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三者間相殺

運送会社Cの従業員であったEは、2016年にC社から独立して、運送会社Eを設立した。E社の独立時より両社とC社との間には継続的な取引関係があり、C社が請け負った運送に関する積荷・倉庫作業を、B社がC社から受託して代行していた。また、B社は普通銀行に主要な燃料を、C社の本社である会社AからB社に購入していた。2022年6月1日の時点で、これらの取引から生じた債権の残額はそれぞれ、B社に対するA社の売掛代金債権につき400万円、C社に対するB社の報酬代金債権につき600万円である。そのほか、2021年にB社が自動車販売業者D社から乗用車を購入した際の売買代金債権につき、500万円がまだ支払われていない。2022年6月13日、D社がβ債権を差し押え、その差押命令が同月15日にC社のEのもとに送達された。その後、A社がB社に、「β債権をα債権で相殺する」と連絡した。(1) 2016年4月1日、B社がC社・A社との取引を開始する際、将来発生するα債権を被担保債権として、A社所有のa社とc社敷地内に第1順位の根抵当権が設定され、その旨の登記がされていた。D社が上記差押えによる債権取立権に基づき、β債権の弁済をC社に請求してきたとき、これに対してC社はどのような反論をすることができるか。(2) 2016年4月1日、B社がC社・A社との取引を開始する際、C社の指導のもと、A社・B社間の取引基本契約書のなかで、「B社において手形不渡り・差押えの申立て・破産手続の開始等所定の事由が生じた場合に、B社はα債権について期限の利益を喪失し、A社はα債権とβ債権を相殺することができる」と定められていた。D社が上記差押えによる債権取立権に基づき、β債権の弁済をC社に請求してきたとき、これに対してC社はどのような反論をすることができるか。参考判例と設問参考判例① 大判昭和8・7・7民集12巻2811頁② 大判昭和8・12・5民集12巻2818頁③ 最判平成7・7・18判時1570号60頁④ 最判平成28・7・8民集70巻6号1611頁設問1. 二当事者間の債権譲渡を対象とする注意相殺民法は一定の要件のもと、2人の者がお互いに対して負っている債務を対当額について消滅させ、いずれかの当事者に残る差額の債務についてのみ履行すればよいものとしており、この制度は「法定相殺」と呼ばれている。法定相殺が認められている趣旨は、双方による弁済に代えて差引計算後の残額のみを現実に履行し、2回の弁済を1回に省略する形での簡易・安全な決済を可能にするとともに(「簡易決済機能」)、一方のみが債務を弁済して他方が弁済しないという事態を当事者の間で回避させ、当事者間の公平を図ることにある(「公平保障機能」)。また、当事者の公平な処理の結果、一方の当事者が無資力であっても、相殺が認められれば、他方の当事者は自己は実質的に自己の自動債権を優先的に回収できるため、法定相殺には「担保的機能」も働くと言われている(→本節解説)。法定相殺の規定を基本とするには、二当事者間に存する債務が「相殺適状」にある(当事者の一方からの「相殺の意思表示」を待つだけをよい)こと、また、相殺の意思表示が相手方に到達したことにある。相殺適状が存在するには、①2人の間に対立した債務が相互に存在すること、②両者の意思表示の時点で双方の債権が現存していること、③双方の債権の目的が同種であること、④債務の性質が相殺を許さないものでないこと、⑤双方の債務の弁済期が到来していることが要件とされている(505条1項)。こうした相殺適状の要件にあると、法定相殺の対象は基本的に二当事者間の関係に限定され、3人以上の間に存在する複数の債権関係では「相殺」の効果も発現することはない。ここでは、AがBに対してα債権を有し、BがCに対してβ債権を有している状況を考えてみる。このときに①CがAからα債権を自働債権として相殺しようとする場合(他人の債務による相殺)、②Bが自働債権として相殺しようとする場合(他人の債権による相殺)、または③Aが自動債権として相殺しようとする場合(他人の債権による相殺)、また、④Cは、Aに対して有するγ債権を有していて、3人のうちのどの当事者が3つの債務を相殺しようとする場合、いずれの場合も上記①の相互性要件が充足されないため、相殺適状は生じない。2. 法定相殺の期待の拡張(1) 求償に対する相殺の抗弁もっとも、三当事者間の債権債務について相殺が認められる場面がある。上記の状況で、二当事者間の法定相殺の期待への保護が対第三者関係に拡張される場合である。たとえば、Bに対するCのγ債権について、AがBと連帯債務者、または、Cの債権について保証者Bから保証を受けたCが保証人であるとして、CがAにこの保証債務の弁済を請求するに至りCに弁済するにすぎない。この場合に、この弁済等の時点でBがCに対して債権を有していたのならば、Aからの求償権α’の請求に対して、BはCに対して主張し得たはずのβ債権による相殺を対抗することができる(443条1項・459条1項)。これにより、この相互的な債権を法定相殺することでへのBの求償権に対する担保において保護されている。(2) 債権譲渡の際の譲受人に対する相殺の対抗また、Bに対するα債権をCが承継していて、これをAに譲渡したときに、Bは民法469条の定めるところにより、Cに対するβ債権による相殺をもってAに対抗することができる。この場合でも、Cとの債権を譲り受けたAに対するBの法定相殺への期待が、一定の要件のもとで債権譲渡の譲受人Aに対する関係に拡張されている(→本節解説)。3. 相互性要件を欠く「三者間相殺」の許容性(1) 相互性要件を欠く「三者間相殺」の肯定的解釈しかし、相互性要件を欠く三者間の債務の相殺について、三者間相殺を一般的に許容する規定はない。この場合、Bが債権譲渡について決済を一般的に許容する規定はない。この場合、Bが債権譲渡について決済をしても債権者の債務者に相殺を対抗されないだけでなく、両者の合意で不当な処理がされる危険性があるから認められないため、法定相殺における利益状況と付合しており、利益状況を保護するような事情の法定相殺への期待は認められない。しかし、三者間の合意のもとで一体的に決済できる場合でも、法定相殺の適用を通じた処理も考えられる。そうした正当な計算が期待できるとすると、これを認めても、慎重手続きの中で「相殺」としての法論理を説けるわけはない(参考判例①)。(2) 自働債権者の意思の尊重と選択これに対して、例外的に、三者間相殺を認めるべき主張もある。Aがβ債権を被担保債権とする抵当不動産の所有権(物上保証人・第三取得者)である場合に、Bに対するα債権を自働債権とするAの相殺を肯定する見解がある(上記の状況)。ここでの相殺には、Aが主債務者Cに代わってβ債権を弁済するのと第三者弁済の効果と、Bが本来の弁済に代わる物上保証を失う代償の請求の二つの側面がある。このうち第三者弁済について物上保証人等であるAは、求償権を正当な範囲で自己の不動産の所有権を保全できるはずである(474条1項)。BとCに共通して「相殺」の請求をした場合、Bが債権の弁済に代えて物上保証の利益を享受したと評価して相殺を認めてよいというのである。他方で、代位弁済の効果との間の契約を要件とするため、Bの弁済をするとなる。ただし、物上保証人が有力であるとみる三者間相殺を認めれば、AはCとの関係を理由として有効な抗弁を主張できることになるが、Aにとっては、本来的にはβ債権の消滅を阻止した債務者を自己の債務者に優先して実現できることとなる。このとき、Bの債権者の第三者弁済的扱いが認められて、Aの有するα債権と相殺し、Dを債権者とするβ債権の履行とを認めるものとする。また、これとは別に、三者間相殺を認めると、AとBとの間で相殺が有力であると、無資力Aに対するBの反対請求が担保を許容する。そのため、抵当不動産所有者による三者間相殺を認めると、こうした追加的な事情のない場面に限定されるべきこととなる。さらに、物権における債務者の保護問題も問われている。三者間相殺を許容する見解の中には、このように限定された場面でのBの代理権行使に期待する見解もある。参考判例②によれば、権利濫用にすぎないとする主張もある。本条の弁済による消滅の管理に介入する権限を有しているわけではないとはいえ、Bによる相殺の管理に介入する権限を有しているわけではない。相殺性要件を欠く2つの債権について相殺の処理を含む合意の効力が否定的な意味で裏書に反するか否かは問われてはならない。(3) 取引関係の関連性を重視する見解次に、近時、計算の基礎とする債権を発生させた取引に何らかの関連性がある場合に、三者間相殺を許容する見解がある。α債権に関するA・B間の取引とβ債権に関するB・C間の取引が関連して行われているときに、約定によって債権債務を一括処理することへの当事者の期待を保護しようとするものである。しかし、三者間の債権の取引関連性を認めることにも消極的見解もある。むしろ、こうした見解においても、もとより上記BのAの解除もそうである。Bの他の債権者との不平等の問題など。また、法定相殺の期待への信頼は保護されてしかるべきだと、よく、両債権の相殺に付随効果があることも認められている。保証するに、当事者間の合意による相殺の期待もまた尊重されるべきであるが、取引関連性よりもむしろ取引当事者間での一般的な法律関係に付随することの根拠となりうるか否かについては、判例の動向に左右されず論理的に説明しうるとも思う。その意味で、この見解もまた取引関連に関して、これを肯定する判例を求められる。(4) 当事者間の合意に先行する相殺期待の重視当事者が関連して取引を行っているときに、その一体性を認めることから、これらの者による取引全体の合意に基づく相殺を許容する。たとえば、A・Bが企業グループを形成し、BとCの取引的に整理して抗弁しうるような場合である。これに対して、判例①は、A・C間に親子会社関係がある事案において、AやCによる相殺を認めていない(参考判例①の射程)。この見解についても、三者間の特殊性を前提にする客観性のほか、上記訴訟における判例の射程とは異なり、三者間の合意による相殺を肯定する判例③の射程としても、かかる判例の射程が限定的に解釈されるべきであると指摘されている。さらに、判例は独立した法人格を別人格として扱っているのであるが、当事者の期待に沿った通常の一体性を主張するのは困難ではなかろうか。全般による相殺期待の確保(1) 範囲を画するこのときに三者間相殺を正当化するのは難しい。三当事者間にある複数の債権債務によって相殺しがたいのであれば、むしろ、三者間の相互的な債権債務関係によって相殺が期待できるとみるべきである。その基準としてまず考えられるのが、保証である。上記法定の状況でA・B間に、α’債権とβ債権という相互的な債権債務関係が存在する。このとき、これらを相殺すれば、A・C間にα’債権とγ債権という相互的な債権債務関係が存在することとなり、これらを相殺すれば結局は、Bが直接Cに弁済することになる。このグループ内にBの債務者となるような者がいない場合にも同様である(参考判例④)。AがそれぞれのBとの取引について保証を一本で締結しておく方法もまたあるだろう。すべてをグループ内で決済処理に一本化するコストは大きくなる。そのため、実質担保は図られる。(2) 債権譲渡を利用する方法次に、債権譲渡を利用することもできる。たとえば、AがBに譲渡すれば、BとC間にβ債権とγ債権という相互的な債権債務関係が形成され、法定相殺が可能になる。あるいは、CがAに譲渡した場合も「相殺」を認めるべきであろう。これらの債権譲渡の利用の容易さからすれば、三者間での「相殺」への期待は保護に値すると評価されることは少ないだろう。ただし、この場合には対抗要件が問題とならなければならない。Bの債務者Dがβ債権を差し押えたときに、この差押えでAにCの債権を確定的に譲渡したわけではない。β債権譲渡の第三者対抗要件(467条2項、譲渡担保特約1条1項)を欠いていれば、Dの差押えでAは譲渡を対抗できず、相殺の担保的機能は無に帰する。(3) 複数引受を用いる方法さらに、債務引受によって二当事者間の相殺適状を作り出すことも可能である。たとえば、免責的債務引受(472条)によりAがBの債権者となれば、Cに免責的債務引受させれば、A・B間のみの債権債務関係になる。(4) その他の方法その他に代物弁済や更改、混同なども選択肢となる。とりわけ、上記のように債権が環状に存在しているときには、いくつかの方法を組み合わせる必要がある。たとえば、AがBの債務引受によりAとBの債務を免除するとともに、Cが対抗要件の範囲でγ債権にAの債務を免除するという具合である。ただし、債権者や引受参加者がさらに多数になれば、このような操作は非常に複雑になる。そこで、こうした状況では、独立した当事者X(集中決済機関、セントラル・カウンターパーティー(CCP))を参加させ、取引参加者の債権債務をすべてXとの二者間の債権債務に調整する方法がある。あるいは、取引参加者が互いに対抗する債務をすべてXに売却し、Xがその代金債権を相殺して処分する契約をすれば、これも決済の一方法である。債権の環状とXに対する債権が相互に反対方向の債務となり、これを相殺するとともに、Xが債務者となる。債権の環状とXに対する債権が相互に反対方向の相殺となり、また、AがB・Cに対して有する債務すべてについてXが免責的債務引受をし、その対価として反対方向にある二当事者間債権関係を形成できる。関連問題甲駅から乙駅までの鉄道、乙駅から丙駅までの鉄道、丙駅から丁駅までの鉄道をそれぞれ運営するA社・B社・C社は、2016年に甲駅から丁駅まで各社の車両を相互に乗り入れ直通運転を開始した。C社は、運送区間を含めた乗客からの運賃収入を管理する。運営協議会が占い、各社に生産に係る運賃の生産高を毎月末締めて清算することとしている。(1) 2022年6月1日の時点で前月分の運賃清算を清算した後に、A社にはB社に対する3000万円のα債権、B社にはC社に対する2000万円のβ債権、C社にはA社に対する1000万円のγ債権が残っている。同月13日、C社はB社の債権者D社からγ債権を差し押え、その差押命令が同月15日にA社からB社に送達した。D社がこの差押えによる債権取立権に基づき、γ債権の弁済をA社に請求してきた。A・B社がγ債権をα・β債権で相殺するとの合意を理由としてD社に対抗するとの合意を理由としてD社に対抗できるか。(2) 2016年の直通運転開始時に、A社はB社に運送区間の管理のために共同でX社を設立し、A社とB社は直通運転に関する債権債務を集約して決済することとしていた。2022年6月13日、B社の債権者D社が運賃代行取立分に当るB社に対するX社の債権を差し押え、その差押命令が同月15日にXのもとに送達された。D社がこの差押えによる債権取立権に基づき、δ債権の弁済をX社に請求してきたとき、A・C社は、X社が他の債権者との間に前月にどのよう合意をしていたかによれば、X社は対抗を拒絶することができるか。参考文献山本和彦・法教 2016年(2016)69頁/白石大・法教29年(2017)96頁/中田裕康「合意当事者間の相殺契約の効力」(日本評論社・2019)135頁/中田・債権総論464頁 (高木和彰)