集合動産譲渡担保
Aは、ワイン等の酒類を販売する店舗を営業する会社である。2023年4月、Aは、新たな店舗を開くための融資をB銀行から受け、これについてAは、自己の所有する甲土地にBのための抵当権が設定されていたため、Aは、甲・乙の2店舗内にある在庫商品(以下、これを「本件物件1・2」という)を担保に提供することをXに申し入れた。本件物件1は比較的高額なワインを中心としており、この時点での在庫は5000本であった。本件物件2は比較的高額のワインを中心としており、この時点での在庫は2000本であった。2023年5月1日、BがA・X間で締結された「譲渡担保設定契約」には、「Aは、甲・乙各店舗においてAが現在所有しかつ将来取得する一切の在庫商品(ワイン)をXに担保のために譲渡する。見合債権は1000万円とし、2024年2月1日までに完済する。見合債権の金額を合わせて提供すれば、AはXからこれらの商品をBに取り戻すことができる」とされた。甲店舗内の商品については同日付けでAは設定がなされ、また、乙店舗については譲渡登記が5月10日付けで経由された。さらに、「Aは、自己の乙で、通常の営業に適した価格で譲渡することを許諾する。Aは、やがては、上に掲げる商品と引き換えに、新たな商品を補充しなければならず、Aが売却した商品は、当然に本譲渡担保設定契約の目的となる」旨の条項が挿入された。甲・乙の2店舗内にある在庫商品、本件物件1・2は、ワイン卸売りと兼業する乙が納品した商品であり、Bから翌月14日までを1つの期間として、期間ごとに納品されたワイン売買代金の額が算定され、14日、Aが代金決済の20日その期間内に納品されたワインにつき、Yの方で、売買等の処分を行うことを許諾する」旨が合意されていた。その一方、Yの方から取引関係にあったDとの間で、新たに以下のよう取引を行った。2024年10月1日、甲・乙店舗内の在庫商品合計2000本(各店舗につき1000本ずつ)のワインを市価でYに売却するという契約を締結した。この取引は、Yが自己顧客に対する贈答品を確保するために行われたものであり、AとYとは以前にも同様の取引を行ったことがあった。引渡しの時期は2025年1月10日とされ、代金1500万円の支払と引換えにAがワインを甲および乙店舗よりYに引渡すことが約定された。他方、最近のAの経営不振を聞いたZは、2025年1月5日、2024年11月15日から同年12月14日までの間に乙店舗にAが納品した店舗内の商品について競売を申し立て、Aに対して、残代金債務の範囲で現店舗内について引渡しを求めた。2025年1月10日、Yは1500万円の現金を用意して甲・乙店舗に赴いたが、Aとの乙との間のトラブルを理由に引渡しを拒んだ。その後、XはAに融資し、乙店舗の引渡しを求めたが、Yが2月5日に現金で1500万円を支払い、これと引き換えに多数の1000本のワインを受領し、これを自己の倉庫に搬送した。また、甲・乙の2店舗内のワインは全て、甲店舗内の商品については2024年11月30日から12月31日までの間にZにAが引き渡したものであり、2025年1月10日までにAからZに対して代金が支払われていた。他方、乙店舗内の商品については、同期間内に搬入された全商品について代金は未払であった。その後、Xは、Aに対する債権の回収が一段と進むので、2025年2月21日、Aを提訴しても現金も資産も返済はなされていない。●解説●1. 目的物の特定性と対抗要件の具備Xが本件物件に取得した権利は、譲渡担保の目的である、店舗内の商品という物の集合を包括して譲渡担保の目的となしうるかが問題となる。最高裁は、「構成部分の変動する集合物についても、その種類、所在場所および量的範囲を指定するなどの方法により目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうる」(最判昭和54・2・15民集33巻1号51頁)として、集合物論を採用している。2. 乙による商品売立ての可否3譲渡担保の目的となっている個々の商品の処分の有効性判例の立場を前提とすれば、物件2については、Zによる動産売買先取特権が、XがYより受戻権取得によって生じた在庫商品の引渡しを求める。3. 譲渡担保の目的となっている個々の商品の処分の有効性判例によれば、帰属清算型・処分清算型を問わず、譲渡担保権者は、被担保債権の弁済期到来後(2月1日)後に1000本を引き渡し、その後Xが譲渡担保権を実行する。●関連問題●(1) 本問と異なり、2025年1月10日、AはYにウイスキーを引き渡そうとしたが、その後、AはYに甲・乙各店舗の商品を引き渡す方法として、同店舗内の商品合計2000本を、Aの汚倉庫に移動させたうえでYに引き渡すことを提案した。Yはこれを承諾し、汚倉庫にワインが搬入された。同年2月5日に、Yは予定した代金額を全額支払い倉庫内でワインの引渡しを受けたが、保管の手間等を考えてしばらく汚倉庫で保管してもらうことにした。その後、本問と同様、Xは、2025年2月21日、(2月1日を徒過しても現金も資産も返済はなされていないから、もはやAはXから本件物件1・2を受け戻すことはできず、Xはこれらの所有権を確定的に取得した」と主張して、Aに対し、本件物件1・2の引渡しを求めて訴えを提起した。Xのこの主張は認められるか。また、Aはどのような反論をすることが可能か。(2) 本問と異なり、ZのAに対する売買契約書には、「A間の継続的な売買契約において、目的物の所有権の売買代金の完済まで乙に留保される」旨が定められ、「毎月15日から翌月14日までを1つの期間として、期間ごとに納品されたワインについて売買代金の額が算定され、1つの期間に納品されたワインの所有権は、当該期間の売買代金の完済まで売主に留保される」ことが定められていたとする。これに加えて、「Zは、Aが、自己の名で、通常の営業のために転売等の処分をすることを許諾する」旨が合意されていた。なお、2025年2月5日の時点では、甲店舗内のワインについては、11月30日から12月31日までの間にZにAが引き渡したものであり、あり、1月10日までにAからZに対して代金が支払われていた。他方、乙店舗内の商品については、同じ期間内に搬入された全商品について代金は未払であった。このとき、Zが、Aの代金不払に対して、甲・乙店舗に残った自己の売却した商品について、それらの所有権が自分にあるとして、甲・乙からの引揚げをAに対して求めた場合、XおよびYは、これについて異議を唱えることができるか。●参考文献●森田修・法協124巻11号(2007)2598頁菱田雄郷・判評582号(判例時1968号)(2007)21頁遠藤隆一・金判1575号(2019)8頁