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確定判決の無効

Yは, 不動産仲介等を業となすX会社 (代表者B) の仲介により, 訴外A会社から土地および建物 (以下, 「本件土地建物」 という) を代金3200万円で買い受けた。 上記仲介に際してYに交付された重要事項説明書には, 「市街化調整区域の建築制限あり」 等の記載はあったが, その具体的内容等についての記載はなく説明もなかった。Yは, XおよびBの説明義務違反により, 本件建物を居住および建替えが可能な物件であると誤信して取得し, これらの目的で本件土地建物を購入したことから, その代金と当時の適正価格との差額相当額の損害を被ったとして, 不法行為に基づく損害賠償請求訴訟 (前訴) を, XおよびBに対して提起した。 前訴において, Yは, Xが, 建築制限の具体的内容についてBから相応の説明を受けていたこと, 知人から建築制限についての話を聞いておりその具体的内容を知り得たこと等を主張して争ったが, 審理の結果, Yの請求を認容する判決が言い渡され確定した。 そして, Yは, 前訴の確定判決に基づき強制執行を行い, 賠償額を取り立てた。その後, Xらは, 前訴判決は前訴においてYが虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔して取得されたものであると主張して, Yに対し, 不法行為に基づく損害賠償請求訴訟 (後訴) を提起した。 前訴確定判決と後訴の関係に留意しながら, 後訴について裁判所はどのように審理をすべきかについて検討せよ。●参考判例◎① 最判昭44・7・8民集23巻8号1407頁② 最判平10・9・10判時1661号81頁③ 最判平22・4・13集民234号31頁■解説●1 確定判決の無効確定した終局判決において示された判断が判断に影響されるようなことがあれば, 民事裁判の紛争解決機能は損なわれ, また紛争の蒸し返しを招くことにもなりかねない。 このような事態を防ぐために裁判所が認められている。 そして, 確定判決について生じた既判力を認めるのが通例であり, 再審によって確定した終局判決が取り消されない限り, 既判力は否定されないのが判例である。判決が裁判官によって作成され言い渡された場合には, たとえ手続や判決内容に瑕疵があるとしても無効というわけにはいかない。 判決が確定すれば, 裁判の見た目からは, 当然に無効というわけにはいかない。 適法に成立した以上, 自己拘束力も生じることから, 当事者は上訴によってその確定を争うことができるにとどまり, 判決確定後は再審によってのみ争いうるにすぎない。 しかしながら, 手続上は無効と解し直している判決もある。 既判力・執行力・形成力などの内容上の効力を認め得ない場合があり, これを確定判決の無効という。 実在しない者を当事者とした判決, 治外法権者に対する判決, 当事者適格のない者の訴えに対する判決などがその例として挙げられる。それでは, 確定判決が, 一方当事者による相手方に対する訴訟手続への関与や供述資料の提出等の妨害によって取得された場合, 判決の基礎資料の加工・偽造等により裁判所を欺罔し客観的真実に反する不当な内容のものであったような場合 (確定判決の不当取得という) ではどうであろうか。 確定判決の不当取得が再審事由 (338条1項) に該当する場合には, 相手方は再審を経ることによって救済されるのはいうまでもない。 問題は, 再審を経ることなく, 確定判決の無効を後訴で主張することが認められるか, また不法取得した判決に基づく強制執行等によって損害が生じた場合に, 不法行為に基づく損害賠償請求ないし不当利得返還請求が許されるか否かという点についてである。 この問題は, 既判力による法的安定性要求と判決の具体的な妥当性のいずれを重視すべきか, という問題に関わるものであるが, 実務上の困難としては, 再審手続の厳格さ (再審事由の限定判例 (338条1項), 再審期間の制限 (342条) 等) にも起因するものといえる。2 確定判決の不当取得の類型この問題に関するリーディングケースとされる参考判例①は, 不法取得された確定判決の既判力と後訴請求を矛盾すると考えられる場合には, 判決の成立過程において, 訴訟当事者が相手方の権利を害する意図の下に, ① 判決または訴訟手続が相手方当事者の意思に基づかずに意識的に, ② 偽造の事実を主張して裁判所を欺罔するなどの不正な行為により, 本来ありうべからざる内容の確定判決を取得し執行した場合、 といった2つの類型を挙げ, このような場合における救済可能性を認めた。参考判例②は, 「その行為が著しく正義に反し, 確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情がある場合」 に限って再審を経ない救済を許すべき, という要件の加重をしている。確定判決の不当取得の相手方からすれば, ①類型では, 手続関与の機会自体が奪われて手続権自体が侵害されているのに対して, ②類型では, 手続に関与して攻撃防御する機会自体は与えられており虚偽の主張を見破りもする可能性もあったはずであることから, 両者について等しく救済を与える必要はないともいえる。 そのため, 学説においても, 確定判決の不当取得に対する救済論として再審を経ない救済を認めるべきか否かが主として争われるのは, ②類型についてということになる。3 確定判決の不当取得に対する救済策確定判決の不当取得に対する救済策として, 当該判決を再審によって取り消すことなく不法行為に基づく損害賠償請求等を後訴で認めることができるか, という問題について, 学説では, 確定判決の不当取得を理由とする損害賠償請求訴訟は, 前訴判決が既判力を有する以上に抵触することを前提として, 確定判決の不当取得を取り消しうるような損害賠償請求は既判力に抵触し許されないとする見解 (否定説, 兼子一 『新修民事訴訟法体系』 (有斐閣・1965) 333頁, 中野貞一郎 『法廷心理学問題研究』 (有斐閣・1975) 101頁, 上田 476頁など) がある。 この見解に対しては, 再審に要求される要件 (例えば有罪判決の確定 (338条1項5号・2項) など) や制限 (例えば出訴期間の制限 (342条1項・2項) など) が再審による救済を迂遠なものとしている, との批判が挙げられている。他方, 既判力の正当化根拠を手続保障の充足と捉え, 判決の不当取得の場合にはこれが満たされないとして判決の不当性を無効と認め, 再審を経ないでする損害賠償請求訴訟等を肯定する見解 (肯定説, 新堂 682頁, 高橋宏志 1722頁など) も存在する。 この見解に対しては, 既判力が事実審の終結という制度として, 既判力が絶対視されがちで, 執行等の為替の安定に寄与する既存の制度を再審によく, 既判力制度を揺るがすことにもなりかねないという反論がなされている。4 本問に即して(1) 前訴と後訴の関係 確定判決の不当取得がなされた場合に, 再審を経ることなく前訴確定判決の既判力とする請求を後訴においてすることができるかという問題に答えるには, まず前訴確定判決の既判力の後訴請求に対して作用するか否かについて検討しなければならない。 前訴確定判決の既判力が後訴に作用するとすると, ① 前訴と後訴の訴訟物が同一の場合, ② 同一訴訟物ではないが後訴請求が前訴との間で矛盾する場合, ③ 前訴の訴訟物が後訴の訴訟物の先決問題となる場合, の3つが挙げられる。そこで本問における前訴と後訴との関係に着目してみる。 本問における前訴は, YのXに対する説明義務違反を原因とする不法行為に基づく損害賠償請求訴訟であり, 他方, 後訴は, Yのいわゆる訴訟詐欺を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求訴訟である。 前訴の訴訟物においても, 訴訟物とはされているのは不法行為に基づく損害賠償請求権 (旧訴訟物理論) であり, 両者の行為が一体である。 訴訟物をこのように捉えるとすると右の②に該当する。両訴訟における不法行為の事実が一体である以上, 訴訟物を特定するに当たっては, 前訴判決の効力は後訴にも及ぶことは前提といえる。この既判力の基礎において後訴の請求を認容できるか否かは, 前訴判決においてXの損害賠償請求権を有しないことを前提とする。 訴訟の基礎との矛盾を回避する。 訴訟においてXの損害賠償請求権を有しないことの判断の前提とせざるを得ない以上, 後訴において前訴確定判決の既判力の主観的範囲と矛盾しており, 既判力の作用としては認める場合も認める。 あるいは, 訴訟物的に前訴判決でXの損害賠償請求権を認めた前訴判決と後訴におけるXの損害賠償請求とは矛盾関係に立つものとして, ②の場合に当たるといった理解も可能といえる。 いずれにせよ, その後訴請求は, 前訴確定判決の既判力に抵触するものと捉えることができる。なお, 本問のベースとした参考判例③においては, 「判決の成立過程における相手方の不正行為を理由として, その判決の既判力が具体的に矛盾する損害賠償請求をすることは, 確定判決の既判力による法的安定を著しく害する結果となるから, 原則として許されるべきではない」とし, 本問の後訴に相当する請求を棄却しているが, 前訴確定判決の既判力が後訴にどのように作用するかについては明確な判断をしていない。(2) 本問の類型 本問におけるXの後訴請求が, 前訴確定判決の既判力に抵触するものであることを前提として, 次に再審を経ない救済がXに認められるかを検討する。参考判例①および参考判例②は, 相手方の手続関与が実質的に妨げられていたという点で, いずれも①類型に属する事案であったといえる。 これに対し, 参考判例③や本問は, Xは前訴において手続に関与する機会が与えられ, その機会を用いてYの主張に対する攻撃防御活動が展開されていたことが看取できることから, ①類型ではなく②類型の事案として位置づけることができる。上述の肯定説は, かかる場合にも救済を認める通説といえ, 不法行為に基づく損害賠償請求についての本案審理を進めるということになる。 そして, 肯定説は, この審理の過程において再審事由の存否についてもあわせて審理すればよいとするが, 本問の前訴においていかなる再審事由があると判断されることになるのかについては疑問の残るところではある。 他方, 否定説の立場に立てば, Xによる後訴は認められるべきではなく (前訴確定判決の既判力作用により後訴は請求棄却となる), 再審を経て前訴確定判決の既判力を破る必要があるが, この場合においてもそもそもYの前訴においていかなる再審事由があるかについては問題が残る。この点について, 参考判例③の原審 (名古屋高判平21・3・19判時2060号81頁) は, Yが市街化調整区域内の建築制限につき知っていながら居住目的で本件土地建物を購入し, 17年後に本件土地建物の議論に際し生じた譲渡損を回復するために, X・Bの説明義務違反により損害を被った旨の虚偽の陳述の上主張立証を巧妙にし, 明確な証拠がないためXの反論が制約されることを利用して前訴裁判所を欺罔し, 本来なら請求が棄却されるはずの前訴において勝訴判決を得て強制執行に及んだ, との認定をし, 「実質的に再審事由に当たるような場合だけでなく, 公序良俗・信義に反するような結果がもたらされる場合にも, その主張を許されるとするのが相当である」として, Xの請求を一部認容した。 これに対し, 参考判例③は, 「原審は, 前訴判決と基本的に同一の証拠関係の下における信用性判断その他の証拠の評価が誤った結果, 前訴判決と異なる事実を認定するに至ったにすぎない」 事案であったと判断し, Xの請求を棄却したものである。 Xによる主張や証拠関係が前訴と後訴において基本的に同じであったとすれば, これにつき, 前訴の主張がYの虚偽の陳述によるものであったとして, 前訴とまったく異なる事実認定をすることは, 再審の既判力制限が働くところのものである。 それゆえ, 参考判例③が 「前訴におけるYの主張や供述が...…故意の認定事実に反していたというだけでは, Yが前訴において虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔したというには足りない」と判示したことには説得力があるといえよう。●参考文献◎浅野雄大・百選170頁/渡部美由紀 「確定判決の取得と不法行為の成否」 民商法雑誌143巻3号 (2010) 425頁/垣内秀介・平成22年度重判164頁(垣内秀雄)