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集合債権譲渡担保

2020年4月1日、株式会社Aは、B銀行から5000万円を借り入れるに当たって、「2020年4月1日から2025年3月31日までの間に、Aが所有する甲建物の賃貸により取得する賃料債権を担保のためBに譲渡する」という内容の譲渡担保設定契約をBと結んだ。これについては同日付で債権譲渡登記が行われている。ところで、この時点で、甲建物(B名義のオフィスビル)の2・3階はC社、4・5階はD社がそれぞれ賃借していたが、これら2社に対して譲渡担保設定の旨の通知は行われず、C・Dは引き続き(C・Dとも月額200万円)をAに支払っていた。2021年5月1日、Aは新たにE社と甲建物の1階部分の賃貸借契約を締結し(賃料月額100万円)、同日Eは甲建物に入居した。2022年10月1日、Aは甲建物をF社に売却し、所有権移転登記も同日に行われた。C・D・Eはそれ以降はFに賃料を支払うようになったが、Dの賃借期間は2023年5月31日に満了し、同月7月1日、代わってG社がFと新たに賃貸借契約を締結して甲建物の4・5階部分に入居した(賃料月額150万円)。2024年4月1日、Aは2回目の手形不渡を出して事実上倒産したので、BはAに対し借りた5000万円を回収するため、C・D・E・Gに対して債権譲渡登記の登記事項証明書を交付して譲渡担保を承知し、以後Bに賃料を支払うよう求めた。これに対してC、E、Gが要求に応じ引き続いて賃料を支払う一方、C・D・E・GはBとFのいずれに賃料を支払うべきか。[参考判例](1) 最判平成11・1・29民集53巻1号151頁(2) 最判平成13・11・22民集55巻6号1056頁(3) 最判平成10・3・24民集52巻2号399頁[解説]1 集合債権譲渡担保の有効性近年、複数の債権(集合債権)をまとめて譲渡担保に供することによって、多数の債権が行う取引が急増しつつある。ここでいう「集合債権」とは、多くの場合、複数の債務者に対する債権を含み、さらには発生済みの債権のみならず将来発生する債権をも含むものである。そこで、このような集合債権を目的とする譲渡担保の有効性がまず問題となる。集合債権譲渡は、その契約の締結日に譲渡の対象の債権が発生していることを要しない(466条の6第1項)。これは、すでに判例が認めていたことを明文化したものである(参考判例①)、集合債権譲渡担保は、設定者(譲渡人)および他の債権者の保護の観点から、譲渡担保の目的たる債権の範囲が特定されている必要があるが、この点についても参考判例①が基準を示しており、債権の発生原因や発生期間に係る事情等のほか、将来債権の譲渡の場合にはその始期と終期を明確にすることによって特定されるとしている。本問では、債権の発生原因(甲建物の賃貸借)および存続期間(2020年4月1日から2025年3月31日まで)が指定されており、特定としては十分と解すべきことになろう。ところで、本問の集合債権譲渡担保は、その目的となる賃料債権を特定していない。DとGの名を特定していない。しかし、このような債権者が不特定である場合であっても、債権の発生原因と期間を特定するなどの方法によって、他の債権者の財産と明確に区別するような事情があれば特定性は満たされると考えるべきである。このような特約がなされた場合に、譲渡担保契約がなされた後に新たに賃借人となったEに対する賃料債権もまた、集合債権譲渡担保の目的物に含まれることになる。2 集合債権譲渡担保の対抗要件集合債権譲渡担保は、あくまで担保目的で設定されるものであり、被担保債権が不履行に陥るまでは、設定者(譲渡人)が引き続き債権から目的債権の弁済を受けることができるとされているのが通常である。しかし参考判例③は、このような場合であっても、債権は設定時から譲渡担保権者に確定的に譲渡されており、ただ、設定者と譲渡担保権者との間において、譲渡担保権者に帰属した債権の一部について、設定者が譲渡人の同意を得て、代わりに取り立てる権限を付与されているにすぎないものと解している。したがって、集合債権譲渡担保も通常の債権譲渡にほかならず、これと同じ方法によってその対抗要件(債権譲渡登記、債務者に対する通知・承諾)を具備することができるのである。本問のように債務者が不特定・多数の場合には、実際上これをいかにして満たせるかの問題となる。C・Dのように、譲渡制限設定時に存在している債務者に対しては、確定日付ある証書による通知を行うことで債務者に対する対抗要件を備えることができるとしても(467条1項・2項)、設定時にはまだ存在しない債務者に対してはどのように通知を行うべきか、他の譲受人(譲渡人の債権者)との間の対抗関係で優劣を主張しうるにすぎない(同条2項)。債務者が存在する場合には、それに同じく通知を行うのも煩雑であるし、より実際的な問題として、債権譲渡を行ったことを債務者に知れてしまうと設定者(譲渡人)の信用に悪影響が及ぶという点も無視できない。これらの問題を解決するために用意されているのが、債権譲渡登記法(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律)が定める債権譲渡登記制度である。この登記は、譲渡人が法人であり、譲渡対象債権が金銭債権である利用可能である。この制度は、債務者の対抗要件と債権者に対する対抗要件を分離した点に大きな特徴がある。すなわち、まず譲渡対象登記を行った段階で、債権者以外の第三者に対する対抗要件が具備されるが(動産譲渡登記特4条1項)、債権者が債務者に対するためにも、登記事項証明書を債務者に通知しなければならない(同条2項、民法467条に異なり、譲受人から通知してもよい)。このような二重の効力が認められているので、債務者に通知しなくとも債権譲渡の第三者対抗要件を具備することが可能である。また、債務者に対する通知も譲渡の時にまとめてすることができる(債務の発生時期によって登記をすれば足りる)。本件における第三者に対する譲渡制限特約については、Eの新規(2022年5月1日)およびGの新規(2023年4月1日)を基準として他の利害関係人が現れたと解される。3 将来債権をめぐる利害関係の調整本問では、甲建物の賃貸借から生じる賃料債権がまとめて集合債権譲渡担保に供された後、甲建物自体が譲渡担保権者(F)に譲渡されている。このように、集合債権譲渡担保と、集合債権を生み出す財産自体の譲渡とが競合した場合に、譲渡担保権者と当該財産の譲受人のいずれが優先するかの問題となる。参考判例①は、集合債権譲渡担保の目的債権が、賃貸人の賃借人に対する賃料債権の先取特権のように当該財産の価値に内在するものではなく、賃貸人の地位の移転(→本書14章参照)を受けた譲受人は、賃料債権の所有者から当然に目的物を引き渡す義務を負うものではない。譲受人は譲渡担保権者に対し、当該財産から生じる賃料債権を対抗することができないと示した(参考判例②)。将来建物における賃料債権をめぐる利害関係人の間の調整を図る必要があり、集合債権譲渡担保の対抗力をできるだけ弱めることが考えられる。集合債権譲渡担保は対抗要件を備えることを考えると、対抗要件を備えることができないのでは、本問では、少なくともC・Dから賃料を回収することはできるはずではなくBであるという結論になる(これに対し、Gとの賃貸借契約はFが建物を取得した後になされたものであり、これについてはBから賃料の回収を受けるわけではないので、ただちにC・Dと同様に解することはできないと解される)。一方で、学説においてはこの将来債権のうちのどの範囲のものについて、債権譲渡においてはこの将来債権をめぐる問題(処分権)を有するべきかという形で問題が提起され、現在では次の3つの考え方がありうるとされている。①賃料債権の譲渡担保権者は、集合債権譲渡担保の効力を不動産譲受人に対抗することができ、譲渡担保の目的となった賃料債権はすべて譲渡担保権者に帰属するという考え方。この立場は、賃料債権の処分権は不動産の所有者から生じるという理解のもと、譲渡担保設定者(旧賃貸人)は譲渡担保設定の時点では賃料債権を所有しており、将来の賃料のすべてについて処分権限を有していたので、その処分権に基づいて設定された集合債権譲渡担保の効力が当然に優先されるべきではないかと考えるものである。②譲渡担保設定者(旧賃貸人)が締結した賃貸借契約に基づき発生する賃料債権は、譲渡担保権者に帰属するが、不動産の譲受人である新賃貸人が新たに行った賃貸借契約に基づき発生する賃料債権は、新賃貸人に帰属するという考え方。これは、賃料債権の処分権は契約上の地位に基づくものであることを前提に、譲渡担保設定者(旧賃貸人)が締結した契約から生じた賃料債権については、賃貸人の地位(契約上の地位)を承継した不動産譲受人にも譲渡担保の対抗効が及ぶ一方、不動産譲受人が自ら新たに締結した賃貸借契約に基づく発生する賃料債権については、譲渡担保設定者に処分権がなく、譲渡担保の効力が及ばないとする立場である。③集合債権譲渡担保の効力は不動産譲受人(新賃貸人)に対抗することができず、賃貸不動産の譲渡後に発生するすべての賃料債権はすべて新賃貸人に帰属するという考え方。この立場は、不動産の譲渡後に発生する賃料債権は不動産譲受人のもとで発生するため、譲渡担保設定者(旧賃貸人)はこれに対して処分権を有しないと考えるものである。この問題は、譲渡対象債権の処分権が誰について生じるのか(債権を生み出す財産の処分か、契約上の地位か)という理論的な対立があることに加えて、実際的にも、一方では不動産所有者の多様な資金調達を可能にするというメリットを、他方で不動産の所有権と活用が分離することによって生ずる弊害(不動産取引への支障や賃貸不動産の劣化)を、ともに考え合わせなければならないという難しさがある。本問において、仮に③の見解をとるならば、C・D・E・GはBに賃料を支払わなければならないことになる。これに対して②の見解をとると、C・D・EはいずれもFに賃料を支払わなければならず、結論が正反対になる。②の見解だと、譲渡担保設定者であるAと賃貸借契約を締結したC・EはBに、Aから建物を譲り受けた新たに賃貸借契約を締結したFに、それぞれ賃料を支払うべきということになろう。ところで、集合債権譲渡担保をめぐる不動産自体の譲渡とが競合する場合は、本問のような賃貸借ケースに限られない。たとえば、ある企業の特定の取引に基づく売掛債権について集合債権譲渡担保が設定された後に、その取引に係る事業が他の企業に譲渡(会社467条)されたような場合にも、事業譲渡後に発生する売掛債権が譲渡担保権者と事業の譲受人のいずれに帰属するかが問題となる(発問設題①参照)。基本的には上記①〜③と同様の考え方がここでも成り立ちうると思われるが、②の考え方をとる場合にはやや注意が必要である。事業譲渡契約においては、取引関係にすぎず基本的な取引条件を定める契約(基本契約)が締結され、これに基づいて個別の売買契約(個別契約)が繰り返し締結されるという形態がみられる(基本契約)。この場合に、事業譲渡がなされることによって移転するのは設定者(基本契約)の契約上の地位であると考えられるので、集合債権譲渡担保の効力が事業の譲受人に及ぶのは、基本契約と個別契約との結びつきの強弱という微妙な判断に委ねられることとなる。集合債権譲渡担保をめぐっては、これ以外にも、譲渡担保設定後に譲渡対象債権について譲渡制限特約が付された場合に譲渡担保権者はこの債権を取得しうるかという問題があるが(発問設題②参照)、これについては明文が設けられた(466条の6第3項)。[発問]株式会社Aは電子部品の製造を営む中小企業である。Aの技術力は世界的に高く評価されており、将来有望な小型モーターを大手メーカーにCとD社に納入している。2020年4月1日、Aは、運転資金5000万円(期間5年、弁済期2025年3月31日)をB銀行から借り入れるに当たって、「2020年4月1日から2025年3月31日までの間にAが小型モーターの販売によって取得する代金債権を担保のためにBに譲渡する」という内容の譲渡担保設定契約をBと結んだ。これについては同日付で債権譲渡登記が行われ