えの取り下げが濫用と評価されるに当たっても、実体的な権利であることも否めないが、相互に矛盾するものである。なお、この点について参考判例①は、民事訴訟法262条2項は、「終局判決を得た後に訴えを取り下げた者に対する制裁的な規定であり、同一の紛争を蒸し返して訴訟制度をもてあそぶような不当な事態の再発を防止する目的に出たものにほかならない」として、両者の折衷的な立場に立つといえる(参考判例②も同様)。(2) 同一の訴え再訴禁止効が生じる「同一の訴え」の範囲については諸説あるが、その適用範囲については、取下濫用制裁説、再訴費用追求防止説のいずれの立場に立つか、これを限定的に解すべきとの傾向でなされている。例えば裁判所の判断が成立したことによる訴訟経済の要請も合致し、当事者もすでに本案判決を考慮して裁判所の訴訟追行の方向が定まっておらず、そこで、近時では、取下濫用制裁説、再訴費用追求防止説という立場の違いにかかわらず、前訴と後訴の同一性を判断するに際しては、当事者の同一性・訴訟物の同一性のみならず、原告に再度の訴えを提起を正当化できる新たな利益がある場合には、再訴の利益を正当化できる新たな利益がある場合には、再訴の利益を正当化できる新たな利益がある場合には、再度の審理をしてもよい。訴えの取下げがなされる態様については、実質的な理由が存する場合と敗訴濃厚となりその後の訴訟の再度の審理をしてもよい。再訴の利益を正当化できる事情の一例として、再訴の取下げの実現に即した妥当な解決が図られること。3 再訴を提起された裁判所の対応再訴の利益を正当化しうる事情の1つであることから、再訴の裁判所は、被告からの指摘がなくても自らのイニシアティブによって調査し、そこで、近時では、取下濫用制裁説、再訴費用追求防止説という立場の違いにかかわらず、前訴と後訴の同一性を判断するに際しては、当事者の同一性・訴訟物の同一性のみならず、原告に再度の訴えを提起を正当化できる新たな利益がある場合には、再訴の利益を正当化できる新たな利益がある場合には、再訴の利益を正当化できる新たな利益がある場合には、再度の審理をしてもよい。訴えの取下げがなされる態様については、実質的な理由が存する場合と敗訴濃厚となりその後の訴訟の再度の審理をしてもよい。再訴の利益を正当化できる事情の一例として、再訴の取下げの実現に即した妥当な解決が図られること。