共有物の分割
甲土地と乙土地は、もとAが所有していた一筆の土地を分筆したもので、甲土地の東端と乙土地の西端とは隣接している。甲土地および乙土地は、各北端において幹線道路に面し、互いに交通至便な場所にあることから、周辺では収益物件の開発が進められている。甲土地および乙土地以外にも多数の財産を有していたAは、長男Bに甲土地を贈与してその旨の所有権移転登記手続を経由し、Bは甲土地を駐車場として使用収益している。乙土地はA所有名義のままで、その西側は遊休地となっており、東側3分の1部分には丙建物(1970年に新築された木造2階建)が存在している。丙建物の所有者名義人もAであり、次男Cが住宅として居住していた。Aは、先立たれた配偶者との間にB、Cおよび長女Dの3人の子(いずれも成年に達している)をもうけたが、2023年5月1日、遺言をすることなく死亡した。Bは、老朽化した丙建物を取り壊して乙土地全体を更地にし、甲土地および乙土地に賃貸マンション1棟を新築すれば一定の収益収入を得ることができるうえ、Cが上記賃貸マンションの1室に無償で住まわせて経済的に援助することもできると考え、乙土地全体の時価相当額の3分の1をCとDに支払ってBが乙土地を単独で取得する方向により乙土地を分割することを希望した。しかし、Cは丙建物の取壊しを名残惜しんで乙土地を持分3等分する方法により丙建物の敷地部分を現物で取得する分割を希望した。B、CおよびDは、乙土地・丙建物を含むA所有名義の不動産につき、2023年5月5日、相続を原因として持分3分の1とする各所有権一部移転登記を経た。その後、Cは遺産分割協議の申立ての時点で所在不明となり、遺産分割協議が調う見通しは立たなくなった。●解説●1. 共同共有と共有物分割E社は、乙土地および丙建物を前提に、CとDとの共有関係の解消を求めていることになる。CおよびDは、その相続分に応じてAの権利義務を承継した結果、乙土地および丙建物は、CおよびDの共有(持分各3分の1)となった(898条1項)。共有物の分割はいつでも請求できる(256条1項本文)ため、Dの申立ては共有者としての権利行使である。遺産分割の遡及効(909条本文)は共有物分割には適用されない。2. 協議と裁判共有物の分割は共有者間の協議によることが原則であるが、本問のように共有者間で協議ができないとき(Cが行方不明になっていることはこれに当たる)、裁判所に共有物の分割を求める訴えを提起することになる(258条1項)。遺産分割の協議後、裁判による分割、後者は各共有物分割(その結果は判決手続により、その効果を生ずるが、本問のように形成訴訟であり、判決において、その形成的な分割方法が定められる(訴訟形式)。2021年改正民法は、民法258条を改正し、共有物の分割の方法として、「共有物の現物を分割する方法」(現物分割)と、「共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分を取得させる方法」(賠償による分割、いわゆる価格賠償)とを、並列的に、両者に優劣を設けない形で規定した。3. 共有関係から生じる法律問題本問では、BとC、Dとの共有関係が問題となる。乙土地および丙建物の分割を求める。Bの申し立てにより、地方裁判所による判決がなされ、共有物分割がなされることになる。4. 本問の検討本問のCは所在不明で、どのような分割方法を求めているか明らかでない。Dは、乙土地および丙建物自体に直接の利害を感じないのであれば、これらの価値の法定相続分に沿った額の金銭を遺産分割において支払いを求めることができることが確実である限り、現物取得自体にはこだわらないこともありうる。他方で、Eが遺産分割において、遺産全体を一括して分割する必要がある。●関連問題●本問の事実関係の下で、参考判例③の示した要件、特に、共有者間の実質的公平が害されないとの要件を満たすために、E社としては、どのような事情を裁判所に主張立証していく必要があるか。●参考文献●本文中に掲げたもののほか、道野真弘・百選I 154頁谷口賢彦・最判解平成25年度 547頁