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名誉毀損・プライバシー侵害

Xは、市の福祉事務所に勤務する地方公務員である。Yは、インターネット上の公開の記録サイトに「Y市福祉事務所職員を装う腐りきったXを許すな」と題する投稿を行った。2023年12月ごろ、生活保護の相談のために福祉事務所を訪れたことのある20代の男性が孤独死する事件が発生した。Yはかねがね生活保護行政のあり方に疑問を抱いていた。Xは、独自の調査を行い、①B相談員を担当していたXに「生活保護受給を断られたため自殺した」として、②Xを「福祉事務所所属」として「当人の責任を忘れ他人に責任転嫁な公務員」と表現して批判したうえで、③Xの氏名、住所および電話番号を記載した記事(以下、「本件記事」という)を前記サイトに投稿して公開した。生活費に困らない程度の収入もあったが、公的扶助の支給要件改善制度を創設し、福祉事務所として相談を絶たなかった。Xは、Yに対し、この記事の削除と慰謝料の支払いを求めて訴えを提起した。[参考判例]① 最判昭和41・6・23民集20巻5号1118頁② 最判平成15・3・14民集57巻3号229頁③ 最判平成15・9・12民集57巻8号973頁[解説]1. 名誉毀損(1) 名誉名誉とは、「人がその品性、徳行、名声、信用その他の人格的価値について社会から受ける客観的な評価」(社会的評価)をいう。名誉毀損とは、この社会的評価を低下させる行為である。民法723条の文言と異なり、名誉感情の侵害を問題とするものではない。また、名誉毀損が成立するには、具体的な事実を摘示するほうが、意見や論評を表明する場合よりも、社会的評価を低下させる蓋然性が高い。(2) 事実の摘示による名誉毀損本件記事は、Xの社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断される(大判大正3・10・12民録22輯1879頁参照(原審))。特定の人物に対する行為であっても、不特定または多数人に伝播する可能性があれば、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断される。また、Xに興味本位の記事内容を掲載することは、名誉毀損が成立し得る(最判平成9・5・27民集51巻5号2000頁、最判平成24・3・23判時2147号61頁)。(3) 意見・論評による名誉毀損本件記事は、「証拠等をもってその存在を証明することが可能な他人の特定の事項」を前提に、その内容が人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱したものである場合でなければ、名誉毀損は成立しない(最判平成9・9・9民集51巻8号3804頁)。事実の摘示による名誉毀損については、表現の自由との調整を図るため、刑法230条の2の公共の利害に関する場合の特例と同じ趣旨の免責要件が認められている(参考判例①、最判平成58・10・20判時1112号4号)。すなわち、①もっぱら公益を図る目的に出た場合には、「公共性」、②摘示された事実がその重要な部分について真実であることが証明されれば「真実性」、③摘示された事実がその重要な部分について真実である、と信じるについて相当の理由があるとき「相当性」のいずれかを満たせば、不法行為は成立しない。その事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があるときは(相当性)、故意・過失が阻却されるため、不法行為は成立しない(最判昭54・4・18刑集33巻3号94頁(刑事事件))。公務員の犯罪や公務員に関する事実は原則として公共性を有する(同28条2項・3項参照)。③公益目的性については、「もっぱら」という文言は厳格に解されておらず、主たる動機が公益目的であればよい(最判昭24・8・18刑集未登)。なお、②真実性の判断は、摘示された事実が事後的に真実であるかどうかで判断される。ある行為が、行為時には存在しなかった情報をもとに判断されるため、③相当性の判断は、行為時における行為者の認識内容が問題になるため、行為時には存在した証拠に基づいて判断される(最判平14・1・29判時1778号90頁)。本件記事のうち、Yが相談を拒絶したために生活困窮を余儀なくされたと解したとしても、Yがその事実を真実と信じるについて相当の理由があったと解することが可能であり、事実の摘示に当たる。(3)意見ないし論評による名誉毀損 意見ないし論評による名誉毀損については、①前提としている事実が重要な部分において真実であることの証明があるか、②意見ないし論評が人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱したものでないこと、の2つの要件を満たす場合には、違法性が阻却される(最判平9・9・9民集51巻8号3804頁)。本件記事のXに対する意見・論評は、①公共性、②公益目的性について真実であることを前提に、②その事実の重要な部分について真実であるとの証明があり、または③その重要な部分について真実であると信じるについて相当の理由があるときには、④人身攻撃などに及ばない限り、意見ないし論評としての域を逸脱したものでもない。ただし、②と④が区別できない場合もある。(4) 救済方法名誉毀損の不法行為が成立すれば、被害者は、加害者に対して、損害賠償を請求することができるほか(709条・710条)、名誉を回復するのに適当な処分(名誉回復処分)を請求することができる(723条)。謝罪広告は、訂正広告又は広告記事掲載の実施を実質上の強制として、その強制執行は許されない(最判昭31・7・4民集10巻7号785頁)。名誉回復処分請求権は、一身専属権とは解されておらず、相続の対象となる。また、名誉毀損の被害者は、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、または将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる。ただし、出版物の頒布等の表現行為の事前差止めを求める場合には、①その表現内容が真実でなく、または②それがもっぱら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、③被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときに限って例外的に許される(最判昭61・6・11民集40巻4号872頁)。2. プライバシー侵害(1) プライバシーの権利プライバシーの権利とは、私生活上の事柄をみだりに公開されないという法的な保障ないし権利である。公開された内容が真実であってもプライバシー侵害は成立し得る。プライバシー侵害の要件は、①私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること(私事性)、②一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄であること、③一般の人々に未だ知られていない事柄であること(非公知性)である(最判平6・2・8判時1517号67頁)。この要件を満たす場合は、原則としてプライバシー侵害となる。プライバシー侵害が成立しないためには、公開されることによって得られる利益と、プライバシーを侵害されることによって失われる利益とを比較衡量して、前者が後者を上回る必要がある。本件記事に記載されたXの氏名、住所、電話番号は、いずれもプライバシー情報に該当する。(2) プライバシーと表現の自由前科に関わる事実は、これを公開されない利益が優越する。前科を有する者は、社会復帰を阻害されないという利益を有するからである(参考判例②)。プライバシー情報に当たるのは、①その事実を公表されないことによる利益と、②これを公表することによって得られる利益とを比較衡量し、①が②に優越する場合である。本件記事は、Xが相談を拒絶したとの摘示が真実でないとすれば、公共の利害に関する事実とはいえない。Xの氏名、住所、電話番号を公開することは、Xに対する人身攻撃などの目的である。(3) インターネット上のプライバシー侵害個人のプライバシーに属する情報を違法に侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害を排除し、または将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる(最判平6・2・8判時未登載)。プライバシーに属する情報を違法に公表する事業を営む者に対しても、プライバシーに属する情報を違法に公表された者は、人格権に基づき、その記事等の削除を求めることができる。(4) プロバイダ責任プロバイダ責任制限法は、プロバイダ等の損害賠償責任の制限および発信者情報の開示を請求する権利を定めている。インターネット上の人権侵害に対しては、プロバイダ(サーバーの管理者)に人権侵害情報の削除を請求することもできる。3者間の利益を考慮した上で、比較衡量により、権利侵害の明白性が肯定される場合に、差止めが認められる。また、プロバイダに対する発信者情報開示請求も認められる。50 未成年者と監督義務者の責任Yの未成年の子であるAは、ある平日の夕方、通っている学校の友人Xと共通の友人Cの3名で集まり、学校の近くにあるY所有の遊休地で野球をすることになった。ジャンケンで決め、Aは最初、捕手、Cは投手として野球を始めたが、暴投したCのボールがAの眼鏡に当たり、眼鏡が大きく歪んでしまった。数分後、Aは歪んだ眼鏡を掛けたまま、Cと交代して投手になった。Aは、Cに対して、「さっきはよくもやってくれたな。今度はこっちの番だ」などと叫び、興奮した様子で、硬球をCの顔面に向けて投げつけた。Cは、これを避けようとして身をかわしたが、Aの投げた球はCの背後にいたXの右目に当たり、Xは失明した。Xと両親は、Yに対し、Aの不法行為により生じた損害の賠償を求めて訴えを提起した。[参考判例]① 最判平成27・4・9民集69巻3号455頁② 最判昭49・3・22民集28巻2号347頁③ 最判平成18・2・24判時1927号63頁