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二重起訴と相殺の抗弁

(1) Aは、Bに対して、2000万円の売買代金債権を有するとして、その支払を求めて訴えを提起した。その訴訟において、Bは、当該売買契約は、Aの給付した商品に瑕疵があったため解除したので、売買代金債権は存在しないと主張するとともに、仮に売買代金債権が存在するとしても、BはAに対してやはり未払の2000万円の売買代金債権を有するので、対当額で相殺する旨の予備的抗弁を主張した。その後、Bは、別訴で、上記2000万円の売買代金債権の支払を求めて訴えを提起した。裁判所は、この訴えを適法とすべきか。(2) Aは、Bに対して、2000万円の売買代金債権を有するとして、その支払を求めて訴えを提起した。他方、BはAに対してやはり未払の2000万円の売買代金債権を有するので、その支払を求めて別訴を提起した。当該訴訟において、Aは、Bに対する上記2000万円の売買代金債権により、対当額で相殺する旨の抗弁を主張した。裁判所は、当該相殺の抗弁を適法とすべきか。●参考判例●① 最判平成2・12・17民集45巻9号1435頁② 最判平成18・4・14民集60巻4号1497頁③ 東京高判平成9・4・8判タ937号262頁二重起訴禁止の原則1 二重起訴禁止の原則裁判所にすでに係属する事件について、当事者は、さらに訴えを提起することはできない(142条)。二重起訴の禁止と呼ばれるルールである。そのようなルールの趣旨としては、①重複した訴訟において異なる内容の判決がなされた場合に解決が困難になってしまうおそれがあること、②裁判所が重複した審理を強いられることになり、訴訟経済に反すること、③相手方が重複した事件に応訴させられ、不当な負担を強いられることが挙げられる。二重起訴の禁止が適用される範囲については議論があるが、通説的な見解は、訴訟物が同一である場合に適用すると限定する。それは、上記の制度趣旨との関係で、①の点を重視し、判決効、すなわち既判力が生じるのは訴訟物を対象とするので、仮に争点を共通にする場合であっても、訴訟物が異なれば、判決の抵触という事態は生じないからである。そして、訴訟経済は、当事者が訴訟を提起する権利を制約してまで、裁判所や相手方がその点の事情に付き合わされることには慎重の予定するところとされた。また、この通説に達した場合の効果として、訴えが却下される(つまり二重起訴に反しないことが訴訟要件とされる)とするのが通説的見解であり、それは、主権の主体側の事情の場合に訴えを却下してしまうのは過剰な規制になってしまうからである。これに対して、近時の有力な見解は、このルールの適用範囲を必ずしも訴訟物が同一の場合に限定せず、両訴で主要な争点が共通であるような場合にも及ぼそうとする。このような場合であっても、審理が重複する限りにおいて、上記②や③の不都合は同様に生じるからである(さらに、いわゆる争点効を認める見解や紛争の早期解決の要請を認める見解では、①に関する要請も生じ得ることになる)。そして、このような見解によれば、二重起訴に反する場合の効果も、訴えを却下するのではなく、審理の重複を回避するために後訴の審理を停止するなど柔軟な対応をすべきこととなる。さて、二重起訴の禁止は以上のような趣旨に基づくとされるが、訴訟物が同一によれば、訴訟物の審理した上記趣旨に反する① 趣旨を重視し、訴訟物以外の判断(判決理由中の判断)には既判力が生じないことをその根拠とするものである。しかるに、判決主文にのみ既判力が生じるとの原則(114条1項)に対する例外として、民事訴訟法は相殺の抗弁の場合を定める。すなわち、相殺のために主張した請求の成立または不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有するとされる(同条2項)。そうであるとすれば、相殺の抗弁についても二重起訴禁止の趣旨が妥当しないかが問題となる。請求権を相殺の抗弁が判断されたとして、相殺の抗弁がなされた訴訟で請求が認められ、両訴で判断が実質的に矛盾した場合はどうなるか。前訴のよう な二重起訴禁止の趣旨がこの場合にも変わるようになるからである。この点については、具体的に状況ごとに考慮する必要があると考えられており、①まず相殺の抗弁が提出された訴訟が別訴提起された場合(抗弁先行型)と、②まず訴訟が提起された後に相殺の抗弁が提出された場合(後訴先行型)とに分けて考えられている。2 相殺の抗弁と二重起訴の禁止―抗弁先行型本問(1)は、抗弁が主張された後に、同じ債権を訴訟物として別訴を提起する態様である。この場合には、二重起訴を禁ずる趣旨、すなわち、①判決抵触のおそれ、②審理の重複、③応訴の負担のいずれも妥当し、相殺の抗弁がなされた請求権の別訴は許されないのではないか、とも考えられる。この点について、最高裁判所の判例はいまだ存在しないが、学説では、二重起訴の禁止の趣旨の存否について、裁判所の判断の矛盾抵触のおそれがあり、訴訟経済にも反するから、許されない」としている。ただ、この場合には、相殺の抗弁による相殺の利益が保障されないという点があり、例えば、本問では、Aの訴訟追行が遅延するなど必ずしも代替性が保障されないという点があり、例えば、本問では、Aの売買代金債権が時効により消滅することになるとともに、相殺の抗弁は認められないことになる。した俊ではないかという見方が生じうる。しかし、参考判例③は、仮に提訴でなければならないという見方が生じうる。しかし、参考判例③は、仮に提訴でなければ、相殺の抗弁の裁判上の催告の効果を有し、消滅時効期間が満了でなくても、Bに与える不利益は著しいものとはいえないとした。その点とも関連して議論としてありうるのは、仮に別訴はできないとしても、Bは、Aの請求に対する反訴として、支払請求ができないかということであ る。参考判例①は、仮訴ではなくAの請求とBの請求との併合がなされた場合についてであるが)将来において訴訟の弁論が分離されることもありえないとはいえない以上、やはり許されないとしていた。ただ、このような場合は、Bの反訴は、Bの相殺の抗弁が判断されることを解除条件とする予備的反訴となるのがみられ(通常の予備的反訴は、本訴請求の棄却等を解除条件とするが、この場合は相殺の抗弁に関する判断を解除条件とする点で特殊なものである)。予備的反訴の場合には(予備的併合と同様、矛盾した判断を避けるために)弁論の分離は禁じられると解されることから、そのような問題は生じない。したがって、後述する参考判例の趣旨からも、Bは別訴ではなく予備的反訴として売買代金請求をすべきと解されることになろう。3 相殺の抗弁と二重起訴の禁止―後訴先行型本問(2)は、まず別訴が提起された後に、同じ債権を自働債権として相殺の抗弁を主張することができるか、という問題である。この場合にも、前記の二重起訴禁止の趣旨が同様に妥当し、相殺の抗弁は許されないのではないかとも一応考えられる。ただ、この場合には、①Aの提訴→Bの提訴→Aの提訴(別訴または反訴)→Aの相殺という経緯をたどった場合と、②Bの提訴→Aの提訴(別訴または反訴)→Aの相殺という経緯をたどった場合とでやや利害状況を異にするように思われるので、別途考えてみよう。まず、①の場合は、Aがなぜ相殺を最初から主張しなかったかが問題となるが(考えられる場面としては、当初はBの請求を否定できると判断してあえて相殺まで主張せず訴訟をしていたが、だんだんと危なくなってきたので予備的に相殺の主張をしたということが考えられる)、問題状況は2の場合に類似する。Aの訴えが別訴である場合には、最初に相殺の抗弁ができなかったのは、Aの訴えが別訴である場合には、最初に相殺を選択したのだから、それを取り下げない限り、相殺の抗弁が認められなくてもやむなえないと考えられる。他方、Aの訴えが反訴である場合には、2でもみたように、それが予備的反訴だとすれば問題は生じないと考えられる。なぜなら、その場合は弁論の分離が許されず、上訴審でも審理は共通にされるので、判決の矛盾のおそれや訴訟経済を害するおそれはないといってよいからである。そこで、参考判例①は、このような場合には、Aの反訴が当然に予備的反訴に変更されることになり、そうだとすれば二重起訴の禁止に該当しないと判示する(なお予備的反訴に変更することによるBの一部敗訴は、相手方の利益を考慮すると問題とする余地もあるが、この場合は実質的に相手方の不利益は考えられないので、同意は不要であろう)。やや技巧的な解釈ではあるが、1つの解決法ではあろう(同様に、最判平成27・12・14民集69巻8号2285頁は、本訴請求権が時効消滅したと判断されることを条件に、反訴における請求権を自働債権とする相殺の抗弁について、本訴の判断と矛盾するおそれはなく、審理も重複しないとして、その主張を認めている)。他方、本問のようなケース(①のケース)はやや事情が異なる。この場合には、Aとしては、最初に提起した訴訟が、Bが何らかの事情があって別訴の主張ではなく相殺(別訴または反訴)をしてきたので、相殺の担保的機能を活用して(とくにBの資力に問題がある場合が典型である)相殺を主張しようとしたもので、このような事態の発生についてAの責めに帰すべき事由はないように思われる。それにもかかわらず、相殺を許さないことはAに酷であろう。そこで、問題は結局、二重起訴の利益(判決の抵触防止・訴訟経済等)と相殺の利益(相殺の担保的機能)のいずれを重視するかの政策判断の問題となるように思われるが、参考判例①は、このような場合も二重起訴の趣旨が妥当として、相殺の抗弁は許されないと解した。しかし、1つのありうべき判断ではあるが、相殺の担保的機能(実体法の趣旨)をより重視する判断もありうるところであり、なお議論は続いている。なお、Bの訴えが反訴である場合(あるいはAの訴えとBの訴えの弁論が併合されている場合)、前述の趣旨からすれば、Aの訴えを何らかの形で予備的なものと理解し、弁論の分離を禁じ、上訴審も移審が強制されるとすれば、あえて二重起訴により規制する必要はないかもしれない。ただ、Aの訴えが反訴である場合は予備的反訴というテクニックが利用できたが、本訴である合には論理的に「予備的本訴」という概念がないため、問題をうまく処理する枠組みがないということになる(解除条件付きの訴え(本訴)の取下げが認められるかという問題となろうか)。困難な問題であるが、なお検討を要しよう(この点につき、本訴請求債権(自働債権)と反訴請求債権との間に密接な関係性がある場合に、弁論の分離が禁止され、二重起訴に当たらないとして部分的に問題の解決を図ったものとして、最判令和2・9・11民集74巻6号1698頁参照)。●参考文献●山本弘・争点52頁 / 内海博俊・百選74頁 / 内山衛次・百選78頁 / 重点講義(上) 140頁(山本和彦)