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不当利得

(1) AはBに対して100万円の債権があったが、債権の額を勘違いして、200万円をBに弁済した。その後、Bはこの200万円を受け取って費消する途上で倒産に襲われ、全財産をすべて清算された。翌日Aは自分の勘違いに気づいた。AはBに対して100万円の返還を請求できるか。同様に、AはBに100万円の債務があったが、BがAに対して脅迫的な言辞を弄して弁済を強要し、慌てたAが債権額を勘違いしてBに200万円を弁済した。BはAの勘違いに気づいていたがAから弁済受領した後、以上と同様の事件が発生したとき、AはBに何を請求できるのか。(2) Aは直接Bから地大工(江戸時代の画家)の真筆といわれて、甲絵画を代金2000万円で購入した。契約時には、A・Bともに甲絵画は大量の贋作が出回っていたため、Aは代金を支払い、引渡しを受けた。ところが、Aが後に鑑定を依頼したところ、甲絵画はよくできた贋作で時価100万円程度のものと判明した。AはBに代金2000万円の返還を請求できるか。BはAの請求に対してどのような主張が可能か。(3) (2)で、Aが甲絵画を鑑定に出す前に、Aの隣家から出火し甲絵画は焼失してしまった。その後に、甲絵画が時価100万円程度の贋作だと判明したときは、AはBに対して代金2000万円の返還を請求できるか。(4) (2)で、Aが売買契約時に意思無能力だったときは、どう考えるべきか。(5) 甲絵画は著名な(平安時代の画家)の真筆で時価2000万円だったが、盗賊BがAに時価100万円程度のまがい物だと説明してだまし、Aが購入した後に、(2)と同様の事情で甲絵画が焼失したときは、A・Bは互いに何を請求できるか。参考判例① 最判昭和28・6・16民集7巻6号629頁② 最判昭和47・9・7民集26巻7号1327頁[解 説]1 非債弁済の不当利得小問(1)では、Bが弁済受領した200万円のうち100万円はAのBに対する債務の弁済だが、残りの100万円に関しては債務は存在しなかった。だから、Bには100万円を保有する法律上の原因 (債権) がない。その結果、BはAに対して100万円を「弁済者が弁済しない債務の弁済」の不当利得として返還する義務を負う。しかし、BはAから受領した金銭を費消されており、100万円の返還義務を負えば、債務の存在を信じて弁済受領した善意のBは100万円の損害を被ることになる。しかも、100万円の弁済者の原資は、Aの債務の誤認である。したがって、Bは利得の消滅を主張して 〔利得 (100万円) - 利得消滅 (100万円)〕 + 現存利益 (0円) 返還義務を免れることができる (703条)。これが、不当利得の一般原則である民法703条の善意の利得者の返還義務を現存利得とした制度趣旨の由来である。反対に、BがAの100万円の非債弁済に悪意なら、現存利得への返還義務の縮減は主張できないのは当然として、利得 (100万円) の返還に加えて、弁済受領時からの利息の支払義務を負う (704条後段)。悪意の非債弁済の受益者は、一種の不法行為と考えられていたからである。不当利得の一般原則の民法703条の規定は、非債弁済の不当利得のルールに由来する。かつては、非債弁済の不当利得の返還請求の要件として、①債務の不存在と②債務の存在に関する弁済者の錯誤の証明が要求されていた。しかし、錯誤の証明は、必ずしも容易ではない。そこで、債務の不存在だけを非債弁済の不当利得返還請求権の要件とした上で、弁済者の錯誤の証明責任を転換して、弁済受領者が弁済者に錯誤がなかったことを証明すべきだとされた(705条「債務の存在しないことを知っていたとき」)。同時に、弁済の錯誤に善意の弁済受領者の弁済を保護するという役割を保障するために、弁済受領者の返還義務の範囲を現存利得とした。そのうえで、「債務の不存在」を一般化して「法律上の原因の欠如」とした結果、民法703条のルールが成立した。だから、債務の弁済の場面を不当利得の「返還義務」の源泉を、弁済者の不当利得以外のすべての不当利得の事例で類推的に一般化することまでできず、「利得消滅の抗弁」の成否は個々の不当利得の事例で検討される必要がある。2 A・B間の売買契約の錯誤の規律小問(2)では、A・B間の売買契約に関しては、錯誤による取消し (95条1項)、または、移転した目的物の品質への不適合ゆえに契約の解除 (564条・542条)を、AはBに対して主張できる。たしかに、甲絵画の真筆の品質の豊かさは目的物の性状であり、それがAの重要な買い手とみなせる「動機の錯誤」にすぎない可能性もある。しかし、Aの動機は「法律行為の目的及び取引上において重要なものである」(95条1項)。しかも、甲絵画が大量の贋作であることは画家Aの「法律行為の基礎」としており(同項2号)、A・Bともにそのことを前提としていたから、法律行為の基礎として表示されている(同条1項2号)。だから、AはBに対して甲絵画の売買契約の錯誤による取消しを主張できる。さらに、A・B間の売買契約で合意したのは、大量の贋作である甲絵画の制作であり、したがって、甲絵画が贋作なら、Aは売買契約を解除することができる (564条・542条)。3 契約解除の規律小問(3)で、AがBに対して錯誤による取消しを主張すれば、A・B間の契約は遡及的に無効となる (121条)。その結果、AはBに対して売買代金2000万円の不当利得の返還を、BはAに対して甲絵画の所有権または不当利得に基づく返還を請求できる。さらに、反対の同時履行の関係は、小問(2)での不当利得が無効・取消しによる原状回復の義務 (後述) の事例であり、その回復には契約の規定が準用されるべきだとされている。つまり、「法律上の原因」の欠如 (703条) に関連して、不当利得返還請求の責任を個別的・多元的に考えるのが類型論の立場である。従来の通説だった法律行為は、不当利得の射程を公平に決め、一元的に不当利得を解決していた。しかし、公平という概念はそれ自体で内容が不明であり、問題解決の方針にはならない。だから、不当利得の問題の解決を個別の方針を、個別の不当利得の事実関係に即して明らかにした上で、類型論に対して、類型論は無効論としての自己の優位性を見出している(拙稿に対しては、→本書巻末【参照】)。その結果、BはAの2000万円の不当利得の返還義務に対して、甲絵画の返還との同時履行(533条の類推)を主張できると解されている。 (参考判例①②を参照)。AがBとの契約を解除すれば、同じく同時履行の関係を目的とする解除に関する民法546条は民法533条(同時履行の抗弁権)を準用している(ただし、本稿での結論とは異なり、詐欺・強迫による取消しの場合には、詐欺・強迫者、他方から同時履行の関係の主張を排斥すべきだと解する学説もある)。さらに、AはBに対して2000万円に関して、弁済時からの法定利息 (404条)を、BはAに対して甲絵画の滅失・使用利益返還義務(原状の返還義務を負うから、使用利益も当然に返還義務を負うと解されている)が可能かに関しては、学説は、双務契約の清算では、民法575条が類推されて、相互に返還義務を負わないとする考え方がある。しかし、他方で、契約が無効・取消しとなったときは、給付と反対給付の間の実質的な等価性は期待できず、しかも、使用利益に関しては、物の使用による損耗に価値低下する場面もあるから、代金と元本と給付物を現状で返還するだけで足りず、Aは甲絵画の使用利益を、Bは金銭からの法定利息の返還義務を負うと解する説もある。他方で、契約の解除の効果に関する規定は、「相手方を原状に復させる義務を負う」とし (545条1項)、加えて、利息、使用利益・果実の返還義務を規定するが (同条2項・3項)、無効・取消しの効果に関する民法121条の2第1項は、「原状回復義務」を負うとするにとどめ、使用利益・果実に関しては規定を置いていない。ただし、判例は、目的物の滅失・使用利益は、売主は代金の利息を不当利得として返還する義務があると解するべきであろう。詐欺者、強迫者の保護を認めるべきではないという考え方もありうるが、詐欺・強迫による被害者は不法行為による損害賠償請求権も重ねて行使できる。4 双務契約の給付された目的物が滅失した場合ところで、小問(3)では、甲絵画はA・Bの帰責事由 (故意・過失) なく滅失している。結果として、AはBに対して甲絵画の時価相当額100万円の価値償還義務を負うことになる。小問(3)のように、Aの返還に応じるべき相手方が反対給付をいったんは取得したがその後に、相手方の反対給付が滅失するために、自己の反対給出の返還に応じると約束して、相互に給付を交換し、給付の清算をしたとはいえない。この場合AとBとの関係について、民法703条を文言どおり適用すれば、甲絵画は滅失して、Aの現存利益は存在しないから、Bの代金返還に応じることになる。しかし、甲絵画をBからAに現に引き渡せるわけでもなくなった以上、Bから甲絵画の返還の危険を負担させるのは明らかに不公平である。そこで、従来から甲絵画の不当利得は本来非現物債権の不当利得に当たる民法703条を適用せず、原状回復として、甲絵画の価額賠償義務を負う(121条の2第1項は「原状回復義務」)と規定する。目的物の返還義務が不能となったときは、Aは目的物(甲絵画)の評価価値賠償義務を負うと解されている。その結果、小問(3)では、AはBに対して甲絵画の時価100万円の価値賠償義務を、BはAに対して代金2000万円の不当利得返還義務を負い、そのうえで相互の返還請求が同時履行の関係にあるから、差額分を返還せよとAはBから請求され、Bが1900万円の不当利得返還義務を負うこととなる。5 意思無能力・取消権の保護目的小問(4)では、甲絵画の売買契約をAはBと締結したが、Aは意思無能力者であるため、法律行為は無効である(3条の2)。だから、Aの意思能力を回復した後にあるいはAの法定代理人が後見されて、A・B間の売買契約時のAの意思無能力を証明すれば、AはBに対して2000万円の代金返還請求できる。他方で、甲絵画はAのもとで滅失しているから、Aの現存利益は存在しない。しかし、民法121条の2第1項を適用すれば、Aは100万円の価値賠償義務を負うことになる。しかし、それでは、意思無能力、つまり、財産上の決定を保護することのできないはずのAに、目的物の滅失の危険を負担させることになり不当であろう。そこで、同条3項は、意思無能力者、制限行為能力者は、現存利益の返還義務を負うと規定している。ただし、小問(4)では、A・Bともに帰責性のない偶然の滅失(隣家からの延焼)による目的物の滅失をいっている。だから、目的物の滅失は、Aの意思無能力とは無関係であり、意思無能力による判断を歪めた当事者の選択とは、Aの利益の回復を認めることとは解する余地もないのではないか。しかし、たとえ、Aは意思無能力による判断能力の欠如で、甲絵画を損傷したときも、Aは損害賠償義務を負わない。すると、偶発的な滅失の危険も、取引相手方が負担するのが、民法3条の2の保護目的にかなうと考えるべきであろう。だから、結論として、小問(4)では、Aは甲絵画の価値賠償義務を負担せず、Bに対して2000万円の不当利得返還請求が可能と解すべきであろう。6 不当利得法以外のルールの適用小問(5)では、民法121条の2第1項を適用すると、Aは2000万円の価額賠償義務を、Bは代金100万円の不当利得返還義務を負うことになる。しかし、この結果は、明らかに不公平である。もちろん、ここで錯誤無効の修正を不当利得の枠内で守ることも不可能ではない。たとえば、民法703条の趣旨の拡張である善意の受益者の保護(現存利益の返還義務)を、A・B間の売買契約の錯誤の取消しにより不当利得であることにBが善意であることを理由に、AがBに100万円で甲絵画を自己の所有物として保存できると信じていたことに対して、Aの返還義務をAの給付100万円に制限し、それ以上の返還義務〔1900万円〕を利得消滅したと解するなどの考え方もある。Bの故意に対して考えられる。そうすると、出発点としては、民法121条の2第1項が適用され、Aは2000万円の価値賠償義務を、Bは100万円の不当利得返還義務を負うが、AはBの返還義務に、ないしは、契約の締結上の過失を根拠にして、1900万円の損害賠償請求が可能であると考えるのが妥当であろう。結論として、Aは100万円の限度で目的物の滅失の危険を負担することになる。もちろん、上記の非債弁済の目的受領の目的物の滅失の危険の自己の責任の原則への回帰は、契約が無効・取消しとなった場合の契約の精算も、可能な限り不当利得の規定の類型によって行おうという方向性と一環である。それに対して、契約解除は、契約の締結上の過失による損害賠償による調整は、不当利得を財貨移転の清算のニュートラルなルールと位置づけたうえで、不当利得以外の規定の適用によって問題を解決しようという方向性である。関連問題(1) 本問の小問(1)で、Bが不法行為または故意によって、時価100万円の贋作を地大工の真筆であると信じさせて高額な契約を締結したとき、小問(2)で、BがAに代金2000万円の返還請求に対して、甲絵画の返還との同時履行を主張できるか。小問(3)では、Bは100万円の価値賠償債務をAに対して負うべきか。小問(2)で、Bが自己に帰責事由なくAの隣家からの火災で甲絵画が滅失したとき、Aが自己の不注意で、甲絵画の鑑定を依頼したときに、BはAに対して100万円の価値賠償の請求が可能か。