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弁論準備手続

Xは、Yに対し、家屋の建築工事に関する請負代金の支払請求訴訟を提起した。それに対し、Yは、Xのした工事の中には、Yが注文していないものが含まれており、それを差し引けばすでに本来の請負代金は全額支払っている旨を主張して争った。裁判所は、争点を整理する必要があるとして、事件を弁論準備手続に付した。(1) 弁論準備手続期日において、当初Yは、口頭のやりとりの中で工事内容にも言及した可能性はあるが、契約内容として明確に合意したものではないと陳述したが、後の期日ではそのような口頭のやりとりそのものを否定する趣旨に陳述した。弁論準備手続終結後の口頭弁論期日において、Yは、Xが弁論準備手続で述べた内容の逐語的な記録を主張として提出した。裁判所はこのような書証を認めるべきか。(2) 弁論準備手続終結後、口頭弁論期日の冒頭において、YはXがした工事の内容に瑕疵があるので、請負代金の減額を求める旨の主張を新たに追加した。Xは、そのような主張を弁論準備手続でしなかった理由の説明をYに求めたが、Yは説明を拒否すると述べた。裁判所は、この新たな主張をどのように扱うべきか。●参考判例●① 東京地判平成12・11・29判タ1086号162頁② 東京地判平成11・9・29判タ1028号298頁●解説●1 争点整理手続民事訴訟においては、当事者の主張しない事実は判決の基礎とできず、また当事者間で一致した事実はそのまま判決の基礎とされる(弁論主義)。したがって、一方当事者が主張し、他方当事者が争う事実が、判決の結論に影響する事実のみが証拠調べの対象となる。また、書証によって認定される事実や書証等から判断しておよそ認定しようとすることが不適切と考えられる事実については、人証による証拠調べの対象とする必要はない。そこで、訴訟を迅速な解決に導くためには、当事者間における争点が何かを明確にし、当該争点における証拠調べを中心とした証拠収集を計画的に実施するという点について、両当事者および裁判所の認識を一致させる作業が重要になる。これが争点整理の手続である。このような争点整理の手続が民事訴訟において重要であることについては、以前からコンセンサスがあった。しかし、現行法制定以前はこのための実務は極めて不十分なものであったことは否定し難い。争点整理のための手続として設けられた準備手続や準備的口頭弁論は実務ではほとんど用いられていなかった。その結果、証拠調べが行われた後に新たな争点が明らかになって当事者の主張があとで追加されたり、場合によっては判決の段階で新たな争点の存在に裁判官が気付き、不意な釈明がなされたりすることも稀ではなかった。このような実務の状況を改善するため、現行法制定の前後には、法律に規定のない運用として、争点整理手続が行われていた。これは、和解期日の中で準備書面の提出や裁判官の釈明などを通じて争点を整理しようとするものであり、広く活用されていた。しかし、明文の規定がなく、その運用は裁判所によって千差万別で、現行法制定に際しては、争点整理の手続が1つの中心的な課題とされたところである。その結果、現行法は、争点整理の手続として、個々の事件の特性に適した複数の手続を用意した。弁論準備手続、準備的口頭弁論および書面による準備手続である。これらは、ほとんどの場合を占めるのが弁論準備手続であるが(これについては、2参照)、準備的口頭弁論は訴訟代理の専門整理部門の手続を設けるものであり、公開法廷で争点整理を行う必要がある場合や争点整理の中で併せて証人尋問をする必要がある場合などに利用が想定されている。書面による準備手続は、ドイツ法などをモデルとした新規の形態であるが、書面の交換で争点整理を進めながら、場合により電話会議システムによる協議を利用する(当事者が遠隔地にいる場合に特に有用である)ことが想定されている(双方当事者が出頭しないでもウェブ会議による争点整理が実施できるツールとして、コロナ禍の中、その利用が増加した)。2 弁論準備手続の概要弁論準備手続は、前述した旧法の下の弁論準備と運用を取り入れながら、旧法の準備手続を改善したものである。当事者と裁判所が、争点および証拠の整理の必要があると考えるときは、事件を弁論準備手続に付することができる(168条)。手続の選択に当事者の意見を聴かなければならない(168条)。弁論準備手続の期日は、当事者の意見の聴取は必要はないが、当事者の一方の不出頭の場合の扱いが保障され(裁判所が相当と認める者および当事者の申し出た者の傍聴が許される(169条)。当事者の合意が必ずしも保障されないかった弁論準備期と異なり、率直な意見交換に不可欠とされる非公開の場面を正面から認めながらも、一定の者の傍聴も可能としたものである。弁論準備手続における審理については、裁判所の訴訟指揮、釈明、提出された者の弁論準備期日外でも(170条5項)、実際上は、弁論準備といった当事者と同じであるので、裁判官と両当事者・代理人が準備室に集まって自由に意見を述べ合うのが普通で、口頭のやりとりで争点が煮詰まっていくことを期待している。当事者が遠隔地にいる場合など裁判所への出頭が困難な場合には、いわゆる電話会議システムを利用した手続も可能とされる(同条3項・4項)。一方当事者が期日に出頭することが条件であるが、これによって、例えば、大阪の代理人が代理東京に移動するということでもできる(171条)。弁論準備手続は、主任裁判官や裁判長が受命裁判官として争点整理を担当することが多い。弁論準備手続が終結したときは、その後の証拠調べによって証明すべき事実を裁判所と当事者の間で確認しなければならない(170条5項・165条1項)。この「証明すべき事実」がまさにその訴訟における争点であり、この確認が争点整理の目的である。そして、当事者は、口頭弁論において、弁論準備手続の結果を陳述しなければならない(173条)。直接主義の要請であり、そのようにして争点とされた事項を明らかにする必要がある(民訴規89条)。そのようにして争点が整理された後に、争点とされていない事実に関する主張・証拠を提出しようとする場合であるが、そのような場合は、相手方当事者の求めがあるときは、弁論準備手続終結前に提出できなかった理由を説明しなければならないものとされている(174条・167条)。3 本問の考え方本問(1)で問題とされているのは、弁論準備手続における主張として、それを問題にした場合に、そのような経緯を証拠に提供できるか、という問題である。弁論準備手続の結果を提出する当事者の意図は、そのような主張が変遷すること自体、当該当事者の主張が信用できないことを示す点にあるものと思われる。しかし、前述のように、争点整理の円滑に、また実効的に行われるためには、当事者が口頭で活発なやりとりをすることが必要であるとして、そのためにある。ある一定の主張の主要な前提をなすものと考えられるからである。当事者(とくに代理人)は口頭でやりとりに慎重になり、すべての場面で文書を交換するという旧態依然たる訴訟形式に逆行するおそれがあろう。以上のようなことから、参考判例①は、「弁論準備手続は、当事者の主張や証拠の申立て等について当事者の角度から吟味しあい、主張・証拠(争点)を整理し、その後の審理を深めつつ、充実した審理を目的として行うところ、右のような訴訟活動は、当事者の弁論の自由を保障し、その不足を補うという目的を達するもので、そうでなければ弁論の目的を達するものでできなくなるおそれがある」として、そのような証拠は証拠としての適格性を欠くとしたものである。弁論準備手続のあり方に警鐘を鳴らすものであり、正当な態度というべきであろう。本問(2)において問題となるのは、弁論準備手続終結後の新たな事実の主張である。これについては、2でみたように、弁論準備手続において提出できなかった理由の説明を求める相手方の権利(「詰問権」)が認められる。この点は立案時に大きな論点とされた問題で、旧法の準備手続における失権効(原則として新たな主張ができないとする効果)を認めるべきとする見解もあったが、失権効を核心に、そのような厳格な効果を認めると、かえって弁論準備手続でさまざまな事実が主張され、争点整理が円滑に進まなくなるという意見もあったため、厳格な失権効にとどめたものである。ただ、相手方の求めにもかかわらず十分な説明をできない場合には、そのような主張・証拠は時機に後れた攻撃防御方法として却下される(157条)場合が多いと考えられ(157条の適用については、→問題25)、実際に弁論準備手続の審理の経過を考慮して、同条を適用したものとして、参考判例②などがある。本問では、Yは、Xの求めにもかかわらず、弁論準備手続において工事の瑕疵の主張をできなかった理由についての説明を拒否している。これは、民事訴訟法の規定に反する極めて不誠実な態度であり、それ自体当事者間の信義誠実の原則(2条)に反するといえる。そのような態度を考慮し、また工事の瑕疵の有無を新たに主張した場合、裁判所としては、その瑕疵の有無・内容および損害額等について、検証や鑑定を含めて多くの証拠調べを要するのでは明らかであり、同法157条の要件を満たす場合が多いものと解される。したがって、裁判所は、原則として、このようなYの主張は却下し、従前の争点整理の結果に基づき口頭弁論におけるその後の審理を進めていくべきことになろう。●参考文献●福井康太・争点140頁 / 山本和彦『弁論準備手続』ジュリ1098号(1996)53頁(山本和彦)