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詐害行為取消権の効果

2024年4月1日、AはBに対し、弁済期を2025年3月31日と定め300万円を貸し付けた。Bが有する唯一の財産は、2023年10月5日に死亡した父Cから相続により取得した甲土地(評価額500万円)のみであった。Bは、2024年5月15日に甲土地について相続を原因とする所有権移転登記を経由した。2024年10月15日、Bは友人のDに対し、甲土地を代金250万円で売却し、同日、その所有権移転登記を経由した。さらに、甲土地は、同年12月7日、DからEに代金300万円で売却され、同日、その旨の所有権移転登記を経由している。2025年1月20日、Aは甲土地がBからD、DからEへと売却された事実を知った。その後、関係者に事実関係を確認し、同年2月20日までは、それぞれの売買について代金の支払をまだ済ませておらず、DおよびEは、それぞれ代金の支払を済ませており、また、BがAから300万円を負担している事実、甲土地がBの有する唯一の財産であった事実、そして、甲土地の評価額が500万円であること、それぞれの売買契約当時、知っていたとのことである。Aは、BがDやEより黒い価格でCに甲土地を売却した行為について詐害行為取消権を行使したい。このとき、Aは誰に対してどのような請求ができるか。[参考判例](1) 大判明治44・3・24民録17輯117頁(2) 最判昭和49・12・12法法743号31頁[解説]1 詐害行為取消権の法的性質詐害行為取消権の行使方法およびその効果を検討するに当たっては、まず詐害行為取消権の法的な性質が問題となる。この点に関して、有名な参考判例①は、以下の5点を示し、これが2017年改正民法の基礎となった。①詐害行為の取消しは形成訴訟にしかよれない②その取消しの効果は遡及するものではない③債権者が受益者に対して返還請求権を行使し④受益者が債務者に対して反対給付の返還請求をすることも、あるいは転得者に対して第一順位で代金の支払を求めることも可能である⑤受益者は債務者に対する反対給付の返還請求権を行使し、その返還を求めることもできる。受益者が財産を費消してその財産を返還できないときは、相殺が認められること。⑥受益者から財産を取得した転得者に対しては、受益者と同様の請求が可能である。2017年改正民法は、この参考判例①の内容の多くを明文化している。すなわち、取消権者は、受益者または転得者に対して取消請求をする(返還が困難なときは価額の償還請求)とともに民法424条の6が規定する。また、債務者に被告は訴える必要はなく、訴訟告知の対象となることも民法424条の7が規定する。しかし、一方で民法は、これまでと同様に、詐害行為取消権を構成するについては、これを民法425条において、詐害行為取消権を請求する確定判決は、債務者およびそのすべての債権者に対してもその効力を有する旨を規定する。以上より、現行民法下においても、これまでと同様にAは、Dを被告として訴訟を提起することも、また、Eを被告として訴訟を提起することも認められる。また、取消債権者の債権は、詐害行為より前に原因に基づいて生じたものであればよいとされ(424条2項)、AはBがDに甲土地を売却したときから(Aは弁済期にある必要はなく)、Bの売買行為を詐害行為であるとして取消しを求めることができる。ちなみに、2017年改正民法は受益者の善意に関する立証責任に関する判例法理を想定しており(大判昭和9・11・30民集13巻2191頁)、改正民法は424条4項で、BがDに土地を売却した行為は2024年10月15日であり、無償行為であるから、B・D間の売買行為には改正民法が適用されるとしている。2 受益者に対する請求詐害行為により逸出した財産が不動産であり、その不動産に何の返還を請求する場合、移転登記を経由しているときは、抹消に代わる移転登記を求めることによって、債務者への財産の返還が実現される。これに対し、返還の請求が金銭の支払または動産の引渡しを求めるものであるときは、取消債権者は受益者あるいは転得者に対し直接、自己に引渡しを求めることができると解されていた(最判昭和36・7・19民集15巻7号1876頁)。1158頁、最判昭和61・1・23民集40巻1号23頁)。この場合には受益者が受領する必要となるので、債務者に代位して受領権限がある者から、取消債権者による財産の返還の請求が適切であるとの趣旨である。民法もこの判例法理を、424条の9第1項で明文化する。また、受益者あるいは転得者が逸出財産をすでに処分してしまって財産を返還できないときは、価額賠償が認められる。この場合、詐害行為の時点の価格によって賠償すべきか、あるいは、賠償請求時の価格によって賠償すべきかについて、訴訟提起の際に価格が変動する可能性があるため、その点を明確にするため(424条の8第1項・2項後段)、受益者・転得者の善意・悪意を問わず、返還を請求することができるとされ(424条の8第1項前段・2項前段)、受益者・転得者の善意・悪意によってその内容が変わることはない。AはDを被告として、取消請求とともに、Aに対する所有権移転登記を求めることとなる。その場合、Aの被保全債権は300万円であるが、Aの被保全債権額を超える部分については注意を要する。価額賠償は500万円である。Aの被保全債権額を超える部分の支払を受け、超過の相殺処理によって自らが債務者に対する債権の満足をすることができることとされた。Dに対する価額賠償請求も自らが500万円の限度で請求をすることができ、Dはこの請求に応じなければならない。Dが自己の財産をBに返還すべきである。この点について改正法では、受益者は取消債権者の債権の額の限度で返還の義務を負うと規定している(ちなみに小問⑵は、財産分与行為も行為の目的が可分であるとして同様の基準を定めている)。したがって、AがDに請求しうる請求額は300万円である。取消請求においてDに対する請求が認容されると、B・D間の売買契約の取消しと、DがCに対して300万円を支払うべき旨の判決がなされた。この確定判決とその効力は民法425条の規定によりBおよびすべての債権者に及ぶことになる(425条)。従来、「相対的取消構成」が提唱されていたが、その結果、Bについても免責の効果が及ぶ以上、その意義は本来、Bが取得すべきものであるとして、仮にAが300万円の支払をDより受ければ、BはAに対し、その300万円をBに支払うよう請求することになる。これに対しAはBに反対する給付債権を自働債権として相殺することが想定されるのである。2017年改正民法下でも判例は相殺処理を認めているとして(最判昭和37・10・9民集16巻10号2070頁)、判例が指摘されることがあったが、当該判例の射程は相殺の成否の争点ではなかった。相殺処理の可否については相殺処理に賛成に回ったところである(中田・債権総論325頁)。これに対して、相殺処理は事実審の判断によることが妥当ではないとの理由から、相殺処理は認められないとの見解が示された(藤原審議官)。もっとも、このような形成訴訟を経れば、取消債権者が債務者に先立って自己の債権を回収することが可能となり、これは債権者平等の原則に反するとの批判がある。取消権の創設趣旨である、責任財産の保全という考え方を踏まえ、判例は相殺処理を認めないとの見解に変わり、その結果、民法425条を根拠に、債務者の財産回復請求という新たな権利を認め、他の債権者がこの返還請求権に対し、差押えあるいは製造物責任法上の責任を負うことを認めることとした(参考判例②)。詐害行為取消訴訟を提起し、物権的効果を伴わないことなどが点在している(民執166号〔2021〕30頁)。一方で、買主であるDはBに支払った代金250万円の返還請求をBに対し求めることになる。この点についての規定が、民法は、旧民法では取消権行使を認めた場合、受益者にどのような請求権が認められるか、旧民法には規定がなかった。これに対し、民法425条の2において、受益者は債務者に対し、その財産を取得するために給付した反対給付の返還を請求しうることを規定した。ここにも相対的取消構成の見直しが影響している。3 転得者に対する請求AがEを被告として訴訟提起をする場合、現物の返還が可能であるから、Aが求める訴えの内容は、2024年10月15日になされたB・D間の売買契約の取消しと、Eが甲土地の所有権登記をBに返還するように求めるものとなる。転得者に対する取消請求も、取り消される行為はあくまで債務者の行為(D・B間の売買契約)であり、受益者と転得者間の行為(D・E間の売買契約)ではないことに留意すべきである。この請求が認容されるか否かの帰趨は転得者の主観によるのであり、この点、民法425条では転得者がその行為の時において債権者を害すべき事実を知っていたときに限り取消しは効力を生じない。そのために、Eは甲土地の所有権を取得するにあたって、Bに対し、Dに代わって代金を支払ったが、Bの債権者を害することを知らなかったとしても、自己に支払った代金200万円の返還を求めることはできない。このままではDは自己の財産を失うことになるので、民法は転得者の保護を図っており、受益者・転得者の善意・悪意により請求できるか否かを決すべきとされ、また民法425条の2の規定によりEがDに求償すべきである(またはその価額の償還請求)。その場合、EはDに支払った代金300万円の返還を、Dに対し不当利得として返還請求ができる(425条の4第1項)。Eは、Bに対し、200万円の支払を求めることができる。なお、転得者に対する取消請求が認められるための要件について、民法はこれまで判例法理を重要視する必要がある。すなわち、参考判例②は、盗品の転得者が被害者から所有権に基づいて返還請求を受けた場合、盗品を占有していた期間が2年を超えていたケースにおいても、現在の転得者が悪意であれば取消権行使は可能とし、この点についても相対的な解決を指向していた。これに対し、民法424条の5は、転得者に対する取消の訴訟は、受益者に対する行為の取消を請求することができる場合で、かつ転得者が悪意であるときに限ると規定した。転得者の保護の他に公益の要素を考慮している。また、転得者となる前の善意の転得者が介在する場合はその後の転得者もそれぞれの善意の転得者として扱われる。したがって、仮にDが詐害行為の事実について善意であったとすると、たとえEが悪意であったとしても取消権行使は認められない。さらに、甲土地の所有権を登記名義人から転得した場合のその後の処理であるが、取消債権者(あるいは別に債権者)によって不動産強制競売の申立がなされることが想定される。その手続は通常民事執行法の規定によりなされるので、民事執行法と詐作行為の規定の適用を調整する必要がある。民法425条の4によれば上記のとおり300万円を請求しうるが、この債権についても債務名義をもち、その債権にもとづき民事執行法所定の要件を満たせば、競売手続において配当を受けることができる。4 その他の検討課題民法425条によりなされる判断の効力はどのような第三者の行為であろうか。とりあえずは取消判決の効力は判決の確定により生じると考えられるが、しかしながら、債務者およびその債権者間の法律関係にはなっておらず、紛争の相対的解決の原則と衝突すると民事訴訟手続において、なぜこれらの者が優先できるのかという問題が生じる。そこで、学説には司法権の拡張による解決法(訴訟の目的がもののほかは当事者以外にも及ぶもの)と民事訴訟の判例法理にも問題があり、今後の議論の深化が待たれる。さらには、取消訴訟の係属中に債務者が破産した場合に訴訟に参加する参加形態がどのようなものなのか、さらには債務者の他の債務者が原告に訴訟参加した場合などは、なぜ訴訟手続に関する検討も不可欠となる。筆者は、被告も原告も訴訟参加に関する判例法理との間には矛盾が生じる。他に、債務者による訴訟参加を考えているが、この点についても今後の議論の展開が期待される。[関連問題](1) 水面下ではBの詐害行為は甲土地の転売屋であったが、事実関係を整えて、Bは2023年10月1日、Bに対し、弁済期を2024年10月15日と定め250万円を貸し付けた債権者であったとする。B・Dは、同年10月15日、Dに対する金銭債務の弁済に代えてBが所有する甲土地を代物弁済とすることに合意し、同日、Dへの所有権移転登記を経由した。仮に、この代物弁済行為が民法424条の3に規定する要件を満たし、詐害行為取消請求が認容された場合、AはCに対してどのような請求ができるか。また、この取消判決の請求が容認された場合、Dが有していた貸付金債権250万円はどうなるか。あるいは同様の要件を満たさない場合はどうか。(2) 上記(1)の事案において、Dは甲土地取得の2024年12月7日、Eに甲土地を代金200万円で売却し、同日、その旨の所有権移転登記を経由していたとしたら、Aは誰に対してどのような請求ができるか。[参考文献]沖野眞已・百選Ⅱ80頁/茶園「詐害行為取消権の行使方法とその効果」(民事法研究・2020)106頁・174頁(富岡信一)