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公序良俗と不法原因給付

Xは、自分の所有する土地甲(時価9000万円)を担保に、消費者金融業者(株式会社)Yから毎月240万円、毎月16万円を返済していたほか、消費者金融から300万円を借り入れ、毎月20万円を返済していた。2021年1月20日に、Xは、金融業者Yの融資案内をみてYを訪れ、借換えによる債務負担の軽減について相談した。Yは、甲の資産価値に着目をつけて、3000万円をXに融資し、その担保として甲に極度額6000万円の根抵当権の設定を受けることを提案した。その際、利率は年5パーセント、遅延損害金は年40パーセントとし、同年7月20日に一括返済することが約定された。Xは、半年以内に低利のローンに借換えができるとYが説明したことによるが、実際はそのような可能性はなく、YはXを返済不能に追い込み、違約損害金とあわせて根抵当権額(あらましは甲の価値全額)を取得するつもりだった。その後、融資の実行日に当たる2021年1月25日には、共謀していたZに、Xに対する貸金債権を根抵当権とともに譲り渡した。そして、その後、Yは、Xの貸付金口座に3000万円を調達するためZから同額を借り入れるとし、その担保として根抵当権を譲渡するする必要があると説明し、Xとの間で話がまとまり、2021年7月20日を過ぎても、ZがXに対し、3000万円とその利息および遅延損害金を返済しない限り、根抵当権に基づいて甲の根抵当権を実行するといってきた。そこで、(1)Xは、Yとの消費貸借契約は無効であるとして、債務不存在の確認と甲の根抵当権の登記の抹消を求めることにした。それに対しYは、Xの主張を争うとともに、(2)仮に消費貸借契約が無効であるとしたときには、Xに対し、3000万円とその法定利率相当額の返還を求めることとした。認められるか。[参考判例]① 東京高判平成14・10・3判時1804号41頁② 最判昭和30・10・7民集11巻11号1618頁③ 最判平成26・10・28民集68巻8号1325頁[解説]1 公序良俗(1) 問題の所在本問では、X・Y間で、元本3000万円、利率年5パーセント、遅延損害金年40パーセントで2年満期を年とすると消費貸借契約が締結され、その担保として甲について極度額を6000万円とする根抵当権設定契約が締結されている。X・Y間の消費貸借契約が有効であれば、XはYに対し貸金返還債務を負うが、X・Y間の消費貸借契約が無効とされれば、XはYに対して貸金返還債務を負わず、さらに、根抵当権設定契約にも無効が認められればもちろん、そうでなくても付従性の原則により――甲に設定された根抵当権も無効となる。(1)Xの債務不存在の確認と甲の根抵当権の抹消請求は、このようにして基礎づけられる。問題は、X・Y間の消費貸借契約(および根抵当権設定契約)が無効といえるかどうかである。本問では、詐欺取消が認められる可能性もあるが、次の(2)の問題が控えていることを前提とすれば、民法90条の公序良俗違反による無効が認められるかどうかが問題となる。(2) 伝統的な見解と暴利行為の理論公序良俗について、伝統的な見解は、公序良俗の秩序を主題とし、具体的には国家・社会の秩序を主題とするという者とがある。むしろ両者を行為の社会的妥当性を指すものとして一括したうえで、裁判例が何を問題とするかをみてきた。たとえば、人倫に反するもの、正義の観念に反するもの、個人の自由を極度に制限するもの、営業の自由の制限、生存の基盤たる財産の処分、著しく射倖的なものという類型化にその代表例がいる。このうち、本問で問題となるのは、暴利行為である。「個人の財産・経済・無経験に乗じて、著しく過当な利益の獲得を目的とする法律行為は、無効とする」という準則が判例上確立している(大判昭和9・5・1民集13巻875頁)。これは、Ⓐ個人の窮迫・軽率・無経験に乗じたという主観的要素と、Ⓑ著しく過当な利益の獲得を目的とする法律行為がなされたことという客観的要素からなる。本問の消費貸借契約は、利率が年利5パーセントであり、いわゆる高利契約には当たらない。また、遅延損害金は年40パーセントであり、利息制限法の制限(年2割)を超えるとしても、同法7条により、その超過部分についての無効とされるにとどまる。そのため、これだけをみる限り、Ⓑ著しく過当な利益の獲得を目的とした法律行為とはいえない。しかし、本問では、Xの窮状と相談に応じて3000万円をXに融資するだけであるにもかかわらず、甲に極度額6000万円の根抵当権が設定されている。これは、不必要かつ過大な担保といわざるを得ない。しかも、半年以内に長期低利のローンに借換えができるという架空の話をして、半年後に融資額を一括返済することが約定されている。これは、Xを返済不能に追い込み、遅延損害金とあわせて最終的に極度額相当額(あらましは甲の価値全額)を取得することをもくろったものである。Yが、共謀していたZに、Xに対する貸付債権を根抵当権とともに根抵当権の実行により、形式上第三者に当たるZに権利を帰属させることで、Xからの苦情の申入れや抗弁を封ずることが意図されたものと推測される。したがって、本問では、全体としてみれば、ⒶXの思慮や法的な知識の不足に乗じて、Ⓑ極度額に相当する6000万円ないしこれ以上の利益の獲得を目的とする法律行為がなされたとみることができる。これによると、XY間で締結された消費貸借契約と甲についての根抵当権設定契約は、公序良俗に反し無効ということになる。(3) 最近の見解・保護的公序最近の学説では、公序良俗違反の類型について見直しが進められ、客観的な秩序の違反に尽きない権利や自由の侵害に当たるものが存在することが指摘されている。そうした権利や自由の侵害を保護するために、民法90条が用いられる。そのため、この場合の公序良俗は、「保護的公序」と呼ばれ、当事者を相対的に保護――保護されるべき者の権利や自由の侵害を受けた側の無効を主張することを認める――とされる。本問で問題となっているのは、Xの財産権の侵害を目的とした行為であり、この意味で民法90条の保護的公序の典型に当たる。したがって、Xは、消費貸借契約と甲の根抵当権設定契約の無効を主張できることとなる。2 不法原因給付(1) 問題の所在不法原因給付、法律行為が無効である場合の帰結として「無駄な回復」の回避を図るための制度で、民法708条(不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受領者についてのみ存したときは、この限りでない)が規定されている。この場合には、不法原因給付は、法律行為が無効である場合の原状回復義務(121条の2第1項)、法律行為が無効である以上の不法性の程度の高い場合にのみ、この給付の返還請求を認めない。不法原因給付が認められると、その給付については不当利得の返還請求もできなくなる。これによると、以上のように、XY間の消費貸借契約が公序良俗に反し無効であるとするならば――もしXがこの無効を主張するとするときには――、(2)YはXに対し、原状回復として、交付した3000万円とその法定利率相当額の返還を請求することができるはずである。このように、民法121条の2第1項により認められる原状回復は、不当利得の返還請求であることから、この場合にも、不当利得に関する規定として、民法708条が適用される。したがって、この場合のYからXへの「給付」が、民法708条の「不法な原因のためにした給付」に当たるとすれば、Yの返還請求は認められなくなる。問題は、この場合のYからXへの「給付」とは何であり、それが「不法な原因」のためにされたといえるかどうかである。(2) 不法な原因まず、不法原因給付の制度と「不法な原因」の意味を後述しておこう。民法708条が、不法な原因のために給付をした者はその給付したものの返還を請求することができないとするのは、「不法を助長した者は法的救済を求めることができない」という考え方に基づく。自ら不法なことをしたことを理由として法的救済を求めることそのものは、法の自己否定であり、認めることはできないと考えるわけである。もっとも、「不法な原因」により給付が行われた場合に、給付者の返還請求を否定すれば、不法な結果が存続することになる。そのため、支配的な見解は、「不法な原因」を限定して理解する。具体的には、ここでいう「不法」は、倫理的非難性の強い公序良俗違反の一類型――判例によると、「その社会において許される限度を超える」場合(最判昭和37・3・8民集16巻3号500頁)――に限るべきであるとされている(倫理的非難説)。これは、本来なら不当利得返還を求持すべき者から救済の可能性を奪うためには、その者に強い非難に値するような特別な可能性があるという考え方から基礎づけられる。本問に関していえば、Yのした行為は、実質的にはXの財産を収奪することを目的とした行為であり、「その社会において要求される倫理、道徳を無視した無慈悲なものである」ということができるだろう。これに対して、最近では、「不法な原因」が何であるかは、法律行為を無効とする根拠(無効根拠)の目的によって決められるべきものであるとする考え方が主張されている(規範目的説)。法律行為を無効とするだけでなく、不当利得返還請求まで否定すべきかどうかの判断は、無効の目的に沿って決まるべきである。この場合に、不当利得返還請求まで否定すれば、権利者は自己の財産を失うことになるため、そうしなければ無効規範の目的を実現することができない場合に限るべきであるとするわけである。これによると、何が無効規範の目的であり、そこからどこまでのことが要請されるかが決め手となる。(3) 給付の意味次の問題は、そこで何が「給付」に当たり、その返還請求が否定されることになるかである。本問では、消費貸借契約のような双務契約が無効とされる場合に、何が「給付」に当たるかが問題となる。同じく賃貸借契約のうち、賃貸借契約の場合は、賃貸人から賃借人に対してなされる「給付」は、賃借物を使用収益させることである(これが「不法な原因」によるものであったときには、その「給付したもの」のまま一定の期間賃借物を使用収益させたことを金銭に換算した価額(賃料相当額)の返還請求が否定されることになる)。それに対して、賃借物そのものは、「給付したもの」に当たらない。賃貸借契約によって、賃借人が賃貸借物の所有権を譲渡するというものではないからである。したがって、賃貸借契約が締結される場合には、それが「不法の原因」によるものであったとしても、賃借物そのものの返還請求は妨げられない。消費貸借契約についても、同じように考えるならば、「給付したもの」とは、一定の期間元本を利用できたことである。本問でいえば、実質の実質では2021年1月25日から実際に返還するまでの間元本3000万円を利用できたことであり、法定利率5パーセント(404条2項)で計算したその利息相当額がこれに当たる。それに対して、元本そのものは、「給付したもの」に当たるはずはない。そうすると、たとえ、「不法な原因」に当たるとされる場合でも、元本の返還請求は妨げられないこととなる。ここで、仮に元本の返還請求まで否定すべき場合があるとすれば、それはやはり無効規範の目的によると考えられる。たとえば、高利貸契約の一生に1回も関係したAが儲けを利用して生活費を遊興費に充て、Bが700万円、Bが500万円の借り受け、代わりBがCのもとで遊興費として働き、その際の半額の返済にTがBのもとで遊興費として働く場合――その際に、Tが消費貸借契約を無効とし、その返還請求まで否定しなければ、その利益を保護しようとした元利の充当目的を達成することができない場合には、民法708条の趣旨により、元本の返還請求も否定されることが要請される(参考判例②参照)。しかし、本問の場合、甲に設定された根抵当権は無効とされれば、Xの財産が保全される。それとは別に、元本の返還請求まで否定しなければ、Xの保護が不十分というわけではない。それにもかかわらず、元本の返還請求まで否定することを正当化しようとすれば、たとえば、このように他人の権利を侵害しようとした者から元本をいわば没収することにより、同種の行為を抑止するとともに規範の目的に含めることが考えられる。問題は、民法90条および民法708条にそのような目的を認めることが適当かどうかである。関連問題A会社は、無尽蔵講に該当する事業を開始し、新規の会員から集めた資金を先に会員となった者への配当金の支払に充てていた。これに、Yは、A会社に800万円を出資金として支払いをしたが、社長が3000万円の不正な支払を受けたが、その後、A会社の事業が破綻し、破産するに至ったため、約4000名の会員は、出資金を支払ったものの、配当金を受け取ることができなかった。そこで、Yは、A会社の破産管財人Xは、破産手続の中で役員をA会社の管理をすることを目的として、Yに対し、配当金と出資金の差額2200万円の返還を求めた。認められるか。参考文献難波譲治・リーマークス29号(2004)10頁(参考判例①の判例)/ 川角由和・リーマークス28号(2004)10頁 / 稲垣孝・ジュリ1494号(2016)78頁(参考判例①の解説)/ 大杉・平成26年度重判79頁(参考判例③の判例)(山本敬三)