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団体の法律関係

甲マンションは、30戸の住戸・世帯からなっており、A管理組合を組織している。その購入にあたり、各区分所有者は、「町内会○○祭り」(以下、「B会」という)との間で、同会へ加入することを約し、出資金10万円を支払った。B会は、その地域の伝統的な夏祭りに山車を繰り出して毎年参加してきた。B会は、同地区の在来の住民20世帯によって組織されていたが、「新住民」にも祭りに参加してもらいたいという意図から、上記入会契約の締結を分譲契約と同時に働きかけたものである。甲マンション30世帯の入会により、その年の夏祭りへの参加も順調に進む予定であったが、B会の山車が前年のはじめに原因不明の出火により焼失してしまった。そこで、B会の会長Cは、自己の判断のみによって、新しい山車の製作を専門の工務店Dに注文した。その際に、Dからその製作代金200万円の支払を確保するために連帯保証人を要求された。Cは、この件をA管理組合の理事長Eに相談したところ、Eは、A管理組合の理事の多数の承認をえたうえで、A管理組合がDとの間で連帯保証契約を締結した。山車の完成・引渡後に、Dがその製作代金をB会に対して請求したところ、B会の預金全額がB会の会計担当者Fによって不正に引き出され、その全額がF個人の借金の返済に充てられていたことが判明した。(1) Dは、B会の各構成員に対して山車の製作代金の支払を請求することができるか。各構成員は、どのような反論が可能か。(2) Dは、A管理組合がなければ、どのような金額が請求できるか。A管理組合の各構成員(区分所有権者)は、どのような反論が可能か。[参考判例]① 最判昭39・10・15民集18巻8号1671頁② 最判昭48・10・9民集27巻9号1129頁③ 最判平26・2・27民集68巻2号192頁[解説]1 法人と組合人の集団である団体には、大別して、法人(社団法人。以下では社団法人の意味で単に「法人」という)と組合とがある。法人においては、団体の財産が取引主体として権利・義務の主体となるのに対し、組合においては、組合の取引主体として権利・義務の主体となることはなく、最終的には個々の組合員にその効果が帰属する。組合は、各当事者が出資をして、共同の事業を営むことなどを約束することによって成立する(667条1項)。これは、法人で言えば定款の作成に対応し、法人設立の法務局での登記は必要ない(33条)が、これも欠く団体すべてが組合といわれるわけではなく、「権利能力なき社団」(後述3(2))として扱われる場合がある。本問のB会は一般的には組合であると解される(A管理組合については後述)。2 組合の法律関係(1) 組合の業務は、組合員の過半数で決定し、各組合員が執行する(670条1項)が、組合契約の定めるところにより、1人または数人の組合員または第三者に委任することができる(同条2項)。委任された者は業務執行者という。ただし、組合の常務(日常の軽微な事務)は、原則として各組合員が単独で行うことができる(同条3項)。組合の事業において、たとえば第三者から金銭の借入れをする場合には、組合には法人格がないことから、組合員が共同して当該契約を締結しなければならないことになるが、当該法律行為にあたり組合員1人に他の組合員の過半数の同意をもって代理権を授与したり(670条2項1号)、または、あらかじめ組合契約の定めるところにより業務執行者として定めておく(包括的に代理権を授与する)ことで法律行為きる(同条2項)。法律行為の効果は組合員全員に帰属する。B会の事業は業務執行者である。それぞれの法律行為に組合員の過半数があるか否かは組合契約の定めるところにより、その定めがない場合には他の組合員の過半数の同意が必要である。組合の業務執行者は、各組合員と同様に常務に関する事項については組合を代理するが(670条2項3号)、常務以外の事項に関し組合契約の定めにより定められた業務の範囲内にない組合の常務以外の事項に関し組合契約に定めるところにより、これを他人が代理行為をした場合には、無権代理となり、相手方の保護は表見代理の法理(110条)によって図られると解されているが、有力説は、過半数によるという内部的な制約を問題とせず、代理行為は有効であると説く(しかし、善意または無過失があるかという問題が残る。なお、組合契約にないし組合契約の業務執行者の権限を制限して、善意・無過失の第三者に対抗できないと解されている(最判昭38・5・31民集17巻4号600頁)。さて、B会における山車焼失後の対応については、基本的には常務以外の事項と解され、この点の判断で行うものではなかったといえよう。ただし、Dとの契約についてはB会が善意・無過失である限り前述のとおり有効であり、その効果はB会に帰属すると解せる。(2) 組合の財産関係組合の財産は、組合員の共有に属する(668条)。各組合員は出資の価額に応じてその権利の持分を有する。しかし、各組合員は清算前に分割を請求することできないとされている。組合の債務は、組合員全員に合有的に帰属する。したがって、組合の債務者は、まず組合員全員に合有的に給付の請求を提起し、その勝訴判決に基づいて組合財産に対して執行をすることができる(675条1項、大判昭和11・2・25民集15巻281号参照)。ただし、組合財産でその債務を完済できない場合には、これを残余の債務として各組合員に分割してその負担部分について個別責任を認める。すなわち、組合員の債務は、その選択に従い、その債権者が生じた当時における損失分担の割合(674条参照)によって各組合員に割り付けられた割合に応じて返済を請求し、また、その個人財産に対して執行することができる。ただし、債権者が徴収発当時に組合員の損失分担の割合を知っていたときは、その割合での分割を行使できる(675条2項)。組合の債務者は、これらの二つの方法のうち、どちらでも任意に選択して行使する。本問のDについても同様である。(3) 組合員の変動組合員の同意がある場合、または、組合契約に定めがありその定めに従う場合に、新組合員は、出資をして組合に加入することができる(677条の2第1項)。本問の甲マンションの各区分所有者もB会につきこのような場合に該当すると 思われ、10万円の出資をしてB会に加入した。組合からの脱退については、組合員本人の意思に基づいて脱退(任意脱退。678条)と、やむを得ない本人の意思に基づかないが(非任意脱退。679条・680条)がある。組合契約で組合の存続期間を定めなかったときは、いつでも脱退することができる。ただし、組合に不利な時期には、やむを得ない事由がなければ脱退することはできない(678条1項ただし書)。組合契約で組合の存続期間を定めた場合には、その期間は脱退することはできないが、この場合でも、やむを得ない事由があるときは、脱退することができる(同条2項。最判平11・2・23民集53巻2号193頁)。組合員の脱退があると、脱退組合員と組合(残存組合員)との間で財産関係の計算が行われる。組合財産の状況がプラスである場合には、脱退組合員の持分に応じて財産の払戻しが行われ、その出資の種類を問わず金銭で払い戻すことができる。組合財産の状況がマイナスである場合には、脱退組合員の損失分担の割合に応じた負担が課せられる(681条)。3 法人の法律関係(1) 法人の業務執行・財産関係等組合に対して、法人では、個々の構成員(社員)とは別に社団という独立の権利主体が存在し、法人に対して権利義務を帰属する。法人の業務は、法人の内部のより対外的な業務については、ことごとく法人が「機関」である代表取締役が行い、対外的な取引は原則として、この機関の「代理」としてではなく、法人の手足(機関)ないし代理人として行うものである。法人の財産は、その独自の財産として構成員の財産からは区別され、構成員の共有(ないし合有)となるものではないから、構成員は、法人に対して持分を有する。したがって、脱退時においても持分の請求ができない。法人が対外的に債務を負った場合には、構成員はもっとも法人の財産によって負担され、構成員が責任を負うことはない(有限責任)。構成員の加入・脱退については、定款の定めるところにより、基本的に自由になされる。前述のように本問のB会は一般的には組合であると解されるが、非営利法人として一般社団法人となることは可能である(一般法人法11条2項参照)。(2) 権利能力なき社団団体の性格や活動に関する実体は社団であっても、公益人の登記(一般法人法13条・155条)を欠いていたり、法人登記(同法22条・163条)がなされていない場合には、「権利能力なき社団」として扱われる。参考判例①は、権利能力なき社団というためには、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が存続して、その活動において代表の方法、総会の運営、財産の管理団体としての主要な点を確定していることを必要とする。マンションの管理組合は一般的にはこのような要件を満たすため権利能力なき社団と解されるが、本問のB会が仮にこのような要件を満たしていれば権利能力なき社団と解される余地がある。権利能力なき社団については、可能な限り、法人に準じた法律が適用されると解されている。つまり、権利能力のない社団の財産については、構成員に総有的に帰属し、構成員は、持分権や分割請求権を有しないとされる(最判昭和32・11・14民集11巻12号1943頁および参考判例①)。また、権利能力なき社団の代表者が社団名でした取引上の責任は、その社団の構成員全員に総有的に帰属し、社員の個人財産に責任が及ばない(参考判例①)。4 マンションの管理組合マンション等の区分所有建物では、その構造上、区分所有者間において建物の敷地や管理等は「管理組合」と呼ばれる、区分所有者で構成された、当然に管理のための団体(一般的には「管理組合」と呼ばれる)の構成員となる(区分所有者である限り管理組合から脱退することはできない。建物や敷地等の管理については、この団体を基礎として法人(「建物の区分所有等に関する法律」の定めるところにより、集会を開催し、また、規約を定めて共同で決定する。決定された事項は、管理組合によって執行される(建物区分3条)。管理組合は、その職務に関して、区分所有者を代理する(同法26条2項)。なお、現実には、区分所有者の中から複数の理事からなる理事会(組合)によって運営され、その理事長が管理者となっている。管理組合は、法人格なき社団、団体であるが、以上の点で、民法の定める組合とは異なり、意思決定に基づいて設立・設立される組合(667条)や法人(33条)とは異なる。上述のように、管理組合は、建物や敷地等の管理のための団体であり、管理に関する事項以外のことをその目的とすることはできない。したがって、A管理組合がB会の山車製作代金を連帯保証することはできないと解せよう。なお、管理組合は、区分所有者および議決権の各4分の3以上の多数による決議で法人(管理組合法人)となることができる(建物区分47条1項)。なお、区分所有者の責任に関しては、29条1項・53条参照)。関連問題本問について、次のことを検討せよ。(1) A管理組合が、甲マンションの共有部分の修繕工事をH工務店に委託し、その工事が完了した場合において、Hは、A管理組合に工事が支払われなかったときにその工事代金全額を各区分所有者に対して請求することができるか。また、A管理組合が管理組合法人であるときはどうか。(2) 仮に、B会の組合契約または規約において、会費が100万円以上の取引をするときには組合員の3分の2以上の多数で決する必要があるとの定めがあった場合に、Dは、山車の製作代金の支払をB会の各組合員(構成員)に対して請求することができるか。参考文献山城一真・百選Ⅰ 18頁 / 大村敦志・百選Ⅰ 36頁 / 鎌野邦樹・争点 124頁 /一問一答新不動産登記369-377頁(鎌野邦樹)