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他人物売買

Xは、4月15日に、Yとの間で、当時Aの所有であった土地(以下、「本件土地」という)を、代金2000万円で買い受ける旨の契約を締結し、即日内金として500万円を支払った。当時、YはAから本件土地を賃借中であったが、Aが相続税の原資から本件土地を売るべく一部の所有地を売却し、買替人らに譲渡したため、Yにも買替人として当然本件土地の譲渡を受けることができるとしていた。Xも、本件土地がAの所有であることを知っていた。Yは、3日後の4月18日に、Aの代理人と称するBとの間で、Aから本件土地を代金1500万円で、同年5月末日までに所有権移転登記手続を完了するという約定で買い受ける旨の契約を締結した。本件土地を買い受けるに当たり、Yは、1年ほど前に、YがAから本件土地以外の土地を買い受けた際にBがAを代理していたことから、今回も、BがAを代理して契約を締結したものと思っていた。ところが、その後、AのBの代理権を否定し、Yの所有権移転登記手続請求に応じなかった。YはAから本件土地の所有権移転登記手続を受けるべく、4年ほど努力を重ねたが、Aの固い翻意X・Y間の売買契約の代金である2000万円を支払うことで、その契約をすることができなかった。そこで、Yは、契約締結から4年が経過した12月22日にXに対し、本件土地の所有権移転登記手続を受けることができない旨を伝えた。Xは、その通知を受けた2日後にAとの間で、Xが直接Aから本件土地を買い受ける旨の約定をし、翌年5月15日までに代金3000万円を支払って、同日、本件土地の所有権移転登記手続を完了した。Xは、Yに対し前記売買契約を解除して、すでに支払った500万円の返還を請求するとともに、本件土地をAから購入した際の代金とYとの売買契約の代金との差額1000万円を損害として賠償請求することができるか。●参考文献●① 最判昭和41・9・8民集20巻7号1325頁② 最判昭和50・12・25金法784号34頁③ 最判昭和25・10・26民集4巻10号497頁●判例●1 売主の権利取得移転義務X・Y間の売買は、A所有の土地の売買であるが、民法561条により、売主であるYは、土地の所有権を取得して、買主であるXにこれを移転する義務を負う。民法では、売主が権利を取得して買主に移転する義務を負うことを前提に、一般原則に従って、買主は、売主に対し、損害の賠償を請求し、契約の解除をすることができるものとされている。改正前の通説において、2017年改正前民法(以下、「旧民法」という)561条自体が規定していた買主にとっての法的救済に関しては、「売主がかかる内容の権利移転義務を負っていることを契約締結により確認したうえで、その義務を履行したか否かを問題にすれば足り」、買主が悪意であることを理由に一律に責任をおわせるべき実質的理由はない」とされ、また、改正前民法560条が規定していた善意の売主の解除権についても、「権利移転義務を履行しえない売主と契約締結の選択肢を与える合理的性がある」と指摘されている。あるいは、「善意であることのみで売主に契約から離脱する権利を認めることは」、「売主が他人の権利を取得して買主に移転する義務を負わないことと矛盾する」などとして削除された。改正前民法では、同法561条が規定する売主の担保責任と、同法560条が規定する売主の権利取得移転義務の債務不履行との区別が認められていた(参考判例①②)。同法561条が削除されたため、債務不履行だけが問題になる。債務不履行の前提となる同法560条が規定していた売主の権利取得移転義務については、原則的な形態を前提に契約締結になる場合を含めて、他人物売買を有効にしても売主の権利移転義務を負わせるものと判断される余地があった(参考判例①参照)。しかし、契約成立後に売却できるものも契約は有効となるとされたことから(415条の2第2項参照)、民法561条の担保責任と売主の権利取得移転義務の区別は厳密ではなくなった。この売主の権利取得移転義務の内容は、契約の解釈によって定まることになろう。いずれにしても、債務不履行の一般原則に従って、契約の解除の根拠は民法542条、損害賠償の根拠は民法415条になる。2 契約解除と損害賠償の請求民法542条によって解除し、支払った代金返還が認められるためには、AがYと本件土地について売買契約を締結したこと、②Yが本件土地を取得して移転することが不能であること(542条1項1号)、「債務の全部の履行が不能であるとき」)と③XY間において売買契約締結の意思表示をしたこと(540条)、④XがYに催告の意思を表示したことが必要である。特に問題となると思われるのは、履行不能の要件である。履行不能は、契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして判断され(412条の2第1項、催告無催告解除)、物理的に不可能な場合に限らないとされている。本問の場合は、Xが直接Aから本件土地を購入しており、解除の時点で履行不能となっていることは疑いがない。しかし、債務の不履行がXの責めに帰すべき事由によるものであるときは、Xは解除できない(543条)。この規定は、民法536条2項が、債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときに、債権者は反対給付を拒むことができないものとした。したがって、契約の解除を認めると矛盾することがあるためである。債権者の帰責事由は、契約の趣旨に照らして判断されるが、契約の解除や危険負担と、債務不履行による損害賠償では、その制度趣旨が異なることから、その帰責事由に関する判断も異なる結果となりうるとされている。本問の場合は、Xが所有権移転登記手続を受けることができない旨を通知した時点で、契約締結から4年ほどが経過しており、すでに履行不能と評価できるような状況にもある。Yの契約不履行の帰責事由については、その帰責事由が「あった」(旧543条ただし書)。しかし、改正に際して、債務不履行による解除の制度は、債務者に対して当初の契約の拘束力からの解放を認めるための制度であること等を理由として、債務者の帰責事由の要件は削除された。解除が認められれば、Yは、既払金500万円に、受領時からの利息を付して返還しなければならない(545条2項)。3 債務不履行による損害賠償請求契約を解除した場合であっても、損害賠償の請求をすることができると認められる(545条4項)。民法415条による損害賠償請求の要件は、①X−Y間の売買契約の締結、②債務(権利取得移転義務)の不履行であること、③損害の発生とその数額、④Yの帰責事由があることである。履行不能について帰責事由がないことは、Yの免責事由である。立証責任は債務者にあり、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断される(415条1項ただし書)。判例(参考判例③)は、「軍事行動等の非常事態によれば、商売履行不能は故意または過失によって生じたものと認める余地が十分にあっても、未だもって取引の通念上不可抗力によるものと解し難い」として、履行不能がYの責に帰すべき事由によるものと認められないとした原判決を破棄し差し戻しており、不可抗力による場合は債務者は免責されないかのような対応が示されている。「不可抗力」とは、戦争や自然災害のような、外部に由来する、当事者にその危険を負わせることのできない、避けられない現象であると一般に理解されており、故意・過失がない場合であっても不可抗力とならない場合があると考えられる。したがって、不可抗力による場合以外は、債務者は免責されないのだとすれば、債務不履行における債務者の帰責事由についての従来の理解に比べて免責の範囲が狭きすぎるように思われる。ただし、具体的にどのような場合に帰責事由がないとされるのかは問題である。この点に関し、先の判例は、改正の議論において、「権利の取得に関する売主の負担を軽減するに当たり、売主の免責を目的の権利の移転が不能なことまで引き受けていなかったについての契約解釈の結果を必要とする有責性の認識は、裁判実務においても享受されていると思われる」例として挙げられており、何が債務者に帰責されるのかは、契約の解釈によることになる。売買契約のような有償契約においては権利を移転できない以上、不可抗力による場合を除いて売主の帰責事由が認められるとするのが主流とされている。本問においては、Yが、Bを相手として契約を締結したのも、AがBの代理権を否定したこと、Aから本件土地の所有権移転登記手続を受けるべく4年ほど努力したこと、Aの固い翻意X・Y間の売買契約の代金を超えているためにAから購入できなかったことなどを、どのように評価するかが問題になるであろう。債務不履行による損害賠償請求が認められた場合、民法415条2項によれば、履行不能、確定的履行拒絶、契約の解除または債務不履行による契約の解除権発生の場合には、債務の履行に代わる損害賠償(てん補賠償)を請求することができる。本件では、XがAから購入した代金3000万円との差額は問題になるものの、本件土地が2000万円の価値があるとすれば、約定金2000万円の差額である1000万円を請求する可能性があることになる。改正前民法には、買主が悪意の場合には損害賠償請求を認めない規定(旧561条後段)が存在しており、改正前民法によれば本件で損害賠償請求が認められない。しかし、改正民法561条によれば、買主が悪意の場合には、改正民法415条による損害賠償請求は認められない。改正前民法415条による損害賠償請求が認められるとされていた。改正民法561条が削除された以上、買主が悪意であっても、民法415条による損害賠償請求は認められる。しかし、改正民法561条後段につき、悪意の買主は、売主の履行を予期するのだから、損害賠償請求権に関して保護に値しないという価値判断によるものであり、改正民法においてもなお損害賠償請求を認められないとする見解も主張されていた。民法において、売主の帰責事由について定めがないとされたのは、買主が悪意であることのみを理由に一律に救済を否定すべき実質的理由がないためであることからすれば、売主の権利取得移転義務の内容あるいは債務者の帰責事由を定める契約の解釈によっては、損害賠償請求が否定される余地がある。◆関連問題◆本問において、YがAから本件土地を取得できない理由が、X・Y間の売買契約の代金である2000万円を超えている点にあるのではなく、以下のような点にある場合には、請求は認められるか。(1) すでにX・Y間の売買契約成立時において、Aが本件土地は絶対に対象とならないと表明であった場合(2) Xが直接Aから購入したためであった場合●参考文献●*高須順一・百選Ⅱ 100頁/奥田昌道『債権各論[第3版]』(有斐閣=2013) 272頁/潮見佳男「契約法295頁 (田中教雄)