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法定地上権①

Aとその父Bは、親子で工務店を営んでいた。Aは、結婚を機に、Bと相談のうえ、B所有の甲土地に、下層階に工場の倉庫スペース、上層階にAの新居スペースをもつ建物を建てることにした。ほどなく甲土地上に乙建物が完成し、Aを所有者とする登記もされた。Aら夫婦の居住も始めた。その翌年、Aは、Bに、乙建物と工場の設備拡充のためX銀行から融資を受けるに当たり、その担保として、Xのために乙建物上に1番抵当権(被担保債権額3600万円)を設定した。 それから2年後、Bが交通事故で急死し、Aが甲土地を相続した。Aは、経営が悪化する一方の工場の資金繰りに窮し、新たにY銀行から融資を受けることになった。そこで、Yのため、まずは甲土地上に1番抵当権(被担保債権5000万円)、そしてその翌年には乙建物に2番抵当権(同500万円)が順次設定された。 その後、工場の経営はますます行き詰まり、ついにXの申立てにより甲土地と乙建物が競売に付された。執行裁判所は、両不動産の売却で得られた配当財産6000万円につき、甲土地価額5000万円をYに、乙建物価額1000万円をXに配当する配当案を作成した。これに対し、Xが配当異議の訴えを提起した。すなわち、甲土地には乙建物のための法定地上権が成立するため、甲土地の価額の6割に当たる3000万円は法定地上権の価額に相当するものであるとして、乙建物の全額1000万円とともに建物抵当権者に配当されるから、Xの主張は認められるか。 ●解説● 1. 法定地上権の成立要件 法定地上権の成立要件の1つに「抵当権設定時に土地と建物の所有者が同一人であること」がある(388条)。本問では、Xの1番抵当権設定時には土地と建物の所有者が異なっていたが、その後の抵当権設定までの間に同一人に帰属するに至っている。 法定地上権の効力は従たる権利である土地利用権にも見えぬため、もし本問で法定地上権の成立が認められるとすれば、XとYの土地の価額の5分の3も法定地上権の部分は建物抵当権者に配当されることになる。 (1) 設定時に同一人に帰属した場合のみの登場人物(甲と乙をA所有として) 抵当権設定時に土地と建物が同一人に帰属していた事例が多いのである(参考判例①)。 法定地上権の成立要件に、Yの抵当権設定時(なかった)のをどう評価するか。 Yの抵当権設定時(なかった)のをどう評価するか。 (2) 土地と建物が同一人に帰属した後、2番抵当権が設定された場合 土地に1番と2番の抵当権が順次設定された場合につき、判例は、法定地上権の成立を否定する(参考判例②)。法定地上権の成立を認めると、1番抵当権者が把握していた、約定担保価値が損なわれる、というのがその理由である。 (3) 土地と建物のそれぞれに2番抵当権が設定された場合 土地・建物のいずれにも抵当権が設定された後、建物が同一人に帰属し、次いで建物に抵当権が設定され、土地抵当権の実行時には法定地上権は肯定されることになる。 2. 本問についての結論 Yの抵当権の設定時に成立要件を具備していることを踏まえ、法定地上権の成立を認める見解に立つならば、X主唱の、建物の抵当権者Xに担保価値額3000万円が配当され、さらにYには、土地の価額5000万円から法定地上権の価額を引いた残額(底地価額)2000万円が配当される。他方、AB間で賃貸借契約が結ばれていたらならば、建物の抵当権者には建物価額1000万円に加えて約定利用権の価額分も配当される。前述のとおり、約定利用権は、法定地上権よりも額は概して低く、これを土地の価額の5割で計算するとすれば、本問では2500万円となる。その結果、1番抵当権者Xには3500万円が、土地の抵当権者Yには底地価額2500万円が配当される。 なお、ごくわずかな対価の支払しかされていない場合では、賃貸借と使用貸借のいずれであるのかを判断するのが非常に難しい(最判昭和43・10・27民集20巻8号1649頁、最判昭和53・7・17金法874号24頁等)。本問では、Xが抵当権の価値を認定する際には、賃借権の存在が看過されていたのであるが、実際にそれが認められるかは、AB間で賃貸借を認めるに足る対価の授受があったか否となる。本問の解答をする際には、そのことにも留意しつつ適切な形で総合分けをすることが求められる。 51 法定地上権② Aは、自己所有の甲土地上に5階建ての乙建物を建て、自身が経営する会社の事務所に使用していた。Aは、会社の経営規模を拡大させるべくB銀行から融資を受けることとし、2019年3月、Bとの間で、甲土地および乙建物につき、根抵当権を設定し、根抵当権者をBとする共同根抵当契約を締結した。ところが、乙建物は、2020年4月にこの地を襲った大地震によって倒壊、滅失した。Aは、これを機に別の場所に移して会社の新社屋を建てることにして、甲土地上には、2021年1月、比較的小さな丙建物を建築し、これをCに賃貸した。 ところが、ほどなくAの会社の経営は危機的状況に陥り、Aは弁済期日にBに対して債務を弁済することができなくなった。そこでBは、甲土地につき、上記根抵当権に基づいて裁判所に不動産競売を申し立て、裁判所は2021年12月に不動産競売開始決定をした(なお、BのAに対する被担保債権額は1億4000万円であった)。2022年4月、Yは、甲土地につき売却許可決定を受けて、代金9800万円を納付し、甲土地の所有権者となった。そこでYは、甲土地の所有権に基づく返還請求として、Aに対して丙建物収去・甲土地明渡請求を、Cに対して丙建物退去・甲土地明渡請求をした。 Yの訴えは認められるか。 ●関連問題● Y所有の甲土地とYの子Aが所有する丙地上の乙建物とに、Bの1番共同根抵当権(α)が設定された。翌年、Aが死亡し、乙建物をYが相続したが、その後に甲土地にCの2番抵当権(β)が設定された。次の各場合において、Xは、Yに対して乙建物の収去および甲土地の明渡しを請求することができるか。 (1) 上記のような状況のまま、Cがβ抵当権を実行し、Xが甲土地を買い受けた場合 (2) α抵当権の設定契約が解除され、抹消登記がなされた後に、Cがβ抵当権を実行し、Xが甲土地を買い受けた場合 ●参考文献● 伊藤進・金法1267号(1990)6頁 松本恒雄・百選Ⅰ 184頁Aとその父Bは、親子で工務店を営んでいた。Aは、結婚を機に、Bと相談のうえ、B所有の甲土地に、下層階に工場の倉庫スペース、上層階にAの新居スペースをもつ建物を建てることにした。ほどなく甲土地上に乙建物が完成し、Aを所有者とする登記もされた。Aら夫婦の居住も始めた。その翌年、Aは、Bに、乙建物と工場の設備拡充のためX銀行から融資を受けるに当たり、その担保として、Xのために乙建物上に1番抵当権(被担保債権額3600万円)を設定した。 それから2年後、Bが交通事故で急死し、Aが甲土地を相続した。Aは、経営が悪化する一方の工場の資金繰りに窮し、新たにY銀行から融資を受けることになった。そこで、Yのため、まずは甲土地上に1番抵当権(被担保債権5000万円)、そしてその翌年には乙建物に2番抵当権(同500万円)が順次設定された。 その後、工場の経営はますます行き詰まり、ついにXの申立てにより甲土地と乙建物が競売に付された。執行裁判所は、両不動産の売却で得られた配当財産6000万円につき、甲土地価額5000万円をYに、乙建物価額1000万円をXに配当する配当案を作成した。これに対し、Xが配当異議の訴えを提起した。すなわち、甲土地には乙建物のための法定地上権が成立するため、甲土地の価額の6割に当たる3000万円は法定地上権の価額に相当するものであるとして、乙建物の全額1000万円とともに建物抵当権者に配当されるから、Xの主張は認められるか。 ●解説● 1. 法定地上権の成立要件 法定地上権の成立要件の1つに「抵当権設定時に土地と建物の所有者が同一人であること」がある(388条)。本問では、Xの1番抵当権設定時には土地と建物の所有者が異なっていたが、その後の抵当権設定までの間に同一人に帰属するに至っている。 法定地上権の効力は従たる権利である土地利用権にも見えぬため、もし本問で法定地上権の成立が認められるとすれば、XとYの土地の価額の5分の3も法定地上権の部分は建物抵当権者に配当されることになる。 (1) 設定時に同一人に帰属した場合のみの登場人物(甲と乙をA所有として) 抵当権設定時に土地と建物が同一人に帰属していた事例が多いのである(参考判例①)。 法定地上権の成立要件に、Yの抵当権設定時(なかった)のをどう評価するか。 Yの抵当権設定時(なかった)のをどう評価するか。 (2) 土地と建物が同一人に帰属した後、2番抵当権が設定された場合 土地に1番と2番の抵当権が順次設定された場合につき、判例は、法定地上権の成立を否定する(参考判例②)。法定地上権の成立を認めると、1番抵当権者が把握していた、約定担保価値が損なわれる、というのがその理由である。 (3) 土地と建物のそれぞれに2番抵当権が設定された場合 土地・建物のいずれにも抵当権が設定された後、建物が同一人に帰属し、次いで建物に抵当権が設定され、土地抵当権の実行時には法定地上権は肯定されることになる。 2. 本問についての結論 Yの抵当権の設定時に成立要件を具備していることを踏まえ、法定地上権の成立を認める見解に立つならば、X主唱の、建物の抵当権者Xに担保価値額3000万円が配当され、さらにYには、土地の価額5000万円から法定地上権の価額を引いた残額(底地価額)2000万円が配当される。他方、AB間で賃貸借契約が結ばれていたらならば、建物の抵当権者には建物価額1000万円に加えて約定利用権の価額分も配当される。前述のとおり、約定利用権は、法定地上権よりも額は概して低く、これを土地の価額の5割で計算するとすれば、本問では2500万円となる。その結果、1番抵当権者Xには3500万円が、土地の抵当権者Yには底地価額2500万円が配当される。 なお、ごくわずかな対価の支払しかされていない場合では、賃貸借と使用貸借のいずれであるのかを判断するのが非常に難しい(最判昭和43・10・27民集20巻8号1649頁、最判昭和53・7・17金法874号24頁等)。本問では、Xが抵当権の価値を認定する際には、賃借権の存在が看過されていたのであるが、実際にそれが認められるかは、AB間で賃貸借を認めるに足る対価の授受があったか否となる。本問の解答をする際には、そのことにも留意しつつ適切な形で総合分けをすることが求められる。 51 法定地上権② Aは、自己所有の甲土地上に5階建ての乙建物を建て、自身が経営する会社の事務所に使用していた。Aは、会社の経営規模を拡大させるべくB銀行から融資を受けることとし、2019年3月、Bとの間で、甲土地および乙建物につき、根抵当権を設定し、根抵当権者をBとする共同根抵当契約を締結した。ところが、乙建物は、2020年4月にこの地を襲った大地震によって倒壊、滅失した。Aは、これを機に別の場所に移して会社の新社屋を建てることにして、甲土地上には、2021年1月、比較的小さな丙建物を建築し、これをCに賃貸した。 ところが、ほどなくAの会社の経営は危機的状況に陥り、Aは弁済期日にBに対して債務を弁済することができなくなった。そこでBは、甲土地につき、上記根抵当権に基づいて裁判所に不動産競売を申し立て、裁判所は2021年12月に不動産競売開始決定をした(なお、BのAに対する被担保債権額は1億4000万円であった)。2022年4月、Yは、甲土地につき売却許可決定を受けて、代金9800万円を納付し、甲土地の所有権者となった。そこでYは、甲土地の所有権に基づく返還請求として、Aに対して丙建物収去・甲土地明渡請求を、Cに対して丙建物退去・甲土地明渡請求をした。 Yの訴えは認められるか。 ●関連問題● Y所有の甲土地とYの子Aが所有する丙地上の乙建物とに、Bの1番共同根抵当権(α)が設定された。翌年、Aが死亡し、乙建物をYが相続したが、その後に甲土地にCの2番抵当権(β)が設定された。次の各場合において、Xは、Yに対して乙建物の収去および甲土地の明渡しを請求することができるか。 (1) 上記のような状況のまま、Cがβ抵当権を実行し、Xが甲土地を買い受けた場合 (2) α抵当権の設定契約が解除され、抹消登記がなされた後に、Cがβ抵当権を実行し、Xが甲土地を買い受けた場合 ●参考文献● 伊藤進・金法1267号(1990)6頁 松本恒雄・百選Ⅰ 184頁