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表見代理

Yは、土地甲を所有していたが、甲の有効な活用方法を思いつかず、特に手をつけるないまま放置していた。しかし、このまま甲を所有していても管理にコストがかかるだけであることから、甲の取得に関心を見せるAに甲を売却することにした。そこでYは、Aの代理人Bとの間で、代金を2000万円として甲の売買契約を締結した。Aから代金全額の支払を受けたYは、売買契約に基づくYからAへの甲の所有権移転登記手続をAに委任することにし、甲の登記済証、Yの印鑑証明書、甲の売渡証書(Yの記名押印があり、代金額・名宛人・年月日欄は白地)、甲に関する登記一切の権限を授与する旨の委任事項が記載された委任状(Yの記名押印があり、受任者・年月日欄は白地)を、Bに交付した。その後Aは、YからAへの甲の登記名義の移転手続をしないまま、甲を所有する土地乙と交換することにした。しかし、Aは、再びBを代理人として、BがYから受け取った後B自身で保管していた上記書類一式をそのままもたせて、Xとの交渉に当たらせた。ところがBは、自らが代理人であることを明示することに思い至らず、甲は自己の所有地であるとYの代理人としてふるまった。Xは、Bの呈示した書類やその振舞いから、BはYの代理人であると信じた。そこでXは、Yの代理人であると信じたBとの間で、甲と乙の交換契約を締結した。Xは、前記交換契約に基づき、Yに対して、甲の所有権移転登記手続を求めた。この請求は認められるか。参考判例大判昭和19・12・22民集23巻626頁最判昭和45・7・28民集24巻7号1203頁最判昭和45・6・3民集25巻4号455頁解説民法上の表見代理に関する規定無権代理行為の効果は、本人に帰属しないのが原則である。それにもかかわらず代理行為の効果を本人に帰属させてよいか、表見代理が成立するかどうかが、本問における無権代理行為を追認するか。表見代理の成立が認められる必要がある。このうち、表見代理の成立が認められる場合として、民法109・110条・112条の3か条が設けられている。そこで、民法の規定に基づき表見代理の成立が認められるには、これら3か条の定めるいずれかの条項の適用があることが基礎づけられなければならないことになる。それを踏まえると、これらの条項が、それぞれ、どのような要件を定めており、いかなる場面・範囲に適用されうるかを把握することが重要だということができよう。民法109条・110条・112条の適用可能性設問のBは、Xとの間で交換契約の締結に当たり、Yの代理人として振る舞っている。しかし、Bは、この交換契約についての代理権はもとより、Yを代理する何らかの権限が一度でも授与されたことがあるかどうかも、設問の文中では明示されていない。(1) 民法110条・112条の適用可能性かりに、代理行為者Bが現在までに一度も本人Aのための代理権を授与されたことがないとすれば、民法110条、および112条1項・2項による表見代理の成立を基礎づけることができないことになる。というのは、まず、民法110条の適用があるというためには、代理行為者が何らか「権限」を有していることを相手方は信じなければならないところ、この「権限」は、判例によると、代理権、それも原則として私法上の代理権に限られる(例外も含めて、参考判例③参照)。また、民法112条は、「他人に代理権を与えた者」がその「代理権の消滅後」において一定の場合には表見代理責任を負うものと定めるのである―その限りで、同条1項と2項は共に共通している―ところ、代理権が授与されたことを相手方が主張・立証しなければならないと解されるからである。(2) 民法109条1項の適用可能性それでは、残る民法109条の適用可能性はどうであろうか。まず、民法109条の適用を基礎づけるためには、①代理行為の存在、②その際に代理人が行ったこと、③代理行為に先立って本人Aが代理行為者Bに与えた代理権を旨を相手方に表示したことを主張・立証する必要がある。代理権授与表示については、特に次の点が問題となる。第1に、代理権授与表示を本人Aがしたと評価できるのはどのような場合であるか。このことが問題となるのは、上記③の行為が②となっていることにある。この点に関しては、特に白紙委任状が交付された場合を中心に議論が行われている(詳しくは→本書126頁、判例によると、本人から白紙委見状を直接交付された者を利用して無権代理行為をした場合、本人による代理権授与表示があったと評価しうるとされる(参考判例①参照)。第2に、本人による代理権授与表示がどのような内容のものと確定されるか。このことが問題となるのは、上記③の行為は同②で表示された代理権の範囲内のものでなければならないところ、これを判断するには、代理権授与表示の内容を確定しておく必要があるからである。代理権授与表示の内容をどのようにして確定するについては、それほど議論が蓄積されているわけではないものの、意思表示の内容確定に関する一般論で考えられていると思われる。これは、次の民法における意思表示の趣旨をたどる当事者の意思の表明であること、代理権授与表示とは、権利変動を目的とする法律行為ではない。代理権授与表示は、ある者が代理権限を与えられたと相手方に説明するものにすぎず、この表明によって代理権の授与という私人間での権利変動が生じるわけではない。代理権の授与は、任意代理の場合、代理権を与える旨の契約(委任)などの法律行為によって認められるからである。したがって、意思表示に関する諸原則が代理権授与表示にただちに適用されるとはいえない。しかし、代理権表示に関する事項は、民法109条1項により代理行為の効果が本人に帰属されることから、意思表示に関する準則の類推が認められてよいであろう。そして、意思表示の内容確定については、一般に、表示行為の社会的意味を客観的に明らかにするとの考え方(客観的解釈説)と、当事者の意思に重点を置いた表示を基礎として明らかにするとの考え方(意思的解釈説)がある。もっとも、代理権授与表示の内容確定については、客観的解釈説を基礎に置き、相手方の主観的事情が問題となる。これには、表示行為の意図や目的の判断の段階では考慮されないと考えるからである。客観的解釈の各類型には、相手方に呈示された白紙委任状およびその他の書類等のような表示内容を有するから、客観的に明らかになった内容を基礎に代理権授与表示の内容を確定していくことになる。この点につき本問では特に、呈示書面の記載が定かではないことが問題をもつと考える。これらの各類型においては、(交換契約でなく)売買契約の代理権授与表示と解釈されうるのではないか、という点に留意すべきだと考えられるからである。(3) 民法109条2項の適用可能性ともあれ、以上を前提とすると、たとえ次のような場合にも、民法109条1項・110条・112条1項・2項の各条により表見代理の成立を基礎づけることはできないことになる。本人Aが代理権授与表示を行ったものであり、かつこの表示によって示された代理権の範囲外の行為を代理行為者がしかし、かつこの表示によって示された代理権を一度も授与されたことがかった場合もある。この場合には本人Aもとく代理権授与表示をしており、その表示の範囲内で代理人が代理行為をしたので、その行為の効果が本人に帰属することもある。他方で、代理権を有する者が、その代理権の範囲外の代理行為を称して代理行為をした場合には、民法110条により、本人は責任を負うことがある。そうであっても代理権授与表示によってあたかも代理権があるかのように扱われる場合も、その表示された代理権の範囲外の行為を代理人がした場合には、本人Aが表見代理責任を負うことがあるとする。すると、このような場合に表見代理の成立が認められうるとすると規定を、民法は設けている。それが、民法109条2項である。民法109条2項は、2017年改正民法のもとで判例(参考判例②)により認められていた表見代理が認められるとの法理―「民法109条と民法110条の重畳適用」などと呼ばれていた法律構成を明文化し、同改正において新設されたものである(その新設に伴い、同改正後においては109条1項となっている)。3 規定の構造と主張・立証すべき事実2017年改正民法109条2項の重畳適用における主張立証責任の所在は、各規定の趣旨(本人の帰責性(本人・ただし書の構造)を1つの根拠として、一般に以下のようにも整理されていた。民法109条における主張立証責任の所在について、その規定振りからは必ずしも明確ではないものの、以下のような理解がこの条の趣旨によって裏づけられたとは限らない。それを前提とする民法109条2項の適用を基礎づけるためには、相手方は、①代理行為の存在、②代理権の存在を信じたことについて③代理行為に先立って本人Aが代理行為者Bに与えた代理権を旨を相手方に表示したこと、を主張・立証すべきことになる。これに対して、本人Aは、上記③における表示された代理権の存在が存しないこと、それについての相手方の善意または無過失を主張・立証する可能性がある。もっとも、この無権代理については相手方に代理権の不存在につき善意または無過失を主張・立証する責任はないとされる場合が多い。この見解は、民法109条の趣旨を代理権授与の表示という外観に対する信頼の保護を認めたと捉えたうえで、代理権授与表示について錯誤取消しの主張を認めるのと同様、錯誤による法律行為の無効を主張した。これに対し、民法95条の錯誤による意思表示の無効を主張しうるとする見解がある。意思表示に錯誤が介在した場合、本人が予定していた表示と実際になされた表示に大きな相違がないため、錯誤の重要な部分について錯誤(委任事項欄)が認められれば、本人による取消しの主張を認めてよい。これに対し、委任事項欄に錯誤が認められ顕名主義を適用した場合に、両者の間に大きな相違があるため、錯誤の客観的重要性が認められうると考えられるからである。代理権授与表示に民法95条の錯誤を認める場合、相手方としてはさらに、本人の重過失を再抗弁として主張・立証することにより、本人による錯誤取消しの主張を退けることができる(95条3項柱書参照)。関連問題本問の事例において次のような事情があった場合、Xは、Yに対する請求を、どのような法律構成に基づいて行うことが考えられるか。(1) YがBに交付した書類が、いったんBからAに引き渡された後、AがBに交換契約に関する代理権を授与した際に再度AからBに交付された場合。(2) Aが、BをXとの交渉に当たらせる以前に、Yの承諾を得て、YからAへの甲の所有権移転登記手続についてBをYの代理人に選任していた場合。(3) (2)の場合において、その後、甲と乙の交換契約が締結される以前にYが登記手続に関するAとの委任契約を解除していた場合。参考文献臼杵・百選Ⅰ 66頁 / 磯村保・百選Ⅰ(第7版)(2015)66頁 / 鈴木・最判解昭和45年度(T)803頁 / ポイント44-46頁(鎌野邦樹)(野々上敬介)