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無権代理と相続

A (57歳) は甲土地を所有しており、登記上、その所有名義人となっていた。Aの配偶者はすでに死亡しており、子としては、その配偶者との間に配偶者が死亡しており、子としては、その配偶者との間にもうけたB (28歳)、C (25歳) の2人がいる。Bは1人暮らしをしている。CはAと同居し、A宅から勤務先に通っている。Cには配偶者はなく、子や孫もいない。2024年12月1日に、Cは、Xとの間で、甲土地をXが購入し、代金1000万円の支払と引換えに2025年4月1日に所有権移転登記をする旨の契約を結んだ。この売買契約の際に、Cは、甲土地を売却する権限をAがCに与える旨が記載された委任状、甲土地の登記識別情報通知の紙、Aの実印および印鑑登録証書をAに示し、Aの代理人としてのふりをした。しかし、上記のうち、委任状はAに無断でCが作成したものであり、また登記識別情報通知の紙および実印は、A宅の金庫に保管されていたものをCがAに無断で持ち出したものであり、印鑑登録証明書も、A宅のタンスに保管されていたAの印鑑登録カードを用いて、Cが市役所でAに無断で交付を受けたものであった。なお、AがCに代理権を与えたことは一度もない。(1) 2024年12月10日にCは交通事故に遭い、同月15日に無遺言で死亡した。AはCの死を看取った。現在 (2025年4月10日とする) に至るまで、Cの相続については、相続放棄も限定承認もしていない。Xは、2025年4月1日に、Aに対して、代金1000万円を提供して、甲土地の所有権移転登記をするよう裁判外で申し入れた。Aはこの間に初めて、上記売買の事実を知ったところ、Xの上記申入れを拒絶した。XがAに対して甲土地の所有権移転登記手続を請求した場合に、請求は認められるか。(2) 小問(1)の設定を変えて、2024年12月10日にCは交通事故に遭ったのはAであったとする。すなわち、Aは同月15日に無遺言で死亡し、BとCはAの死を看取った。Aは、死亡するまで上記売買の事実を知ることはなかった。現在 (2025年4月10日とする) に至るまで、Aの相続について、BとCのいずれも、相続放棄も限定承認もしていない。B・C間での遺産分割協議の結果、甲土地はBが取得する旨合意され、2025年3月25日に甲土地につきBへの所有権移転登記がされた。Xは同年4月1日に、Bに対して、代金1000万円を提供して、甲土地の所有権移転登記をするよう裁判外で申し入れた。BはCの時に初めて、上記売買の事実を知ったところ、Xの上記申入れを拒絶した。XがBに対して甲土地の所有権移転登記手続を請求した場合に、請求は認められるか。参考判例① 最判昭和37・4・20民集16巻4号955頁② 最判昭和48・7・3民集27巻7号751頁③ 最判昭和49・9・4民集28巻6号1169頁④ 最判昭和40・6・18民集19巻4号986頁⑤ 最判平成5・1・21民集47巻1号265頁解説相続関係の確認小問(1)では、Cには配偶者はおらず、子や孫もいないため、Cの相続人となるのは親Aだけであり、AはCの相続人となる(889条1項)。また、小問(2)では、Aの相続人となるのは、子BおよびCであり(887条1項)、法定相続分は各2分の1である(900条4号)。小問(1) (2)のいずれにおいても、いわゆる熟慮期間(915条1項)は、被相続人の死亡の事実およびそれにより自分が相続人となることを知った2024年12月15日から起算され、その時から3か月以内に、相続放棄も限定承認もされていないので、相続人は単純承認したものとみなされる(921条2号)。単純承認により、被相続人が負っていた権利義務をそのまま承継する(896条・920条)。小問(1)について(1) 売買契約に基づく請求Cは、Aの代理人であることを示して(顕名、99条)、Xと売買契約を締結したが、Cは本人Aから事前に「権限」(99条、代理権のこと)を与えられていなかった。このとき、Cが結んだ売買契約は無権代理行為であり、その効力は、原則として本人Aには及ばない(113条1項)。しかし、本人AがCの無権代理行為を追認すれば、売買契約の効力が本人Aに及ぶため(113条1項)、Xは売買契約の履行を請求として、甲土地の所有権移転登記手続をAに請求することができる。もっとも、小問(1)では、Xの裁判外での甲土地を拒絶している。Cの行為は、Cの無権代理行為につきAが追認を拒絶した行為として解釈される。追認がなくとも、表見代理が成立すれば、本人は、無権代理人がした行為について「責任を負う」(109条1項などの表現)、つまりCに代理権があったのと同じように扱われるため、Xは、甲土地の所有権移転登記手続をAに請求することができる。もっとも、本問では、本人がAに代理権を与えた旨を表示した行為をまったくしていないから、民法109条の表見代理は成り立たない。また、AがCに代理権を与えたことは一度もないというのであるから、民法110条の表見代理も112条の表見代理も成り立たない。よって、本問では、表見代理はおよびそうにない。関連して、次のような主張が考えられる。すなわち、無権代理人の地位と本人がAにおいて融合したことをもって、本人Aにおいて融合したこととみると、売買契約の効力は当然にAに及ぶことになると。(融合ないし資格融合説と呼ばれる)。Aが単純承認をすれば、本人Aが単純承認をしたという事例(無権代理人相続型)に関する最高裁判例で採用された。しかし、小問(1)は、本人が無権代理人を相続したという事例(本人相続型、相続はこれに当たる)において、無権代理人が勝手にした行為が本人に当然に帰属するという姿でない結果を招来し(判例は、3(1)で述べるように、無権代理人が無権代理人でない者と共同で本人を相続するという事例(無権代理人の共同相続、本問はこれにあたる。)において、そのような適用を否定しない趣旨と解されるものが多く、この適用を限定して無権代理人が相続しても、本人Aの資格において追認拒絶しても、本人として無権代理行為の追認拒絶ができる配慮的である(資格併存説)。そして、資格併存説によれば、小問(1)では、無権代理行為をしたつき、AがDのとおりに本人Aの資格において追認拒絶している。Aのこの追認拒絶は有効となり、何の信義則にも反しないと解される(参考判例①)、すると、⑥の主張は成り立たないことになる。(2) 民法117条に基づく請求もし、小問(1)で民法117条の責任の成立要件が満たされるのであれば、Xは、同条に基づき無権代理人Cが負うべき責任を、それを相続によって承継したAに対して追及することができる(参考判例②)。そして、Xは、(1)の請求ができない場合でも、同条の責任を追及して銀行のほうを尽くせば、Aは甲土地の所有権の移転を請求(560条)を選択すれば、Xは甲土地の所有権の移転を請求することができる。しかし、仮に小問(3)で民法117条の責任の成立要件が満たされているとしても、本人はAに代わらずに、②において甲土地の自分はどうにか自由履行をAに返還することができる。しかし、その履行責任を負うのは、Cの相続について単独相続しているはずだから、Cが負うべき責任をそのまま承継したにすぎず、したがって、CがAとの間で選択した場合は履行義務を負われることになるが、ほとんどすべきではない。という考え方もある。成り立ち得ない場合には、ほとんどすべきではない。(1)で追認を拒絶する自由をAに与えた趣旨からすると、(2)において、仮に同条の責任の成立要件が満たされていたとしても、XはAに損害賠償責任を追及できるにとどまり、履行責任のほうは追及できないと考えている(このことの論拠として、他人の物を売却する契約をした売主が、PがQを相続した、という本人相続型とよく似た事例において、原則としてPはQからの履行請求を拒絶できるとした参考判例⑤が、しばしば援用される)。後者の見解にたつと、仮に民法117条の責任の成立要件が満たされていたとしても、Aは、甲土地の所有権移転登記をXに履行させる義務を負うことはないため、XのAに対する請求は認められない。(3) 補足小問(1)の解答は必要ないが、2点補足しておく。第1に、民法117条の責任が成立するためには、売買契約の当時に、Cに代理権がないことについてXが知らなかったことが必要である(117条2項1号。なお、同項ただし書の場合には、小問(1)では、Cは自己に代理権がないことを知りつつDの行為をしたので、相手方Xが、Cに代理権がないことにつき善意であれば、同条の責任は成立する)。第2に、小問(1)で、甲土地ではなく金銭を請求したいだけであれば、民法117条の責任が成立しない場合であっても、Xは、代理権がないことを知りつつ代理人としてふるまったCが負うべき不法行為責任(709条)を、Cの包括承継によって相続したAに追及することが可能である。もっとも、民法117条の責任の場合には、履行利益の賠償の請求が認められるのに対して、不法行為責任の場合には、履行利益の賠償は請求できないことになろう。また、不法行為責任の場合には、一般論としては、賠償額の算定にあたり、被害者であるXの過失が考慮される(722条2項)。もっとも、小問(1)においては、Cは故意の不法行為を犯しているので、過失相殺の主張は認めがたいと考えられる。小問(2)について(1) 売買契約に基づく請求(2)でみたように、本問では、Cは無権代理人であり、Cが結んできた売買契約の効果は原則として本人Aに及ばない。しかし、仮に追認があって売買契約の効果が例外的に本人に及ぶこと(113条1項)、本人はA、甲土地の所有権の登記をXに備えさせる義務(560条)を、売買契約の当事者でもないBに負っている(116条本文)。Aの遺産は相続分に応じてBとCが共有するが、この遺産は相続分に応じてBとCがAを相続すること、XはBとCのいずれに対しても、登記の全部の履行を請求することができる(428条・436条)。なお、この結論は、被相続人が成立した代理権があったのと同じように、本問では無権代理行為であっても、BとCはいわば過失によってその行為を追認したことに帰し、これは2(1)で述べたように、本問では無権代理行為の効果は相続分はないので、これ以上は述べないことにし、追認を巡る状況に。小問(2)で、Aは無権代理行為をしたことを知らないうちに、したがってそれにについて追認するか追認拒絶するかを選択すべき地位にあることを意識しないうちに、死亡した。Aの権利義務を包括的に承継したBの相続人が、Aに代わって、追認するか追認拒絶するかを決めるべき地位にたつ。仮に小問(2)で、Aの相続人が、無権代理行為をした本人であるだけであったとしたら、この場合、結論として、売買契約の効果はBに及ぶので、遺産分割は認められない。しかし、2(1)で論じたように、共同相続の場合に立つ場合とで、その結論の法的構成が異なる。すなわち、Cは、本人として無権代理行為につきBが追認を拒絶した行為として行動したのであるから、BとCの共同相続により、相続人Aから承継した地位は一体としてBとCに帰属する。当事者の地位はCにおいて融合しており、その間の法律関係は相続により、当然に売買契約の効果はAに及ぶので、Aの相続分に応じて、Cの相続分はA=Cにおいて、このような説明をしている。しかし、参考判例によれば、無権代理行為との関係で、相続によりAから承継した本人としての地位は、Cにおいて併存し、小問(1)と同様に、Cは追認拒絶することも妨げられないはずである。しかし、無権代理行為をした当人であるCが本人としての地位で追認を拒絶することは、信義則に許されるべきでない。したがって、Cは追認したものと同視することができ、そうすると売買契約の効果は本人Aに、ひいてはAを相続したCに、及ぶこととなる。以上は、無権代理人が単独相続についての議論であるが、では、無権代理人が共同相続についてはどうか。資格融合説によるとどのような帰結になるのかは、はっきりしない。これに対して、資格併存説からは、次のように説明される。すなわち、追認するか追認拒絶するかを決めるべき本人Aの地位は、共同相続により、不可分的にBおよびCに承継される。そして、無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係で有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、BとCが共同して追認しない限り、その法律行為の効果が本人Aに及ぶことはない(参考判例③)。したがって、一方で、Bが追認拒絶すれば、BとCの全体として追認拒絶したことになる。他方で、Bが追認している場合にそれににもかかわらず無権代理行為をした当人であるCだけが追認を拒絶することは、信義則に反し許されず(参考判例③の結論)、したがって、Bの追認さえ得られれば、BとCの全体として追認したのと同じことになる。以上によれば、小問(2)で、追認があったことを理由として、甲土地の所有権移転登記手続をBに請求できるためには、BがCの無権代理行為を追認する必要がある。しかし、小問(2)では、BはXの裁判外での申入れを拒絶しており、この行為は、Cの無権代理行為につきBが追認を拒絶した行為として解釈されるので、結局、Xの請求は認められないことになる。(2) 民法117条に基づく請求(1)でみたように、BがCの無権代理行為について追認拒絶すると、BとCの全体として追認を拒絶したことになる。この場合、Xは、(2)と同様にして、民法117条の責任を追及し、その際に履行のほうを選択することによって、甲土地の所有権移転登記手続を請求することが考えられる。しかし、小問(2)で、仮に民法117条の責任が成立するとしても(2(3)の第1も参照)、その責任を負うのは無権代理人Cであって、Bではないため、Bに対する移転登記手続の請求の根拠にはならない。なお、仮にCに対して民法117条に基づき履行責任を追及したとしても、甲土地は現在、B・C間の遺産分割協議によってBに分割され、Bへの所有権移転登記がなされている。そのため、CがXへの履行義務を果たすためには、その前提として、甲土地をBから調達する必要がある。それができない場合には、履行は社会観念上、不能である(412条の2)。そのため、Xとしてはせいぜい、Cから損害賠償を得ることで満足するしかないことになる。関連問題小問2の第2段落を次のように改めたとするとどうなるか。Bは2025年2月1日にXからの電話で上記売買の事実を知ったが、上記売買について追認を拒絶する旨ただちにXに伝えた。その後、B・C間での遺産分割協議の結果、甲土地はCが取得する旨が合意され、同年3月25日に甲土地につきCへの所有権移転登記がされた。Xは同年4月1日に、Cに対して、代金1000万円を提供して、甲土地の所有権の移転登記手続をするよう裁判外で申し入れたが、Cは上記申入れを拒絶した。XがCに対して甲土地の所有権移転登記手続を請求し上訴した場合に、請求は認められるか。参考文献前田陽一・百選Ⅰ 72頁 / 後藤巻則・百選Ⅰ 74頁 / 民法(債権法)改正検討委員会編『詳解 債権法改正の基本方針Ⅰ』291頁・312頁(金子敬明)