抵当権に基づく賃料債権への物上代位
Xは、2017年9月4日、Aに対して2億円を貸し付け、同債権を担保するために、A所有の賃貸用ビルに第一順位の抵当権の設定を受け、抵当権設定登記を備えた。中には、賃借人Yらが存在していたところ、Yらから得られる月額の賃料合計は500万円で、賃料は毎月前月末日までに支払うものとされていた。2018年9月4日、Aが定期利息の支払を怠ったため、Aに対して5300万円の債権を共有していたが、債権の回収に不安を感じた。そこで、2018年9月5日、BがAと交渉し、前記5300万円の債権に対する代物弁済として、同年10月分から2019年8月分までの中で甲の賃料債権の譲渡を受けた。Aは、Yらに対して、内容証明郵便で債権譲渡を通知し、これらの通知は2018年9月11日までにYらに到達した。Xは、国会の経済政策に大きな影響を与えたとして、Xは、2018年9月12日、抵当権に基づく物上代位権の行使として、AがYらに対して有する甲の賃料債権(ただし、管理費および共益費相当分を除く)に対して、本件抵当権に基づく支払期日に消滅金に充てるまでの部分を対象に、債権差押命令を申し立てた。差押命令は、9月18日までにYらに送達され、9月20日にAにXが送達された。Xが、2018年9月28日、最高裁(民集153巻2号・155条)に基づきYらに対し10月分の賃料の支払を求めたところ、YらはBへの債権譲渡の存在を理由に支払を拒否した。Xは、民法(193条2項・157条)を根拠とし、Yらに10月分および(代物弁済の効来する)それ以降の賃料の支払を求めることができるか。●解説●1. 抵当権に基づく賃料債権への物上代位民法372条は、先取特権に基づく物上代位の規定である民法304条を抵当権に準用する。それゆえ、民法304条1項本文を素直にみると、「抵当権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる」(物上保証人や第三取得者の存在を考慮し、「債務者」は「抵当不動産所有者」と読み替えられる)。しかし、抵当権と先取特権は性質を異にする判断である(たとえば効力の有無、333条参照)。特に抵当権設定契約に基づき、抵当権者が物上代位権を目的物について優先的に行使することを認めている議論があった。(1) 賃料債権への物上代位の可否抵当権は、目的物の使用・収益を抵当権設定者に委ねる非占有担保であり(目的物の交換価値のみを把握)、設定者の収益権限に介入することはできないとも考えられるため、抵当権に基づく賃料債権への物上代位を原則として否定する設定も考えられなくなかった。2003年改正前の民法371条によれば、目的不動産の差押(天災)後でなければ、抵当権の効力が目的不動産の果実には及ないとされていたため、それとの均衡から抵当権の実行としての目的不動産の差押後でなければ、賃料債権(法定果実)への物上代位を認める見解もあった。(2) 賃料債権を把握するための手段担保不動産収益執行は併行して申し立てる。抵当権者は、賃料債権から優先弁済を受けるべきである。不動産の所有権が第三者に譲渡され、管理人が選任され、不動産の所有権の管理および収益を専有し、第三者の部分が、抵当権者に劣後する(民事執行法188条・59条参照)。2. 抵当権に基づく物上代位と目的債権の譲渡との優劣(1) 判例の立場参考判例②は、物上代位の目的債権が譲渡され、譲受人が確定日付のある通知による対抗要件(467条)を具備した後に、抵当権者が目的債権を差し押さえた事案で、物上代位権の行使としての差押えと債権譲渡の優劣は、確定日付のある債権譲渡通知と差押命令の第三債務者への送達の先後によって決するとしている。(2) 差押えの意義について差押えは、物上代位の目的債権が譲渡された場合に、譲受人が確定日付のある通知による対抗要件を具備した後に、抵当権者が目的債権を差し押さえた場合に、抵当権者が物上代位権を行使することができるかどうかが問題となった。(3) 物上代位に対するその他の対抗手段物上代位の対象とされた目的債権に、賃料債権以外の債権(たとえば転貸料)は含まれるかという問題がある。そこでは、転貸料は賃料債権の履行として行われるものであるから、物上代位権の行使が問題となった。