反射効
Xは、Yに対し金3000万円を貸し付ける旨の金銭消費貸借契約をYとの間で締結し、同時に、この貸金債権の担保としてYの債務者であるZとの間において連帯保証契約を締結した。その後、Xは、弁済期が到来したにもかかわらず上記貸金債権が履行されていないとして、Yを相手どって貸金返還請求訴訟(前訴)を提起したが、同訴訟においては、Yが抗弁として主張した弁済の事実が認められたことから、Xの請求を棄却する旨の判決が言い渡された。前訴判決の確定後、さらにXはZに対して保証債務の履行を求める訴え(後訴)を提起した。この場合、前訴確定判決の効力は、後訴に対して、いかなる作用を及ぼすことになるであろうか。●参考判例●最判昭和51・10・21民集30巻9号903頁最判昭和53・3・23判時886号35頁最判昭和31・7・20民集10巻8号965頁●解説●1 既判力の相対性の原則と反射効理論既判力の主観的範囲については、原則として当事者間にのみその効力が及ぶとされている(既判力の相対性の原則。115条1項1号)。したがって、本問のように、債権者Xが主債務者Yを相手どって提起した金銭の支払請求訴訟において、Xが請求棄却判決を受けたとしても、この判決の効力は、Y・Z間の関係が民事訴訟法115条1項2号から4号に定める例外に該当しない以上、相手方Zに対しては及ばないのが原則である。それゆえ、Xは別途Zを相手どって保証債務の履行を求める訴訟を提起することが可能であり、紛争解決の趣旨を重視するとする以上、後訴においてXが勝訴判決を得る可能性もある。しかしながら、このような事態は、前訴において主債務の不存在が確定されていながら、後訴では保証債務のみが存在するといった結論が、裁判を通じて生み出されたことを意味し、保証債務の付従性(民448条1項参照)を定める実体法関係においては不可解な事態ともいえる。このような問題を解決する1つの理論として、「反射効理論」というものが存在する。2 反射効理論反射効とは、第三者が直接に既判力を受けるわけではないが、第三者の法的地位が判決当時の当事者の法的地位に実体法上依存する関係がある場合に、当事者間に既判力が拘束力を有するが、第三者に対しても反射的に利益または不利益な影響を及ぼす効力があるとする考え方である(兼子一『新民事訴訟法体系(増訂版)』〔酒井書店・1965〕353頁参照)。この理論は、当初、既判力の本質論に関する実体法説(確定判決は実体法上の法律要件事実の一種と捉え、判決に基づいて実体法関係が変更された以上、当事者はもちろん裁判所もこれに服さざるを得なくなる(とする見解)を背景に、主債務者勝訴の確定判決により、たとえ存在していた主債務も消滅するとする更改契約が成立したものとみなし、主債務の消滅により保証債務も消滅させることが根拠となる。保証人に対する保証債務履行請求の棄却も要請される。しかしながら、既判力の水際論に関する訴訟法(既判力を訴訟法的な判断の統一要求という訴訟法上の効力であるとする見解)が一般的な理解につれ、反射効は既判力とは異なる効力として、実体法上の効果(保証債務の付従性など)を根拠として、保証人は主債務者勝訴の確定判決を援用すれば請求を免れる結果を導きうるとされるに至る。このように、今日では反射効は、既判力といった確定判決の本来の内在上の効力ではなく無関係に扱われる反射的な付随的効力であり、既判力とは異なり職権調査事項ではなく後訴当事者の援用を待って認められる反射効として、本問のような学説の発展に伴い、反射効は、たうえで、債務の連続性・付従性が実体法上承認される場合に限り、反射効を肯定する(山本・基本問題173頁以下、松本=上野683頁以下も同旨)。なお、判例は、反射効が問題となりそうな事例において、最高裁として反射効理論を正面から認めるものはない。参考判例①では、賃貸人の賃借人に対する請求棄却判決の反射的効力を否定した結果を裏返すことになった。参考判例②では、不正競争債務者の1人にすぎないことになり、その反射効は肯定し、参考判例③については被告はそもそも無関係である。4 反射効理論に対する評価反射効理論の学説上の評価については、最近では、本問のような保証人事例において反射効肯定説の説く帰結に対して、これに賛成する見解が有力である。これは、前訴債務の名について争い主債務が存在しないと判断を受けた債権者が、その後保証人を被告とする保証債務履行請求において主債務の不存在という蒸し返しを禁じられたとしても、債権者にとっての手続保障が尽されているとはいい難い点にある。加えて、債権者によるかかる蒸し返しを許すと、保証人は主債務者に対する求償の可能性が閉ざされるかもしれず、実体法上保証人の地位の悪い状況が悪化することから、紛争解決の相対性の原則を修正してまでもこれを回避すべき、といった要請が働くためである。かくして、反射効肯定説は別として、反射効否定説ないしそれに積極的な態度を示す学説においては、X・Y間の確定判決の結果として、X・Z間の後訴の問題において反射効によっても解決によっては、XとZとは別の関係であるから、XとZとの関係で前訴の判決の結果が有利に働くことはないという見解もある。しかし、この見解はXとZとの関係では反射効が生じないとするにとどまり、後訴でZが敗訴した場合のな保証債務の付従性(民448条1項)を根拠とする主債務者・保証人間の場合以外にも、相続の絶対効(民法439条)を根拠として債権者の1人が提出した相殺の抗弁を理由とする債権者敗訴の判決と他の債務者との間、持分会社の無限責任社員の責任(会社580条1項)を根拠として持分会社に対する請求認容または棄却判決と社員との間などに反射効が認められるとされている(その他この例については、伊藤606頁参照)。いずれの例についても共通の根拠とされるのは、当事者の一方と第三者の間に存するとされる「実体法上の依存関係」である。このような考え方が提唱された背景には、裁判所の負担回避、紛争解決の一回性といった訴訟経済的な要請もさることながら、多数の主体間の紛争につきその解決結果がまちまちになるのを回避し、実体法上の規律を判決に有力に結果に一致させようとする意図があるものと意識され、かつては有力に説かれた見解である。3 反射効理論に対する評価もっとも、反射効理論に対しては、その基準とする「実体法上の依存関係」が曖昧な上に、それだけでは判決が第三者に及ぶことの正当化根拠としては不十分というという批判をうける。といった指摘がなされるところでもある。かくして、反射効理論を支持する見解は次第に少なくなり、むしろ、反射効の効力は第三者に対する既判力の拡張と異ならいとして、禁反言的な性格をもつにすぎない。このような見解の背景には、明文の規定のない反射効の拡張は認められるべきではないとする反射効否定説(三ヶ月章『民事訴訟法』〔第3版〕〔弘文堂・1992〕41頁、伊藤607頁など)や、反射効として論じられてきた効力を第三者への既判力の拡張として処理すべきとする既判力拡張説(前掲・兼子267号[1971]28頁以下など)などが存在する。また、反射効の射程や効力の内容を第三者に有利な反射効については敗訴当事者による紛争の蒸し返しの防止を考慮する見解(新堂744頁以下、重点講義11749頁以下など)も、反射効理論と親和的な立場も、反射効を実体法的な効力と位置付けたうえで、債務の連続性・付従性が実体法上承認される場合に限り、反射効を肯定する(山本・基本問題173頁以下、松本=上野683頁以下も同旨)。なお、判例は、反射効が問題となりそうな事例において、最高裁として反射効理論を正面から認めるものはない。参考判例①では、賃貸人の賃借人に対する請求棄却判決の反射的効力を否定した結果を裏返すことになった。参考判例②では、不正競争債務者の1人にすぎないことになり、その反射効は肯定し、参考判例③については被告はそもそも無関係である。