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間接事実の自白

XはYに対して500万円の貸金債権(以下、「本件債権」という)を有しているが、期日になってもYが弁済をしないので、催告後、返還請求訴訟を提起した。これに対してYは次のように主張した。Xは訴外Aより家屋を賃借契約で月100万円で買い受け(以下、「本件家屋」という)、その代金として200万円支払い、加えて本件債権をAに譲渡し、Yはこれを承認した。その後、XはAに対する債権と相殺して本件債務を完済した。これに対してXは、本件家屋を買い受けたことは認めたが、債権譲渡の事実は否認し、さらに売買契約の事実を前提とすると主張した。第1審はXの自白した売買契約の事実を前提とする。Yの主張、残額代金債務と本件債権が同じであると考慮すると、売買代金の支払として債権であったと認めるべきであると判断して、Xの請求を棄却した。控訴審において、Xは、Aに買付けの斡旋だけの依頼で、売買契約についてはAに自己の責任で自由に交渉し、代行、売買契約として本件家屋の所有権をXに移転したこと、および本件債権についてはAに独立就任のため譲渡したが、取立委任を解除したと主張した。証拠調べの結果、売買契約の存在を裏付ける事実が明らかになった場合、売買契約の認定をし、債権譲渡の事実を否定してXの請求を認めることができるか。●参考判例●① 最判昭和41・9・22民集20巻7号1392頁●解説●1 弁論主義と間接事実弁論主義とその内容について(→問題28)が適用される対象は主要事実なのであるか、あるいは間接事実にも含まれるのか。主要事実とは、訴訟物たる権利の発生、変更、消滅という法律効果の判断に直接必要な事実であり(→問題28)、間接事実とは、経験則や論理法則の助けを借りることによって主要事実を推認するのに役立つ事実である(民訴規53条1項参照)。また、補助事実とは、証拠の証拠能力や証明力を明らかにする事実をいう。一般には、弁論主義が適用されるのは、主要事実に限定されると考えられている。したがって、間接事実については当事者が主張していなくても、その事実を認定することができるし、当事者の自白も拘束しない。その根拠は、弁論主義が適用されると自白した証明を不要にするためであり、間接事実を主張しないとすると、証拠調べをすることができなくなるからである。主要事実を推認するからといって、間接事実から推認する方法がある。たとえば、消費貸借契約の成立の要件である金銭授受という主要事実を立証するとしては、金銭受領の事実を立証するが、金銭授受の事実を立証して、金銭授受の事実を立証するために、金銭授受の事実を立証する必要がある。裁判所はその存否の認定を証拠資料ですることができるので、間接事実の存否についても自由に認定できなければならない。にもかかわらず、間接事実に弁論主義が適用されると、他の証拠から間接事実の存在が明白であっても、当事者が主張していない、それを判決の基礎とすることができず、不自然な事実認定を強いることになり、自由に心証を形成することを制約することになる。しかしながら、主要事実と間接事実の区別は容易ではないし(→問題29)、一般の常識に反する場合においては、主要事実と間接事実の区別が、ただちに弁論主義の適用の決め手となるとはならないことが指摘されるようになった(→問題28)。そのため、当該事実との関係において論点に影響する重要な事実であれば、主要事実の区別を問わず、間接事実を適用するという見解や、主要事実・間接事実の区別を問わず、原則としてすべての事実について主張が必要であるという見解も主張されるようになった。また、主要事実と間接事実の区別は法律家として峻別しつつ、主要事実の認定を左右する重要な間接事実については弁論主義を及ぼすべきであるという見解もある。2 間接事実の自白(1) 裁判上の自白と自白の撤回通説によれば、裁判上の自白とは、一方当事者が口頭弁論または準備手続において、相手方の主張と一致する自己に不利益な事実の陳述を指す。弁論主義の第2テーゼにより、裁判所は自白が成立した事実については、裁判所を拘束し、当事者は証明した事実の証拠を必要としない(179条)。そして、当事者については成立した自白の負担を免れるため相手方当事者の信頼を保護するため、その撤回が信義に反するとして、自白は自由に撤回することが禁じられる(自白の撤回要件については→問題32)。(2) 間接事実についての自白間接事実についての自白が成立するかについては、争いがないが、間接事実についても自白が成立するか、すなわち、間接事実についても弁論主義の第2テーゼが適用され、事実について当事者の陳述が一致した場合には自白の拘束力が生ずるかについては争いがある。弁論主義の適用対象を主要事実に限定する通説の立場によると、自白特有の考慮も必要である。というのも、自白の拘束力には、当事者に対するものと裁判所に対するものとの双方があり、それを分けて分析することも可能であるからである。この点、戦後の最高裁判例では、間接事実の自白は、裁判所を拘束せず、また、当事者も拘束しないとしてきた。すなわち、裁判所は当事者が自白した間接事実とは異なる事実を認定することができ、当事者も自白した間接事実を撤回することができる。通説も間接事実の自白を否定してきた。間接事実の自白が事実に反する場合であっても、この事実を基礎として事実認定について判断しなければならないとする。そして裁判官に無理な心証形成を強要するために、自由心証主義に反するからである。ただし、折衷的な見解もあり、例えば、原則として間接事実の自白の成立を否定しつつも、自白がある場合には、証拠調べをすることなく裁判所が事実認定することを認める見解もある。逆に、自白が心証主義を害するおそれがあることを理由に、裁判所に対する拘束力を否定しながらも、禁反言の原則という法では主要事実と区別する必要はないとして、自白当事者に対する拘束力は肯定して、撤回を否定する見解もある。最近では、肯定説、すなわち、間接事実の自白に、当事者のみならず、裁判所に対する拘束力まで認める見解もある。主要事実と間接事実の区別が困難であることに加え、自由心証主義を害するという点では、誤った主要事実についての自白が成立する場合と変わりがないことがその理由である。また、自白した当事者に対する拘束力のみ肯定する折衷説に対しては、自白した事実について当事者がこれに反する事実を主張したにすぎないにもかかわらず、裁判所は別の証拠調べをして、自白された事実と異なる間接事実を認定することができるので、手続保障の点に問題があるとする。ただし、手続保障の確保を重視した上で、これとは別の間接事実を証拠に基づいて認定することは可能であり、その結果、自白された間接事実から主要事実への推論が別の間接事実の認定により妨げられることがある。例えば、貸金返還請求訴訟において、被告から金銭受領の事実が報告、契約成立の時期に金銭授受があったとすれば、それは相続によるものであると認定された場合、裁判所は金銭授受があったという事実を主要事実と認定することができるが、相続という間接事実が認定された結果、自白された間接事実を打ち消すに足りる別の間接事実を認定することができれば自白の拘束力は消えるとする、この点では自白の拘束力は限定されているわけではない。3 本問の扱い本問において、Yの抗弁における主要事実は債権譲渡であり、本件建物の買受けという事実は、この主要事実を認定する材料となる間接事実である。判例や通説の立場によれば、間接事実の自白は、裁判所も当事者も拘束することはなく、自白の撤回は自由に認められ、証拠調べの結果明らかになった売買担保の事実を認定して、債権譲渡の事実を否定することはできる。これに対して、間接事実の自白を肯定する見解であれば、買受けの事実があった点について裁判所も当事者も拘束され、自白の撤回の要件を満たさない限り、自白を撤回することは認められない。●参考文献●重点講義(上) 491頁 / 石田秀郷・百選108頁 / 中西正・民事事実認定45頁(杉山悦子)