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証言拒絶事由

Y放送局は、健康食品を製造・販売するA株式会社の代表取締役Xが、原材料を水増しして得た所得をアメリカ合衆国の関連会社に送金して、その役員に退職させる形で所得を付け替えているとする内容の放送を行った。Xは、この放送の結果、国税庁の調査を受けるのみならず、A社の評判が著しく低下して、自己の経営する会社の売り上げが減少したと主張して、Yに対して損害賠償請求訴訟を提起した。Yは、報道が公共の利害に関連し、かつ公益を図るものでありその内容は真実であること、そして、仮に真実に反する部分があったとしても、事前に十分に裏付け取材を行った上で放送を行ったのであり、真実であると信じるについて相当な理由があるので、不法行為責任を負わないと反論した。Yは、この事実を立証するために、Y放送局の取材活動をしたBを証人として申請し、これが採用され、Bの証人尋問が実施された。その中で、Bは、アメリカの国税当局職員を取材し、任意に情報を得たことは明らかにしたものの、取材対象者の氏名や住所等を明らかにするよう求められたところ、取材源に関することと職業の秘密に該当するとして、証言を拒絶した。Bの証言拒絶は認められるか。●参考判例●最決平成18・10・3 民集60巻8号2647頁●解説●1 証人義務と証言拒絶事由証人尋問は、民事訴訟法上認められる5つの証拠調べの1つであり、証人、すなわち当事者本人や法定代理人以外の者が、自己の経験した過去の事実や状態について陳述した内容を証拠資料とすることを目的として行われるものである。当然である限り、誰でも証人としての資格が認められるとともに、日本の裁判権に服するものは、証人として裁判所に出頭し、宣誓の上、証言する義務を負う(190条)。これを証人義務といい、これに違反する場合には、過料、罰則が科せられる(192条〜195条)。勾引されうる(194条)。これは、公正かつ真実に基づいた裁判を可能にするためである。ただし、例外的に、真実の発見を犠牲にしても保護すべき価値がある場合には、証言を拒絶することを認めている。例えば、証言が、証人自身またはその者と一定の身分関係にある者に対する刑事処罰を招くおそれのある事項や名誉を害すべき事項について尋問する場合(196条)には、憲法上の自己負罪拒否特権に基づき(憲法38条1項)、証言を拒絶することが認められる。公務員または公務員であった者が、職務上の秘密について尋問を受ける場合(197条1項1号・191条1項)、医師、弁護士、宗教の職の者などが職務上知り得た事項で黙秘すべき事項について尋問を受ける場合(197条1項2号)、さらに、技術または職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合にも(同項3号)、証言拒絶が認められる。証言拒絶をする場合には、証人は拒絶の理由を疎明することが求められる(198条)。受訴裁判所は、当事者を審尋して、決定で裁判をする(199条1項)。この決定に不服がある当事者と証人は、即時抗告をすることができる(同条2項)。ただし、公務員が職務上の秘密について尋問を受ける場合には、この手続は適用されず(同条1項)、裁判所は尋問の正当性について判断をもたず、監督官庁の判断に委ねられるとするという見解が多数である。2 技術または職業の秘密本問では、技術または職業の秘密に関する証言拒絶権が問題となっている。技術または職業の秘密の意味については、最決平成12・3・10(民集54巻3号1073頁)によれば、「その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるもの」を指すものとすると不正競争防止法2条1項4号の営業秘密とは必ずしも一致するものではなく、技術上のノウハウのほかにも、芸術や学問に関する秘訣なども含まれる。もっとも、学説や下級審裁判例(札幌高決昭和54・8・31下民集30巻5=8号403頁等)においては、ある秘密が、上記意味における職業の秘密に該当するだけではなく、秘密の公開によって秘密の保持者に生ずる不利益と、秘密を開示しないことによって生ずる不利益、すなわち、裁判の真実発見や公正が犠牲になるという不利益とを比較衡量した結果、保護に値する秘密のみが証言拒絶の対象となるという見解が主張されてきた(比較衡量説)。これに対して、比較衡量説を否定し、秘密の客観的性質のみを考慮して、証言拒絶権の成否を決すべきであるという見解も有力である。このような比較衡量を肯定することにより、秘密と考えられている事項が、裁判の公正という事後的な事情によって、証言拒絶の対象となったり、ならなかったりするため、秘密の保持主体の予測可能性を害するからである。しかしながら、報道関係者の取材源が問題となった参考判例①において、最高裁は比較衡量説を採用することを明示した。3 報道関係者の取材源の秘密の秘匿該当性本問のような、報道関係者の取材源は、職業の秘密に該当して、証言拒絶の対象となるであろうか。一般に、報道関係者の取材源は、それが開示されると、「報道機関と取材源となる者との間の信頼関係が損なわれ、将来にわたる自由で円滑な取材活動が妨げられることとなり、報道機関の業務に深刻な影響を与え爾後その遂行が困難になる」 (参考判例①) ので、上記定義に該当し、取材源の秘密は職業の秘密に当たると解される。ただし、証言拒絶を肯定するためには、比較考量の結果、保護に値する秘密と判断される必要がある。比較衡量の際に考慮すべき要素としては、下記のような事項が挙げられる。まず、秘密を開示することによる不利益としては、「当該報道の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該取材の態様、将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容、程度等」を考慮する必要があるが、報道機関の報道のための取材の自由が、報道の自由と並び、憲法21条の表現の自由の保障を受けることを十分に配慮する必要がある。そして、これと相対する秘密を開示しないことによる不利益としては、「当該民事事件の内容、その持つ社会的な意義・価値、当該民事事件において当該証言を必要とする程度、代替証拠の有無等」を比較検討する必要がある。本問の報道は、脱税の有無という公共の利害に関する報道であり、その社会的な意義は大きいといえる。しかも、その取材の手法、方法が一般の刑罰法令にふれるとか、取材源となった者が秘密の開示を承認しているというような事情はなく、取材源の開示により、将来の同種の取材活動が妨げられる可能性は高い。他方で、本件民事事件は、売上げの減少による損害賠償を求めるものであり、個人の利益追求を超えた公共な社会性に対する影響を有する事件ではなく、社会的な意義や重要性がある事件とまではいい難い。また、本件において取材源に係る証言を得ることが必要不可欠であるか、その他の証拠が存在するのであればBの証言の保護は保護に値するものと解され、証言拒絶には正当な理由がある。