公示送達
【第1訴訟】 Cは、X(訴訟代理人A)およびZ社(代表者Y、訴訟代理人B)を共同被告として、建物の収去土地明渡請求の訴えを提起した。この時点で、XはYに対して第2訴訟を提起することを匂わせており、XとZ社の利害対立は明らかであった。【第2訴訟】 X(訴訟代理人A)はY(訴訟代理人B)に対して、X所有建物の不法占有による損害賠償請求の訴えを提起した。訴状におけるYの住所は、第1訴訟でZ社の送達場所とされた住所と同一であったが、この送達は奏功しなかった。その後、Yの住所についてXから3回の調査報告書とそれぞれで判明した住所について上申がなされ、それぞれ住所での送達が試みられたが、奏功しなかった。そこでXは公示送達の申立てをし、書記官はこれを受けて公示送達をした。ところで、各当事者の訴訟代理人は、懇意で、第1訴訟の経過を了知していた。第2訴訟で送達の不奏功が続いていた頃、AはたまたまBに会ったので、第2訴訟を提起したがYの住所がわからないので教えてほしいと依頼した。数か月後、BはYから了解を得たとして、Aに口頭でYの住所を通知した。しかし、その時点で第1審の口頭弁論は終結しており、また、この住所ではすでに送達が失敗していたので、Aはこの通知を放置した。その後、第1審判決(請求認容判決)が公示送達によりYに送達された。Bは、偶然出会ったAからこの事実を知った。このような事情の下で、Yは、訴訟上、どのような救済を求めることができるか。●参考判例●① 最判昭和54・7・31判時944号53頁② 最判平成4・2・28判時1455号92頁③ 最判昭和42・2・24民集21巻1号209頁④ 大判昭和16・7・18民集20巻988頁●解説●1 公示送達と受送達者の手続保障送達は、訴訟書類の内容を名宛人に了知させる(ないし了知の機会を与える)裁判所の訴訟行為であり、受送達者の手続保障の第1歩である。とくに被告にとっては、送達がなされなければ訴訟係属を了知することができないから、被告の受送達権が要請される。そのため、送達は厳密に行われ、また、受送達者に送達書類を交付する交付送達が原則とされている(令和4年改正102条の2)。さらに、交付送達が困難な場合に、付郵便送達(107条)が補充的に認められている[→問題22]。以上は、住所等の送達場所が明らかな場合に当てはまるが、これが不明の場合(110条1項1号)には、現実の送達は不可能になる。付郵便送達もできない場合(同条2号)には送達の方法が尽きることになるが、訴状が送達できなければ訴訟は係属しないから、被告の行方不明という場合に原告性のない理由で被告の救済を受ける権利が剥奪されることとなる。これを避けるために、送達すべき書類を裁判所書記官が保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付する旨を裁判所の掲示場に掲示する方法、すなわち公示送達が用意されている(111条)。この方法では、受送達者が書類を実際に受領する可能性はゼロであるが、法律上の擬制により、掲示から2週間の経過をもって受送達への送達の効果が発生する(112条1項本文)。本問の訴訟のように2回目以降の公示送達については、掲示の翌日に生ずる(同条2項、ただし書参照)。本問のように、被告住所が不明である場合には、訴状から始まって判決にいたるまでの一切の送達すべき裁判所書類が公示送達により送達され、被告がこれに基づいた時点では上訴期間(判決書の送達から2週間。285条本文)が徒過しているのである。被告が判決の内容を実際に了知することが保障されないにもかかわらず、被告の深刻な不利益を考慮すると、この場合の救済を最小限に抑えるべきである。その方法として、まず公示送達の許否に関する裁判所書記官の調査義務を明確にし、その裁量権を合理的に制約することが考えられる[付郵便送達につき→問題22](最判平成9・10判時1661号81頁参照)。もっとも、この判例での住所の調査に係る書記官の裁量権は広く認められており、本問に即して考えても、調査は相当であって、職権濫権の問題となるとは考えにくい(ただし、大判平成21・2・27判タ1302号298頁のように厳格な調査義務を命ずる裁判例もある)。それでは、公示送達により手続参加の機会のないまま敗訴判決を受けた被告には、他にどのような救済方法が考えられるだろうか。2 受送達者の救済――再審まず、本問のYが訴訟の係属を提起し、確定した第2審の判決に拠り、差押えを受けているのである。訴訟の追完(97条。後述3)に比べて期間制限も緩やかであり(342条)、金銭の利益を害されるから、救済としては最も徹底している。しかし、どの当事者に訴訟告知が問題となる可能性があるのは、民事訴訟法338条1項5号ないし5号の類推適用ないし拡張解釈であろうが、3号事由については、判例(最判昭和57・5・27判時1052号66頁)は、原告が不法な公示送達の申立て(故意または過失を要件に)被告の住所を知っていたのにこれを秘匿して公示送達の申立てをした事案においてこれを肯定しているので、本問のようになくとも原告に故意の申立てをしたのではないかと疑われる可能性は低いといえる。また、後者(5号事由)については、公示送達の申立てについて詐欺罪等の有罪判決等が確定しないと再審事由を認めるのはきわめて困難である。もっとも、事実上利害対立に補充送達がなされ、受送達者が裁判責を帰すのです。手続の機会の保障がなかった場合には、補充送達を有効としながらも、民事訴訟法338条1項3号の類推適用により再審事由が認められるとする近時の判例(最判平成19・3・20民集61巻2号586頁)[→問題27]との対比では、不法な公示送達がなされた被告にも再審による救済が認められてもよいとも考えられる。確かに、公示送達制度は受送達者の送達を擬制する特殊な制度であり、被告に裁判書類を受領しない場合に常に送達を擬制する制度として成り立たない。しかし、不実な公示送達は公示送達制度が予定していた事態ではなく、被告の手続関与の機会を保障する趣旨を没却させる必要は認められず、再審事由の判断においては、異なる判断をする余地があろう。なお、いずれの場合も、被告の帰責を認定する特段の事情がない限り被告の内部的事情により被告の手続関与の機会が失われた場合よりも、原告の申立てによる公示送達のほうが不安定化もやむを得ないと説明しうるように思われる。3 受送達者の救済――上訴の追完再審以外の救済方法として、公示送達が有効であることを前提に、訴訟行為の追完(97条)が可能かを考えてみよう。判例は、公示送達の有効性を広く認めており、不実な公示送達であっても適法と判断しているので、これを前提とすると、判例は訴訟行為が公示送達があったわけではないで当事者には、控訴の理由があると考える方法では、裁判を無効化するわけではないので、追完が認められるような場合にもそもそも送達があったと解すべきではないので。本問では、訴状・判決ともに有効に送達され、控訴期間徒過によって第2審訴訟は確定したことになるので、Yが「その責めに帰することができない事由」により控訴期間を遵守できなかったことを主張立証できれば、控訴追完がなされたと知った時から1週間以内に限り、控訴をすることができる(97条1項)。そこで、Yの帰責事由の有無が問題となるが、公示送達について被告はこれを知らないのが通常である。その点、常に帰責事由がないことになり、公示送達制度が不安定化する恐れがある。上述のように、公示送達制度も、本来(不備に帰した)公示送達を申し立てた原告のために被告の手続関与を犠牲にすることまで認めているとは考えにくい。そこで、97条1項を判断する公平の観点と解し、被告の故意・過失と、原告の利益がなされることへの予測可能性を考慮する考え方が有力である。以下、原告に故意がある場合や住所につき故意がある場合(①参考判例)と、本問のように故意は認められない場合(②通常事例)を分けて考えてみよう。(1) 基準事例 参考判例①は、原告が故意に被告の住所を偽って訴状に記載し、公示送達を申し立てた事案において、被告の責めに帰すべからざる事由により控訴期間を遵守することができなかったとして控訴の追完を認めた。ここには、被告の予測可能性等にはふれず、申立てにおける原告の故意のみを認めて被告の帰責性を否定している。これに対して、参考判例②は、被告側の公示送達による事情を争った事例についても取り上げ、被告側の不誠実の予測可能性等の事情と総合的に考慮すべき旨を判示した。この事案では、被告に重い過失が認められるものの、原告が故意に転居先を秘したとして公示送達を申し立てたのでその費用(制度の悪用とみなし)が認められるとしている。被告の帰責性が否定されている。(2) 通常事例 これに対して、通常事例では、被告が訴訟提起を予測し、予期、予測可能性が認められるならばそれに相応する調査、住所変更届等を怠ったかを問題とする。本問におけるでは、第2訴訟提起を予測でき、実際に代理人AとBを通じてXが請求内容を特定したことを了知しており、第1訴訟の訴訟追行からみても、第2訴訟のYが訴訟内容であることは容易に推測できたはずである。したがって、Yの弁護士の資格と責任において代理人Aが何らかの回答をすべきである(職務上の責任としては異論がある)。本問も同様の事実を扱った参考判例①は、このように判断して上告追完を認めなかった(なお、現行法では送達場所届出義務を課しており(104条)、これを怠ったり、新住所の届出がない場合には代行できない。YはXとの関係で訴訟を提起)。Xの代理人Bに対し非訟を通じて損害賠償を請求する余地はありそうである。●参考文献●河野正憲・百選(第3版)(2003)102頁 / 梅本吉彦「不意打ち防止と訴訟法理論」新堂幸司編著『特別講義民事訴訟法』(有斐閣・1988)393頁 / 山本弘「送達の瑕疵と判決の無効・再審」法教377号(2012)112頁(山田・文)