東京都、神奈川県、埼玉県、大阪府、滋賀県で離婚・男女問題にお悩みなら
受付/月〜土10:00〜19:00 定休日/日曜・祝日
お問い合わせ
ラインお問い合わせ

信義則による後訴の遮断

故Aが所有していた本件土地につき自作農創設特別措置法による農地買収処分(※注)がなされ故Bに売り渡されたが、Aの相続人XはBの相続人Yに対し、買収処分は実質的なものであり、Bの本件土地を占有しないXに買収処分する方途としてAとBとの間で仮装契約が締結されたとして、所有権移転登記請求訴訟を提起した(前訴)。審理の結果、裁判所は買収処分は有効なものであって、X・B間において売買契約が成立したという事実は認められないと認定し、Xの請求を棄却した(その後、前訴判決は確定した)。その後、Xは買収処分の無効を理由として、Yに対し、土地上の工作物を収去するよう訴えを提起した(後訴)。この後訴は、買収処分から20年が経過して提起されたものであるとして、このような後訴請求は、前訴判決と抵触するので許されるものであろうか。(※注)第2次大戦後、農地制度の民主化を図る目的で、政府により、不在地主や大地主等の所有農地を強制的に買い上げ、耕作者に対する売渡しが行われた。●参考判例●最判昭和51・9・30民集30巻8号798頁最判昭和59・1・19判時1105号48頁●解説●1 判決理由中の判断への拘束力既判力の客観的範囲については、前問でみたように、判例はこれを主文に示された権利・法律関係の存否(訴訟物)の判断に限定しており(114条1項)、判決理由中で示された判断については、前訴についての判断の外にあるものの(同一訴訟)と、既判力は生じないと解している。しかしながら、判決理由中において一度は裁判所によって認定された事実が後訴との関係において何らの拘束力を有しないというのは、判然としない。うので、紛争解決の一回性という訴訟制度の目的を十分に果たしえず、実質的には同一紛争と思われるような紛争の蒸し返しを引き起こしかねない。本問に即し実質的にみると、前訴の訴訟物は土地所有権に基づく返還請求なのであるのに対し、後訴の訴訟物は明渡請求であり、訴訟物を異にするものであるのではあるが、両訴とも確定判決の既判力が同じく、しかも、前訴・後訴が実質的に同一紛争というのであれば、前訴判決の理由中で示されるものであり、この部分は抵触はしない。かかる問題意識から、学説においては、判決理由中の判断にも何らかの拘束力を認めるべく、争点処理論(→問題48)、既判力の拡張(後述)といった主張された法理を前提に訴訟物を判断する(同一訴訟)必要性が強く説かれてきたが、それらが判例の容れるところではなく、別の訴訟物を構成するものとしても、後訴の請求は前訴の判決で目的としており、これをくつがえすものである。仮に、訴訟物は固定的でなく、反訴、訴えの変更として性質を兼ね備える、教示、再度の提出により変動するものであり、また先占的法律関係の優越を順次構成的要件とするものであるとの見解を前提とすると、上記のような見解も可能となり、中間確認の訴え(→問題48)といったさまざまな考え方が提唱されてきたものであるが、判例の採用するに至るところではない。2 信義則による後訴の遮断争点処理論を否定した最高裁判例(最判昭和44・6・24判時569号48頁)、同じ事件が紛争の長期化をもたらしたことについても批判的評価が多かった。その後実質的にみて後訴が前訴の紛争の蒸し返しとみられる場合には、信義則によって遮断するという処理を確立するにいたっている(→問題48)。3 本問に即して本問における第1訴訟の訴訟物は所有権移転登記請求権であるが、第2訴訟の訴訟物は本件建物の明渡請求権である。本件建物の所有権がX・Yのいずれに帰属しているか、第2訴訟に共通する主要な争点であるが、第2訴訟において裁判所によってなされた、その主張する詐欺の事実は認められないとの判断は、判決理由中で示される判断でありこの部分には既判力は生じない。それゆえ、第1訴訟につき裁判所がX勝訴の判決を下すことも、既判力を問題とする限り何らさしつかえないことになる。しかしながら、同一建物について、その登記はXに移転せずにYに移すというのでは、本件建物の所有権をめぐるX・Y間の紛争は少しも解決されないことにならない。参考判例①もこのことを意識したせいか、建物の所有権の存否については第3訴訟(所有権確認の訴え)を提起すればよいと判決文の中で示唆している。このように紛争解決手段は、まず解決までの費用と時間を費さざるを得ないだけでなく、仮に第3の訴訟でXが勝訴しXの所有権が確認されたとしても、将来、Yの訴訟追行は執行妨害となろうか。XはさらなるYに対して家屋の明渡請求訴訟という第4の訴訟の提起を余儀なくされるが、これは第2訴訟におけるY勝訴判決の既判力と矛盾せざるを得ることになり、実際問題として裁判による紛争解決が果たされないという事態に陥る。これに対し、争点処理論による場合には、訴訟の進行を阻害する、関連する第1訴訟と第2訴訟の一体的な紛争解決が図られることになる。その後実質的にみて後訴が前訴の紛争の蒸し返しとみられる場合には、信義則によって遮断するという処理を確立するにいたっている(→問題48)。3 信義則によって遮断される対象実質的にみて前訴の蒸し返しともいうべき後訴については信義則により遮断されるという考え方になった場合であっても、遮断される対象は何かという問題がさらに生じる。すなわち、後訴における請求レベルでの遮断がなされると考える場合には後訴は訴え却下という扱いがされるのに対して、主張レベルでの遮断がなされると考える場合には後訴については本案判決(前訴において敗訴した当事者が前訴において蒸し返し的な主張を行った場合には請求棄却となろう)が下されることになる。そもそも、実質的にみて前訴の蒸し返しともいうべき後訴を排斥するには必ずしも請求レベルで遮断しなくても、主張レベルでの遮断で十分である場合が少なくない。本問においても、Xの後訴請求そのものを訴え却下として遮断しなくても、後訴請求の先決的法律関係である所有権、あるいは買収処分の無効の主張を信義則に反するものとして遮断すれば、結果的には後訴請求の棄却を導くことが可能である。しかも、当事者が前訴において主張・立証を尽くした上での変動により後訴請求をすることができるのであれば、当事者責任に基づく遮断をやや緩やかにする。しかし、主張レベルでの遮断が可能な場合には、請求レベルでの遮断は避けるべきといえる。