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訴訟と非訟

AはBと婚姻していたが、Bとけんかをして不仲になり、実家に帰った。そこで、Bは、Aに対して夫婦同居の審判(家事別表第2第1項)を家庭裁判所に申し立てたところ、Aはその住居でもBと同居しなければならない旨の審判がされた。この審判の手続では、Aの口頭での弁論をする権利の手続が行われたが、それは非公開の準備室で行われたものであった。Aは上記審判を不服として即時抗告を申立てたが、抗告も棄却された。そこで、Aは、夫婦同居問題は、公開の法廷の対審によらなければこれを処理する5目の家事審判手続の規定(家事33条)およびこれに基づく本件審判は憲法32条および82条に違反するとして、特別抗告(336条)の申立てをした。最高裁判所はどのような判断をすることになるか。●参考判例●① 最決昭和35・7・6民集14巻9号1657頁② 最決昭和40・6・30民集19巻4号1089頁③ 最決昭和41・3・2民集20巻3号360頁●解説●1 非訟事件の意義と訴訟の非訟化裁判所は「一切の法律上の争訟を裁判する権限を有するが、それに加えて「法律において特に定める権限」を有するものとされる(裁8条1項)。そのうち、後者のものとして、非訟事件を取り扱う権限がある。非訟事件は、当事者間の権利義務の存否を確定する問題ではなく、むしろその実質は行政的作用を裁判所が行使するものとされ、非訟事件手続法の適用がある場合があります。具体的には、商業非訟事件・民事非訟事件などが代表的なものであるが、そのほかに、会社非訟事件(会社986条以下)、構成非訟事件(借地借家41条以下)、労働審判事件(労審1条以下)など多様な非訟事件手続がある(家事審判法は非訟事件手続法の特別法と位置付けられる)。非公開事件では、訴訟事件のように、公開法廷での口頭弁論は前提とされず、非公開で審判が行われる(非訟30条・家事30条)。また、その裁判も、訴訟のように判決ではなく、決定(家事審判では審判)という簡易な形式で行われ、それに対する不服申立も、訴訟のように控訴・上告ではなく、抗告という形式による。このような公開・対審を原則とする訴訟事件手続に比べて、秘密保護性や簡易迅速性に優れている。訴訟事件と非訟事件との境目も必ずしも固定したものではなく、時代の進展に応じて変化してきている。最も大きな変化としては、戦後の民法(親族法・相続法)の改正および家庭裁判所の新設の中で、親族関係事件として位置付けられていたものが、家事審判事件(例えば、遺産分割審判等)を非訟事件とし、家事審判法(現在の家事事件手続法)を適用することとしたことがある。このような改正にはさまざまな理由があるが、家事問題での裁判所の後見的関与が重視され、またプライバシーが関わる問題で秘密保護の要請もあったものと考えられる。その後、このような「訴訟の非訟化」と呼ばれる現象は、さまざまな分野で認められることになる。例えば、借地借家関係では、借地権譲渡の許可などは従来の訴訟事件から非訟事件とされ、新たに借地非訟事件というジャンルが形成された。そこには、やはり裁判所の裁量や後見的な紛争解決の迅速化等の要請が働いていた。その他も、裁判所の新たな関与が求められる場面で、事件を非訟事件として構成する傾向は強くある。これは、現代社会において、紛争解決の迅速性、秘密保護に対するニーズが高まっていることとも関連している。実質は非訟事件の裁量による紛争処理に対するニーズが高まっていることを示しているともいえる。の下で、非訟事件として取り扱うことができるのはどのような事件であるかについてリーディング・ケースとして、参考判例①がある。これは、戦時についてリーディング・ケースとして、参考判例①がある。これは、戦時中の司法代執行法上の調停に代わる裁判(抗告が可能である民事特別法・金銭債務臨時調停法上の調停を代替する裁判)について憲法に反するが問題とされたもので、この種の財産上の権利の存否を裁定する裁判について「性質上純然たる訴訟事件」であるとして、「当事者の上訴権を奪うような裁判」を非訟事件として扱い、公開の法廷における対審・判決を認めなければ、それは憲法に違反するとしたものである。そして、そこで問題とされた金銭債務に係る裁判は、性質上純然たる訴訟事件であり、それを非公開の裁判で処理することは憲法に反すると判断した。それでは、本問のような夫婦の同居義務はどうであろうか。この点について判断したものとして、参考判例②がある。同決定は、上記の判断の趣旨を確認し、「法律上の実体権保護自体に争があり、これを確定する」ことは司法権固有の作用であり、立法をもってしても決定の形式で裁判をすることは許されないとした。このような判断は確定判になってきている(その後ろのものとして、破産の免責手続の合憲性について、最決平成3・2・21金法1285号21頁なども参照)。同決定は、少数意見及び、少数意見7のきわどい判断であったが、その最大の焦点となったのが、同居義務とその具体的内容の形成の当否であった。少数意見は、後者を非訟事件とすることは許されるが、前者は訴訟事件となるとするのに対し、少数意見は(その理由は付言にはあるものの)いずれも、婚姻破綻の申立が同居義務についてまでは訴訟による確認を認めない立場による。すなわち、とりわけ同居請求が権利の濫用であるからこれに応じる義務がないという主張がされる場合に、少数意見はその確定は訴訟によらなければならないとするのに対し、少数意見はこの点も含めて審判によることができるものとする。後者の根拠は、実質的にはプライバシーの保護や裁判所の裁量権の尊重にあり、これが同居義務履行の具体的態様に関する判断とも解するものである。この点は、家庭裁判所の位置付けや人事訴訟の公開性の評価に関する困難な問題であるが、司法制度改革に基づく平成15年の改正によって人事訴訟が家庭裁判所に移管され、また人事訴訟法でも一定の場合に秘密保護を図り得る手続(人訴22条)が設けられたこともあり、多数意見の妥当性が高まっているとはいえるであろう。このような判断によれば、本問のAの特別抗告は認められないことになろう。以上のような判例理論を前提にするとき、次に問題となるのは、上記のような非訟事件において前提問題として実体法上の権利義務を判断できるのか、判断した場合はどのような法的効力をもつのか、という点である。この点について、参考判例③が判断している。これは、遺産分割の前提問題として相続権の範囲の確認などを非訟事件に当たる家庭裁判所の判断をすることができるとか、判断した場合その効力(訴訟で再度争えるか)といった問題に関する。後記の判例参照から、このような訴訟事項について終局的に確定するには、公開の訴訟手続によらなければ憲法に反することは明らかである。問題は、非訟事件の前提問題としてこれらの事項について判断できるかという点であるが、同判決はこれを積極的に解した。前提問題としての訴訟事項を判断すること自体は憲法に反せず、そのような判断を前提に終局の審判をできるとする。ただ、そのような事件においてなされた前提問題の判断について、爾後に訴えが提起されうること、そしてその訴訟手続で異なる判断がされうることを前提にし、その場合、それを前提とした審判も効力を失う。このような事態の発生は望ましくないが、彼は実務的な工夫により対処するほかないということであろう。3 判例理論に対する批判とその現代的意義以上のように、純然たる訴訟事件と性質上の非訟事件を区分し、例えば、夫婦の同居義務の存否自体は純然たる訴訟事件であるが、そのよう義務の存在を前提に、同居の時期・場所・態様等につき具体的内容を定めることは性質上の非訟事件であるとするのが判例理論である。しかし、これに対して、学説などでは、両者を截然と区別することができるのかについて疑問を呈し、そのような考え方を実質的には非訟事件の権限の無限定な拡大を招くという批判も大きい。そこで、実質的に憲法32条の趣旨をまっとうするため、2つの方向が提唱される。第1の方向は、非訟化が目的とするところを実質的に捉え、正当化が可能な目的が現実に存在する場合に限って非訟化を認めようとするものである。非訟事件のメリットはいくつかあるが、その主要なものは迅速化と秘密保護にある。そして、このような迅速性と秘密保護の要請は、現代社会においてとくに重要性をもっている。社会的に、とくに経済活動ではスピードがとくに重要視されるに至っているし、プライバシーを個人情報、企業秘密の保護されるに至っているからである。そこで、それに適合した非訟事件手続の積極的活用が社会の各方面から生じるものであるが、そのような要請が真に合理的なものであるか否かを実質的に判断して非訟化の当否を考えるという方向ということができる。ただ、そのような迅速性・秘密性の要請は他では当事者の手続保障を害する重大なデメリットを生じ得るという点に注意が必要である。そこで、第2の方向として、非訟化を認めながらも、その中で当事者の最低限の手続保障を非訟事件手続でも確保しようとすることが考えられる。そのような方向を示す1つの制度として、借地非訟事件手続がある。これは、1967年に、彼は訴訟手続で扱われていた借地条件の変更や借地権の譲渡の許可等の裁判について、その迅速な処理を目的として非訟事件とする一方、当事者の手続保障を図るため、非訟事件手続法の特則として、借地非訟事件手続規則を定めたものである。そこでは、当事者の立ち会うことのできる審問期日の保障、当事者が互いの主張を展開できる機会を保障し、また裁判官が複雑な事案を処理するときは必ず当事者にその点を告知し、反論の機会を与えなければならないなどのルールが定められている。このような方向性は、2013年から施行されている非訟事件手続法および家事事件手続法においても、当事者の手続保障を重視してきめ細かい規律を設定することで引き継がれている。このように、非訟事件においても、当事者の手続権を実質的に保障する形で、一方では社会の要請となっている迅速性・秘密保護を実現するとともに、他方では憲法32条の保障する裁判を受ける権利を実質的に担保しようとするのが現在の潮流ということができる。●参考文献●高田敏雄・判批12頁/高田敏雄・百選4版12頁/三ヶ月章『民事訴訟法研究⑸』(有斐閣・1972)49頁(山本和彦)