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弁論主義

資産家であるAはすでに妻を亡くしたが、亡妻との間にXとBの2名の子がいた。Aが死亡したため、X・Bが共同相続した。その後Bが死亡し、Bの妻Cが単独相続をした。BからCに対しては、相続を原因としてB名義の土地の所有権登記がなされていたが、これを知ったXが、当初はA個人の相続財産に含まれると主張し、Cに対して共有持分権に基づく所有権移転登記請求訴訟を提起した。Xの主張は以下のようなものであった。本件土地は生前にAがDから購入したものであるが、税金対策上DからBに対する所有権移転登記をしていたにすぎず、実質的にはAの相続財産に属する以上、Aの死亡によりXも相続による2分の1の持分を有することになった。これに対して、Cは、本件土地はDからBが直接購入して所有権を取得したのであり、Bの死亡によりCがその権利を相続したと反論した。裁判所が証拠調べを行ったところ、証人尋問の結果から、本件土地はDからAに対して売却されたところ、Aの事業を手伝っていたBに対して貸与があり、その返済があったことなどが判明した。裁判所は、かかる事実を認定した上で、Xの請求を棄却することはできるか。●参考判例●① 最判昭和25・11・10民集4巻11号551頁② 最判昭和55・2・7民集34巻2号123頁③ 最判昭和57・4・27判時1046号41頁●解説●1 弁論主義とその適用範囲弁論主義とは、訴訟である権利関係を基礎付ける事実を確定するのに必要な資料の収集を当事者の権能と責任に委ねる原則である。弁論主義は以下の3つの内容に分けられる。第1に、裁判所は、当事者が主張しない事実を判決の基礎とすることはできない(第1テーゼ)。第2に、裁判所は、当事者間に争いのない事実については判決の基礎としなければならない(第2テーゼ、自白の拘束力)。第3に、事実認定の基礎とする証拠は、当事者が申し出たものに限られる(第3テーゼ、職権証拠調べの禁止)。本問では、このうちの第1テーゼが問題となる。弁論主義の第1テーゼからさらに派生する原則として、訴訟資料と証拠資料は峻別される。訴訟資料は当事者の主張する事実であり、証拠資料とは、証拠調べの結果から得られる資料であるが、証拠資料によって訴訟資料を補うことは禁じられる。すなわち、証拠調べの結果から、ある事実を認定できる場合であっても、当該事実を当事者が主張していない以上、その事実を基礎として判決をすることは認められない。このような弁論主義が採用される事実については争いがあるものの(→問題28)、通説は、これを主要事実に適用され、間接事実や補助事実には適用されないとする。主要事実とは、権利の発生、変更、消滅という法律効果の判断に直接に直接必要な事実である。これに対して、間接事実や補助事実は、主要事実を推認する証拠力や証拠能力を明らかにする事実である。したがって、主要事実については、証拠調べの結果それが認定することが可能となり、それにより判決の基礎とすることができる。また、第1テーゼからは、主張責任という概念も導かれる。第1テーゼによると、ある事実が当事者によって主張されない限り、その事実を認定することができず、その事実に基づく法律効果の発生は認められない。ある主要事実を主張しないために判決の基礎とされない結果、その結果に基づく法律効果の発生を…〔判読不能〕…当事者は不利益を被るが、この不利益を主張責任という。その適用対象も主要事実である。主張責任は、証明責任の分配と一致し、証明責任の分配については法律要件分類説によるのが通説である。2 主要事実と間接事実の分類以上の弁論主義の適用性の有無が違ってくるために、主要事実を主要事実と間接事実を峻別する必要がある。当事者がいずれに該当するかを判断するのに有効な方法として、当該事実が訴訟から主張されると仮定したら、これが判例事実であるか否かを考える方法がある。積極否認とは相手方が主張する主要事実と両立しない事実を導入することによって、原告が主張する自働債権の売買代金…〔判読不能〕…を主張する場合、原告が売買契約の成立を立証するために代金の支払の約束を基礎付ける事実を主張すると、これが主要事実となる。これに対して、被告が代物弁済はなかったという口約束があったとすると、すなわち贈与があったとすると、これも主要事実となる。これと異なり、消極否認とは、相手方が主張する主要事実の存在を否認するにとどまる。他方で、抗弁とは、相手方が主張する主要事実と両立する新たな事実を導入するものである。抗弁における主要事実は、被告が弁済したという事実を主張する場合、代金の支払という事実と弁済とは矛盾するものではなく、被告に主張責任が転換することになる。しかしながら、当事者が積極的に消滅したという事実を新たに導入するために被告に主張責任、証明責任ともに負うことになる。要するに、抗弁事実であれば主要事実であり、積極否認事実であれば間接事実である。事である。3 所有権取得の経緯来歴と弁論主義の適用範囲上記のような分類を参考にすると、土地の所有権を主張する者はどのような事実を主張しなければならないであろうか。すなわち、所有権取得を主張する者は、どのような事実について主張責任を負うか。そもそも、ある人が土地の所有者であるかどうかを判断する場合には、その者が有効な取得などの方法で土地を原始取得した場合を除き、売買や贈与、相続などといった所有権取得に至る経緯(権原過程)を審理する必要がある。とすると、理屈の上では、ある土地について承継取得があった場合には、承継の前の所有者がであったかどうかを判断しなければならず、その判断のためには前主の前主が所有権であったかを判断しなければならず、所有権取得があった時点までさかのぼって審理することが必要となる。しかしながら、これはナンセンスであるので、実際には、ある者が過去の特定時点で所有者であったという点につき、両当事者で合意が得られた場合には、それを前提に、その者以降の所有権の移転経緯を審理することになる(厳密には権利自白の成否が問題となる点については→問題28)。一般には、甲が所有権を有する土地につき乙が承継取得した場合、乙が自己の所有権を基礎付けるために主張しなければならないことは、①甲が所有権を有していたことから、②甲が所有権を承継取得した事実を主張することになる。甲が所有権の承継の基礎付ける事実、例えば売買契約の有効な存在を主張しなければならない。これらに対して、相手方が、当事者が主張しない理論構成をしてみたとてこの所有権を認めることはできない。理論的には、①と②のみが甲の所有権であることの確定されるわけではない。というのも、②の承継があった後に消滅時効など甲の権利が消滅することもあるし、甲が丙に土地を譲渡することもあり得るからである。したがって、甲で権利が消滅したとの事情が一切存在しないことが明らかになって、はじめて乙が所有権を得たといえるはずである。しかしながら、このような事実の不存在を主要事実として乙に主張責任を負わせるのは、不可能を強いることであり当事者間の公平に反する。むしろ、このような甲の所有権喪失を基礎付ける事実は乙が証明責任を負う①の事実として甲が所有権を有していたことを前提に、抗弁事ということができる。そうであれば、どの権利取得を争う者(例えば丙)が主張責任・証明責任を負うことになり、かつ主要事実となる。したがって、このような事実が証拠調べの結果明らかになったとしても、当事者が主張しない限り、判決の基礎とすることは弁論主義に反する。他方で、甲がそもそも所有権を取得しなかったとか、甲から乙への承継の事実がなかったという事実については、乙が証明責任を負う①の事実と両立しない事実であるので、積極否行の対象となり、間接事実になる。このような事実については、当事者が主張していなくても、証拠調べの結果などから明らかになれば判決の基礎とすることができる。4 本問の場合本問のような経緯の場合には、どうであろうか。参考判例②は、「相続による財産権の取得を主張する者は、(1)被相続人の右財産権が奪われていたときに死亡したこと、(2)自己が被相続人の死亡により同人の相続をした事実の二を主張すれば足り、(3)右財産権が作成される以上、その相続人たる死亡によって同人に右財産権の帰属した原因となるような事実はないかったこと、及び被相続人の死亡の処分の行為により右財産の相続財産から逸失した事実もなかったことをも主張立証する責任はなく、いずれも相手方たるべきものがこれを相続人による財産取得を覆すものとしてこれを主張立証するべきものである」とする。これを応用してみてみると、Xが所有権取得経緯は、①Dから被相続人であるAに売買され、②相続によってXがDからAに土地の持分が移転したものである。これに対して、Cからは土地を買い受けたYのBであり、そのBからCが相続したという主張になる。このような事実については、被相続人であるAが所有権を取得したという事実と両立しない。名義は考慮されない。これに対して、Aが所有権を取得したことを認めつつ、AからBに売買により所有権が移転した、すなわち投機的な処分行為により本件土地が相続財産から逸失したという事実を主張する場合には、これは「被相続人の特段の処分行為により右財産が相続財産の範囲から逸出した事実」として抗弁事項となり、主要事実に該当する。したがって、CがAからBへの所有権移転の事実を抗弁として主張していない以上、裁判所が証拠調べの結果そのような事実を認めたとしても、これを判決の基礎とすることは弁論主義に違反して認められない。●参考文献●重点講義(上) 434頁以下 / 山本克己『弁論主義違反』法教289号(2004)112頁 / 下村眞美・百選90頁(杉山悦子)