補充送達と再審
YがAに金銭を貸し付け, X会社をその連帯保証人とした (AはX会社代表者の妻の父)。 Yは主債務者Aに直接返済請求, 連帯保証人Xには保証債務請求の訴訟を提起した (前訴)。 この訴状は同居するA・X会社代表者の妻に送達されたが, Yの受け取る訴状等はすべて同居するAが受領した。 AもXもこの訴訟の第1回口頭弁論期日に欠席し, 答弁書等も提出しなかったため, Yの請求を認諾する判決が言い渡された。 この判決書は, A・Xの住所に送達されたが不在でできなかったため, 付郵便送達 (107条〔→問題32〕。 裁判所書記官が書留郵便で書類を発送し, 発送簿に送達があったものとみなされる) が行われた。 AもXも控訴せず, 前訴判決が確定した。Xは, Aの連帯保証をしたことなどなく, AがXに無断でしたことだと主張して, 前訴判決の確定から2年後に, 再審の訴えを提起することができるか。●参考判例◎① 最決平19・3・20民集61巻2号586頁② 最判平4・9・10民集46巻6号553頁■解説●1 再審訴状や判決の送達は応訴や上訴により手続に関与する機会を知る重要な契機であるところ, 被告の知らないままに訴訟が進行し判決が確定した場合, 被告にはまず確定した判決に対する不服申立てとして再審が考えられる。再審とは, 原則として当該判決を下した原裁判所に自判の誤り (340条1項), 当事者が判決確定後再審事由を知った日から30日間に (342条1項), 確定判決の取消し・変更を求める不服申立てである。 確定判決に対するものであるから, それなりの厳格な要件がある。 確定判決であっても放棄できないほど重要な瑕疵として再審事由が規定されている (338条1項各号)。再審事由は, 再審事由の存在が確定されれば再審開始決定をして (346条), その決定が確定した後はじめて本案再審手続に入れる (348条)。 再審事由が認められない場合には (再審) 請求棄却決定の形で終了される (345条2項)。 この決定に対しては即時抗告という形で不服申立てができる (347条)。 抗告には, 決定に対する上訴であり (328条以下) [→問題22], 即時抗告は裁判の告知を受けた日から1週間以内にしなければならない (332条)。 なお, 即時抗告を受けた高等裁判所の決定に対し, さらに不服がある場合, 最高裁判所への許可抗告の可能性もある (337条)。 現行法は上訴制度改革 [→問題31]の1つとして, 重要な法律問題について高等裁判所の判断が分かれているような場合に法令解釈の統一を図るため, 高等裁判所の決定のうち重要な事項を含むと認められるものに向け, 原高等裁判所の許可を得て, 最高裁判所に特別に抗告を許す制度を創設した。 参考判例①も許可抗告事件である。 すなわち, 補充送達が有効であるから再審事由はないとした第1審の再審請求棄却決定に即時抗告がなされ, その抗告を棄却した原審決定に許可抗告がなされた事件である。以下では, 本問のよう場合に再審事由を満たしているかどうかを検討するため, まず送達が有効かどうかから確認していこう。2 訴状や判決の送達—補充送達民事訴訟法では上記のような訴訟書類は裁判所の責任で送達する職権送達主義を採る (98条1項)。 送達はまず送達場所を証明期間などをほぼ無効で直接の送付 (直送) をする (令和4年民事訴訟法改正により、 まずは送付を試みることが原則—問題32・図)。 送達事務は書記官が扱い, 通常の実施は郵便配達人が, 原則は送達すべき書類を送達を受けるべき本人に住所や事務所などで直接交付する (交付送達, 101条)。 住所などで本人に会えないときには, 家族や従業員などで「書類の受領について相当のわきまえのあるもの」に交付することもできるし (補充送達, 106条1項), これらの者が正当の理由なく受取を拒否する場合には送達すべき場所に書類を置いてくることも許される (差置送達, 同条3項)。 補充送達も差置送達もできない場合に許される方法として前述の付郵便送達 (107条 [→問題32]) のほか, 公示送達 (110条~113条) [→問題62] もある。 本問では, A宛の訴状等をAに交付するのかX宛の分をXの代表者妻に補充送達されたのであるが, 補充送達による102条1項や用される (民事訴訟法による102条1項)。 その同居人Aに交付するのが補充送達となる。 問題となるのは後者である。補充送達という 「相当のわきまえ」 (106条1項) とは, 送達の趣旨を理解して交付を受けた書類を受送達者に交付することを期待することができる程度の能力のことである。 具体的には従来10歳以上の者につきこれを肯定する裁判例があり, 参考判例①では9か月の児童につき否定した (訴状送達が無効とされた)。また, 受領資格者である同居者等 (本問のA) は書類受領限での受送達者 (本問のX) の法定代理人とみなされ, 訴訟関係の書類を受け取る権限があり, 訴訟追認の相手方当事者である場合には, 又は代理権 (民108条) の趣旨から補充送達は無効である。 ただし, このような法律上の利害対立はなく, 本問のように送達書類の訴訟について同居者が受送達者Xとの間に事実上の利害関係の対立がある場合, 補充送達は無効か。 この問題につき下級審判決で有効・無効の分かれた判断があるようだが, 受送達者であるべき者にとって有利・不利で判断する。 補充送達制度の趣旨は送達を確実・迅速に行い, 訴訟手続の安定を図るとする。 制度の趣旨は送達を受けるべき者に送達書類を確実に届けることによって, 当事者間の利益調整を図り, 手続の安定を確保するところにある。 したがって, 受送達者と同居者等との間に実質上利害対立があるため, 同居者等が送達書類を受送達者に届けず, 受送達者が応訴の機会を失うおそれがあるような場合には, 補充送達は許されないと解される。 このような立場の判決は, 無効である。 その判断については, 当事者間の実質的な利害対立関係の有無が補充送達の効力を決めることになる。 参考判例②は, 当事者間の対立が激しく夫名義のクレジットカードで買物した立替金の返還請求を, 信販会社が提起し, その訴状を妻が受け取ったというケース (受送達者である夫と妻の間に事実上の利害関係の対立あり) で, 判決送達について補充送達は無効との判断をした。 さらに本問の参考判例①が補充送達を無効とすることを明確にした。なるほど送達実施機関が同居人等につき事実上の利害関係の対立を判断しなければならず, 補充送達は困難になるから, 判断のように事実上の利害関係にかかわらず送達を有効とすることもやむを得ない。 ただし, 実務の工夫として, 訴え提起時に受送達者の同居人に等に事実上の利害関係の対立があることが書記官にわかったときは郵便配達人に補充送達を本人に交付するよう要請すべきではないか, といった提案はある。 さらに, 送達事務として適法でも、 原告と被告の間では送達を無効とすべき場合があるのではないか, という問題も提起されている。3 再審事由では, 上記のとおり本問で送達が有効である以上, Xは再審を提起できないのだろうか。従来, 訴訟手続に瑕疵があって訴訟関係書類が当事者に届かず, 訴訟に関与する機会がないまま敗訴した場合, 「法定代理権, 訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと」 (338条1項3号) に当たると考えられてきた。 再審事由は, 従来, 判例学説でそれをきたが, このように一定の限度で送達理解や制度理解を認めるのが現代の判例・通説である。 この3号再審事由は, 代理人がいる場合を前提とするが, 代理人がいない場合にも, さらに当事者から手続に関与する機会が実質的に奪われてきた場合も代理権の欠缺と同様として, 類推されるようになっている。 参考判例②も, 上記のように受送達者の幼い子に交付された訴状の送達が無効であり, 有効な訴状送達がないために被告が手続に関与する機会を与えられなかったのであるので, 当事者の代理人として訴訟行為をした者が代理権を欠いた場合と同じであるとして, 再審を認めた。しかし訴状送達も有効な本問の場合はどうなるだろうか。 参考判例②は, 訴状は適法だが, 判決は事実上の利害対立がある妻が受け取ったケースだったので, 訴状送達の無効から3号再審事由を適用した。 そこでそのケースを認める前提として, 判決は確定しなければならないからである。 利害関係の対立がある妻に交付した判決送達は有効と判断した。 そうだとすると, 訴状の補充送達が事実上の利害対立のある同居者になされ, 訴状送達が有効である場合も3号再審事由を認めることができるかが問題とされていたところ, 参考判例①は送達の効力と切り離して, 民事訴訟法338条1項3号の再審事由を認めた。 すなわち, 受送達者と同居者にその訴訟につき事実上の利害関係の対立があるために同居者が受送達者に訴状を速やかに交付することが期待できず, 現実に交付されなかったときには, 受送達者が訴訟手続に関与する機会を与えられなかったことになる, と。以上から, 本問でもXは民事訴訟法338条1項3号の再審事由を主張して, 再審を提起することができよう。 この場合に前述①の再審期間の制限はないから (342条3項), 本問のように判決確定後2年での再審提起はもちろん, 5年以上経過していてもよい。4 残された課題参考判例①のとおり, 3号再審事由が送達の有効性と直結せず, 当事者に保障さるべき手続関与の機会が与えられていたかどうかにより判断されるとすると, 今後これをどの程度拡張して判断するのかが問題とされている。補充送達では, 同居者等が感情的な対立から, あるいは単に失念して受送達者に訴状が交付されず, そのまま判決されて確定した場合にどう評価すべきか。 原告にも裁判所にも責任がなく, 被告が訴訟関係書類について知る機会がないと類型化できるような場合でない。 このような偶然の事情は3号再審事由に当たらないと考えられている。 別居して妻に訴訟関係書類が交付され夫が再審請求したケースで, 訴状送達に関する利害対立が認められないとして送達は有効, 再審請求は認められないとした裁判例もある (東京高判平21・3・31判タ1298号309頁)。 夫は妻子の心理的負担をも主張したが, 本問のように訴訟追認について夫を補助した妻に送達関係書類を(したというような利害対立の要求されている。また判例は公示送達の運用についても3号再審事由を認めていない (→問題22)。 公示送達制度自体, 送達名宛人の送達ができない場合の措置であるから現実に送達されないことの織り込み済みである。 また, この場合には上訴 (控訴) の追完による救済が認められてきたこともある。 再審が認められない原因となっている。 これによれば, 当事者が自分の責めに帰し得ない事由により不変期間を遵守できなかった場合に, 判決確定後でも訴訟を知ってから1週間以内に控訴ができる (97条1項)。 そして上訴の追完が認められる場合, 再審することはできない。 再審は上訴に対して補充的地役権に置かれているから, 再審事由をすでに先の上訴手続で主張していたか, その存在を知りながら上訴しなかった, 上訴審で主張しなかった場合には, 再審は認められない (再審の補充性, 338条1項ただし書)。 これに関しては, 1週間という期間制限なく, 元の第1審裁判所に提起し得る再審を認めるべきとの反対説がある。 実は, 参考判例②でも, 判決送達が有効と解すると, そこで受送達者も再審事由を主張したと解釈され, 再審の補充性から上訴の追完しか認められないとの疑問もあった。 現に再審を許さなかった, 参考判例②は再審事由を現実に知できなかった場合には民事訴訟法338条1項ただし書は適用されないとしたのである。なお, 2の最後の段落の通り, 送達事務として適法でも, 原告が被告の住所を知りながらまたは必要な調査を欠いたまま実施された公示送達のように, 原告被告関係で訴訟係属の要件としての送達は違法・無効として, 3号再審事由を認めようとする学説もある (公示送達を無効とし3号再審事由を肯定した判例として札幌地決令和元・5・14判タ1461号237頁)。●参考文献◎山本弘 『民事訴訟法・倒産法の研究』 (有斐閣・2019) 339頁/高田賢治・百選82頁/和田吉弘・百選230頁(安西明子)