固有的必要的共同訴訟の成否
X₁~X₁₀ によれば,X₁らと Z₁~Z₁₀ はこの土地を入会地とする入会集団の構成員である。本件土地は,(権利能力なき入会集団の名義では登記できないため) Z₁の名義で登記されていたが,後に Y が,本件土地を Z₁ から買い受けたと主張するようになった。このような事情から本件土地が入会地であるか,Y の所有地か争いがあるため,X₁ らが訴訟を提起して Y に対して土地の入会権を確認しようとした。しかし,Z₁ はもちろん,Z₂~Z₁₀ も訴訟を提起することに同調しない。この場合,X₁ らは自分たちだけで,同調しない構成員を原告に入れずに,入会権を有することの確認を求めて訴えを提起することができるか。できるとすれば被告として相手取ればよいか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判平成 20・7・17 民集 62 巻 7 号 1994 頁② 最判平成 11・11・9 民集 53 巻 8 号 1421 頁[⚫] 解説 [⚫]1 固有的必要的共同訴訟か所有権関係訴訟は固有的必要的共同訴訟かーー実体法的な考え方ですでに問題63で述べたとおり必要的共同訴訟では合一確定のため必要的全員が当事者 (規律 40 条) を受ける「類似必要的共同訴訟でも受ける) 上,関係者全員が当事者となっていなければならないという訴訟共同が必要とされる。そして固有的必要的共同訴訟とされるのは,①他人間との法律関係に変動を生じさせる訴訟の場合 (例えば取締役の解任の訴えでの当該取締役と会社,会社 855 条),②数人で管理処分・職務執行することになっている場合 (例:数人の受託者の信託財産関係訴訟の数人の受託者,同一選定者から選定された数人の選定当事者) と,③共同所有形態における紛争に関する訴訟である。通説は,③の共同所有関係を共有 (持分があり,処分権は共同でなくてよい) と合有,総有に分け,さらに合有における保全行為や処分権・職務といった実体法上の規律と併せて固有的必要的共同訴訟かどうかを決めるようとする。すなわち,総有や合有の場合は権利者が共同して1つの権利を処分しなければならないので,その財産に関する訴訟は原則として固有的必要的共同訴訟とされる。本問の入会権は,一定の村落住民に属するので,入会権確認の訴えは入会権者全員が共同してのみ提起できるとされる (最判昭和 41・11・25 民集 20 巻 9 号 1921 頁)。ただし,団体に当事者能力が認められること (29 条) を前提に,一定の場合に入会集団が原告となれるとした最判がある (最判平成 6・5・31 民集 48 巻 4 号 1085 頁がある [→問題 21])。これに対して,入会権者各人の使用収益権の確認および収益権に基づく妨害排除請求訴訟は,固有的必要的共同訴訟でなく,各入会権者が個別に提起できるものとされている (最判昭和 57・7・1 民集 36 巻 6 号 891 頁)。以上のような実体法上の管理処分権能に従って固有的必要的共同訴訟の範囲を決めようとするものであり,実体法説といえる。2 固有的必要的共同訴訟における訴訟追行本問の入会権確認訴訟は固有的必要的共同訴訟に当たるので,関係者全員が当事者となる訴訟共同の必要がある。こうすると,訴訟に参加しなかったり,訴訟追行の利益に影響を受け,裁判を受ける権利を奪われずにすむし,もし関係者の間でバラバラに訴訟をすること認めた場合の判決の矛盾,相手方の応訴の負担を防ぐことができる,とされる。しかし反面,一部の関係者の関係が漏れていた場合,例えば数百名もの入会権者のうち1人が抜けていたことが判決言渡し直前に判明した場合でも,当事者適格が認められず訴え却下となる。また,本問のように原告側で共同訴訟に賛成しない者がいる場合,訴えが提起できないという問題が生じかねない。そこで学説においては,実体法説 (前述 1) のような総合判断による総合的個別訴訟によって個人の利益を保護し,判例も,訴訟追行を重視して訴訟が提起されても当事者適格があるとみる場合がある。訴訟が提起できず裁判を受ける権利を奪われてはならない。した。そして,①訴え提起に同調する者のみの訴え提起を認めようとする説も主張された。しかし,固有必要的共同訴訟の範囲を広く広げると,本問では Z₂ らのような同調者が訴訟に関与する機会が奪われ,事実上のものであっても,自分たちの関与しない判決の効力,影響を受けることになりかねない。そこで,固有的必要的共同訴訟の範囲を維持し,その手続的メリットを生かしながら,共同原告となることを拒む者は,被告に回して提訴することを許すという考え方が主張されるようになった (重点講義 I 36 頁など)。この考え方によれば,本問では X₁ らは Y のほか Z らも被告に加えることにより訴えが提起できる。被告は全員当事者として手続関与の機会を与えられることになる。このほか,学説においては,構成員それぞれの訴訟の自由を認めようとの立場から,訴訟告知 (53 条) を活用して非同調者に訴訟係属を知らせれば,Xらだけで原告となれるとする説などもある。3 判例の展開——非同調者を被告に加える方法の許容判例は,もともと実体法説 (前述1) によりながら,固有的必要的共同訴訟の範囲を狭め,個別訴訟を許そうとする方向をとっていたが,実体法的に固有必要的共同訴訟に当たるとした類型では,やはり全員が加わなければ原告適格がないとしていた。具体的には,共有地と隣地との境界確定の訴えにおいて,15名の共同所有者のうち1名が行方不明でありかつ被告の兄弟である事案で,この訴えは固有的必要的共同訴訟であり,1名欠く訴えは不適法とした (最判昭和 46・12・9 民集 25 巻 9 号 1427 頁)。しかし後に,同じ共有地の境界確定訴訟で,これが固有的必要的共同訴訟であるとした上で,学説ののように,非提訴共同権利ないし者は被告に回して訴えを提起してよいとした (参考判例②)。ただしこの判例では被告側は形式的形成訴訟である (実質的に行政訴訟で,訴訟ではない) 点が強調されていたため,他の場合にも被告に回す方法が認められるのか疑問がもたれていたところ,最高裁は,本問に即した入会権確認訴訟は固有的必要的共同訴訟であることを前提に,一部の者が原告となった入会権確認訴訟は不適法とした第1審・第2審を覆し,提訴に同調しない者を被告に回すことを認めた (参考判例①)。この判例は,入会集団の構成員のうちに提訴に同調しない者がいる場合でも,入会権の存否について争いがあるときは,民事訴訟を通じてこれを確定する必要があるとして,入会権の存在を主張する構成員の訴権を保護するという見地から,非同調者の被告化を認める。そして,被告であっても構成員全員が訴訟の当事者に加わっていれば,その訴訟の判決の効力を入会集団の構成員全員に及ぼしてもよい,入会権確認訴訟を必要的共同訴訟と解釈した最判昭和 46・12・9 も,非同調者の被告化の方法を否定してはいない,として訴訟政策的観点を鋭く示している。ただし,判例は確認訴訟で被告化を認めただけであり,給付訴訟でどうなるかには触れていない。また非同調者の被告としての地位をどのように捉えるのか,この訴訟の構造について説明しておらず,残された問題は多い。4 被告化された非同調者の地位提訴に同調しない者の被告化は確認訴訟以外に給付訴訟でも認められるか。参考判例①によると,この確認訴訟において,X らにはまず Y に対して入会権確認請求をしているほか,Z らに対しても X らと Y の間の内部訴訟に自分たちが原告権をもっていることを確認しているとみられる。一方,給付訴訟を考えてみると,例えば本問で Y が土地所有権の移転登記を済ませていた場合,X らが Y に対して,その抹消登記手続を求める請求は成り立つが,Z らに対する請求は考えにくい (せいぜい立てれば,X らと Y の間で X らが Y に登記手続請求権をもつことの確認請求)。したがって判例の射程は確認訴あののみとされている。これに対し,学説は,Z らに対して訴訟で判決を立てる必要はないとして,給付訴訟においても同様に Z らを被告に回した訴訟を認め,Z らを「請求なき当事者」と捉える。次に,判決の効力が Y に及ぶの (主観的範囲) も問題となる。Y と Z らの間には請求が立てられていないので,ここには請求認容や棄却ということになるが,それでよいか。例えば本問で X らが勝訴を勝ち取れば,判決が確定した場合,X らと Y・Z 間では入会権の不存在に既判力が及ぶが,後に Z らが Y に対して入会権の確認を過ごすことは既判力によって封じられないのではないか (逆に X らの請求棄却判決確定後の Z らから Y に対する同じ土地の所有権確認も封じられない)。これを避けるため,学説は請求が立っていなくても Y・Z ら間に既判力等の拘束力が及ぶと考え,例えば Y から Z らへ矢印の請求に請求が立っていなくても,1つの中心をもって X ら・Y・Z らが当事者として関与して審理がなされていれば判決効も及ぶとするのである。さらに,提訴に同調しない者の自由をどう考えたらよいか。本問のように集団の中で提訴に同調しない者のほうが多数である場合は提訴すべきでない,という見方もあるかもしれない。しかし,このような多数決による処理は理論的でない。提訴しない者が大きい割合を占めるとする,提訴の可否は単なる反対利益だけではないとみて,学説は1名での提訴 (他の構成員全員を被告に回す) も可能とする。参考判例①も少数派原告による提訴を認めた。ただし,b提訴拒絶者が提訴時期を遅らせる限りはその利益があるとして,このような場合には一部の原告による訴えを却下すべき,としている。そうするとしかし,現段階の提訴が適切かどうかを,原告弁護士でなく裁判所が判断することになるが,それでよいかといった問題も生じてくる。そもそも固有的共同訴訟とせず,個別訴訟を許すべきではないかという問題にさかのぼる。[⚫] 参考文献 [⚫]重点講義II 329 頁/鶴田・争点 70 頁/棚橋・百選・百選 192 頁(安西明子)