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訴訟上の和解の効力

XはYに対して売買代金ならびに遅延損害金の支払請求訴訟を提起しこれが係属していたところ、第1審の口頭弁論期日において以下の内容の訴訟上の和解が成立し、これによって訴訟は終了した。「1. Yは、Xに対する売買代金の支払義務が存在することを認める。2. 上記売買代金のかわりに、Yの有する甲土地をXに譲渡する。3. Xは、Yの遅延損害金支払債務については免除する。」なお、この和解の和解の成立に際し、Yは甲土地上にテナントビルを建設する予定である旨をXに明示し交渉を行っていたが、実は、甲土地については、建物を建ててもこれを維持しなければならないという行政上の規制があったにもかかわらず、Yがその事実を隠してXとの和解交渉を行っていたために、Xは予定どおりのテナントビルを建てることができなくなってしまった。この場合、Xは上記訴訟上の和解の効力を否定することができるか。また、その主張方法としてどのようなものが考えられるか。●参考判例●最判昭和33・6・14民集12巻9号1492頁最判昭和33・5・5民集12巻3号381頁●解説●1 訴訟上の和解訴訟上の和解とは、訴訟の係属中に口頭弁論等の期日において、両当事者が裁判所の面前で訴訟を終了させるために訴訟物について互いに譲歩し、その合意の内容が調書に記載されることによって確定判決と同一の効力が生ずることとなる(267条)。この「確定判決と同一の効力」として、訴訟上の和解は訴訟終了効、執行力(民執22条7号)、形成力を含むことは学説上も異論はない。議論があるのは、これに加えて既判力をまで含むかどうかという点についてであり、学説上古くから対立がみられる。訴訟上の和解に既判力が認められるかこの問題による当事者の自主的な紛争解決であることから、訴訟上の和解は当事者において錯誤や詐欺を介する可能性がないところ、その取扱いをどのように主張・立証することになるか、といったことを考える際に意義を有する。この点について、大別して、①既判力肯定説、②既判力否定説、③制限的既判力説という3つの異なる立場がある。既判力肯定説は、民事訴訟法267条の文言に最も忠実な立場で、判決による紛争解決機能を重視するとともに当事者による訴訟であるべきことを含め、訴訟上の和解の成立には裁判所が一定程度関与しており、その紛争処理機能を重視すべきであることを根拠とする。この説に対しては、取消しの主張は再審事由に準じる場合(338条1項)以外には認められないこととなり、当事者の意思であったという批判である。他方、既判力否定説は、訴訟上の和解が当事者による自主的な紛争解決であることを重視する立場であり、その取消についても再審手続を経由することなく主張することができるとする。この立場は、現在の学説における多数説を形成しているものの、民事訴訟法267条の文言や、和解の成立過程における裁判官の関与を軽視している、と批判されている。この両者のの中間に立つといもいえるのが、制限的既判力説である。これは、訴訟上の和解の紛争解決機能を確保すべく、基本的には既判力肯定説に立つものであるが、訴訟物に実体法上の瑕疵がある場合には訴訟上の和解は取り消され得ることによって無効となりはする見解である。(1) 訴訟上の和解に要素の錯誤がある場合①は裁判上の和解に要素の錯誤がある場合にはこれを無効とすることから、制限的既判力説に立っているものと一般には評されている(なお、当時の裁判所である東京地判平成15・1・21判時1828号59頁は、明らかに制限的既判力説を採用する)。この判決に対しては、既判力肯定説および否定説のいずれの立場からも、既判力の及ぶ対象をどのように判断するかについても批判がなされている。(2) 訴訟上の和解に詐欺がある場合この問題は、訴訟上の和解の法的性質の議論との関係において論じられてきた当面の争点であった。すなわち、訴訟上の和解における実体法上の和解契約と捉えこれを無効とすることは公序良俗に反する。これに対し、民事訴訟行為説の立場からは、訴訟上の和解は訴訟行為と私法上の和解との二重の性質をもつとする両説、あるいはこの2つの契約の性質を併有することから、既判力説も否定しないし、訴訟上の和解の無効を主張することから、既判力説も否定しない。これに対し、訴訟上の和解行為に結びつきやすいのに対して、訴訟上の和解行為と私法上の和解行為との二重の性質をもつとする(合同行為説)とすると、訴訟行為である訴訟上の和解に結びつきやすい。といった議論がかつてなされていたのである。しかしながら、実際には訴訟行為であるか否かが問題となるため、既判力の性質の問題とも必ずしも理論的に直接に結びつくものではなく、今日の法解釈論としては、法律関係の性質の問題というよりもむしろ、法律行為の性質の問題というよりもむしろ、実体法上の法律関係に基づく訴訟行為がなされているといえるであろう(新堂375頁、民事訴訟法〔有斐閣・2009〕342頁、重点講義1772頁、上田452-453頁など)。2 訴訟上の和解について無効の主張の方法(1) 錯誤による和解本問においては、まず、Xの意思表示に錯誤(「要素」の錯誤(民95条)。本問においては、和解の目的物について錯誤があったにすぎない。これに対し、当事者の同一性については錯誤があったわけではなく、物の性質に錯誤があったにすぎない。これには契約の「内容」の錯誤であったとした場合(基礎とした事情〔動機〕に錯誤があるにすぎない)とはいえない。動機、動機の内容が相手方に表示されていた内容と、かつそれが取引上重要なものであれば錯誤の契約要素となり、取消しの対象となる(民95条2項)。本問では、Xは甲土地へのテナントビル建設予定という動機をYに明示しており、しかも当該テナントビルを建てられるか否かは甲土地取得に当たって重要なポイントとなることから、要素の錯誤に該当すると考えてよいであろう。(2) 訴訟上の和解の錯誤による無効①によると、錯誤による訴訟上の和解の錯誤による無効を主張する場合、一般論として、既判力を有する確定判決の取消は、基準時においてYに生じていた錯誤の存在の無効(訴訟上の和解の効力発生時)の前に当たることから、Xが錯誤取消しを主張して本問の訴訟上の和解の効力を否定することができるか否かについては、訴訟上の和解の効力として既判力まで認めるか否かに係ってくることとなる。既判力肯定説に立つ場合には、基準時前の事由であるXの錯誤を主張して当該訴訟上の和解の効力を争うことは遮断効にふれることとなり、再審事由に該当する事由がある場合に限ってその効力を争うことができるにすぎない(再審の訴えに準ずる訴えが肯定される)。他方、既判力否定説に立つ場合には、私法上の和解について錯誤による取消しを主張できるのはいうまでもなく、実体法上の取消原因であることから訴訟上の和解について無効であり、既判力の取消原因は生じないから、原則肯定説と同じく、私法上の和解の錯誤取消しを主張して、訴訟上の和解の効力を争うことができることになる。(3) 当事者の救済方法既判力否定説ないし制限的既判力説に立ち、和解の効力を争うことができるとして、その手続方法にはどのようなものがあるか。和解が無効とされることにより、訴訟上の和解によりなされた訴訟終了もまた無効とされるのか、という理論的な問題とも相まって、議論されているところである。和解の無効により訴訟上の和解の訴訟終了効も同時に消滅するとする議論は、的確な立場を前提とすると、従前の訴訟(前訴)はいまだ終了していないということになり、期日の指定をあらためて提起すべきこと(期日指定申立説)となろう。期日指定の申立てをめぐると、旧訴の訴訟記録がすでに廃棄されているなどの手続上の困難を生ずることができ、手続として、旧訴の訴訟状態をそのまま継続することができ、和解の無効を前提とする訴訟を提起し、これが有効であれば請求棄却、無効であれば請求認容という判断がなされるべきであるとの見解(訴訟の再開を求める訴訟を提起し、これが有効であれば請求棄却、無効であれば請求認容という判断がなされるべきであるとの見解も有力である。しかしながら、この説に対しては、①和解した以上、訴訟が終了することについて当事者の意思が形成されており、②期日指定申立てができるまでの期間が長いと旧訴の訴訟記録が廃棄されるおそれがあり、③和解が有効か無効以外の法律関係や訴訟の第三者を含んでいたような複雑な場合にも対応できる、といった批判も挙げられている。他方、別訴提起説による場合には、和解の有効か無効かの主張が③で提起された場合に限ってその判断がなされることになる。なお、訴訟上の和解において和解が無効と確認された後の処理については、①旧訴は依然として係属を継続すると解すると期日指定の申立てによることとなり、②旧訴が和解の効力によって終了した場合には争いが解消されることになる。しかしながら、この説によると、①新たな訴訟を提起しなければならず、②旧訴が和解の効力によって終了した場合には争いが解消されることになる。このような学説では、訴訟期日指定の申立が認められるか、いずれかによってしか救済する方法はない(選択説が有力である:大判大14・4・24民集4巻195頁(和解無効確認の訴え)など)。近時の学説においても、救済を求める者の救済要求をどのような方法で取り上げるのが最も適切であるかという点が重視されるべきとして選択説は有力であり、当事者の救済方法の選択が不適切な場合には、釈明や移送(17条)によって調整し得るとする。この選択説に対しては、和解無効を主張する者の利益を重視しており(例えば、訴訟当事者の結束に訴訟上の和解が選択された場合、相手方としては、和解の有効無効を旧訴で回復させた元の訴訟物を着けたということであるのか)、理論としては、原則的な方法として期日指定申立てを考えておき、単純な旧訴続行で処理しきれない場合には和解無効確認の訴えを肯定するという見解も存在する(重点講義1785頁など)。