主観的追加的併合
AはY₁ とある土地の所有権の帰属につき訴訟で争っていたが,Aが 7000 万円支払うときは,Y₁ はAに所有権を移転し,移転登記を行う旨の裁判上の和解が成立し,これに従ってAは全員を支払い,本件土地所有権を取得し移転登記を経由した。上記和解金算定の重要な資料となったのは,Y₂ 銀行に勤務する不動産鑑定士作成の鑑定評価書であったが,この評価書は本件土地を宅地見込地として評価していたところ,その後,本件土地は和解当時保安林指定(※注)されていたことが判明した。このため,Aの債権者であるXはAに代位して,Y₁に対し,購入した土地に瑕疵があったとして損害賠償を求める訴えを提起した。この損害賠償請求訴訟の第1審で,XはY₂を新たに追加で追加する旨の申立てをした。その理由は,第1審でのY₂の不動産鑑定士を証人尋問したところ,Y₂の従業員である不動産鑑定士が土地の時価を鑑定するに当たり不法に瑕疵を隠蔽したために代金額が算定されたことがわかった。Y₂ がその顧客である Y₁ の利益を図ったもので,Y₂ は Y₁ と連帯して支払え,というものであった。この訴訟において,被告Y₂の追加は認められるか。(※注) 保安林とは,水源のかん養,土砂の崩壊その他災害の防備,生活環境の保全,形成等,特定の公共目的を達成するため,農林水産大臣または都道府県知事によって指定される森林[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 62・7・17 民集 41 巻 5 号 1402 頁[⚫] 解説 [⚫]1 訴えの主観的追加的併合の必要性と許容性係属中の訴訟において当事者を追加することを,主観的追加的併合という。訴訟の当初から共同原告として訴えまたは共同被告として訴えられていなかった(当初は主観的併合でなかった)が,後に第三者自ら当事者として訴訟に加入したり,在来の原告または被告が第三者に対する訴えを併合することが,ここに広く含まれる。この主観的追加的併合には,明文の根拠がある場合とない場合がある。明文があるもののうち,第三者自ら参加してくる場合として共同訴訟参加 (52 条) や参加承継 (51 条) が,原告が第三者に対する訴えを併合提起する場合として引受承継 (50 条・51 条),被告による同様の引受承継がある。このほか,取立訴訟の原告が債権者を引き込む場合 (民執 157 条 1 項) も含めてよいであろう。ここでの問題は,明文の規定がなくても,当事者の機能として主観的追加的併合を認めうるかどうかである。2 判例による主観的追加的併合の否定判例・実務は,明文の規定がない場合にこのような併合形態を認める必要はないとしている。実務では,係属訴訟への追加でなく,別訴として訴え提起したもの (本問ではXからY₂への訴え) を,裁判所が裁量で係属中の訴訟 (本問ではXからY₁への訴え) と弁論を併合するという扱いをしてきた。それで間に合うと考えてきたからか,判例も少ない。上記の併合形態のうち,本問の,原告が訴訟係属中に第三者を新被告に追加する場合をみると,下級審判例には肯定例もあったが,上記の参考判例①が否定的立場をとった。すなわち,原告はY₁に対する別訴を提起した上で,Y₁に対する訴訟と口頭弁論を併合 (152 条) してくれと裁判所に促し,裁判所が併合判断をするのを待つべきである,仮にY₁に対する訴訟とY₂に対する訴訟が併合要件 (38 条) を満たしていたとしても,Y₂への新訴が裁判所の判断なく当然に併合されるという効果を認めることはできない,としたのである。主観的追加的併合が認められない実質的な理由としては,「かかる併合を認める明文の規定がないのみでなく,これを認めた場合でも,新被告の訴訟状態を当然に利用することができるかについては問題があり,必ずしも訴訟経済にかなうものでもなく,かえって訴訟を複雑化させるという弊害も予想され,また,軽率な提訴ないし濫訴が増えるおそれもあり,訴訟の提起の時期いかんによっては新訴訟の遅延を招きやすいこと」などが指摘されている。この内容をさらに説明すると,被告の追加を許しても係属中の訴訟 (本問の X・Y₁ 間の訴訟) の訴訟の資料を当然に流用できるとは限らないという訴訟経済の観点と,原告が訴訟に慎重に臨んで被告を選ぶということをしなくなり,被告や被告に追加しようとする関係者に迷惑だという当事者の公平の観点にまとめられるだろう。3 学説による主観的追加的併合の許容 (判例への批判)これに対して学説では,古くから主観的追加的併合の理論が立てられ,被告から第三者を引き込む形態を含めて追加的な共同訴訟の理論が広く唱えられてきた。主観的併合については併合要件があり (38 条),追加的な併合もとくに差し支えないと考えられるし,被告や第三者からも,原告の訴えが提起された機会に,その訴訟手続を利用して,広く紛争の終局解決を図ることは望ましい (ただし第2審での追加は追加された者の審級の利益を奪うので,第1審係属中に限るとされる)。現在では,一定の要件の下,在来の当事者が第三者を訴訟に引き込んで,その第三者と共同訴訟人として訴訟を続けることを認めるのが有力となっている (後掲・121 頁)。とくに原告が被告を追加する本問の形態は,主観的追加的併合の中で最も許容しやすい基本的形態で,学説では当然承認済みであったのに,上記のとおり判例が別訴の提起と弁論の併合によれば足りるとし,併合審判も裁判所の裁量に任せて (併合するかどうかは裁判所次第で併合される保障がない),当事者の地位としては認めることに批判が強い。このような併合形態を認める学説も,共同訴訟の要件 (38 条) を満たせば常に後発的併合を認めてよいとはしておらず,一定の要件を提示し,それについて裁判所の審査を経ることを前提としている。訴訟併合を裁判所の裁量に委ねるのでなく,その指針と申立権者の権限を明確にしようとしているのである。判例のように弁論の併合で目的を達することができるとして訴えの主観的追加的併合に消極的な学説 (裁判所の裁量に任せ,その裁量をコントロールしようという立場) もある。しかし,有力説は,軽率な提訴ではなく訴訟遅延を招くおそれもない場合で,新被告に対する訴えを併合する方が一定程度認められる紛争についても一挙に当事者は別訴提起しか認めず,この併合判断を否定する点は被告がたとえ訴えているのである。そこで学説においては原告による追加的併合の要件が議論され,まず,民事訴訟法条文前段にある場合に主観的追加的併合を認め,同条後段の場合には認めない立場が生まれた。その後,主張および証拠の共通性が高く,原告が当初から共同被告としなかったことに重大な過失がなかった,かつ従前の訴訟手続に著しく遅延しないことを要件とする立場などが主張されるようになった。たしかに学説の議論はいまだ十分とはいえないが,前述の参考判例①で示された訴訟経済と当事者間の公平の観点からいえば,近時は後者に重点を置く学説がいくつも主張されている。4 主観的追加的併合の要件,許否を見極める指針では,当事者によるこのような併合の申立てを一律に否定するのでなく,判例の指摘するデメリットを避ける要件,指針はどのようなものか。訴訟経済や紛争の1回的解決という観点もあり得るところだが,やはり当事者の公平の観点,戦争の具体的状況における当事者の関係の重要性だろう。つまり引き込む側,ここでは原告が当初から共同被告とせず,後に引き込むことが本当に始まる第三者と従来被告に対して公平か,が問題となる (民訴・後掲122頁以下)。本問では,第1審の終盤からY₂が紛争に関係することがはじめて明らかになった。Y₁と直接の契約関係になかったこともあり,当初にY₂が被告に加えるべき状況にはなかったとすれば,追加的併合を許す意義と認めることができよう。けれども逆に,証人尋問の結果から紛争申立ての契機を得るという状況の疑いもあり,遅延によっても被告の側の防御権が合併訴訟さえ許されない可能性があるし,このような状況による追加的併合を許容する根拠も十分でない可能性がある (高橋宏志・法学協会雑誌 106 巻 11 号 [1989] 154 頁)。いずれにせよ個別事件の具体的な状況,訴訟の経過の中で,原告が最初からその者 (本問ではY₂) も被告にしなかったことに責任がなく,後から被告を加えることが関係者間で必要であり,かつ公正でない証拠を示すことができれば,原告による追加的併合を許してよいと考える。この併合形態が認められる場合には,以後の訴訟は通常共同訴訟となる (共同訴訟人独立の原則については→問題 61)。従前の訴訟の資料が,追加された X・Y₂ 間の訴訟には影響を及ぼすかどうかについては,通常は,旧訴訟の訴訟状態の利用は当然ないとされ,証拠については X・Y₂ 訴訟と X・Y₁ 訴訟で共通とされる。判例のように (追加を許さず) 別訴を併合した場合にも訴訟の資料は流用される。ただし,有力説はこの原則自体を問題にしており,まずは X や Y₁ の援用を待ち,当事者双方の立場を考慮して旧訴訟の資料を利用しない場合もあり得るともしている。なお上記の問題とともに,本問とした参考判例①では,別訴の提起,弁論の併合という方法をとる場合,新被告に対する訴えについて新訴と同様の手数料を納めなければならないかが問題となった。参考判例①の第1審は,新訴としての手数料の納付命令にXが応じないとして訴えを却下し,この判断が控訴審,最高裁でも維持された。しかし,もし判例と逆に主観的追加的併合を適法とするのであれば,二重訴訟の経済的利益が共通するので追加の納付は必要ないとされる。[⚫] 参考文献 [⚫]井上治典「多数当事者の訴訟」(信山社・1992) 115 頁/安西明子・百選 190 頁(安西明子)