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既判力の客観的範囲

AはBから甲土地を賃借していたところ、その後、BからY(Aの次女)への所有権移転登記がなされた。これよりしばらくしてAは死亡したので、Aの相続人であるX(Aの妻)は、Y(=Aの長女)とYを相手方として遺産分割の調停を申し立てたがこれは不調に終わった。そこで、XはYを相手どって、①甲土地についての所有権確認ならびに②移転登記手続を求めて訴え(前訴)を提起した。Xは、甲土地をBから買い受けたのはAではなくX1であると主張したが、Yは、甲土地をBから買い受けたのはX1ではなくAであり(理由付否認)、その後AからYに対し贈与がなされたので甲土地はYの所有物であると主張して争った。裁判所は、Bからこの土地を買い受けたのはAであると認定して、X1の請求を棄却したがこれが確定した(なお、裁判所は、CからAへの贈与の事実も認められないと判断した)。その後、遺産分割の調停が再び行われたが、Yが再度甲土地が自己の単独所有に固執したため、X2はX1とともにYを相手どって、①甲土地がAの遺産に属することの確認と、②おのおのの共有持分に応じた移転登記請求を求める訴え(後訴)を提起した。後訴のX1による請求に対し、前訴判決の既判力は及ぶか。●参考判例●最判平成9・3・14判時1600号89頁●解説●1 既判力の客観的範囲・所有権確認訴訟における訴訟物既判力の客観的範囲については、原則としてこれを判決主文に示された権利・法律関係の存否(訴訟物の存否)の判断に限定される(114条1項)。判決理由中の判断に拘束力を認める(訴訟物を基礎付ける前提となる権利関係や事実関係の存否)については既判力は生じないと解されている。ところで、後訴が前訴の判決理由中の判断に抵触するか否かが問題となるについては、前訴における訴訟物が何であったが重要なポイントとなってくる。すなわち、既判力が作用する場面として、前訴と後訴の訴訟物がどのような関係にある場合かが問題となってくるところ、これについては、①前訴と後訴の訴訟物が同一の場合、②同一訴訟物ではないが後訴請求が前訴請求と矛盾関係に立つ場合、③前訴の訴訟物が後訴の請求の先決問題となる場合、という3つの場合が挙げられる。土地の所有権確認訴訟においては、紛争解決の一回性の要請から、売買や相続といった所有権の取得原因ごとに訴訟物を捉えるのではなく、したがって既判力も所有権の存否の判断に生じると一般には解されている(これに対し、所有権の取得原因ごとに訴訟物を捉えるとすると、訴訟物は前訴の甲土地の所有権であり、後訴の訴-所有権に限定されることになる)。所有権の取得原因は訴訟物ではなく攻撃防御の方法たるにすぎないこととなり、「Bからこの土地を買い受けたのは広末である」、「亡AからYへの贈与の事実は認められない」といった判決理由中の判断には既判力は発生しない。したがって、X2が後訴で甲土地の広末に属することの確認を求める(後訴請求の①)ことは、前訴判決の既判力には抵触しない。2 所有権と共有持分権の関係所有権と共有持分権の関係については、共有者の有する権利は単独所有の権利と性質・内容を同じくするものであり、単にその分量・範囲に広狭の差があるにすぎず、全部、一部の関係にあると解されている。そのため、所有権確認訴訟において証拠調べの結果、原告と第三者との共有であることが判明した場合には、裁判所は(訴えの変更をまでもなく)共有持分権確認の判決を下すことになる。所有者の性質については、民法学においてさまざま議論があるが判例は所有権説を採用しており(最判昭和38・2・22民集17巻1号225頁など)、これを前提とすると、単独所有権と複数の共有持分権との関係も全部・一部の関係となろう。以上より、本問における後訴請求の②の訴訟物は移転登記請求権であるが、甲土地の共有持分権の取得を主張するものであることは明らかである。甲土地についてのX2の単独所有権を否定した前訴判決の既判力に抵触するのではないかとの問題が生じてくる(上述の既判力の作用③)。この問題につき、参考判例①は、所有権確認請求訴訟において請求棄却の判決が確定したときは、原告が訴訟の基準時において目的物の所有権を有しない旨の判断に既判力が生じるとして、基準時以前に生じていた所有権の一部である共有持分権の取得原因事実(相続)を後訴で主張することは、原告の確定判決の既判力に抵触する。との判断を下している。訴訟物の捉え方や意義や意義と共有持分権とをめぐってさまざまな理解からは、このような判断や結論は導きえないともいえる。しかしながら、前訴判決の既判力が後訴請求の②に作用するとなると、仮に、審理の結果、後訴裁判所が、甲土地は亡Aの遺産であるとの判断に至った場合には、甲土地が亡Aの遺産であるにもかかわらず、X1は同じ共同相続人であるYに対し自己の持分権を主張できなくなってしまうこととなり不都合な事態を招きかねない。この不都合な事態の処理としては、もともと、参考判例①の結論を前提として、その後の遺産分割の処理は図れるとする見解も存在するが、かかる不都合を解消する方途としては、所有権確認訴訟における訴訟物の捉え方について所有権の取得原因ごとに訴訟物を捉える見解や、共有持分は特定の原因の取得であることを前提としたものであり、共有持分権の取得方法も異なるなどとし、通常の所有権の取得方法とは異なることにもなるとして、後訴の請求には既判力は及ばないと解する見解も有力である(ジュリ688号(1976年)92頁、田中豊・判評420号(判時1476号(1994))201頁など)といったことなどが考えられる。参考判例①にも、前訴後の信義に反する相手方の行為(Yによる再度の単独所有の主張)前訴において予備的にでも相続による共有持分権の主張をしておくことに対する期待可能性の低さなどに鑑み、既判力に抵触する主張であっても例外的にこれを許容すべき場合があり得るとの反対意見が付されているが、これは上述のような不都合さに配慮したものといえる。3 既判力と矛盾の可能性訴訟物が前訴の客観的範囲を画することは一般的に認められているものの、これがまったくの例外を許さないテーゼかというとそうでもなく、基準時までに存在していた事実であっても前訴においてその提出がおよそ期待できなかったような場合には判決の遮断効は及ばない。とする見解が学説では有力に唱えられている(いわゆる失権効における既判力の縮小論。反対、鈴木正裕「既判力の遮断効(失権効)について」判タ678号(1988)4頁。中野(1)240頁)。参考判例①における反対意見も、このような考え方に親和性があるといえよう。また、さらに進めて、事実の提出の不都合だけでなく原告で問責されなかった法的観点についても既判力の縮小を認めうると解する見解も存在する。すなわち、法的観点の前訴的検討を怠って前訴を維持したことの問題点と、また、問題とすること期待することもできなかったため、その観点からする請求の当否をめぐっては、当事者に手続保障がなかったと認められる法的観点については既判力は及ばないとする見解や、あるいは、裁判所が法的観点における職務に違反してないか、といった観点、さらにその後の法的観点による判断は、判決の理由(ただし、審理した相手方と判決理由中の判断も、後訴原告が前訴において主張しなかったことにつき無過失であることまで要求する)を理解できる。このような考え方に依拠すると、本問においては、X2にとっては従前という法的観点と相続という法的観点の判断もまったく別のものであるところ、前訴の訴訟となった法的観点の後訴における前訴の矛盾を許さないとするが、しかし他方で、このような見解に対しては、前訴において訴訟の対象となる事実が提出されている以上、期待可能性がないとはいえないとする反対意見も存在する。4 さらに進めて本問のように、売買等を請求原因事実とする所有権確認請求が棄却された後に、あらためて相続を請求原因事実とする共有持分に関する訴えを提起しても、参考判例①に従うと、既判力によって遮断される可能性がある。そこで、前訴において相続の事実が認定し得るような場合においては、前訴裁判所は、相続を請求原因事実とする共有持分に関する訴えを後訴としてでも前訴判決の既判力に抵触するおそれがある旨を原告に対して釈明した上で一部認容すべきかどうかが判断すべきではないのか、といった疑問も生じ得る。参考判例①以後に登場した裁判例においては、そのような場合における前訴裁判所の釈明の必要性を説いており(最判平成9・7・17判時1614号72頁、最判平成12・4・7判時1713号50頁など)、参考判例①とセットで押さえておきたい。