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代表権と表見代理

XはY株式会社との間で建設用機械の売買契約を締結して、当該機械を引き渡したが、Y社が代金を支払わないので、2022年12月、売買代金支払請求の訴えを提起した。その際、訴状には、Y社の代表者として、Y社の商業登記簿に代表取締役として記載されていたAの名を記載して提出した。ところが、その当時、Y社では、Aが代表取締役に登録されていたことはなく、Aは単なるY社のいち従業員であった。すなわち、同年9月、Y社は臨時の株主総会を開催し、従来の取締役は全員辞任し、新たにほか1名が取締役に選任され、翌日Aらが取締役辞任の登記を経て、同日取締役による互選をへて、AがY社の代表取締役に選任され、この点についてAの承諾を得ていたことである。ところが、Aは、当時会社に出向いたこともなければY社は出向いておらず、登記担当社員がY社の取締役がだれであるかを確認したこともなく、事後にその承諾を求められたが、これを拒絶していたとされる。第1審では以上のような事実は判明せず、訴状はAの住所に宛てて送達され、第1回口頭弁論にY社側は誰も出頭せず、Xの請求を全部認容する判決がされた。ところが、当該判決書がY社の本店に送達されたためY社の訴訟の帰趨を初めて知ったY社の関係者は、Aを被告として、Aの名で弁護士を代理人として選任し、控訴を申し立てた。控訴審では、以上の事実関係を主張して、AはそもそもY社の代表取締役ではなく、同社の代表者としての適格を有するものではないから、AをY社の代表者として提起された本件訴えは不適法であるとし、Xの請求を認容した第1審判決を取り消し、Xの訴えを却下することを求めた。控訴裁判所はどのような判決をすべきか。●参考判例●① 最判昭和45・12・15民集24巻13号2072頁② 最判昭和43・11・1民集22巻12号2402頁③ 最判昭和41・9・30民集20巻7号1523頁●解説●1 訴訟における法人の代表権原告は、訴えを提起するに当たり、被告を特定する必要があるが、具体的には、訴状に被告の「住所(居所)」を記載しなければならない(138条2項1号)。そして、当事者が法人である場合には、法人はその代表者によって訴訟追行することになるところ、民事訴訟法中法定代理人に関する規定は法人の代表者について準用されるので(37条)、訴状に法人の代表者の氏名を記載されるべきことになる。原告が被告法人を訴訟上代表する権限を有している場合、このものが被告の住所にあてて、商業登記簿に従って、そのものが訴訟における法人の代表者としての権限を証明することになる。問題は、その記載がある何らかの事情によって誤っていた場合である。裁判において誤って被告の代表者が記載されていたときは、その後の手続の進行はどのようになろうか。まず、被告法人に訴状が送達されることになると(138条1項)、法人が訴状を受け取るまでに、代表者が誤っていることに気づけば、「送達を受けるべき者」として受領を拒否することができる。そして、送達場所は代表者の住所・居所等が準則となるが、本人である法人の営業所等においても送達することができる(103条1項)。仮に法人営業所等に送達されて、代表者が受領を拒否することが可能となり、その結果による訴訟の遅延となる)、真の代表者が訴状を閲覧するに至ることが可能となり、その申立てによって裁判所が原告の補正を命じることになる。他方、登記簿に誤って記載されている代表者の住所等において送達がされた場合、(その後、その者が受領する限り)法人関係者が訴訟係属を知る機会はなく、訴訟手続がそのまま進行する可能性が高い。その場合、結局、被告側は口頭弁論に出頭せず、被告欠席のまま判決がされることとなる。被告が欠席すると、原告が主張する事実すべてが自白したものとみなされ(159条3項)、原則として原告の請求が認容される判決がされることになる。判決書は被告に送達されるが(255条参照)、その判決書に被告の代表者が誤って記載されていたときは、これが被告法人に届かず、判決言渡し後に被告が気づくような場合には、もはや控訴の追完の途が開かれることになる。ところが、判決言渡し後に被告が気づくような場合には、もはや控訴の追完の途が開かれることなく、訴訟手続はそのまま終了し、その判決も確定する。そして、確定判決に基づいて強制執行がされることになるが、その際、判決書に被告の代表者が誤って記載されていたときは、執行官は執行することができず、原告としては、訴訟をやり直すことになる。このような事態を避けるために、判例は、代表者の表示の誤記の訂正を広く認めている。すなわち、訴状の当事者の記載と請求の趣旨・原因を総合的に判断して誰が訴えられているかを判断すべきであると解するのが相当である(これを実質的表示説という)。その際には、誰が被告として表示されているかという点だけでなく、請求の趣旨・原因からみてどのような者が被告となることを意図していたか、という点も考慮する(参考判例①)。その上で、表示の訂正が認められる場合には、その訂正は訴えの変更とは異なり、訴訟係属の当初に遡って効力を生じる。その結果、訂正された当事者が当初から訴訟係属していたことになるので、時効の中断(147条)や期間の遵守(158条)が認められる。2 訴訟における表見代理の適用法人の代表者に関するものとして、代理権授与の表示による表見代理(民109条)および権限外の行為の表見代理(同110条)および代表取締役(会社354条)、代表執行役(同421条)などが考えられる。使用人などについて不実の登記をした者は、その事項の不存在を善意の第三者に対抗することができない」ものとされる(商9条2項)。仮にこの規定が民事訴訟手続における代表権にも類推適用されれば、法人の真の意思に基づき誤った登記に信頼した者を保護できることになる。しかしながら、判例は、このような観点からの民法上の表見代理の規定を一般に否定している。この点について、最高裁判所は、まず商法の9条2項と民訴法58条にいう訴訟上の代表権への適用を信頼した相手方の意思表示の保護という趣旨(参考判例③)、そして、商業登記自体の効力(商条)についても同様の判断をした。本問と類似の事案について、会社代表者の代表権については実体法上の表見代理の法理を否定したのが、参考判例①である。そもそも、民法109条および354条(現行354条)の規定は、いずれも取引の相手方を保護し、取引の安全を図るためである。そこから、取引行為と異なる訴訟行為に会社を代表する権限を予定するものとは解されていないのである。この判例は、同様に取引の相手方保護を図った規定である商法42条1項(現行会社13条)も、その本文において代表支配人とした行為について一定の制限を認めるが、その但書において代表支配人とした訴訟行為についても本文の規定が適用されるものと考えても何ら矛盾しないと判示した。以上のように、判例は、①表見代理は取引行為を保護する規定であり、訴訟手続は取引行為とは異なること、②同じく表見代理を定める表見支配人に関する旧商法42条1項は訴訟行為を明文で除外している(会社法13条も同様の趣旨の規定がある)ことである。これに対し、学説は現在でも、適用肯定説が圧倒的多数である。その論拠は、①真の代表者による訴追の要請、②登記を信頼した原告の保護を考えるとするにしてもその解決は、民事訴訟法36条の代表権に関する規定に基づいて外観を信頼するものを保護することはできないこと、③会社法13条も本問のような場合には、その趣旨、特にその信頼の対象を信頼した原告の保護の要請や訴訟経済の観点を考慮すれば、商法の9条2項の類推適用を肯定する可能性はあり得よう(上記判例②はその点なお議論の余地あり)。3 本問の扱い以上のように、表見代理の訴訟適用を認めれば、本問においては、Aを代表者として訴訟が追行されることになる。なお、原告側には、代表権の不存在を調査して訴訟が追行されることになる。ただ、Aに代表権が存在しないことが判明したことによる訴訟代理権の不存在をめぐる訴訟をすべきであり、口頭弁論の期日に呼出し等Y社の真の代表者またはその特別代理人による…他方、表見代理の制度を認めない場合には、控訴審ではY社の主張するように判断すべきであろうか。この点について、参考判例①は以下のように判断する。すなわちこの場合は、「……Y社の真の代表者に宛てて送達されなければならないところ、記録によれば、本件訴状は、Y社の代表者として代表されたAに宛てて送達されたものであることが認められ、Aに訴追上代表権のないことを前提とすれば、違式な訴訟追行の結果を生じないものというべきである。したがって、このような場合には、裁判所としては、……Xに対し訴状の補正を命じ、またY社に代表者のない場合には、Xにその申立てにより特別代理人を選任する機会を与えるなどして、正当な権限を有するものに手続を追行させるなど、その必要な措置を講ずべきであるのであって、Xにおいて右のような補正手続をとらない場合に初めて訴えを却下すべきものである。そして、右補正命令の手続は、事件の性質上第1審裁判所においてこれをなすべきものであるから、このような場合、原審としては、第1審判決を取り消し、第1審裁判所に差し戻し、前記事前補正命令を命じさせるべく、事件を差し戻すべきもの」とする。したがって、本問の控訴審は、訴えを差し戻し、事件を差し戻しに際してXに補正の機会を与えるべきことになろう(このような場合の民事訴訟法308条による差し戻しは必要的なものと解される)。●参考文献●田頭章一・百選36頁/金井史子「合意管轄」争点148頁/竹下守夫「訴訟行為と表見法理」新木志郎=三ヶ月章監修『実務民事訴訟講座①』(日本評論社・1969)169頁(山本和彦)