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訴訟手続の中断・受継

X国は、日本国内にあるX所有の建物をYが占有していると主張して、所有権に基づき、建物明渡請求の訴えを提起した。訴状の申告には、「原告X国(代表者)X国駐日大使A、(訴訟代理人)弁護士B」と記載されていた。第1審審理中に、日本政府は、Z国と国交を断絶し、これに代えてZ国を承認したが、裁判所はこの事実を斟酌することなく、手続はそのまま進行した。第1審裁判所は原告の請求を棄却する判決をし、原告が控訴した。控訴審裁判所は、この訴訟をどのように扱うべきか。●参考判例●① 最判平成19・3・27民集61巻2号711頁●解説●1 手続の中断・受継の意義訴訟係属中に当事者が死亡したり、法定代理権の喪失等の理由として訴訟追行者が変更される場合、訴訟手続にはどのような影響が生ずるだろうか。(1) 当事者の交替 当事者の交替について考えよう。例えば訴訟係属中に当事者が死亡したとき、一定範囲の親族関係にある者と当事者とは別である。しかし、実体法権利義務を承継する者(一身専属的な請求権は除く)相続によって当事者として権利義務を承継した者から訴訟手続が当然のことながら新当事者として従前の訴訟を承継すること(訴訟承継)が、当事者が死亡したため、その第三者が新当事者(承継人)となる場合も当然に訴訟承継が認められ、新当事者の意思を問わず当然に生ずる。これを当然承継という。の例外がある)。当事者自身の交替のほか、訴訟担当者の交替の場合も同様である。当事者は、承継の意思をせず、裁判所が承継原因を認識していなくても効果が生ずるので、手続の安定を害し、当事者の手続保障のために時間的猶予を与えることが相当である。そこで、当事者の死亡など承継原因が生じた場合には訴訟手続は中断し、承継人との間で手続を再開することとした(124条1項各号)。中断期間中にされた当事者および裁判所の訴訟行為は、中断についての不知・過失にかかわらず、当事者の訴訟承継を前提とした(124条1項)。当事者の訴訟承継を前提とする規定は次のとおりである(以下、括弧内は承継人)。すなわち、当事者である法人の合併による消滅(124条1項1号)、当事者である法人の合併による消滅(同項2号)、信託の終了(受託者)、同項4号、訴訟担当者の死亡または資格の喪失(同項5号)、および選定当事者の全員の死亡または資格の喪失(選定当事者)、同項6号。また、破産法44条1項により、当事者である債務者と破産管財人との間で手続が中断された時に破産管財人が手続きを中断する。中断された手続は、承継人または相手方当事者の申立てによって再開される(124条1項・128条・126条)。承継人がいない場合は、相続財産が法人でないと、職権で、施行を命ずることができる(129条)。(2) 訴訟能力の喪失・法定代理権の喪失 当事者が訴訟能力を喪失したり、法定代理人が法定代理権を喪失する場合がある。このような場合は、当事者に交替はないが、実体的権利義務を承継する者(一身専属的な請求権は除く)相続によって新たに法定代理権を取得した者が新たに訴訟行為を行うことを前提に、手続の中断、新たな法定代理権者から十分に訴訟準備をさせることが適当であり、受継の手続は、この無能力者に特別代理人の選任という(124条1項3号)、受継の手続は、(1)と同様である。(3) 中断の例外 上記のように、中断は新たな訴訟追行者の準備のためであるから、訴訟代理人がいる場合は、手続は中断されない(124条2項)。なぜなら、訴訟代理権は、民法の代理とは異なり、本人(当事者)の死亡によっては消滅しない(58条1項1号)ので、中断事由が生じた場合にも、訴訟代理人は、承継人が決まるまで訴訟行為をすることができる。したがって、訴訟代理人は承継人が決まるまで訴訟行為をすることができ、また多くの場合は承継人との間で判決は承継人の不利益とはならない。そのため、中断事由が生じても、当事者が不利益を被らないように、承継人が訴訟代理人に委任しなおし、手続を中断しない扱いとしている。(4) 特定承継 最後に、訴訟の係属する権利あるいはその手続の中断がなされない場合に限られており、例えば、訴訟追行の対象たる不動産が訴訟係属中に被告から第三者に譲渡された場合、原告としては訴訟の当事者として引受けをさせる(50条1項)。譲受人との間で確定判決を得ることが有益である。譲受人を被告として請求認容判決を得ても、訴訟承継主義の下では、譲受人には判決効は及ばないからである(115条1項3号と対比せよ)。このように、当事者たる権利義務や係属中の訴訟が個別的に移転することにより生ずる訴訟承継を特定承継という。特定承継の方法は2種類ある。1つは、承継人が訴訟対象たる権利を譲り受けた場合に強制的に承継がなされる、承継人が新たな当事者として自ら手続に参加し、従前の義務者との間で(訴訟につき争いがある場合には、従前の当事者との間でも)判決を得る方法である。これを参加承継という(51条による47条~49条の準用)。いま1つは、承継人が訴訟対象たる権利を譲り受けた場合に強制的に承継がなされる、訴訟の相手方当事者が譲受人(承継人)に訴訟を引受けさせる方法である。これを引受承継という(50条3項・51条による41条1項・3項・49条の準用)。承継人には参加のインセンティブがないが、相手方当事者との間で(訴訟につき争いがある場合には、従前の当事者との間でも)確定判決を得る必要があるためである。なお、従前の当事者の承継、権利承継人の引受承継も可能である(51条)。(5) 訴訟承継の効果 承継人は、原則として、従前の訴訟状態を引き継ぐ(訴訟状態承継主義)。したがって、当事者のした自白の撤回や攻撃防御方法提出の遅延等の攻撃防御方法については一定の制限を受けることになる。もっとも、承継人固有の攻撃防御方法の提出は例外であり、また、旧当事者の訴訟追行が承継人に悪影響を及ぼすおそれがある場合には、訴訟の承継の手続保障の観点からすれば、上述の制限は承継に及ぶ場合もあるだろう。2 本問について本問は、国家承認として有名な参考判例①を題材としている。この判決では、国家に関する国際法上の諸問題を考慮するとともに、ここで、承継に関する手続法上の問題を扱うこととする。(1) 当事者の確定 本問では、誰を被告と考えるべきか。学説上、当事者の確定の基準として、表示説、実質説、意思説、行動説等があり、さらに、確定基準によって確定ができない場合にどのように考えるか(規範分類説)は、→問題31)。判例がどの説を採用しているかは定かではないが、少なくとも訴訟提起時に誰を当事者と確定する必要があるかは表示説によらざるを得ない。さらに、確定時には、当事者の手続保障の重視の要請を考慮して当事者を確定しているように見受けられ、結果的に意思説ともいえよう。本問では、表示説、意思説、および行動説によれば被告はXとなりうるであろう。しかし、参考判例①では、原告として認定されるべき者は、本訴提起当時に、その国をXとしていたが、日本政府がZを承認した)時点のZに国名が変更されたとみている……(本訴提起当時)、そのないしZの支配領域を統治する国家主体が、連続的に当事者であったというものであった。したがって、名称がX、Zと変遷する国家の当事者は交替していないとみる。このような抽象的な国家を承認することは学説は異論があるが、参考判例①によれば、当事者(国を代表する)は「具体的には」XからZに交替したことになる。仮にすると、判決の代表の変更が何によることはできるかというと、その代表権の消滅は、(2) 法人政府のZ承認により、Xの代表権は消滅するか。以降、Xの承認による訴訟行為は代表者たる政府の行為とは無関係であるはずである。もっとも、一般的に、代表権消滅の事実は代表者変更のあった当事者(本開する旨を告知)サイドの内部事情であって、相手方がこれを知らずに訴訟行為をする場合には常に代表権消滅の効果(訴訟行為の無効)を及ぼすのは酷である。そこで、法は、代表権消滅の効果は、当事者本人または法定代理者から相手方に通知をしなければ生じないとして、代表権の通知に対する相手方の信頼を保護している(37条の準用する36条1項)。本問では、Yへの通知の事実は現れていないので、代表権消滅の効果は生じないことになる。しかし、民事訴訟法36条の趣旨は代表権消滅の事実を知らないYの保護にあるとすると、本問のように条約によってZが承認された場合には、法の不知と同様、Yの不知を前提とすることはできないであろう。参考判例①は、これを公知の事実とし、承認の時点で、通知があった場合と同様に代表権消滅の効果が発生すると判断した。学説の一部が指摘するように、Z承認の事実が日本社会にあまねく知られていたかは疑問の余地があるが、公知性の意義は、実質に知られていることではなく、当該事実の存在が客観的に認められる点にあるのだから、条約締結による承認は公知性が認められるといえよう。(3) 代表権消滅を理由とする手続の中断このように、Xの代表権がZ承認発生と同時に発生したとすると、この時点で手続は中断し、新たに代表権を有する者(Z)が受継すべきことになる(124条1項3号)。本問では、第1審判決言渡の時点で手続は中断されていたこととなるが、これが看過され、判決等の訴訟行為が重ねられた。したがって、承認時以降の訴訟行為は中断中のものであってすべて無効であり、第1審をもう一度やり直すべきことになる。ただし、Xには訴訟代理人Bがあるので、本来、中断の必要はない(124条2項)。もっとも、訴訟代理たるXとZとの間には利害の対立があり、Zの利益のために訴訟追行をするとは考えにくい。そこで、Xの代理人であったBがZの利益のために訴訟追行をするとは考えにくい。民事訴訟法124条2項を適用する前提が欠けているため、例外的に、手続を中断すべき場合と考えるべきであろう。Yは、受継後には新当事者としてBを解任するこ(4) 控訴審の判断上記のように考えると、Z承認以降の訴訟行為はすべて無効であり、第1審判決も成立せず、その送達も無効となる(132条1項は、口頭弁論終結後に中断された場合を対象とすると解される)。もっとも、判決を当然に無効とするのではなく、法定代理人を欠く手続であった追認の可能性もあるものとして、上訴により取り消すべき瑕疵と考えることができる。そこで、本件控訴は有効に係属したものと擬制したうえで、原判決を取り消し、第1審で新当事者に審級をさせるために差し戻すべきと考えられる(307条1項の類推適用)。上告の場合には、代理人による訴訟追行がなかったとして312条2項4号により上告することができると考えられる。なお、中断事由の存在は、職権で調査し探知すべき事項であり、当事者の主張がなくとも裁判所が職権で取り上げることに問題はない。●参考文献●八大浩一「当事者の死亡による当然承継」民事訴訟雑誌31号(1985)32頁 / 吉田克己「当事者能力基準判決」慶応法学12号(2009)27頁 / 村上正子・平成19年度重要判例138頁 / 山本和彦「最新重要判例250」(弘文堂・2022)29頁・96頁(山田・文)