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争点効

Xは、自己の所有する建物(本件建物)をYに売り渡しその旨の登記も経たが、約定の明渡期日に至っても本件建物を明け渡さなかった。そのため、Xは、売買の完済表示によるものであるので売買契約を取り消すとして、Yに対し、所有権移転登記の抹消を求める訴え(第1訴訟)を提起した。他方、YもまたXに対し、本件建物の明渡しを求める訴え(第2訴訟)を提起し、Xは売買契約の詐欺による取消しを抗弁として提出した。審理の結果、第2訴訟につきYの主張する詐欺の事実は認められないとしてY勝訴の判決が先に確定したが、その後、第1訴訟についてXの主張する詐欺が認められX勝訴の判決が言い渡された。第1訴訟のXの勝訴判決に対し、Yは上訴をし、Xの詐欺による取消しの主張は第2訴訟においてすでに排斥されており、本件建物がYの所有であることは確定していると主張したが、この主張は認められるであろうか。●参考判例●最判昭和44・6・24判時569号48頁最判昭和48・10・4判時724号33頁最判昭和55・7・3判時1014号69頁●解説●1 既判力の客観的範囲既判力の客観的範囲について定めた民事訴訟法114条1項によると、裁判所が下した判断であってもそれが判決理由中の判断にとどまる限りは既判力は生じない。法が判決理由中の判断に既判力を認めないこととした理由は、以下の点にある。第1に、当事者の手続保障の処理としては、現に当事者が判決による処理を求めた訴訟物たる権利・法律関係についての判断にのみ拘束力を認めれば必要十分だからである。第2に、判決理由中の判断の対象となる当事者の主張や証拠活動との関係においては判決理由なのであるからなおざりにするはずはない。このことからは、判決理由中の判断に既判力が生じないとすると、当事者は1つひとつの争点につき深く争わずあるいは積極的に自白をするといった自由かつ柔軟な訴訟活動を展開することができ、訴訟物に集中した柔軟な判断活動が可能になるからである。このことは、裁判所としても審理の省力・変更・消滅という実体法上の論理的順序にこだわらずに、訴訟物の判断を最も直接かつ簡便に導きうるような訴訟指揮をすることができようということを意味する。しかしながら、判決理由中でなされた判断とはいえ、前訴において一度は裁判所によって認定された事実が後訴との関係において何らの拘束力を有しないというのは、常識的にみても不自然であると同時に、紛争解決の一回性という訴訟の目的にも反する。しかも、当事者が前訴において判断の対象として一定の拘束力を生じさせざるべきではないか、といった問題意識が生じてくる。2 争点処理論上述のような問題意識に対し、法は、すでに係属中の訴えにおける訴訟物の前提となる先決的法律関係の確認を当該訴訟手続内で求める申立てを認めている(中間確認の訴え。145条)。本問においても、XなりYから第2訴訟係属中に、本件建物の所有権の存否の確認を求める中間確認の訴えが提起されていれば、建物の所有権の存否についてなされた裁判所の判断が第1訴訟に作用することから、本問のような事態は生じなかったといえるが、これはあくまでも当事者から中間確認の申立てがなされていた場合に限られる話である。そこで学説の中には、訴訟の趣旨に重要な意味をもつ先決的関係につき両当事者が真剣に争った場合には、選択的、予備的に争う場合を除き、中間確認の訴えの黙示の意思表示があったと扱って、先決的法律関係についてなされた判決理由中の判断に既判力を認めるべき、とする見解も唱えられている(坂原正夫「民事訴訟における既判力の研究」〔慶應義塾大学法学研究会・2000〕121頁以下参照)が、黙示の訴え提起という説明はいかにも技巧的にすぎるようである。他方で学説においては、判決理由中の判断についても何らかの拘束力を認めようとする考え方が模索され、その1つの代表的な見解として争点効理論が提唱された。争点効とは、前訴において当事者が主要な争点として争い、かつ裁判所がこれを審理して下した当該争点についての判断に生じる通用力で、同一の争点を主要な先決問題として争う後訴の審理において、①当事者がその判断に反する主張・立証を許さず、裁判所は自縛する効力を認め、②当事者がその判断を前提とすることを原則とする。理論による。争点効発生の要件は、①前訴請求と後訴請求の当事者の同一性、②前訴と後訴の主要な争点となった事項についての判断であること、③裁判所がその争点において実質的な判断をしたこと、④前訴と後訴の利益状況は同等である、⑤前訴の係争利益がその重大性において当事者が提出すること、の5つである。争点処理論がその正当性を真に備えた信頼の具体的内容としては、既判力の客観的範囲を限定した趣旨を維持しつつ、判例が掲げる手続上の公平の機会を保障するといった判例を前提に利用した以上、それに尽きる。この争点処理論に対する学説上の評価としては、実定法上の根拠を欠くにもかかわらず判決理由中の判断に拘束力を認めることについては問題がある、として消極的な見方も主張されてはいるが、今日ではこれを支持する見解のほうが多いといえる。もっとも、争点処理論に肯定的な見解も、争点効と訴訟物論との関係についての見直し、争点処理論を基礎としてその要件の定式化・具体化を追究する方向(適用要件説)と、信義則の具体適用の問題であるかを重視して信義則における正当な証拠の提出の効果を認める方向(信義則説)とに分かれる。他方、判例は、既判力およびこれに類似する効力(いわゆる争点効)を有するものではないと判示し、参考判例①から③にみられるいずれにおいても、理由を問くとに挙げることもなく争点処理論を明確に否定する。