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金銭消費貸借

2024年4月1日、Xは、隣家に住むYとの間で、継続的に金銭を借り入れ、リボルビング方式によりその弁済を繰り返す旨の基本契約(準消費貸借契約)を締結した。Xは、基本契約に基づき準消費貸借契約による弁済を繰り返し、2027年4月1日、Yは、基本契約による弁済を完了したが、その最終弁済期が終了していた。また、基本契約申込については、終了の時期は示されなかった。その後、しばらくX・Y間に取引はなかったが、2030年4月1日、X・Y間で、基本契約申込とほぼ同内容の金利の計算の基本契約が締結された。Xは、基本契約の当初から継続する金利の計算の方法についてYから説明を受け、2035年4月中に完済し、すでにその元本の全部を返済し終えていた。その後、XとYは、基本契約による過払金返還請求訴訟を提起した。本件訴訟において、Xは、Yに対し、これまでの全取引を一体として計算した結果の過払金200万円と、これに対し、過払金発生の時点から年5分の割合による利息を付加した金額を請求した。Yとしては、2024年4月1日から2027年4月1日までの基本契約に基づく取引と、2030年4月1日から2035年4月1日までの基本契約に基づく取引とは、別個の取引であるから、前者の取引については、過払金は発生しておらず、時効によって消滅したと主張している。●参考判例●① 最判平成19・2・13民集61巻1号182頁② 最判平成20・1・18民集62巻1号227頁③ 最判平成24・9・11民集66巻9号3221頁●判例●1 制限超過利息をめぐる従来の議論と利息制限法利息制限法は、金銭消費貸借について、超過利息の契約を、超過利息とのその超過部分について無効とする一方で、制限利率を超過する金銭を利息として任意に支払った場合、借主 はその返還を請求できない旨の規定(2006年改正前利息制限法1条2項・4条2項)を置いていた。この関係で、当初は制限超過利息の元本充当の問題となり(最判昭和37・6・1民集16巻7号1309頁(元本充当否定)、最判昭和39・11・18民集18巻9号1868頁(元本充当肯定))、次いで、元本充当後になお計算上払いすぎとなる過払金の返還を認めるか問題となった(最判昭和43・11・13民集22巻12号2539頁、最判昭和44・11・25民集23巻11号2127頁(いずれも返還請求肯定))。過払金の返還請求を認める最高裁判決により、上記裁判例は事実上、空文化された。むしろ、1983年、貸金業規制法(2006年改正法によりいわゆる「みなし弁済」(2006年改正前43条)の導入等)、一定の要件を満たす制限超過利息の支払が有効なものとみなされることになった。その後、みなし弁済の適否に争点が移ったが、2006年から、最高裁が「みなし弁済」の適用要件をきわめて厳格に解する判決を連続して出したこと等により、利息法制全体の改正の機運が高まり、2006年に、利息制限法(民事効)、出資法(刑事罰則)、貸金業法(行政規制、名称も変更)の三法改正がなされた。利息法制に関する2006年改正は、①貸金業の適性化、②過剰貸付の抑制、③金利体系の適性化、④ヤミ金融対策の強化、⑤多重債務者問題に対する政府を挙げた取組みを主眼とし、改正法は順次施行され、2010年までにすべて施行された。特に金利の再編では、「みなし弁済」制度を廃止し、また、出資法の旧金利を29.2パーセントに引き下げ、利息制限法の上限金利(15-20パーセント)と出資法の上限金利(20パーセント)の間の金利での貸付けについて行政処分の対象とすることとし、いわゆるグレーゾーン金利が解消された。2 過払金相当額の問題金銭消費貸借において過払金が発生した場合、借主は、それを不当利得として返還請求しうる(民法703条・704条)。ただ、この請求権が5年または10年で時効にかかり(166条1項1号・2号、最判昭和55・1・24民集34巻1号56頁も参照)、時効完成後は、借主の時効援用により請求できなくなる。また、過払金の返還請求に伴い付される利息が法定利率(改正民法では年5分、旧404条)により算定される(参考判例①)。法定利率は民法改正により年3パーセントに引き下げられた(404条2項、その後、変動制となる(404条3~5項))。民法では、不法行為の規定は適用されない。過払金の返還は、不法行為による損害賠償の性質を有するものではなく、むしろ、過払金の返還請求権の性質を有するものではないからだ。なお、継続的な金銭消費貸借取引がなされた場合、過払金の返還請求権の消滅時効の起算点について、従来、学説および下級審裁判例において過払金発生時説と取引終了時説との対立があったが、最高裁は、継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約があり、その契約に基づき、その契約から発生した借入金と過払金充当後の残元本の合計額が常に計算されている場合には、その契約から発生した過払金請求権の消滅時効は、特段の事情がない限り、その契約取引が終了した時点から進行するとした(最判平成19・1・1民集63巻1号247頁)。民法では、この判決は民法166条1項1号と10年の消滅時効の起点となり、これには短期にも長期にも5年の消滅時効が適用されることになる。また、貸金業者に関するものはないが、以下のような特段の事情がある場合には、同一の金銭消費貸借契約に基づき継続的に行われる金銭消費貸借取引を完済する時点において、借主がもはや当該貸主から金銭を借り入れることを予定しておらず、その後に当該貸主との間で新たな借入をすることがないまま、相当の期間が経過した場合(最判平成22・12・15民集74巻9号2555頁)。ただし、改正後の民法では、承諾による(令和2年)。3 過払金相当の法理論当初、過払金に関する争点は、制限超過利息を、当初支払われた元本へ充当できるかであった。これが、で大きなものとなったのは、制限超過利息を支払うことによって生じた過払金を、当事者間の合意の利益へと充当できるかである。同じ「充当」を巡っても、問題意識はまったく異なる。過払金の法的性質をどう認めるか否かについては、①元本に対する充当の明示的合意が存在しているか、②単に複数の個別的消費貸借契約があるにすぎないか、あるいは基本契約が締結されているか、③過払金が生じた時点で当事者の合意があったか、あるいは過払金が生じた時点で当事者の合意があったかのいずれであるか、④基本契約にリボルビング方式の支払方法、⑤貸借にかかわる個別的事情の検討など、一律にすべての個別的事情を勘案して処理、⑥個別的事情の同一性など、個々の基本契約を一連の継続的なものと処理するような事情・基本契約が存在するか、およびこれらの前後で、⑦基本契約に関する合意・指定があるか(60条・488条・489条)、とりわけ元本に対する当事者の合意・指定(個別の合意を含む)をどのように認定するか、⑧元本に対する当事者の意思が何かが問題となる。まず、基本契約が存在する場合、過払金が生じた時点で、充当されるべき別の債務が存在していれば、当事者の意思を合理的に認定できるのである。当事間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り、過払金は原則別の債務に充当される(最判平成15・7・18民集57巻7号856頁)。他方、判例は、基本契約が存在しても、過払金発生時に充当するべき別の債務が存在していない場合には、当事者に充当に関する合意があったか、その合意に従った充当がなされるとし、リボルビング方式の場合は、そのような合意があると認められるとする(最判平成19・6・7民集61巻4号1537頁)。これに対し、基本契約なく個別の貸付け・弁済が繰り返され、かつ、過払金が生じた時点で充当されるべき別の債務が存在していない場合は、基本契約があるとの同様の理が妥当し、先の場合に充当されることとなる。や相殺の可能性があるため、当然にそのような指定を推認できないからであるとする。これに対し、基本契約がなくとも過払金充当合意を黙示的に認める見解もある。本問に関する参考判例①では、「第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した取引であると評価できる場合には、当事者間に充当する合意が認めでき、第1の基本契約から生じた過払金は第2の基本契約から生じた債務に充当される」として判示した。ただし、①第1の基本契約に基づく貸付けおよびその弁済の各取引が行われた期間と第2の基本契約に基づく最初の借入れが行われた期間との間の期間が1年未満であること、②第1の基本契約に基づく取引についての契約書の返還の有無、③借入れに際し使用されたカードが共通であるか、④第1の基本契約の終了後も第2の基本契約が締結されるまでの間における当事者の状況(第2の基本契約が第1の基本契約の当然の延長として当然に更新されること、取引の中断期間の長さなど)を考慮することなく、基本契約の自動継続・自動更新を認めることにより、先に紹介した民法の規定を潜脱した最高裁判例(平成17・7・14判時235号46頁)。また、上記要素は判断の際の一応の基準にすぎない。参考判例②では、前記①の判断枠組みを基本的には踏襲しつつも、第1の基本契約の終了時に過払金が発生していたこと、第1の基本契約と第2の基本契約との間の取引の中断期間が約2年7カ月と比較的長期間に及んでいたことなどを理由として、過払金充当合意を否定した。さらに、参考判例③では、第1の基本契約の終了時に過払金が発生していたこと、取引の中断期間が約3年7カ月と相当長期間に及んでいたことなどに加えて、第1の基本契約の終了後に第2の基本契約が締結されるまでの間に、当事者が、第1の基本契約に基づく取引が終了し、過払金が発生していることを認識しえたといえるような特段の事情が存しない限り、過払金充当合意を否定するのが相当であるとした。判決がある(参考判例③)。また、過払金については当事者の合意があっても借主は過払金発生の時点から民法703条の規定に基づき請求しうる(最判平成21・9・4集民231号97頁)。法定利息と過払金との充当を認めたうえで、別段の合意があるとして評価できるような特段の事情のない限り、本件法定利息を充当し、次いで過払金を充当すべきとされている(最判平成25・4・11判時2155号16頁)。加えて、不動産等他の方法による場合の過払金は、超過額を発生する際に当事者の合意があるなど特段の事情のない限り、その時点での債務に充当され、超過額が将来発生する債務に充当されることはない(最判平成26・7・24判時2261号65頁、最判平成26・7・25判時2261号65頁)。いわゆる「ボトルオープン論」(過払金を完済すると支払期日に支払うべき金利が0になるという主張)、過払金をボトルしようと企図したものであるから、このように呼ばれるようになった。なお、判例は、基本契約に基づき借入れと弁済が繰り返される場合に生じている場合の利息制限法上の「元本」は過払金を完済した後の額とするとする(最判平成26・7・18判時2261号65頁)。以上の判例法理に対し、参考判例①につき、判例としての一貫性に疑問をもつ見解も現れるが、上記にみたとおり、各判決は一定のファクターを講じる客観的判断は避けており、総合的に勘案される。このうち参考判例①の考え方に対しては、利息制限法の立法経緯を考慮したうえでの結論の妥当性という観点から、根強い反対論がある。◆関連問題◆本問と以下の点で異なる場合に、Xの請求は、どの範囲で認められるか。なお、甲乙との契約締結日、元利金完済日、過払金返還請求日は、本問と同様とする。基本契約はリボルビング方式による契約であり、基本契約が乙のリボルビング方式による契約で根抵当による不動産担保が付されていたこと、Xが乙に対し、基本契約から生ずる過払金が基本契約乙による債務に充当されることを前提として計算した額の過払金の返還請求をした場合。●参考文献●*高橋真・最判解平成23年度238頁/吉田宏・最判解平成24年度(下)620頁/小野秀誠・百選Ⅱ 114頁/第一法規・37巻・190頁 (尾島苑子)