契約締結の際の「説明義務違反」
2025/09/03
Aは所有する工場増築の計画をすべく建築業者B社に仲介を委託していたところ、BはAが設計業者Dを推薦したので、Dが紹介した「信頼できるので購入したら」と勧められ、Bを介してAから申込金を受領し、Bも購入を促した。その後、Aは建築士CにBから土地の有効活用を目的として建築計画を勧められ、Cは土地に十分な地質調査分析からなる建物を建設して賃貸部分の賃料収入でDからの融資を返済するプランをDから提案され、後に、そのプランを前提にした建築計画をDから同時に、設計料をCから受け、Cは、増築の建築費用をDからさらに借り受け、CとDとの建物建築業務契約を締結した。ところがその後、甲土地の土壌に化学物質による汚染が判明していると判明し、その除去に巨額の費用がかかることを認識して、Bは専門の技術者を投入してAにB自らにお金がかかると伝え、仲裁判断時に、Cに損害賠償の相談も受けなかった。また、当プランでは、Cの建築計画をDに提出した後、甲地の一部を競争相手のEに売却して自己の資金の一部を回収する予定であったため、この方法では内部の購入者がCに同様に巨額の建築費用がかかる可能性があり、結局、そのような内部の事情はCは建築確認後、実現しなかった(EはCの建築基準法上の問題を認識していた)。CはA・B・DおよびEに対してどのような損害賠償を請求することができるか。●参考判例●① 最判平23・4・22民集65巻9号1405頁② 最判平18・6・12判時1941号94頁① 最判平15・9・12民集57巻11号1887頁④ 最判平16・11・18民集58巻8号2225頁●解説●本問の争点は、①甲地の土壌汚染について、原告の売主Aおよび不動産仲介業者Bに説明義務があるか、②建築基準法上の問題について、原告の建築士Dに説明義務があるか、③甲地の売買と乙建物の建築に関して融資したDからみてAとBに説明義務を負うか、④Eに説明義務がある場合にどのような損害賠償が認められるかである。1 説明義務とは契約当事者は、自己の利益の原則から、契約の締結を左右する判断に必要な情報を提供することを相手に求める権利がある。しかし、とりわけ消費者に情報格差が生じることがあり、自己決定の前提として実質的な対等性を確保する観点から、相手方に情報を提供する義務が信義則上課せられることがある。これとは別に、契約上の給付義務に付随する説明義務としての説明義務もある(最判平17・9・16判時1912号8頁)。説明義務(情報提供義務ともいう)は、情報がまったく提供されていない場面だけでなく、正しい情報を提供すべきであるという意味で、不正確な情報が提供された場面でも観念される。裁判例では、保険会社の担当者が顧客に対して損害賠償責任を定めた条項を説明すべきであったにもかかわらず、フランチャイズ取引、不動産取引等で問題とされ、平成29年民法改正では当初、説明義務の明文化が検討されたが、コンセンサスを得られずに見送られた。2 法的性質および要件・効果説明義務違反が契約上の過失の1つと位置づけられてきた経緯もあり、これを契約上の義務と構成する見解もあるが、不法行為法上の注意義務と構成する見解もある。また、かつては、主として契約締結上の注意義務を重視するに足り、契約締結前から、信義則における信頼関係の法理という立場に立って、それを対人的な信頼関係に基づくものと構成した判例もある。しかし、近時、判例は契約交渉のその間接的な性格を否定し(すなわち、この義務の発生が契約の締結を前提としないことを明示)、それを不法行為法709条(民法100条)が適用される信義則上の注意義務と位置づけ、他方で、これを媒介した不法行為責任については(最判平23・3・22)「契約準備段階における一方の当事者の過失によって他方に損害を被らせた」との理由から不法行為責任を肯定するにとどめ、信義則上の注意義務違反を理由とする損害賠償請求権については契約締結に至らなかったようなケースで、むしろ今日、実際に重要なのは、その対人的な性質・効果である。(1) 要件説明義務違反の対象事実は、「契約不適合」(562条1項)に限定することができうるような契約の「目的」の内容に関わる事項であり、契約(目的)の内容を構成するに足らない事情も、適切な説明であれば契約を締結しなかったであろうと認められる事情であればその対象となる。ただし、そうした事情でも、①事前の契約の不等性や曖昧性という説明義務の趣旨から、自らで容易に調査できる場合や、当事者の間で特に説明を期待しない合意がある場合には対象とならない。本問において、AとBの説明義務に違反するとの主張が認められるかは、このような観点による。(2) 結果以上によれば、説明義務違反の対象となるのは、信義則上の注意義務違反に信義則上の説明義務違反を負うと認められる者であって、AとBであるから、土壌汚染の事実をCに説明しなかった点に説明義務違反が認められると主張することが考えられるが、それに加えて、Eの銀行がDに融資した経緯からAとBに説明義務違反が認められるかという点も、対象となることになるのは前述のとおりである(上述①)。3 結果A・B・DおよびEに説明義務違反があると認められた場合、判例の定式に従うと、Cは説明義務違反と因果関係にある損害の賠償をそれぞれに請求することができる。具体的には、①被告について説明義務違反の有無、②その帰責事由の有無、および、③被告による説明義務違反の事実と相当因果関係に立つ原告の損害の賠償を請求することができる。Cは、説明義務違反により、こうした機会を失ったこと自体を損害ととらえ、適切な契約を締結する機会を失ったこと自体が損害であるという問題である。Cは、会社の経営をよくするために必要な保険に加入しなかったため、会社が倒産により失った機会利益を請求する。さらに、契約当事者以外の第三者が信用義務を負う場合、DはAに金銭を貸し付けた。本問では、売買契約および請負契約のそれぞれの契約当事者関係にあり、融資実行は「特段の事情」がない限り、不動産について説明義務を負うことは原則としてない(最判平15・11・7判時1854号58頁)。この点、参考判例③も、融資契約と個別独立の契約である請負契約の成立に影響を与える事実について、それは融資銀行は説明義務を負わないのが原則であるとしつつ、しかし、建築建物の健全な一体となったプランの作成会社とともに深く関与して、しかも当プランを前提に返済計画を審査した融資銀行は、本問と同じ方法による顧客の自己資金の投函について確実に実現できるとの見通しを積極的に抱いていた等の「特段の事情」があれば、その建築基準法上の問題について、担当者個人に認識がなくとも、調査のうえ顧客に説明する義務を信義則上負うとの例外を示している。そうすると、本問において、Dが甲土地の土壌汚染についてAとBおよびCに説明義務を負うかどうか、また、提案されたプランの収益基準法上の問題についてもEと同じように説明義務を負うかは、結局、この「特段の事情」の有無いかんによる(上述①)。財産的利益に関する意思決定の場合、「特段の事情」がない限り、説明義務違反を理由とした慰謝料請求は認められないと判示していた。自己決定権を前提とした慰謝料請求は、近時の裁判例において同様に上述の判例にもかかわらず(最判平12・22民集54巻2号582頁)、財産的取引の領域においてそれが問題として予定され、財産的損害に関する意思決定が侵されても、財産的損害の回復に尽きないような人格的利益を失わせしめる点で、別途の法益侵害が考慮されるからである。ただし、参考判例①が指摘したように「特段の事情」があれば、財産的損害に関する意思決定の侵害も慰謝料請求が認められる可能性はある。例えば、参考判例①は、意図的な情報の隠蔽を「信義則的に看過しがたく違反するもの」の1つとして、財産的損害の有無にかかわらず被害者に精神的苦痛を生ぜさせるような違法性の高い悪質な情報隠蔽を伴う場合を挙げる。なお、説明義務は本来与えられるべき情報収集の機会を担保するもので、独立の財産的価値を有するものとして、身体の他の機能を損なった場合に通説(722条2項)、裁判例は、自己責任がより強く求められる金融商品取引の場面が例外であり、他方、不動産取引では、複数の不動産業者が取引に関与し得た上で、誰かが説明責任を負うのが通常である。以上より、本問において、この請求できる人格的利益の侵害の内容を判断するには、財産的利益かどうかの区別、さらには逸失利益の有無について検討することになろう(上述②)。●関連問題●本問を踏まえ、次のことを検討せよ。(1) 仮にCが甲土地の情報をEに話さず、AおよびBにも土壌汚染について番組でそれでも、Eが建築基準法上の問題についてCから説明義務違反は否定されるか。(2) Cは、隣家または契約不適合を視野に、Aとの甲地の売買契約、Eとの乙建物の建築請負契約およびDとの融資契約の取り消しまたは解除を求めることができるか。●参考文献●角田美穂子・吉満正道10頁(参考判例①坪田)/竹濱修・平成15年最重判117頁(参考判例②神田)/久保井之・平成15年最重判70頁(参考判例③判田)
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9
契約交渉の一方的破棄
2025/09/03
A会社は、工作機械メーカーであるB会社と工作機械の製作および設置に関する契約交渉を行い、2月1日に「Bは9月30日までにA機械用の工作機械を製作してAの工場に設置する。代金(品質管理の費用100万円を含む)は1100万円とし、支払は機械引渡しの2週間後とする」との内容で基本的な合意に達した。ところで、この契約を正式に締結するには、A・Bとも、交渉担当者レベルでなく、役員会の決裁を要することになっていたが、時期的にお盆期間中のため、Bとしてはただちに作業にかかる必要があり、Aの交渉担当者と打ち合わせをした後、Bは製造業者から部品の調達費用として300万円を借り、購入した部品のすべてを使って、3月10日までに組立作業の4割を仕上げた(以下、「この仕掛り品」を「本件機械」という)。しかし、3月初旬のAの役員会では、工場の拡充は景気の動向を見極めてからすることになり、Bとの契約はとりやめ、工場も改造しないことにし、3月10日にAからその連絡を受けたBはただちに準備作業を中止した。この場合、BはAに対してどのような請求をすることができるか。なお、Bは会社設立時に、知恵も合せて305万円を弁済しており、また本件機械は汎用性がないため、他に転売することはできず、スクラップにするにも費用がかかるものとする。●参考判例●① 最判昭59・9・18判時1137号51頁② 最判平元・9・4判時1949号30頁③ 最判昭52・2・22民集31巻1号79頁④ 最判昭48・12・16民集25巻9号1472頁●解説●1 契約交渉の一方的破棄における責任の要否契約を締結するかどうかは当事者の自由であり、契約の準備段階として、本来、交渉の当事者は自由に契約を締結しない権利を有し、業務委託者自身が負担した費用を除き、契約が成立しなかった場合に、相手方に費用を請求することはできない。しかし、①一方の当事者が契約成立に向けて確実に締結できると信頼し、相手方もまた、その信頼を抱かせたと認められる場合 (最判昭59・9・18判例)、②契約が確実に行われると期待し、その期待に正当な理由がある場合 (最判平元・9・1992年判例)、③契約交渉が成熟し、当事者が契約が成立するものと信頼するのが当然と見なされる段階に達した場合、その信頼を裏切る形で交渉を打ち切ることは信義則に反し、違法と評価されることがある。そのため、その正当な理由がないながら、いずれの類型と構成しても大差なく、また、①②の信頼の発生は一般に正当な期待に当たらないとされる(東京高判昭和2・10・6民集30巻4号385頁、参考判例①もこれを前提とする)。なお、誤認ないし信頼を惹起した以上はAの交渉担当者であるから、この行為をAに帰責する法的構成も問題となり、これは交渉の際における契約上の責任として信義則上の注意義務が課される契約と見なせる。すなわち、不法行為責任ないしは民法715条を介してAに帰責され、他方、契約責任と解して契約責任類似の責任が問われた場合、履行補助者の証明によることになる。契約責任について、従来、判例は当事者の主張そのまま認める傾向にあったが、最判平22・4・22(民集63巻1465頁)は、契約締結前の説明義務違反事例(その他、契約的射程された契約)につき、これを不法行為責任と明示した。以上は当事者の行為態様に着目した分析だが、交渉担当者に契約を締結する権限は与えられていないが、準備行為にかかわる費用負担の取り決め(これも1つの「契約」である)を結ぶ権限が与えられていることもある。交渉途上で結ばれるこのような契約を「その内容は契約に当たらない」は「中間的合意」と呼ばれ、その拘束力が認められた例もある(最決平16・9・30民集58巻6号1833頁)。もっとも、本問のように単に契約条項を確認したにすぎない場合、当事者に法的拘束力のある「中間的合意」を締結する意思があったかどうかは疑わしく、そのような意思が認定できないときは、交渉破棄の問題として解決するしかない。2 契約交渉の一方的破棄に対して課される責任・責任の効果判例によれば、交渉破棄者とされる責任は、契約の履行責任でなく、損害賠償責任である。履行責任が認められないのは、契約が締結されていないからであるが、同様の理由から、損害賠償にあっても、原則として、履行利益の賠償は認められず(ただし、破棄された者の要求水準が高く、かつ、信頼利益の算定は困難だが、履行利益の証明は容易である場合には、例外的に履行利益の賠償が認められよう(東京高判平9・10・31判時1526号26頁参照))、誠実ないし信頼に基づいてした浪費の賠償、すなわち、信頼利益の賠償にとどまっている。すると、本問の場合、100万円の賠償は認められないことになる(もっとも、本問の場合、設置費用の実費は信頼利益からされる。履行利益は最大でも100万円であろう)。次に、信頼利益の算定にあっては、信頼利益の算定が問題となり、本問では、Bが「契約締結は確実である」と信じたなければ、組立作業にかかることはなかった。すると、金融業者から融資を受け、部品を払うこともなかったであろうから、305万円が信頼利益に当たるとは言えるであろう。また本件機械は他に転売することができず、スクラップにするにも費用がかかるといいうのであるから、部品代価も含まないであろう。しかし、組立てのために費やされた労力も、誠実ないし信頼に基づいて生じた損害である。本件機械の評価が400万円であるなら、部品費用の300万円を差し引いた100万円は「労力+利潤」の額と考えられる。「利潤」は履行利益に当たるので賠償の対象とならないが、実際に費やした労力(たとえば組立作業した従業員に支払った賃金)は信頼利益であり、さらにスクラップにするための付随的費用があるなら、その費用も信頼利益に当たるであろう。なお、信頼利益の賠もあって、民法416条が妥当する。同条は「債務の不履行」との文言からわかるように、一般には履行利益の賠償を想定しているが(改正民法416条2項も参照)、賠償範囲を合理的なものに限定するとの観点から、不法行為においてさえ、判例では民法416条が類推適用されており、ここでも同条の妥当すると解すべきであろう。さらに信頼利益の算定に当たっては、過失相殺等も考慮されるが、Aから連絡を受けたBはただちに作業を中止しており、この点で過失相殺がされることはないであろう。3 賃貸が認められる場合の損害賠償の範囲・所用の帰趨AがBに信頼利益を賠償したとき、本件機械の所有権は誰に帰属するのか。通常契約が締結されていない以上、Bに帰属するはずだが、スクラップにするための費用までAに負担させるなら、むしろ、機械の所有権をAに帰属するとした方が社会的経済的に合理的のようにみえる。しかし、賠償責任者(422条)にも似たこの解決方法は妥当ではないであろう。なぜなら、これではAがBに前述の「利潤」を支払うことなく、機械の所有権を得てしまうようであるから。けれども、そうであるならさらに、AがBに400万円を支払うなら、機械の所有権をAに帰属させても公平ではないか。また4億円に当たる「利潤」しか補償されない点で、契約締結後に注文者が任意解除した(641条)場合の残業ほど強いものではなく、その意味でもバランスがとれているようにみえる(←本郷参照)。A・B間の事後的な交渉により自ずから解決できる問題であろうが、AがBに400万円を支払うという合意は、本件機械の引渡しをAが受けるというのと交換に考えるべき価値もある。●関連問題●(1) 本問で、2月1日の時点で、AとBは役員会の決裁を経て、請負契約を締結したが、その後、AがBとの契約をやりたくなったとする。Aが3月10日にBへの契約をやめると連絡した場合、あるいはやりやめるというわけではないが、機械を安全に完成させるため設置工事をするため、4月30日以降、Aに何度も工場の改造を求めたが、Aが改造しないため、Bが機械を設置できないまま5月15日を過ぎた場合、BはAに対して、またはAはBに対して、それぞれどのような請求をすることができるか。(2) 本問で、Bは工作機械の製作をさらにCに請け負わせ、Bは設置工事のみを行う予定であったので、AとBの交渉時にCも同席を求め、2月1日にCと基本的な合意に達した後、Cが組立作業を開始することについて打合せをし、これに基づきCは金融業者から融資を受け、機械を4割仕上げたが、3月10日、AからBおよびCに交渉の打切りを伝えてきたとする。この場合、CはAに対してどのような請求をすることができるか。(注)(1)と(2)は、独立した問いである。●参考文献●滝沢・126頁/中田=112頁/中田=加藤=道徳=22頁/滝沢=126頁/山本=337頁(2008)102頁/池田=22頁/民集58巻137号9頁(2007)85頁/池田=22頁/池田=22頁/池田=22頁(池田清治)
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9
事情変更の原則
2025/09/03
精密機器メーカーであるA社は、2021年4月に、B社との間で、同年6月から5年間にわたり、A社の製品で使用する部品をB社より固定価格で毎月5000個購入する契約を締結した。 同年6月以降、契約で定められたとおりに、B社は自社の工場で製造した部品を納品し、A社は納品の翌月末に代金を支払っていた。B社は、本件部品の製造に不可欠な希少金属をS国から輸入していたが、2021年11月、S国は、突如として、自国の産業振興を優先させるという政策のもと、S国外への輸出を原則として禁止する措置をとるに至った。B社は、T国産のCにかえ買えなどの対応をしたものの、世界的な価格の高騰もあり、2022年2月の時点で、本件部品の原材料コストは契約締結時と比べて約5倍にまで上昇した。2022年3月に、B社は、A社に対して事情を説明したうえで、同年4月から本件部品の代金を従前の4割増の額にしてほしいと申し入れた。A社は、部材原価においてB社の要請に応じることができなきを検討したが、すでに本件部品を使用する機器の需要層が形成されていることもあり、4割もの増額に応じることはできないと判断し、その旨をB社に回答した。返答を受けたB社は、2022年4月以降、A社に対する部品の納品を停止した。その結果、A社は、機器の製造を続けることができなくなり、製造ラインの停止を余儀なくされた。A社は、B社に対して、被った損害の賠償を請求したいと考えている。A社の請求は認められるか。B社としては、どのような反論をすることができるか。1 A社による損害賠償請求A社としては、B社による債務不履行を理由として、損害賠償を請求している (415条)。そのためには、A社は、①債務の発生原因 (A社とB社の間の契約の締結)、②「契約に基づいて発生した」債務の本旨に従った履行がなこと、③損害が発生していること、を主張・立証しなければならない。本問においては、要件①②は充足されていると考えられる。要件③について、B社がA社に負った債務の不履行によってA社に損害が発生したかどうかが問題となる。A社は、B社に負った債務の内容を具体的に主張する必要がある。本問では、B社がA社に対して負担した債務の内容はどのようなものか、B社がその内容に従った履行をしたといえるのか、といった点を検討しなければならない。本問では、A社とB社の間で締結された契約の解釈・補充を通じて、その範囲が明らかにされることとなる。具体的には、納品されるべき部品がA社の製品に用いられることが予定されていたことを踏まえると、A社が当該製品を売却することによって得られたであろう利益も、賠償されるべき損害に含まれると判断される可能性がある。当該損害の賠償請求が「債務の履行に代わる損害賠償の請求」に該当する場合、415条2項の定める追加的要件も充足する必要がある。本問では、債権者であるB社の履行拒絶 (同項2号)、契約の解除、または、解除権の発生 (同項3号)が問題となるだろう。また、B社としては、同時履行の抗弁 (533条) の存否も問題となる。上記の要件①から③までが充足された場合、B社は、債務不履行が不可抗力 (415条2項) に基づくものであることを主張して、損害賠мを免れることはできないか。同時履行の抗弁が存在しないことも主張・立証しなければならないと一般的に考えられている。このような理解の問題点についてはここで立ち入ることはできないが、こうした理解に従うならば、A社としては、同時に履行の抗弁が存在しないということ、具体的にはB社がその債務を先に履行する義務を負っていることなどを主張・立証しなければならない。以上を踏まえて、B社としては、損害賠償責任を免れるために、どのような反論をすることがでるのかを検討していこう。2 B社の免責の可否まず、B社は、債務の履行を自らの責めに帰することができない事由によるものであるとして、免責を主張することが考えられる(415条1項ただし書)。2017年改正前民法の下での広範な通説は、債務者の責めに帰すべき事由(「帰責事由」)は債務者の故意・過失または信義則上これと同視すべき事由を指すと解してきた。このような理解に立って本問におけるB社に帰責事由が認められるかを検討すると、一方で、B社には自らの意思で債務の不履行をしているのであるから、帰責事由が認められるという判断が考えられうる。他方で、B社の不履行の理由となったのがS国によるSの輸出禁止の措置であることに着目し、当該事由の下で、B社としては、債務を履行するために同種の地位にある者に一般に要求される程度の注意を尽したことを主張するアプローチも考えられる。以上に対して、近時の債務者の故意・過失が債務不履行の要件であるという理解に批判的な見解が有力になっている。つまり、伝統的通説が債務者の帰責事由を故意・過失のことであると単純に把握した背景には、民法が不法行為責任の類型を基本として債務不履行責任の根拠を探っていたという歴史的な経緯が存在するところ、債務者の帰責事由の判断に当たっては、契約内容、当事者の属性、債務不履行に至る経緯などを考慮したうえで、債務者の帰責が認められるかどうかが判断されるべきだとされる。したがって、債務者の帰責事由とは、不法行為法のように主観的に非難されるような心理的・抽象的な過失のことではなく、当事者が締結した契約に基づいて課される義務に違反したことを意味すると考えるのである。2017年改正民法415条1項ただし書は、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由」に該当することによって債務不履行責任を免れる旨を規定しているが、その趣旨は、債務者間の契約においてどのような危険を負担しているのかが責任の基準になるということを示しているのである。この点を踏まえて本問をみると、債権者であるB社は、A社に部品を引き渡すという結果を実現する債務を負っていると考えられる。このような結果債務の場合、債務者が結果債務を履行できなければ、それが債務不履行となる。約束された結果が実現されていなければ、債務者は債務不履行責任を免れないのが原則である。 もっとも、 債務者が結果債務を負っている場合であっても、債務者が契約において引き受けていない事由によって不履行が生じたと評価されるときには、債務者は損害賠償責任を負うことはない。 そのような場合、 債務者は当該事由を克服して履行を行うことを契約において義務づけられていないからである。 本問では、 S国による輸出禁止措置がそのような事由に該当するかを評価できるかが問題となる。3 事情変更の原則の適用B社としては、事情変更の原則の適用を主張することも考えられる。事情変更の原則とは、①契約の成立時にその基礎となっていた事情の変更すること、②事情の変更が当事者の予見したものではなく、予見できたものではないこと、③事情の変更が当事者の責めに帰することができない事由によって生じたものであること、④事情の変更の結果、当初の契約内容に当事者を拘束することが著しく不当と認められることを要件として、契約の解除、または、改訂を認める法理である。近時の学説では、事情の変更に直面した契約当事者に、新たな暫定条件をめぐって相手方と再交渉をすべき義務を課すことが有力に主張されている。この法理は、一般論としては、判例・学説において広く承認されており(参考判例①)、2017年民法改正の際にも最終段階まで立法化することが検討されていた。もっとも、最高裁は、事情変更の原則の適用に対して謙抑的であるといえる。最近において同原則の適用が認められた裁判例は、平常時におけるものは存在すらしない(大阪高判昭19・12・8民集23巻63号)。参考判例①は、ゴルフ場の予約会員権によって保障した事業に隣接するものであったが、自然の地形を変動してゴルフ場を造成するゴルフ場経営会社としては、特段の事情がない限り、のり面に崩壊が生じることについて、予見不可能であったとも、帰責事由がなかったともいえないと判示している。ここで注目されるのは、ゴルフ場の経営に際して周辺環境を講じる必要が生じることは予見し得ないことではないという形で、一般的・類型的な判断がされている点である。このような最高裁の態度を踏まえると、本問においても、部品メーカーであるB社としては、部品の原材料コストが高騰したことだけを理由として、事情変更の原則の適用を主張することは難しいかもしれない。仮に同原則の適用が認められるとすると、B社としては、契約の解除または改訂によって部品の引渡義務を免れることができる可能性があり、さらには、増額された代金の支払をA社に求めることができる可能性もある。なお、ここでも事情変更の原則の適用要件としての予見可能性および帰責事由の有無を判断し、2で検討した、債務不履行による損害賠償に関する債務者の免責事由の判断は、どのような関係に立つつのだろうか。この点については、論者によって見解が分かれると思われる。債務不履行による損害賠償の要件をめぐる議論の変遷を意識しつつ、2と3の判断の間に相違があるのか、あるとすればそれはどのような理由によるのか、検討してみてほしい。関連問題(1) 2022年4月以降も、希少金属Cの価格は高騰を続け、同年末には、部品の原材料コストは契約締結時と比べて約10倍となった。この場合、A社はB社に対して部品の引渡しを請求することができるか。B社としては、どのような反論をすることができるか。(2) 2022年4月以降、A社は、契約で合意された価格で部品を納品するように主張し続けており、現在に至るまでA社の製造ラインは停止したままである。この場合、A社は、製造ラインの停止によって生じた損害のすべてを賠償するようB社に請求することができるか。B社としては、どのような反論をすることができるか。
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9
定型約款の拘束力
2025/09/03
弁護士Xは自己の事務所にコピー機を設置して弁護士業務に使用するため、 業務用コピー機のリース業務を行っているYとの間でコピー機のリース契約 (月額2万円) および、 同コピー機の保守契約を締結した。 保守契約は、 Yから 「本契約の詳しい内容は約款に定められております。 約款は当社のインターネットサイトに掲載しておりますので後で覧になってください」といわれたが、 Xは多忙であったため、 約款の内容をよく読んでいなかった。 契約締結から1年が経過後、 Xは最近の郵便役務サービスを検討する際に、 トナーとコピー用紙を1枚数円で購入するよう、 Yから求められた。 Xがこれを拒絶しようとしたところ、 Yから 「当社の約款に、保守契約を締結した者は、毎月トナーとコピー用紙を1万円分購入すること」 を義務づける条項が入っております」 といわれた。 納得がいかないXはYに対して本リース契約と本保守契約を解除したい旨を主張したところ、 Yから 「リース契約、 保守契約ともに最低1年間は契約すること、 および、 1年以内にリース契約および保守契約を解除した場合にはXはYに対して違約金として残期間の賃料を支払う」旨が定められた条項が約款に定められていると主張された。 Xはコピー用紙とトナーの購入を義務づけられるのか。 また、 Yとの間の本件リース契約および本件保守契約を解除することはできるのか。解説1 約款とは何か・約款の拘束力をめぐる従来の学説約款とは、一般に、 契約の一方当事者が多数の相手方との契約に用いるためにあらかじめ定式化された契約条項の一群のことをいう。 約款は契約の一方当事者のみ (本問ではYのみ)によって定められ、 相手方 (本問ではX)はそこに含まれる契約条項の内容の決定に修正に関与しないところが、個々の契約の契約条項を内容とし、吟味することが困難なままに契約を締結することも多い。その結果、 相手方が思いもよらないような契約内容の条項に一方的に不利な内容の契約条項が約款に含まれていることがある。そこで、学説では、 約款に含まれる個別の条項の内容に当事者が合意し、それらが契約の内容に組み入れられるためにはどのような場合にのみか、および、約款に相手方にとって不利益な内容の条項が含まれていた場合に、当該条項の効力はどのようになるのかについて、議論が展開されてきた。 最近の学説によれば、 約款が契約内容に組み入れられるためには、 約款が相手方に開示され、 それによって相手方が約款の内容について検討する機会が確保された状態にあること、 および、 約款を組み入れる旨の当事者の合意が必要である。そのうえで、約款の個別条項が組み込まれたとしても、 当該約款に定める個別条項の内容が不当なものである場合には、当該個別条項の適用が制限される。 これが不当条項規制であり、民法の規定であれば公序良俗規定などによる条項無効や内容の解釈による実質的な内容規制、消費者契約については消費者契約法8条以下が規定による内容規制がなされる。 また、 条項作成者の相手方にとって不利益な条項が約款に含まれている場合には、 約款に含まれる個別の条項について、 信義則に反するような場合には、 条項作成者の相手方にとって予期できない内容の契約条項が約款に含まれている場合も、 不当条項の排除という考え方も存在している。民法では約款のうち、 「定型約款」において、 「契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」 を定型約款の定義に合致したものとみなしたうえ (548条の2第1項本文)、 当事者の定型約款の個別内容の合意をしたものとみなされる場合を規定している (同項1号・2号)。 定型約款の当事者が拘束される場合を明文で定めている (同条1項・2項)。 また、 定型約款の中に不当な内容の条項が含まれている場合には、 当該条項がそもそも契約の内容として組み入れられないという効果が発生するため、 不当な内容の条項を実質的に排除することが可能である (548条の2)。本問でYがXをはじめとする顧客向けに使用している約款が民法の「定型約款」に当たる場合には、 本件約款がXを拘束するための要件を満たしているか否かが民法の定型約款の規定によって判断されることになる。 これに対して、「定型約款」には当たらないのであれば、以上に述べた学説の考え方に基づいて当該約款の拘束力の有無が判断されることになる。2 定型約款とはそこで、本間ではまずXをはじめとする顧客に対して用いている約款が「定型約款」に当たるか否かが問題となる。民法548条の2によると、 定型約款とは、 「定型取引において、 契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」である。要件は以下のとおりである。(1) 要件① 「定型取引において」 用いられるものであることまず、「定型取引において」 用いられるものでなければならない。当該取引が「定型取引」に当たるか否かは、次の2つの要件のもとで判断される。第1に、「ある特定の者が不特定の者を相手方として行う取引」でなければならない。ここでは「多数」ではなく「不特定多数」であることが要件とされているが、これは相手方の個性にに着目した取引か否かが問題とする要件であると理解されている。このことから、相手方の個性に着目して締結される労働契約は「定型取引」ではない。もっとも、一定の範囲に属する「特定多数」の者との間での取引であっても、相手方の個性に着目せずに行う取引であれば、この要件を満たしうる。第2に、その内容の全部または一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なものであることが要求されている。すなわち、当事者が交渉によって契約条項を修正することにまったく予定されていない場合や、交渉作成者の都合(大量取引の定型性や迅速性)や事実上の力関係の差から交渉が想定されていないという場合ではなく、その取引の客観的な様相及びその取引に対する一般的な認識を踏まえて、契約相手方の交渉を待たずに一方当事者が準備した契約条項の総体をそのまま受け入れることが合理的であるといえる場合、言い換えれば、多数の人々に対して物やサービスが平等な基準で一律に提供される取引が、「定型取引」として想定されている。この場合に、当事者が事業者か消費者の区別はない。リース契約および保守契約はコピー機を日常的に利用したいと考える不特定多数の顧客を対象として、それらの顧客の個性を問わずに一律に締結される契約である。そのうえで、これらの契約が顧客ごとに討論等を重ねることなく一律の内容で提供されるものであることが通常ということができるかどうかかが問題となる。(2) 要件② 「契約の内容とすることを目的として」 特定の者により準備された条項の総体「契約の内容とすることを目的として」、すなわち、契約内容に組み入れることを目指して、当該定型取引を行うその特定の者により準備された条項の総体であれば、「定型約款」に当たる。本問のように、一方当事者 (Y) が複数の条項を掲載した約款をあらかじめ準備しているような場合がこれに当たる。(3) 民法の定型約款に関する経過措置定型約款に関する民法の規定については、原則として、2017年改正民法(以下、「改正民法」という)の下で締結された契約に係る定型約款についても全体としてこれを適用する (附則33条1項)。 ただし、改正前民法の規定によって生じた効力は妨げられない。 また、施行日の前日までの間に当事者の一方が準備または電磁的記録によって反対の意思(すなわち、同法の規定を適用しない旨の意思)を表示した場合に限り、当該契約については引き続き改正前民法によるが (附則33条2項・3項)、 「契約又は法律の規定により解除権を現に有する」 ことによって民法の規則を望まる場合に当該契約から離脱することができる者は、反対の意思を表示することができない (同条2項第一段後段部分)。3 定型約款のみなし合意(1) 問題の所在本問のように、約款に含まれる個別の条項の内容を相手方(X)が認識・理解していたとはいえない状態で契約が締結された場合に、Xはこれらの条項の条項に拘束されるのだろうか。従来の学説によればXが約款の内容を認識することができるよううえで、当該約款に合意したことが求められるかが民法の解釈としてどうなるのだろうか。(2) 定型約款へのみなし合意が認められる場合民法548条の2第1項によれば、以下の2つの場合には、定型約款準備者の相手方が定型約款の個別の条項に合意したものとみなされる。第1に、 定型取引を行うことの合意 (「定型取引合意」) をしたが、 定型約款を契約の内容とする旨の合意をした場合である (548条の2第1項1号)。合意は明示または黙示はもちろん、 黙示の合意もこれに当たる。第2に、 昔のような定型約款を契約に組み入れる旨の合意がない場合であっても、 あらかじめ (すなわち、 契約締結前に)、 「その定型約款を契約の内容とする」 旨を相手方に表示 (548条の2第1項2号) していた場合にも同様に定型約款に含まれる個別条項に合意したものとみなされる。 「約款に基づいて作成した」 旨を記載した契約書面もしくは契約に用いるために準備した者も含まれる。民法548条の2第1項では、 約款の内容そのものを契約締結時までに事前に相手方に示すことや、 相手方が合理的な行動をとれば約款の内容を知ることができる状態が確保されていることは要件とされておらず、 同項2号のように、定型約款を準備した者が 「その定型約款を契約の内容とする」旨を相手方に表示していた場合にも、 相手方の約款に含まれる個別条項への合意があったとみなされる。 本問では、 XとYがコピー機のリース契約と保守契約という定型取引を行う旨の合意をしていることを前提として、 Yの 「本契約の詳しい内容は約款に定められております。 約款は当社のインターネットサイトに掲載されておりますので後でご覧になってください」という言葉が、 本件契約に約款を契約の内容とする旨を相手方 (X) に表示したものと判断できるかどうかが問題となる。しかし、これでは定型約款準備者の相手方からすれば、 何が契約内容になるかをあまりたどらない状態の約款に拘束されるおそれがある。特に、 民法548条の2第1項2号については、 相手方の定型約款への 「ここにでは個別の条項まで具体的に定型約款を準備する者と合意する」 との合意までない場合は、 相手方は合意していない定型約款に拘束されるおそれがある。 これについて、 同号についても、 定型約款準備者が定型約款による旨を表示したことに対して、 相手方が異議をとどめずに定型取引についての合意をした (すなわち、 黙示の合意があった) という点に定型約款の拘束力の根拠を求めるものであるとの見方が有力に主張されている。しかし、 約款の表示が相手方に対する契約内容についての情報提供の機能を も果たすべきことを踏まえると、 以上の要件だけではこの機能が十分に果たされないおそれがある。そこで、民法548条の3が 「定型約款が契約の内容とされる」 という条文の前に 「定型約款準備者が定型約款を契約に組み込む旨の意思表示をしたとき」 あるいは 「定型約款準備者が定型約款の開示義務を負う」 といった文言を挿入して解釈したうえで、 「相当な方法としては、 定型約款準備者が契約条項を記載した書面を現実に相手方に渡したり、 定型約款準備者が運営するホームページで表示するといった方法が考えられているが、 相手方に契約上の権利義務の記録が確保できるよう、 契約締結後も可能な限り相手方の定型約款の記録が確保できるのが望ましいとの見方も有力に主張されている。ただし、定型約款準備者がすでに相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、 またはこれを記録した電磁的記録 (CDの交付やメールでのPDFファイルの送信など) を提供していたときは、 相手方の手元に定型約款があっていつでも相手方が内容を確認できる状態となっていることから、 その後の請求を認める必要がない (548条の3第1項ただし書)。民法548条の2が適用されない、 当初定型約款の契約に組み入れは、 一方的、 通信販売等が発生した場合その正常な場合がある場合には、この限りでない。その一方で、 定型取引の請求が円滑さを著しく害するおそれがある場合には、信義則上、許容の限度で当該表示の規定が適用されることもある。 開示の正当な理由なき場合は継続した役務の提供の記録・残存物の返還請求権に関する損害賠償請求、 残存物の価額に相当する額の支払を請求することができると考えられる。以上の視点に基づけば、 約款の内容の開示請求があった場合の、 定型約款の開示が円滑性に著しい支障が生じるおそれがあるため、 定型約款の開示請求権が認められると解される。 したがって、 定型約款準備者は、 契約の締結後においても相手方からの請求があったときには、 定型約款の内容をいつでも情報提供できるよう準備しておく必要がある。 少なくとも約款使用者が相手方の約款の内容についての認識をできるだけ容易に結論に同意を得ているといえることが、 約款の拘束力を肯定するうえでも求められるのではないだろうか。4 みなし合意の例外規定以上のように、 民法所定の規定によれば定型約款へのみなし合意が比較的緩やかに認められるが、 定型契約内の個別の条項の内容によってはみなし合意が否定されることがある。 民法548条の2第2項によると、 同条1項の各号の場合のうち、 「相手方の権利を制限し、 又は相手方の義務を加重する条項であって、 その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」 については、 合意をしなかったものとみなされる。本条は、緩やかな要件で合意したとみなされる定型約款に紛れ込んでいる不当条項や不意打ち条項を契約から除外するものである。 もっとも、 消費者契約法10条の同法の公序良俗規定による不当条項規制は、 問題となる条項に対する合意が成立していることを前提としたうえで不当な条項を無効とする規定であるのに対して、 民法548条の2第3項はこの要件に該当する不当条項については合意はしなかったものとみなすという規定である。(1) 要件① 「相手方の権利を制限し、 又は相手方の義務を加重する条項」みなし合意が否定される条項は、 「相手方の権利を制限し、 又は相手方の義務を加重する条項」である。 具体的には、 当該条項がなければ認められるであろう相手方の権利範囲が制限・加重されている場合には、 この要件を満たす。本問では、 毎月トナーとコピー用紙を購入させるという条項の内容、および、 最低1年間の契約期間を定め、 途中で解除する場合には違約金を課すという条項の内容が、 相手方の権利義務を制限・加重したものといえるかどうかが問題となる。(2) 要件② 「その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」当該「定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念」 を考慮したうえで、 当該条項が信義則に反して相手方の利益を一方的に害するといえるかが問題となる。具体的には、まず、 「定型取引の条項」 は、条項が記載された書面性や定型約款の条項が予測しない条項が存在する可能性があるという点で、契約の相手方を考慮するための要件であること、 相手方にとって予測し得ない内容が定型約款に存在場合には、 信義則に反することとなると判断される可能性がある。 また、 「定型取引の実情」 は 「取引上の社会通念」 という要件では、 当該条項そのものが取引の慣習に合致することができない事情によるものであるとか、 産業界の慣行に合致するなど、 様々な取引慣行や取引全体にわたる実態を考慮して判断することが予定されている。本問では、 トナーとコピー用紙を毎月購入すること及び、 違約金条項が定型取引の相手方 (X) にとって予測し得ない条項であったり、 コピー機のリース取引における慣行等を考慮した結果、 信義則に反する条項といえるかどうかが問題となる。 なお、 仮に本条に基づいてみなし合意が否定されたとしても、民法の公序良俗規定に照らしてこれらの条項が無効となるかどうかも検討する必要がある。5 定型約款の変更民法の定型約款の規定には、 定型約款準備者が個別に相手方と合意をすることなく定型約款の変更ができる場合の要件を定めた規定が存在する。 本章であれば、 契約内容を変更する場合には相手方との合意によらなければならず、 これは民法契約による契約の場合も同様である。 しかし、 定型約款のように相手方が契約内容を熟知せずに契約に個別的に相手方との合意を得ることは困難ではないことから、 民法において契約の変更に関する規定が設けられた。具体的には、 民法548条の4によれば、 「定型約款の変更が、 相手方の一般の利益に適合するとき」 または、 「定型約款の変更が、 契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」 (同条1項2号) には、 定型約款準備者は個別的に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる (変更の効力発生時期の定めをおく必要がある)。 ただし、 定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、 「定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により」 (548条の4第2項)、 効力発生時期到来までに周知しなければならない (同条3項、 定型約款の内容変更のための手続的要件)。関連問題本問で、Yが保守契約を締結した顧客が支払う毎月のメンテナンス料金を値上げするために定型約款の内容を変更することは法的に可能か。可能な場合、どのような要件に基づいて認められるか。 メンテナンス料金の値下げのために変更することは可能か (548条の4)。
『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者・2022年10月15日
ISBN978-4-7857-2992-9
代理受領の第三者効
2025/09/03
A会社(以下、「A」という)は、B会社(以下、「B」という)より建物の建築を1億5000万円で請け負い、建築工事を完了し建物をBに引き渡した (2024年10月)。工事代金は3回に分けて支払われることになっており、Bはすでに2回の支払は済ませ、残りの5000万円の支払については工事完成・建物引渡後の同年10月16日と約束されている。C信用金庫(以下、「C」という)は、2024年5月に、Aに対して6000万円の融資をするに際して(返済期日は同年10月10日)、Aの代表取締役Dに連帯保証人になってもらうと同時に、上記工事の残額代金債権5000万円(以下、「本件債権」という)につき、AがBに対する本件債権の取立てをCに依頼し、そのための代理権をAがCに付与する合意をした。しかし、BがAに支払ってしまうと困るため、Cの担当者がBの本社を訪れて、権限を有するBの社員と交渉して、貸金回収目的であるといった事情を説明して、Cへの支払を書面により承諾してもらった。その後、Aは2024年10月10日の返済期日にCに6000万円の支払がなかったため、CはAにその支払を請求したが、支払がされないため、Cは本件債権からの支払を受けることにした。これに対して、Aが他から入金の可能性があるので、10月末まで支払を延ばしてほしいと懇願してきたため、Cは本件債権の取立てを見合わせることにした。しかし、Aは、Bに対してCへの取立ての委任は解除されているのでCにないとBの担当者を安心させて、BとAの口座への振込みをさせたうえで、これを引き出して建築資材の購入などに使用した。この事例で、CはBに対してどのような請求ができるか。●参考判例●① 最判昭44・3・4民集23巻3号581頁② 最判昭61・11・20判時1219号63頁■解説■1 代理受領の意義:BのAへの弁済は有効本件債権にCによって債権質が設定され、Aによる債権譲渡設定の通知がなされたならば、もはやBのAへの弁済は無効になる。また、担保のために本件債権がCに譲渡されその通知がAによりBになされた場合にも、Aへの弁済は無効である。ところが、公共工事についての地方公共団体に申する債権については、法令により債権の譲渡・質権設定が禁止されているため、これらの方法によることができない。そこで、担保目的で債務者から債権についての取立受領権限の付与を受けて、事実上優先的保護を図るという担保目的の取引が、実務慣行により発生したのである。このような担保目的の取立受領権限を趣旨する実質的担保取引を代理受領という。本問は、民法上の問題であるため、私人間の場合を想定した事例としたが、その問題点は、公共工事の代金債権と変ることはない。代理受領では、債権質の設定とは異なり、債務者の返済権限を奪うものではなく、債務者の代理人として取立てるにすぎないので、債務者(本問ではA)に支払われてしまえば、その弁済は有効である。そのため、債権者への支払がされないようにしておく必要があり、代理受領では、債権回収を確実なものとするために、第三債務者(本問ではB)の承諾を得ておくのである(取立委任の受任者の保護を第三債務者に、口約束か、黙諾か、請求します」といったような記載がされ、この解釈ないし判断が難解になる。それにもかかわらず、本問でいえばBがAに支払ってしまったらどうなるのかが問題になるのである(甲斐道太郎「契約方式による担保権一代理受領」遠藤浩=林良平=水本浩編著『現代契約法大系(6)』〔有斐閣・1984〕34頁以下)。2 保佐するためには、弁済の効力を否定できないかCを保護するために、弁済の効力を否定することもまったく不可能ではない。その方法としては、A・B・Cの三者間で、Aの受領権限を否定しCにのみ受領権限を認めるという合意があったと契約解釈により導く方法である。契約自由の原則からして不可能とまではいわないとしても、そこまでの合意をしていると契約解釈することが許されるかははなはだ疑問であろう。そこで、次にBがCへの支払を約束しておきながら、Aに支払うことは信義則に反する行為であり、信義則上弁済の有効性を主張できないという解決も考えられる。しかし、そこまでの強い効力をこの合意に認めてよいのかは疑問である。結局、Bのなした弁済を無効とすることは無理というほかはない。なお、代理受領という取引自体の法的性質としては、①単なる取立委任説、②債権質権類似の無名契約説、③第三者のためにする契約説、④目的無名契約説、⑤債権担保契約説などが考えられている(平井・前掲40頁参照)。3 Cを保護する法的構成2:損害賠償による保護(1) 第三債務者の義務(a) 債務を負担する意思表示ではないとすると第三債務者BのCへの代理受領の承認を法的にどう分析すべきかが、この問題を解くキーポイントになる。これを単に、Cの取立権限を認めてCが請求してきたらCに支払うというだけの約束であれば、何ら法的な債務の負担の合意ではない。しかし、債務を負担する意思表示ではないとしても、Cが本件債権から債権回収を図ろうと考えていることを知りつつ、また、これに意思表示ではないとしても支払を約束してCを安心させている。Cは担保をとったも同然と信頼して、それゆえにAに融資を行ったのである。これによりCに保護に値する利益が成立し、BはAに弁済することによりそれを侵害しない信義則上または不法行為上の義務を負うということも考えられる。そこが、その保護の対象となる権利ないし利益をどう構成したらよいのかという点でさらに疑問が生じよう。債権侵害であろうか、それとも一種の担保といった期待利益であろうか。しかし、そうすると債権侵害において違法性が認められるためには主観的要件として侵害の認識といった強度の違法性が必要ではないか、といった疑問をぬぐえない。(b) 債務の負担という構成債権回収上の義務や不法行為上の義務とは異なり、契約上の独自の債務(521頁、522頁参照)があるので、CはBの意思表示に対して何らかの債務を負担することはないのである。そのように解釈したとしては、保証債務とは異なるが、BがCにAに代位すべき給付を行う義務(さらには共存的債務引受)、または、Aに支払をしないという不作為義務を共存的に負担するということが考えられる。契約自由の原則からこのような債務を負担する合意を無効とする理由もなく、問題は、そのような合意がされていると承認することができるのかということである。ただし、信義則上の義務を根拠として肯定すれば、別に合意することを説くよりもAに支払う義務を負うとの構成を肯定でき、その違反による債務不履行を語ることになる。(c) 判例による解決判例は、本問のように、第三債務者(本問のB)が、代理受領が解除されたという債務者(本問のA)の言を信頼して承認もせずに債務者に弁済をした事例について、おおむね次のように判示して、債務者(本問のC)による第三債務者(本問のB)に対する損害賠償請求を認容している(参考判例①)。代理受領の委任状が提出された当時、担保の事実を知って代理受領を承認したのであり、X(債権者)からはこの請負代金を受領すれば、債務者に対する右貸金(担保権の満足が得られるという利益)を害すると判断され、この承認は、「単に代理受領を承認するというにとどまらず、代理権に基づいて得られるXの右利益を承認し、正当の理由がなく右利益が侵害されるという趣旨をも当然包含するものと解すべきであって」したうえで、Yとしては、この「承認の趣旨に反して、Xの右利益を害する(Yの過失で右のような義務がある)」と解するのが相当である(右利益の遺失の範囲で損害賠償義務がある)。「債権の満足が得られるという利益」を問題にしているので、債権侵害というよりも実質担保取引により享受する担保的利益を問題にしているものとなる。あるいは民法709条では、権利だけでなく法的に保護される利益も含まれるので(2004年の現代語化で明記)、条文とは齟齬しない。そして、損害は、本問でいうと、CがAに対する債権を回収できないという損害ではなく、CがAのBに対する本件債権から債権回収をするという担保利益を問題にしている。そのため、(2)のように他に担保があって損害は否定されないことになる。(2) 賠償請求できる損害代理受領の約束に反して第三債務者により債務者への弁済がなされた場合、債権者に対する不法行為が成立するとも、担保権は不可であろう。担保侵害であるとすると、その担保による確実な回収可能性ということになり、その担保がなくても債権回収できる場合であっても損害ありということになるのであろうか。この点の参考判例②は、原審判決は、「一種の担保が失われても残存する他種の担保によって十分に担保されているときには、損害の発生には影響がない」として、資力十分な連帯保証人がいるため、「代理受領の喪失による損害はない」としたのを破棄し、「担保権の目的物が債務者又は第三者の行為により全部滅失し又はその効用を失った場合に、他に保証人等の人的担保があって、これを実行することにより債権の満足を得ることが可能であるとしても、かかる場合、債権者としては、特段の事情のない限り、どの担保から債権の満足を得ることも自由であるから、そのうちの一の担保が失われたことによりその担保権から債権の満足を受けられなくなったこと自体を損害として把握することを妨げられない」と判示して、他に保証人等の人的担保が設定され、債務者がその履行請求権を有するときは、右担保権の侵害とみなされるので、代理受領を超えて担保侵害の一般論としても注目される判決である。抵当権侵害については、その抵当権により債権回収しえた金額が損害であり、債務者が資力十分であり債権を保全しえないとしても、損害賠ごうが認められることになる。債権者に行きすぎた保護を与えるものではないか」という疑問は残るが、損害の認定を軽減するという観点からは是認してよい解決である。4 本問への当てはめと関連問題(1) 本問への当てはめ判例を本問に当てはめれば、Bには、承認という先行行為に基づく不作為義務ないし不可侵義務として、本件債権から確実に債権回収ができるという「利益」「不利益」を侵害しない義務が課せ。そうすると、Bは容易にCの承諾に応じたのに、Aの説明のみを鵜呑みにしてAに支払っており、この義務に違反する過失があるといえ、BはCに対して民法709条(ないし同715条1項)による損害賠償債務を負うことになる。Bとしては、確実な連帯保証人Dがいるので注意は散漫になるという主張をするであろうが、上記判例②によればこのような主張は認められないことになる。(2) 代理受領の関連問題(Dへの影響が対象)(a) 債務不履行責任の当否 代理受領の問題としては、まず、債務を負担する意思表示までないとしても、信義則上の義務の成立とその違反による債務不履行を問題にできないかという問題がある。法条文1条3項の移動で新たな権利義務関係によることができ、消滅時効の点で債務不履行責任による利益があるが、信頼保護の義務をそこまで拡大できるのかは問題が残される。(b) Aに対する求償の問題等 次に、もしBがCに損害賠償をした場合、BはAに求償できるか。また、AのCに対する債務はどうなるかという問題がある。BのAに対する弁済は有効なので、不当利得返還請求は認められない。また、BはAに対する債権を保証人Dの保証債務を代わりに弁済したわけではない。しかし、AがCとBから二重に債務額を超える支弁を受けるのは正当ではないはずであり、CのAに対する債権が存続するというのでは不合理である。こうして、A・B・C三者間の関係になり、BのCに対する賠償金の支払により、CのAに対する債権も消滅すると考えるべきである。そうすると、Cに対してAとDは連帯債務を負うことになるため、公平の観点からBからAへの求償が認められるべきであり、実質的に担保ということと考えれば、BからAへの直接な求償を認めるべきであろう。(c) Bに対する求償権の問題 さらに、Bと連帯保証人Dとの関係も問題になる。というのは、このAに対する債務につき、BとDの2人が担保を負担することになるからである。①Bが弁済した場合、Dは担保を免れるので(Bの免責行為が有益)、②他方、Bが賠らなければならない。Dに対する保証債務に全面的に弁済の代位ができるというのでは、公平ではない。そのため、C・D間には共同保証人相互の求償についての民法465条1項を類推適用して、相互に頭割りでの求償を求めるべきである。(d) 第三者との関係 さらには、正規の担保ではないので、第三者への対抗はどうなるのかという疑問が残される。代理受領の合意後に、本件債権が第三者に譲渡されたり、質権が設定されたり、さらには第三者が差し押えることが考えられる。対抗要件がないのみならず、あくまでAC間の相対的な義務にすぎないので、他の第三者はCのBとの関係で認められる利益を害しない不可侵義務を負わないというべきである。結局、Cは第三者が差し押えたならば、それを排除できないことになる。では、二重に代理受領が合意されたらどうなるであろうか。両者に第三債務者が承認してしまえば、相対的な義務であるので、いずれに対しても何という利益そしてそれを侵害しない義務が成立するのであろうか。【関連問題】もし本問において、CがAから本件債権について取立・受領権限の付与を受けたのではなく、AがCの有する預金口座に、Bが本件債権の支払金を振り込むことをAに約諾したが、AがBに、AがD銀行に有する口座に振込先を本件債権の支払先を変更することを求め、Bがこれに応じてD銀行のAの口座に本件債権の支払金額を振り込んだ場合だとしたら、CはBに対してどのような法的請求ができるであろうか。●参考文献●杉田平一郎・最判解民昭和44年度(上) 133頁/内田貴『担保・保証Ⅰ (第6版新民法対応補正版)』(2006) 210頁/梅秀夫編著『現代担保の判例Ⅱ (ジュリ増刊)』(有斐閣・1994) 107頁(松本恒雄)/谷川宇彦「代理受領(現代的問題)」京都学園法学56号(2008)1頁以下(平野裕之)判例索引(参考判例として掲載されたもののみ太字で示した)大判明37・12・13民録8輯1591頁大判明39・3・31民録10輯422頁大判明40・6・13民録11輯688頁大判明41・9・25民録14輯941頁大判明43・12・15民録18輯1276頁大判明43・12・17民録18輯1301頁大判大元3・4・5民録20輯345頁大判大元3・12・15民録20輯1101頁大判大元5・11・8民録22輯2078頁大判大元5・12・25民録22輯2509頁大判大元6・12・27民録23輯2324頁大判大元7・2・22民録24輯284頁大判大元7・3・9民録24輯421頁大判大元7・10・2民録24輯1852頁大判大元7・10・30民録24輯2087頁大判大元8・3・6民録25輯414頁大判大元8・6・13民録25輯1214頁大判大元8・7・14民録25輯1213頁大判大元8・11・1民録25輯1944頁大判大元9・4・27民録26輯899頁大判大元9・5・11民録26輯640頁大判大元9・6・1民録26輯858頁大判大元9・7・16民録26輯1038頁大判大元10・7・8民録27輯1373頁大判大元12・12・17民集3巻648頁大判大元13・11・20民集5巻516頁大判大元14・7・14民集6巻491頁大判大元15・3・29民集7巻190頁大判昭元2・9・26民集9巻13頁大判昭元4・12・11民集8巻923頁大判昭元6・6・4民集10巻601頁大判昭元7・6・8民集11巻1115頁大判昭元7・6・21民集11巻1368頁大判昭元9・6・20民集13巻1118頁大判昭元9・10・13民集13巻875頁大判昭元9・6・2民集13巻931頁大判昭元10・4・23民集14巻603頁大判昭元10・8・10民集14巻1401頁大判昭元11・2・25民集15巻372頁大判昭元11・7・2民集15巻1029頁大判昭元11・12・9民集15巻2172頁
Law Practice 民法Ⅰ【総則・物権編】〔第5版〕 千葉 恵美子, 潮見 佳男, 片山 直也 (編者)・2022年10月15日 (第5版第1刷発行)
ISBN978-4-7857-2991-2
所有権留保
2025/09/03
甲土地を所有するAは、Bに対し、2021年10月6日、期間を3年とし、賃料を月10万円として同土地を貸した。Bは、工作機械を販売する事業を営む株式会社であり、仕入れた機械の一時保管場所として甲土地を借りた。工作機械の製造業者Cは、2022年1月9日、製造した製造Cを代金300万円で、また動産Dを代金200万円でBに売り渡す旨の契約をし、いずれらが代金を完済するまでCが所有権を留保することが約された。同月20日、CがBに対し動産乙・丙を引き渡し、Bは、これらを甲土地上に置いたが、動産乙は、同年3月20日に代金450万円としてDに売り渡す旨の契約が成立し、同月28日に甲土地から搬出されDに引き渡された。この頃、BのAに対する賃料の支払の滞りがちになったことから、Aは、Bに対し、同年1月分から3月分までの賃料の支払を催告し、また、同年4月14日に甲土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。(1) この場合について、Dは、Bに対し、動産乙の返還を請求することができるか。Bに対し返還請求が開始したときに、Cは、Bの債務に対し、動産丙の返還を求めることができるか。Cは、Dに対し、Bに支払うべき代金のうち300万円をDに支払うべきことを請求することができるか、という点を考察せよ。(2) B・C間の売買契約に、代金完済まで所有権を留保するという約定がなかったとする場合に、Dは、Cに対し、どのような主張をすることができるか。Dに対し破産手続が開始したときに、Cは、Bに対し、どのような権利行使をすることができるか。Cは、Dに対し、Bに支払うべき代金のうち300万円をDに支払うべきことを請求することができるか、という各点を考察せよ。●解説●1. 譲渡状況経済的取引から生じる動産の売買において、しばしば動産の売主が買主から代金の支払を受けないまま、買主に目的物を引き渡すことがある。これは、売主と買主との間に売買信用が設定されることによるものであるが、この間に買主が倒産するなどした場合には、売主は代金の回収が困難となりかねない。そこで、この間に買主から売主への代金の支払を確保する目的で、動産に何らかの担保を設定する必要がある(333条)。また、この間に買主から第三者に目的物が譲渡されて引渡しとなる場合も考えられる。2. 所有権留保(1) 意義所有権留保は、売買において所有権が移転する時期を当事者の合意で定めることは可能である。この時期を前提として、買主が代金を支払うまで所有権を売主に留保する趣旨の特約が結ばれることが許容される。所有権留保は、代金の支払の担保のために売買の目的である動産に所有権を留保する趣旨の合意(所有権留保特約)がなされる場合である。(2) 実行所有権留保による代金担保の実行は、上述のとおり、留保されていた所有権の目的物の返還請求による。所有権留保の構成にもとづけば、単に所有権移転時期に関する特約として存在したことを前提に、これによって目的物を返還するにとどまり、これによって目的物を返還することを意図する。所有権留保の場合は、これに対して目的物を返還するにとどまり、これによって目的物を返還することを意図する。3. 留保所有権者の権利行使動産の売主が有する留保所有権は、買主との間では完全な所有権としての効力を有するが、第三者との間では担保権としての効力しか有さない。そのため、第三取得者が即時取得の要件を具備した場合には、留保所有権は消滅する(即時取得の対象)。4. 転得者との関係売買目的物の所有権が第三者に移転し、かつ引渡しもされた場合には、もはや当該動産の上へは先取特権を行使することはできないものとされる。民法333条の定めるるところであり、第三取得者の善意・悪意を問わないとするのが伝統的な解釈である。5. 物上代位売買目的動産について売却・賃貸・滅失・損傷があった場合において、売主は、それらにより買主が取得した債権の上に物上代位をすることができる(304条)。いまだ完全に代金を支払っていない買主が第三者に目的物を転売した場合において、売主は、民法304条1項および民事執行法193条1項後段に従い、買主の転売主に対する代金債権に物上代位をすることができる。●関連問題●B・C間の動産丙の売買契約において、本問のとおり、Bが代金を完済するまでCが所有権を留保する旨が約されていたとする場合ににおいて、本問のAは、Cに対し、動産丙を甲土地から撤去することを求めることができるか。また、B・C間の動産丙の売買契約において、Bが代金を完済するまでCが所有権を留保する旨の契約条件がなかったとする場合において、Aは、Bの未払賃料を取り立てるため、丙動産を差し押えることができるか。それができるとする場合におけるA・Cの権利関係は、どのように考えられるか。●参考文献●田髙寛貴・判タ1305号(2009)48頁(参考判例①判批)和田真一Ⅰ(第8版)(2018)204頁(参考判例③判批)
Law Practice 民法Ⅰ【総則・物権編】〔第5版〕 千葉 恵美子, 潮見 佳男, 片山 直也 (編者)・2022年10月15日 (第5版第1刷発行)
ISBN978-4-7857-2991-2
集合動産譲渡担保
2025/09/03
Aは、ワイン等の酒類を販売する店舗を営業する会社である。2023年4月、Aは、新たな店舗を開くための融資をB銀行から受け、これについてAは、自己の所有する甲土地にBのための抵当権が設定されていたため、Aは、甲・乙の2店舗内にある在庫商品(以下、これを「本件物件1・2」という)を担保に提供することをXに申し入れた。本件物件1は比較的高額なワインを中心としており、この時点での在庫は5000本であった。本件物件2は比較的高額のワインを中心としており、この時点での在庫は2000本であった。2023年5月1日、BがA・X間で締結された「譲渡担保設定契約」には、「Aは、甲・乙各店舗においてAが現在所有しかつ将来取得する一切の在庫商品(ワイン)をXに担保のために譲渡する。見合債権は1000万円とし、2024年2月1日までに完済する。見合債権の金額を合わせて提供すれば、AはXからこれらの商品をBに取り戻すことができる」とされた。甲店舗内の商品については同日付けでAは設定がなされ、また、乙店舗については譲渡登記が5月10日付けで経由された。さらに、「Aは、自己の乙で、通常の営業に適した価格で譲渡することを許諾する。Aは、やがては、上に掲げる商品と引き換えに、新たな商品を補充しなければならず、Aが売却した商品は、当然に本譲渡担保設定契約の目的となる」旨の条項が挿入された。甲・乙の2店舗内にある在庫商品、本件物件1・2は、ワイン卸売りと兼業する乙が納品した商品であり、Bから翌月14日までを1つの期間として、期間ごとに納品されたワイン売買代金の額が算定され、14日、Aが代金決済の20日その期間内に納品されたワインにつき、Yの方で、売買等の処分を行うことを許諾する」旨が合意されていた。その一方、Yの方から取引関係にあったDとの間で、新たに以下のよう取引を行った。2024年10月1日、甲・乙店舗内の在庫商品合計2000本(各店舗につき1000本ずつ)のワインを市価でYに売却するという契約を締結した。この取引は、Yが自己顧客に対する贈答品を確保するために行われたものであり、AとYとは以前にも同様の取引を行ったことがあった。引渡しの時期は2025年1月10日とされ、代金1500万円の支払と引換えにAがワインを甲および乙店舗よりYに引渡すことが約定された。他方、最近のAの経営不振を聞いたZは、2025年1月5日、2024年11月15日から同年12月14日までの間に乙店舗にAが納品した店舗内の商品について競売を申し立て、Aに対して、残代金債務の範囲で現店舗内について引渡しを求めた。2025年1月10日、Yは1500万円の現金を用意して甲・乙店舗に赴いたが、Aとの乙との間のトラブルを理由に引渡しを拒んだ。その後、XはAに融資し、乙店舗の引渡しを求めたが、Yが2月5日に現金で1500万円を支払い、これと引き換えに多数の1000本のワインを受領し、これを自己の倉庫に搬送した。また、甲・乙の2店舗内のワインは全て、甲店舗内の商品については2024年11月30日から12月31日までの間にZにAが引き渡したものであり、2025年1月10日までにAからZに対して代金が支払われていた。他方、乙店舗内の商品については、同期間内に搬入された全商品について代金は未払であった。その後、Xは、Aに対する債権の回収が一段と進むので、2025年2月21日、Aを提訴しても現金も資産も返済はなされていない。●解説●1. 目的物の特定性と対抗要件の具備Xが本件物件に取得した権利は、譲渡担保の目的である、店舗内の商品という物の集合を包括して譲渡担保の目的となしうるかが問題となる。最高裁は、「構成部分の変動する集合物についても、その種類、所在場所および量的範囲を指定するなどの方法により目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうる」(最判昭和54・2・15民集33巻1号51頁)として、集合物論を採用している。2. 乙による商品売立ての可否3譲渡担保の目的となっている個々の商品の処分の有効性判例の立場を前提とすれば、物件2については、Zによる動産売買先取特権が、XがYより受戻権取得によって生じた在庫商品の引渡しを求める。3. 譲渡担保の目的となっている個々の商品の処分の有効性判例によれば、帰属清算型・処分清算型を問わず、譲渡担保権者は、被担保債権の弁済期到来後(2月1日)後に1000本を引き渡し、その後Xが譲渡担保権を実行する。●関連問題●(1) 本問と異なり、2025年1月10日、AはYにウイスキーを引き渡そうとしたが、その後、AはYに甲・乙各店舗の商品を引き渡す方法として、同店舗内の商品合計2000本を、Aの汚倉庫に移動させたうえでYに引き渡すことを提案した。Yはこれを承諾し、汚倉庫にワインが搬入された。同年2月5日に、Yは予定した代金額を全額支払い倉庫内でワインの引渡しを受けたが、保管の手間等を考えてしばらく汚倉庫で保管してもらうことにした。その後、本問と同様、Xは、2025年2月21日、(2月1日を徒過しても現金も資産も返済はなされていないから、もはやAはXから本件物件1・2を受け戻すことはできず、Xはこれらの所有権を確定的に取得した」と主張して、Aに対し、本件物件1・2の引渡しを求めて訴えを提起した。Xのこの主張は認められるか。また、Aはどのような反論をすることが可能か。(2) 本問と異なり、ZのAに対する売買契約書には、「A間の継続的な売買契約において、目的物の所有権の売買代金の完済まで乙に留保される」旨が定められ、「毎月15日から翌月14日までを1つの期間として、期間ごとに納品されたワインについて売買代金の額が算定され、1つの期間に納品されたワインの所有権は、当該期間の売買代金の完済まで売主に留保される」ことが定められていたとする。これに加えて、「Zは、Aが、自己の名で、通常の営業のために転売等の処分をすることを許諾する」旨が合意されていた。なお、2025年2月5日の時点では、甲店舗内のワインについては、11月30日から12月31日までの間にZにAが引き渡したものであり、あり、1月10日までにAからZに対して代金が支払われていた。他方、乙店舗内の商品については、同じ期間内に搬入された全商品について代金は未払であった。このとき、Zが、Aの代金不払に対して、甲・乙店舗に残った自己の売却した商品について、それらの所有権が自分にあるとして、甲・乙からの引揚げをAに対して求めた場合、XおよびYは、これについて異議を唱えることができるか。●参考文献●森田修・法協124巻11号(2007)2598頁菱田雄郷・判評582号(判例時1968号)(2007)21頁遠藤隆一・金判1575号(2019)8頁
Law Practice 民法Ⅰ【総則・物権編】〔第5版〕 千葉 恵美子, 潮見 佳男, 片山 直也 (編者)・2022年10月15日 (第5版第1刷発行)
ISBN978-4-7857-2991-2
不動産譲渡担保②
2025/09/03
甲市において建設製造業を営むAは、2022年6月1日、老朽化した製造機械の更新のために、貸金業者Bから金7500万円を借り受け、Bとの間で毎月1日払い、最終弁済期2027年6月1日、利息年2.5パーセント、遅延損害金年4.5パーセントという内容の金銭消費貸借契約を締結した。また、同日、Aは、Bから貸付けを受けた金銭債務の担保のために、A所有の工場建屋およびその敷地(以下、「本件土地建物」という)の所有権をBに移転し、同年6月2日に所有権移転登記を経由した。その後、3年の間は、順調に被担保債権の弁済がされていたが、2026年10月頃より弁済が滞り、元本については、最終弁済期到来の時点でもなお2900万円余の未払金があった。そこで、Bは、2028年6月1日、本件土地建物の所有権をCに譲渡し、同月5日に所有権移転登記を経由した。他方、Aは、2029年6月1日、Bに対して残債務ならびに同日までの利息および遅延損害金(以下、「本件残債務等」という)を提供したが、Bが受領を拒んだため、同年6月5日、本件残債務等を供託した。(1) 以上のような状況において、Cは、本件土地建物をBから取得したことを理由として、Aに対して本件土地建物の明渡しを請求することができるか。**(2) 上記と異なり、Bの一般債権者DがBに対して有する債権の実行として、2028年6月1日に、本件土地建物につき競売を申し立て、差押登記を同年6月5日に了した。他方で、Aが、上記と異なり、同年6月9日にBに本件残債務を弁済したとする。この場合において、AはDの不動産差押えに対して、受戻権の行使を理由として、第三者異議の訴えを提起することはできるか。●解説●1. 譲渡担保の実行債権者は、被担保債権の弁済期を経過すれば、「譲渡担保の目的の範囲内で移動を受けた担保目的物の所有権を移転する」ことを図ることができる。もちろん、譲渡担保目的物の所有権の帰属を図ることができる。判例法理においては、2つの類型がある。一つが帰属清算方式であり、他方が処分清算方式である。2. 受戻権処分清算方式の場合にあっては、第三者への処分によって完全な所有権の移転が生じることになる。このため、これらの時点以降は、もはや債務者(設定者)は所有権の回復を求めることができなくなる。受戻権は、被担保債権等弁済しないと消滅することができず、譲渡担保を、目的物の換価によって、債権者が優先的に弁済を受ける(戻し)この受戻しは、所有権的構成によれば、債権者が有する目的不動産の上の担保権(利益)を消滅させることを意味する。3. 受戻権と譲渡担保権設定後の第三者との関係被担保債権の弁済期経過後、債務者が第三者に処分された場合の法律関係はどのようだろうか。一方において、譲渡担保権者は、譲渡担保の実行の範囲で目的不動産に関する処分権能を有し、これに基づいて、帰属清算あるいは処分清算による清算のいずれかの方法によって目的不動産を確定的に取得することができる。このとき、譲渡担保権設定者はもはや目的不動産の所有権を回復し得なくなる。他方、設定者は、目的不動産の所有者であって、自己の所有に基づいて第三者異議を主張しうる。4. 譲渡担保権者の清算義務と譲渡担保権設定者との関係設定者は受戻権の行使により目的物(利益)を対抗することができる。判例も同様に、弁済期の経過によって譲渡担保権者が目的物を取得するという立場に立つものの、背信的悪意者を評価するさまざまな問題意識がみられる。さらに、判例が帰属清算型の譲渡担保を念頭に置いたうえで、清算金の支払と目的物の明渡請求権の行使が同時履行にあるという立場に立つ。したがって、本問の事実関係においては、債権者が弁済期の経過後に目的不動産を第三者に処分した場合であっても、受戻権の行使により目的物を第三者から取り戻すことができる。●関連問題●本問の事実関係において、Aによる非弁活動が2028年5月15日に行われたが、Bは受領を拒絶し、Aは残債務等を同年5月31日に供託したとする。他方で、Bは、同年5月5日にCに対して本件不動産を処分し、所有権移転登記を同年6月5日に了したとする。この場合において、CからAに対してなされた不動産の明渡請求に対して、Aはどのような反論が可能か。●参考文献●水上敏=「譲渡担保(2)物権」(有斐閣・1995)144頁鹿毛・最判解平成6年度208頁増森・最判解平成21年度(下)1096頁生熊長幸・民商法雑誌135巻2号(2007)101頁道垣内弘人=「譲渡担保(2)物権」(有斐閣・2015)241頁小林明=「譲渡担保」有斐閣(2015)109頁小林明=「譲渡担保」法セミ(有斐閣・2015)128頁林明=「譲渡担保」(有斐閣・2015)198頁
Law Practice 民法Ⅰ【総則・物権編】〔第5版〕 千葉 恵美子, 潮見 佳男, 片山 直也 (編者)・2022年10月15日 (第5版第1刷発行)
ISBN978-4-7857-2991-2
不動産譲渡担保①
2025/09/03
Aは、その所有する甲土地およびその上の乙建物において印刷業を営んでいたが、金融会社Bから、利率を月1.2パーセントづつ月末に支払い、元本の返済期限を2年後とする条件で、1000万円を借り受ける契約を結んだ。かかる契約後にただちに、AはBから1000万円の全額を領収した。他方で、Aは上記の契約と同時に、Bに対して負担する金銭債務を担保するために甲土地および乙建物をBに譲渡するという契約を結び、ただちにそれぞれに関してAからBへの所有権移転登記が経由された。この契約では、①AからBへの支払・返済が滞らない限り、Aはなお甲土地および乙建物を占有・使用することができる旨、②AがBに対する金銭債務をすべて弁済すれば、Bは上記の所有権移転登記の抹消に協力する旨、および③AからBへの支払・返済が滞る場合には、Bはただちに甲土地および乙建物の所有権をもってAに対する金銭債務の満足に充てることができる旨が約された。その後、AはBとの約定のとおりにその債務をすべて弁済した。ところが、資金繰りに困ったBは、Aから返済を受けたにもかかわらず、甲土地および乙建物をCに1200万円で売却し、それぞれに関してBからCへの所有権移転登記が経由されてしまった。そこで、AはCに対してその抹消登記手続を請求した。この請求は認められるか。●解説●1. 譲渡担保の意義と法的構成本問においては、Aがその所有権をBに譲渡しているが、これはあくまでBのAに対する債権を担保するためになされている。このように債権の担保のために財産を譲渡することを譲渡担保という。(1) 判例の見解本問のように、債権者が弁済を受けたにもかかわらず、第三者との間に譲渡したケースについて、判例は、譲渡担保権者と第三者との関係につき、第三者に対抗しえないと解している。(2) 学説学説においては、譲渡担保権設定者に物権的権利が留保されるという立場が有力である。とりわけ、債権者が担保権しか取得しないという立場に立てば、もともと所有者はAであり、Bのした担保権を被担保債権の消滅とともに消滅する以上(付合性)、Cは原則として所有権を取得し得ないことになる。また、一応債権者に所有権が移転されるものの、設定者には弁済によって所有権を回復しうるという立場に立てば、もともと所有権はBに移転されるものの、なお第三者に対抗できる。2. 当事者の実質的判断と第三者の取引の安全譲渡担保の法的構成いかんによって、設定者と第三者とのいずれが保護されるかに違いが生じる。それぞれについて、その例外は認められる。設定者に物権的権利が残らないという立場からは、設定者が登記によって自己の物的権利を主張しうる。しかし、このような事情を立法で具体的に負担であり、その意味では、譲渡担保の法的構成をどう捉えるかは、設定者と第三者との利益のいずれをより重視するか、ということになる。そして、近時の判例の多数が譲渡担保を基礎にした第三者の取引の安全と設定者の利益のいずれにより重点を置くべきかという点については、比較衡量にまつわる問題意識が表れている。●関連問題●本問において、AがBにC社などと取引し、利益を折半する約束をしていたが、Bがその約束を履行せず、その結果、Aの経営が悪化した場合に、AがBの債務不履行を理由に、AのBに対する損害賠償請求権をもって、Bに対する登記の抹消登記請求ができることを主張することができるか。●参考文献●安永正昭=「譲渡担保(2)物権」(有斐閣・1995)144頁道垣内弘人=「譲渡担保(2)物権」(有斐閣・1995)120頁古積健三郎=争点151頁水野謙=「譲渡担保(明田)から読み解く民法」(有斐閣・2017)179頁
Law Practice 民法Ⅰ【総則・物権編】〔第5版〕 千葉 恵美子, 潮見 佳男, 片山 直也 (編者)・2022年10月15日 (第5版第1刷発行)
ISBN978-4-7857-2991-2
共同抵当
2025/09/03
2024年4月1日、A会社はB銀行から弁済期を2026年3月31日として1億円の貸付けを受けた(利息等は割愛する)。この貸金債務を担保するため、同日、A会社の代表者Yが、自らの所有する不動産甲(評価額3000万円)およびY所有の不動産乙(評価額2000万円)に、Bのために第1順位の共同根抵当権を設定して、その旨の登記を経由した。2024年10月1日、XはAから弁済期を2026年9月30日として2000万円の貸付けを受け、この貸金債務を担保するため、Yは不動産甲にXのために第2順位の抵当権を設定して、その旨の登記を経由した。その後、Aの経営は悪化し、BもXもAから全額の返済を受けていない。(1) 2027年2月1日、Bは甲の担保不動産競売を申し立て、同年10月1日に甲の売却代金3000万円を配当として受領した(Aへの配当額は0であった)。同年10月1日現在、Xは乙建物の競売を申し立てることができるか。仮にできるできる場合、板にできる場合、Xは配当手続においていくら受領できるか。(2) 2026年12月1日、Bは、Yから7000万円の代位弁済を受け、Aは乙建物の乙上の抵当権につき、Yのための代位による抵当権移転登記をした。2027年2月1日、Bは甲の担保不動産競売を申し立て、同年10月1日に甲の売却代金3000万円を配当として受領した(Xへの配当額は0であった)。同年10月1日現在、Xは、乙不動産の競売を申し立てることができるか。仮にできる場合、Xは、Bに対して何らかの請求をすることができるか。●解説●1. 共同抵当における異時配当と後順位抵当権者の代位(小問(1))(1) 問題の所在Xは不動産甲上の後順位抵当権者であるので、抵当権の実行として乙不動産の競売を申し立てるためには、Xが乙の抵当権を取得していることが必要である。この他人の権利を行使できる地位にあることが必要である(厳密には、登記上の抵当権を執行すれば執行裁判所は開始決定をし(民執181条1項3号)、抵当権の不存在は請求異議の訴えで争われる(同法182条))。2. 民法392条の適用範囲の限定実際、共同抵当不動産の一つの不動産が物上保証人の所有の場合であっても、参考判例①は、民法392条1項の適用を認め、各不動産の価額に応じて債権の負担を按分し、物上保証人が所有する不動産から債務者が所有する不動産に求償できることを認める。3. 経済の具体的な手順それでは、XはどうすればBの優先弁済権を確保できるのか。Xはまず、甲の売却代金の配当期日Bの債権を留保したうえで(民執85条8項)、配当の変更の訴訟(同項)を申し立てるうえで、配当表の変更を求める訴訟を提起することができる。なお、配当異議の訴えが提起されると、配当異議の申出にかかる部分の配当が留保され、配当異議の申出があった部分の配当が実施されず、配当額は供託される(同法91条1項)。4. 問題の本質**なお、仮にYのBに対する代位弁済があれば、Bの抵当権は、抵当権設定登記に付記登記がなされ、YからXに対する請求は認められない。●関連問題●本問に記載された事実に加え、以下の(1)(2)のいずれかの事実が存在したとする。各場合について、2027年10月1日現在、XはBに対して1000万円の不当利得返還を請求できるか。(1) 2026年12月1日、Yは乙を代金7000万円でZに売却し、同日、Zが代金7000万円をBに支払うとともに乙上の抵当権を放棄した。2027年2月1日、Bは甲の担保不動産競売を申し立て、同年10月1日に3000万円を配当として受領した。(2) 2026年12月1日、Yは乙を代金7000万円でZに売却し、同日、Yは乙を代金7000万円でZに売却し、その代金7000万円をBに支払い、Bはこの担保不動産競売を申し立てた。2027年2月1日、Bは甲の担保不動産競売を申し立て、同年10月1日に3000万円を配当として受領した。●参考文献●清水元・百選Ⅰ 192頁滝澤信彦・最判解平成4年度451頁
Law Practice 民法Ⅰ【総則・物権編】〔第5版〕 千葉 恵美子, 潮見 佳男, 片山 直也 (編者)・2022年10月15日 (第5版第1刷発行)
ISBN978-4-7857-2991-2
抵当権と利用権の関係
2025/09/03
Aは、自身の所有する共同住宅(以下、これを「本件建物」という)を賃貸していた。2024年10月7日、Aは、B銀行から融資を受けるに際し、その担保として本件建物にBのための抵当権を設定し、同日、その旨の登記を了した。 2029年頃からAのBへの返済が滞りがちになり、2030年11月からはほぼ返済がなされなくなった。そのためBは、2031年3月15日、本件建物について抵当権の実行による担保不動産競売を申し立てた。同月29日に、担保不動産競売開始決定がされ、同月31日に差押登記がされた。同年12月3日、Xを買受人とする本件建物の売却許可決定が確定し、翌2032年1月13日にXからの代金納付がされたことにより、Xが本件建物の所有権を取得した。 Xは、本件建物に居住する者たちに対して、ただちに明渡しを求めたい。2032年1月14日現在、本件建物の居住者Y₁〜Y₄が次の(1)〜(4)の状況にあるとすると、Xの請求は認められるか。 (1) Y₁は、2024年9月1日、本件建物の1号室を賃借している。 (2) Y₂は、2026年4月1日から本件建物の2号室を賃借している。 (3) Y₃は、2031年4月1日、本件建物の3号室を賃借している。 (4) Y₄は、2026年9月1日から本件建物の居住者Y₂から、本件建物の4号室を転借し、2027年4月1日以降Aに無断で、この部屋を転借し、1人で使用している。 なお、民事執行法83条の引渡命令にはふれないでよい。 ●参考判例● 東京高決平成20・4・25判時2032号50頁 ●解説● 1. 前提:抵当不動産の使用 抵当権は非占有担保である。抵当不動産の使用は、抵当権が設定された後も、抵当権者に占有が移転することなく(369条1項参照)、このように設定者が抵当不動産を利用できることから、設定者にとっても利益である。 なぜなら、抵当権者は、抵当不動産に対する担保価値を把握するにとどまり、抵当権が実行されるまでは抵当不動産を自由に使用収益できるほか、賃貸するなどの活動を継続できることで債務の弁済原資も高まるからである。 他方で、抵当不動産の使用収益においていくつかの調整を必要とする。たとえば、抵当不動産の使用収益が第三者である場合には、その妨害を排除する手段を与えられる(このような側面については→本章VⅢ参照)。したがって、抵当不動産が設定された不動産を使用するとしても、設定者による使用収益が一定の制約を受けることがある。 逆に、抵当権の設定が抵当不動産を使用収益する第三者との関係で、抵当権の設定が抵当不動産を使用収益する第三者との関係で、抵当権の設定登記後に賃貸借契約を締結する第三者との関係では、結論、抵当権設定登記後に賃借権が設定された不動産自体への帰属となる。 2. 抵当権と利用権の関係の調整 (1) 2003年改正前 利用権保護の方法については制度の変遷がある。2003年に担保執行法の改正がされるまでは、契約期間が比較的短期でかつ対抗要件を備えた賃貸借(短期賃貸借)を保護する制度が採用されていた。短期賃貸借と呼ばれる賃貸借の対抗力は、建物の賃貸の場合の期間は3年以下)。 (2) 2003年改正後 執行妨害を助長するため、短期賃借権を保護する制度は廃止された。抵当権設定登記後の賃貸借は、原則どおり抵当権者に対抗できないことになった。しかし、突如として買受人から退去を命じられる賃借人の不利益は大きい。そこで現在では、賃借人が建物の明渡の場合に限り、所定の要件を満たした者には、競売による買受時から6か月間、賃借物の明渡しを猶予することとし(395条1項)、建物賃借人の利益を最小限にとどめようとしている。その要件は以下のとおりである。 占有者に明渡猶予が認められるには、①抵当権設定登記後に建物を賃貸借し、②現に使用収益している占有者であること、③現に使用収益している占有者であること、④買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは建物を買受人に引き渡す必要はないからである。 (3) 本問への当てはめ 以上の前提を前提に本問のY₁〜Y₄に対するXの明渡請求の可否を確認すると、次のとおりとなろう。 Y₁は、Bの抵当権設定登記がされた2024年10月7日以前の同年9月1日から、本件建物を賃借している。抵当権設定登記後に賃貸借契約が締結されている場合は、そもそも明渡猶予の対象にならないことから、Y₁の占有権原として基づく賃貸借契約は、Y₁の占有として考えられるのは、占有権原としての賃貸借契約の存在である。すなわち、Y₁の賃貸借が対抗力を有していれば、それを買受人にしても対抗することができる。 Y₂は、2026年4月1日から建物を賃借しているが、これはBの抵当権設定登記後にされるため、短期賃貸借の保護を排した法改正では対抗力を得ることはできない。したがって、買受人の明渡請求に6か月は対抗することができない。 3. 転借人の扱い 以上みたY₂およびY₃に対する明渡猶予の可否は、民法395条1項の文言どおりである。転借人であるY₄について明渡猶予が認められるかは、条文の文言からはただちには明らかとならない。現在のところ、この点について最高裁判例はなく、また民法教科書で一般的に取り上げられる問題ではないが、明渡猶予制度の趣旨を考えるうえで1つの素材にはなるだろう。 4. 抵当権設定後の賃貸借の対抗力 以上述べたように、明渡猶予制度は抵当権設定後の賃貸借に対抗力を与えるものではなく、猶予期間経過後は、賃貸人は退去を拒むことができない。しかし、抵当権者の利益の観点からみると、賃借人は退去を拒むことができない。このように、賃貸借に対抗力を付与して、その存続を保障する制度と、2003年の改正では、抵当権設定登記後の賃貸借への対抗力の付与が認められている(387条)。 ●関連問題● 本問において、B銀行以外にAも本件建物上に抵当権を有しているとする。また、Bは、Bの抵当権上に抵当権(転抵当)を有している。Bが本件建物の所有権をAに代物弁済として、Aの抵当権を付与したとしているとき、法律上Bがとるべき手順を答えなさい。 ●参考文献● 片山直也・金法1876号(2009)29頁 三上威彦・民事執行管理(第2版)(2012)82頁
Law Practice 民法Ⅰ【総則・物権編】〔第5版〕 千葉 恵美子, 潮見 佳男, 片山 直也 (編者)・2022年10月15日 (第5版第1刷発行)
ISBN978-4-7857-2991-2
法定地上権②
2025/09/03
Aは、自己所有の甲土地上に5階建ての乙建物を建て、自身が経営する会社の事務所に使用していた。Aは、会社の経営規模を拡大させるべくB銀行から融資を受けることとし、2019年3月、Bとの間で、甲土地および乙建物につき、根抵当権を設定し、根抵当権者をBとする共同根抵当契約を締結した。ところが、乙建物は、2020年4月にこの地を襲った大地震によって倒壊、滅失した。Aは、これを機に別の場所に移して会社の新社屋を建てることにして、甲土地上には、2021年1月、比較的小さな丙建物を建築し、これをCに賃貸した。ところが、ほどなくAの会社の経営は危機的状況に陥り、Aは弁済期日にBに対して債務を弁済することができなくなった。そこでBは、甲土地につき、上記根抵当権に基づいて裁判所に不動産競売を申し立て、裁判所は2021年12月に不動産競売開始決定をした(なお、BのAに対する被担保債権額は1億4000万円であった)。2022年4月、Yは、甲土地につき売却許可決定を受けて、代金9800万円を納付し、甲土地の所有権者となった。そこでYは、甲土地の所有権に基づく返還請求として、Aに対して丙建物収去・甲土地明渡請求を、Cに対して丙建物退去・甲土地明渡請求をした。Yの訴えは認められるか。●解説●1. 土地のみに抵当権が設定された場合法定地上権の成立要件の1つに「抵当権設定時に建物が存在していること」がある(388条)。これに関しては、抵当権設定時に存在していた建物が滅失し、更地にされて丙建物が再築された場合は、法定地上権は成立しない。通説・判例は、この場合、旧建物を基準とした内容の法定地上権の成立を認める。抵当権者としては、抵当権設定を受けたとき、法定地上権の成立を予定していたはずであるから、法定地上権を成立させても抵当権者が不当に害されることはならない、というのが理由である(大判昭和10・8・10民集14巻1549頁)。つまり、この場合に土地に設定された抵当権が担保価値として把握していたのは、底地価格(土地の価格から法定地上権価格を除いた部分)のみということになる。2. 土地と建物の双方に根抵当権が設定された場合では、本問のように、土地とその上の建物の双方に共同抵当権が設定され、その後に建物が再築された場合はどうか。①に掲げた判例からすれば、この場合も旧建物を基準とした法定地上権の成立が認められそうである。すなわち、建物に対する抵当権は建物と土地利用権の価格を、土地に対する抵当権は底地価格をそれぞれ把握していたと考えれば、建物滅失後に抵当権者が把握しているのは土地抵当権の対価である底地部分だけと解される(個別価値考慮説)。しかし、参考判例①は、土地と建物に共同抵当が設定されていた場合には、再築建物のための法定地上権は成立しないとした。すなわち、土地の共同抵当の設定を受けた者は、土地および建物双方の担保価値を把握する。3. 全体価額考慮説の背景とその範囲問題は、この判決の射程をどのように考えるかである。全体価額考慮説が構想され、また最高裁がそれを採用した背景には、抵当権の実行に際する問題があった。たとえば、土地の抵当権者が乙建物に1番抵当権を、建物所有者が、新建物に丙建物を設定する1番抵当権として、旧建物を担保に取り増したにもかかわらず、新建物には別の債権者のための1番抵当権を設定するようなケースが多発した。さらに重要なのは、抵当実行が間近に迫ったときに、建物の取り壊しを嫌う第三者が、その後、簡易な建物を建て、法定地上権が成立する旨主張したのである。4. 全体価額考慮説の共同担保への適用の可能性参考判例①が、個別価値考慮説への言及を避け、法定地上権の成立を否定したうえで、このように述べように、再建・改築資金の融資に当たり、金融機関が予定していた抵当権の設定を受けず、再築後の建物への抵当権設定を受けた場合に、全体価額考慮説に即したうえで、法定地上権の成立を否定したことをどう理解しようか。5. 「新建物」の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が再建について土地の抵当権の設定を受けた場合参考判例①は、「新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が再建について土地の抵当権の設定を受けたときは、新建物のための法定地上権が成立すると認めるのを相当とするほか、所有権以外の第三者が建てた建物に1土地抵当権者が明示の共同担保の設定を受けた場合はどうなるのか等、さまざまな場面を想定しつつ、さらに検討を進めてもらいたい(この点に関連して、参考判例②参照)。●関連問題●(1) 本問において、Aが2021年6月に丙建物をBのために1番抵当権を設定しており、また、同年8月5日法定納期到来する国税6000万円を滞納していたとする。そして、甲から丁不動産が競売され、Yがこれを買い受け、1億2000万円が配当されることになった場合に、Bと国Gは、これらそれぞれに配当を受けられるか(なお、1億2000万円のうち土地部分は1億円、建物部分は2000万円であり、法定地上権が成立した場合の法定地上権の価額は土地の価額の6割であるとする)。(2) 2019年6月、Aは、自己所有の甲土地上に乙建物を建築し、ここに丙建物を建築することとし、そのため建築費をXから融資してもらうことになった。その際、Aは、Xのために甲土地に抵当権を設定し、ほぼ完成後に丙建物にも抵当権を設定する旨のDとの間で約束した。同年10月、丙建物は完成し、Xは、Aからの丙建物の抵当権設定の要請に応じないばかりか、丙建物を建築した建築業者Yに対する工事代金の支払もしないままであった。Yは、Aの工事代金未払を理由に丙建物の引渡しを拒み、占有を続けている。2021年3月、Xは、抵当権に基づく甲土地の競売を申し立て、同年11月15日、Aは、丙建物の所有権をBに売却し、そこで、Xは、丙建物を占有するYに対して、丙建物の収去と甲土地の明渡しを求めて訴訟を提起した。Yの請求は認められるか。●参考文献●小林明ほか・金法1493号(1997)24頁佐久間毅・法教239号(2000)24頁道垣内弘人・百選Ⅰ 186頁高須順一・法教418号(2015)69頁
Law Practice 民法Ⅰ【総則・物権編】〔第5版〕 千葉 恵美子, 潮見 佳男, 片山 直也 (編者)・2022年10月15日 (第5版第1刷発行)
ISBN978-4-7857-2991-2