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不法行為責任の効果

2020年9月16日午前9時20分頃、A (2009年1月28日生まれの女児、同年11歳)は、自宅から500メートルにある自宅の近くの交差点を横断しようとしたところ、信号機のない交差点を普通自動車(以下「Y車」という)にはねられて、B病院に救急搬送されて治療を受けたが、まもなく死亡が確認された。この交差点はAの通う小学校の通学路になっており、Aも毎日のようにこの道路を通学していた。Yは、この交差点でAをはねた。これにより、Aが横断しているのに気づくのが遅れた過失があった。他方、Aは、小学校の指導にもかかわらずAもこの交差点を横断する際、左右の安全確認を怠っていた。Aの父Xと母Yは、Yに対して、Aの逸失利益として、Aが18歳から67歳まで49年間にわたって、2019年賃金センサス全労働者計の平均賃金を基にして、生活費を50パーセント、年5パーセントのライプニッツ方式で中間利息を控除した額、Aの精神的苦痛に対する慰謝料、B病院に支払った治療費、葬儀費用をAの損害と認められるとして、損害賠償を求めて訴訟を提起した。そこで、X・Yは、YにAをはねて、上記の内容の損害賠償の訴訟を提起することにした。この請求の内容から、これに対するYの反論を考慮して検討せよ。なお、Yから支払われるべきものとして、Yが契約している自動車任意保険からの支払も受けるものとする。[参考判例]① 最決平成13・9・11交民集34巻5号1171頁② 最判平成14・7・9交民集34巻4号921頁③ 最判平成17・6・14民集59巻5号983頁[解説]1. どんな損害がどんな発生するか(1) 不法行為の成立本問では、民法709条の不法行為責任が問題になるが、その損害賠償請求が認められるには、①権利侵害または法律上保護される利益の侵害、②それが故意または過失によること、③損害の発生と、④侵害と損害の間に因果関係があることが必要である。Aの生命侵害である。加害者のYのわき見運転は、問題なく成立する。Yも責任の成立自体は争わず、争うのは、賠償の内容である。なお、自動車による人身事故の場合には、自動車損害賠償保障法上の責任が実際にはまず問題となる。自動車事故の場合、同法の強制保険のほか、任意保険制度も発達し、事故件数も多いため、賠償額算定についてかなり定型化されている場合がある。(2) 生命侵害の場合の損害不法行為による損害は、不法行為がなかったとしたら存在した被害者の財産的・精神的利益状態と、不法行為によって生じた財産的・精神的利益状態との差であるといわれる(差額説)。これに対して、生命侵害の場合には、死亡者がそのものを損害と捉える財産的損害、死亡に伴って慰謝料などの精神的損害、死亡がなければ支出したであろう費用(逸失利益)と不法行為によって支出しなければならなかった費用(積極的損害)に分けて考え、これらを合算して損害額を算定する(個別算定方式)。これに対して、個別損害項目ごとに考えるのではなく、賠償額を一括して算定する方式が主張されている(包括算定方式)。以下の算定方式は、判例が採用している。損害賠算定方式を前提とすると、不法行為責任の損害も賠償されるべきであり、民法416条の損害賠償も適用される。判例は、死亡によって被害者の慰謝料請求も被害者に発生し(709条・710条)、死亡によって被害者の相続人に相続される(882条)と考える(相続説)。本問では、XとYの他に相続人はいないので、XとYに相続されることになる(相続分は2分の1ずつである(900条4号))。かつて、慰謝料は一身専属的な権利(896条ただし書)であるから、被害者が具体的に意思表示をしない限り相続されないという考え方があったが、今では財産的損害の賠償請求と同様に相続されるものである。死亡前に発生している医療費請求権は、死亡者が払っていれば、その相続財産から支払われる。父が費用を負担している場合には、慰謝料と同様に相続の問題となる。判例が被害者による請求を認めず、固有の損害賠償請求権の行使を被害者の相続人が行使できるかどうかが問題になるが、それが相続によって、被害者の相続人に民法709条の損害賠償請求権を認めるかどうかが問題となる。以下では、損害賠償を個別に解説する。2. 損害賠償の内容(1) 逸失利益人身侵害における逸失利益の算定方式は、一般には、「逸失利益=(基礎収入-生活費)×年数に対応するライプニッツ係数」(=中間利益)である。年間収入は現実の収入が基本であり、勤労者が死亡時に得ていた給与である。非就労の場合にはゼロとなるが、愛でていないため、働いていれば得られるであろう年収(×稼働可能年数)による。本問のような女児の場合は、賃金センサスに基づく女子平均賃金をもとに逸失利益を算定し、将来は男女間賃金格差が是正されるとの理由で、男女平均賃金をもとに逸失利益を算定するケースがある。ただし、11歳の子供の死亡事故でも、性別によって賠償額は大きく異なってしまう。実務では、女子の場合に慰謝料を増額したり、生活費控除の割合を少なくすることで格差を縮小してきたが、限界があり、現在では、女子について全労働者平均賃金に基づいて算定することは認められるようになっている(参考判例①②)。稼働可能年数は、被害者の年齢・経歴・職業・健康状態その他具体的事情を考慮して自由な心証によって算出されるが、実務では、18~67歳くらいまで(67歳以上の被害者については平均余命までの年数の半分程度)とすることが一般的である。生活費を控除するのは、生きて活動したならば生活費が当然にかかり、その部分は手元に残らないはずだからである。これも実際の額はわからないので、男子では50パーセントを控除するのが普通である。中間利益が控除されるのは、損害賠мを一時金として一括して支払われるので、被害者が将来受け取るはずであった収入についてはその時期までの間の利息を控除して、支払われる時点での金額を求めなければならないからである。これについて、かつての実務は、単利計算のホフマン方式と複利計算のライプニッツ方式に分かれていたが、現在ではライプニッツ方式に統一された(この計算のほうが大きくなる)と統一された。最近問題になっているのは、この計算の基礎となっている年利であるが、従来は、法定利率年5パーセント(旧404条)によってきたが、近年は低金利が続いており、将来も年5パーセントに戻らなかった。実際に年利3パーセント、4パーセントで控除して認容するケースも現れたが、最高裁は法定利率によることを明らかにしたので、民法404条2項は法定利率を3パーセントに引き下げたので、改正後は3パーセントで中間利益の控除が行われることになる。(2) 慰謝料財産損害と異なり、慰謝料は、被害の程度などの被害者側の事情はもちろん、加害者の事情も考慮して(たとえば故意か、軽過失なのか等)、裁判所が裁量で決定される。このため、損害賠償の請求には金額を主張・立証する必要はない。また、加害行為と因果関係ある精神上の苦痛も考慮される。しかし、自動車事故のように同じ事案が多発するケースで、個別事情を考慮して慰謝料額を算定することは公平を欠くため、裁判実務は被害の類型を標準化して慰謝料額を算定し、それに一定の幅をもたせて、増減額が図られている。本問の被害者が死亡した場合の慰謝料については、11歳であった。両親の被害者への愛情の程度などを勘案すれば、慰謝料の額は自己の慰謝料を請求するのではなく(711条)、X・Yが相続した被害者の慰謝料に自己の慰謝料を請求するのは妥当である。ちなみに、11歳女児が交通事故で死亡した参考判例③の事件では、本人3000万円、両親それぞれ250万円の慰謝料に対し、本人1700万円、両親それぞれ200万円の合計2100万円の慰謝料が認容されている。(3) 治療費・葬儀費用入院によって生じた治療費は、積極的損害として賠償の対象となり、生命に発生している医療費に当たって、当然賠償の対象となる。本問のような場合には、父母が実際に支出することが多いが、父母はそれを請求できる(711条)。いずれにしても死亡による損害とは別に問題はない。葬儀費用はいずれ必ず支出されるものである。このため、葬儀との因果関係はいずれ必ず支出されるものである。しかし、判例は、被害者の社会的地位等からみて相当の範囲で請求を認める(最判昭43・10・3判時540号38頁)。実務に認められるのは150万円程度である。(4) 弁護士費用弁護士に民事上の処理を依頼した場合の費用も請求できる。裁判所が相当と認めるのは、訴訟の支払額ではなく、そのうち相当と認められる範囲である。3. 過失相殺Yとしては、Aの飛び出しを指摘し、過失相殺(722条2項)によって、民法709条の責任能力を前提とする過失と異なり、事理弁識能力の存在を前提とした判断である。4. 損益相殺**最後には、民法に規定はないが、不法行為によって被害者が利益を得ている場合には、それが賠償額から控除される。たとえば、被害者が死亡保険会社からの支払があった場合でも、被害者の加入した生命保険からの支払金は、損害を補填するものではないと考えられており、損益相殺の対象とされていない。[関連問題]本問について、次のような場合を仮定して検討せよ。(1) Aは幸運にも一命をとりとめたが、左足の骨折の結果、将来にわたって歩行に支障が残る後遺障害が残る場合。A・X・YはYにどのような請求をすることができるか。(2) Aが、事故当時満3歳であり、父の保育園に送っていく途中、手を放した隙にAが道路に飛び出し、この交差点でYの運転する自動車にはねられて死亡したとき、X・YはYにどのような請求ができるか。これに対して、Yはどのような反論が可能か。[参考文献]水野謙・リーマークス25号(2002)66頁/高橋譲・平成17年度重要判例解説2頁/水野謙=三木浩一=加藤新太郎 民事法Ⅱ 311頁(和田真一)