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物権的請求権と費用負担

Aは、田舎で週末を過ごしたいと考え、甲山にある、別荘用地に適成された乙地をBから購入して、そこに5年前にログハウスを建てた。一方、Bも、少年時代に、自宅を建設するために、乙地の隣にあり、乙地より少し低い場所にある丙地を購入した。Bから丙地の建物を建てるという話を聞きつけたC社は、丙地が山の斜面に位置していたことから、大型のブルドーザーでかなりの深さまで丙地を掘り下げ、土砂を乙地との境界線にする丙地の西側の一面に高く積んだ。AはCの現場監督から、基礎工事が完了した後、この土砂の一部を埋め戻す予定であると説明を受けていた。翌年、Aが別荘を訪れたところ、上記の土砂の一部が乙地に崩れ落ちており、Aは自動車の出入りができなかった。そこで、Aは、早速Cに連絡を入れたが、週末のせいか連絡がつかなかった。ところが翌週、地元の新聞報道で、Cが事実上、倒産したことを知った。困ったAは、Bに対し、乙地の土砂を除去すること、降雨の季節になり、このまま土砂の上に別の土砂を放置すると大量の土砂が乙地に流れ出るおそれがあることから、甲地にある土砂を埋め戻すとか、乙地に土砂が流入しないような対策を施すよう求めた。しかし、BはCの工事が原因であるとして、まったくAの請求に応じない。また、丙地にある立木の枝が乙地に張り出しており、AはAに枝の切除を求めたが、これも応じなかった。Aはやむなく工務店に依頼してこれらの処置をしてもらい、その費用の返還をBに請求した。Aの請求は認められるか。●参考判例●大判昭和12・11・19民集16巻1881頁最判平成6・2・8民集48巻2号373頁●解説●1. 所有権に基づく請求権とその相手方乙地の所有者であるAは、丙地の土砂によって乙地の利用が妨げられている。このように所有権の侵害が侵された場合、所有権が円満に実現できるように、所有者には、所有権に基づいて妨害排除(物権的請求権)が認められている。明文の規定があるわけではないが、所有権は、物の価値を排他的に直接支配することができる権利であるから、それが妨げられた場合には、上記の請求によって保護される必要があると解されている。①物の占有を喪失している場合には、所有権に基づく返還請求権、②物の占有が奪われていないが、占有以外の事由によってその支配が妨害されている場合には、所有権に基づく妨害排除請求権、③物の妨害のおそれが大きい場合には、所有権に基づく妨害予防請求権がそれぞれ認められている。もちろん所有権が侵害ないし侵害されるおそれがある場合には、不法行為に基づく損害賠償請求権や差止請求権が認められる余地があるが、所有権に基づく請求権(物権的請求権)は、所有者が妨害状態にあることを主張・立証すれば足り、相手方の故意・過失の主張・立証を問題とすることなく、現実の所有権を侵害している者、またはそれをおそれさせている者に対して認められることになるから、きわめて強力な救済手段となる(最判名義人であるAも、請求の相手方となるかについては、末尾の関連問題参照)。本問では、①乙地への妨害ないし妨害のおそれは存在している、②乙地はCから丙地を譲り受けている、③AはCに対して不法行為に基づく損害賠算請求ないし差止請求権、所有権に基づく妨害排除請求権・妨害予防請求権を主張できるだけでなく、土砂の所有者Bに対しても土砂の除去や今後の予防措置を講じるように請求できるかが問題となる。2. 行為請求権に対する批判妨害物ないしそのおそれがある土砂の所有者がBであることから、土砂の除去や今後の予防措置を講じるように請求できるとする考え方は、学説上、行為請求権説と呼ばれている。上記の見解につき、妨害排除ないし妨害予防のために一定の行為を講じる債務負担なしに妨害しなければならないことになる。しかし、侵害行為に直接関与しているわけでもないBに、なぜこのような費用負担を求めることができるのだろうか。また、乙地に流入した土砂に着目すると、土砂の所有権はBにあることから、BはAに対して所有権に基づく返還請求権を根拠に、土砂の引渡しを請求してくることが考えられる。行為請求権説によれば、AがBに土砂を引渡すように求める請求権を行使すると、Aの費用で土砂をBに引き渡すように求めることかできうることになり、Aが土砂を除去してBに返還する費用を負担しなければならないことになる。このように所有者に物権的請求権が認められているといっても、このような内容の請求権であるのならば、必ずしも明らかではない。そこで、所有権に基づく請求権は、所有権の実現が侵害されている状態から所有者を解放することを請求する権利であると考えるべきであるから、費用負担については、妨害請求権を行使する者がさしあたりは負担すること、侵害行為者が所有者の故意・過失によって生じている場合には、妨害請求権を行使する者の不法行為責任を追求することによって、費用負担を侵害として相手方に請求するべきであるとする見解が登場することになった。このような見解を忍容請求権説と呼んでいる。3. 衝突が定量的に妨害の除去を不可能にする場合侵害者が自発的に妨害の除去をしないとき、実質の除去は代替執行の方法によって行われる(414条1項、民執171条)。したがって、侵害行為者が侵害者の故意・過失によって生じている場合、妨害請求権を行使してその費用を自分で負担しえたうえで、相手方にその賠償を請求すること(414条2項)、相手方の費用で除去行為の請求を求めることは実質的には大きな違いはないように思われる。問題は、本問のように、第三者の行為によって侵害行為が生じたような場合に、自己の費用で妨害の除去を行うのが、侵害行為が侵害者の故意・過失によって生じているわけではない場合である。4. 枝の切除権と費用負担立木の枝についても、Aは、Bに対して枝の除去を請求できる(233条1項)が、理論的には土地所有権に基づく妨害排除請求権が根拠となる。Aは、Bに枝の切除を催告し、相当の期間(竹林の所有権者が自ら切除するために必要な期間は2週間程度と考えられている)が経過した場合、Aに切除権が認められる(同条3項)。Aが自ら切除する行為は、Bの所有権侵害となる可能性があるが、①Bの木の枝によって、Aの所有権が妨害されている点と、②Bの費用で切除する場合の、Aの所有権が妨害されているからといって、無制限に費用負担を相手方に求めることができるとは考えにくい。この場合には、妨害請求権の相手方のみが費用を負担するという結論が適切なのかどうかについても検討の余地があるように思われる。このような考えに基づくと、台風、集中豪雨、地震などの自然現象が加わる場合には、いかなる意味で相手方の行為に基づいたといえるか、債権者、債務者、連帯保証人、物上保証人、担保不動産の第三取得者との間での費用負担について、債権者には、債権保全のための費用を請求できるか。5. まとめ客観的に違法な状態として、Aに所有権に基づく妨害排除請求権だけを認める(物的請求権)とともに、①Aに特別の権限を付与し、自主的救済を一定の要件の下で認める、②切除行為が正当行為・やむを得ない行為を認めたものと解される。Aは、Bに切除行為の費用を請求して訴訟を提起しているが、前述したように、所有権に基づく請求権をBに通告して判断の機会に与えて、Bが切除すべき行為をAが肩代わりしたことになるから、AからBに対する費用の返還請求が認められるものと解される。なお、越境した根については設問の除去を請求できるとする規定が置かれていない。これは、隣地に侵入した根は土中に癒着しており、隣地の所有権(本問ではAの所有権)の一部であり(86条)、隣地所有者は竹木の根の切り取りができるからである(233条4項)。根の除去を自己の処分と捉えるか、切除費用を竹林の所有者に請求できない可能性があるが、所有権による越境行為によって隣地所有権が負担を強いられた財産権を侵害されたと考えれば、この場合にも、民法709条に基づいて損害賠"償請求権を行使することができるものと解される。●関連問題●本問において、Aは、Bに対して乙地の土砂を除去せずに乙地をCに売却し、AはBとCとの間で乙地の紛争があることを知ったBがAとの間の問題を処理するまで丙地の移転登記に協力しない旨を主張している。BとDへの請求権の行使は完了しているが、丙土地の所有者はDであると主張して、Aからの請求を拒むことができるか(参考判例①および参考文献参照)。●参考文献●奥田昌道・法教198号(1997)7頁山木和雄・争点89頁米倉明・百選Ⅰ102頁鎌田薫・平成6年度判例68頁横山善廣・石黒一憲・物権と担保物権(有斐閣、2005年)23頁