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相続財産の管理・処分

大都市近郊の旧街道沿いにある、江戸時代から300年余り続く和菓子店の13代目であるAは、80歳という高齢になったににもかかわらず、跡継ぎを決められていなかった。Aの主な財産は、店舗兼住宅である本件土地建物であった(いずれもA名義の登記がなされているが、Aの配偶者はすでに亡くなっており、Aには子B・C・Dがいたが、いずれも独立して別の場所で暮らしていた。Aとしては、子の誰かに和菓子屋を継いでほしいと考えていた)。2023年5月、Aが危篤状態となり近所の病院に入院したため、Bは勤務する会社を休み、本件土地建物に泊まり込み、Aの身の回りの必要なもの等を病院に持参するなど熱心にAの世話をした。しかし、Aは入院から5日後に亡くなった。その後、Aの葬儀を行うため、Bは本件土地建物に泊まり込みを続けていた。Aの葬儀後、BはAの遺品の整理等をし、また、和菓子屋を再開するという名目で、本件土地建物に引っ越して居住を始めた。なお、Bは和菓子を売った経験はなく、勉強や修行をしようとしているわけでもなく、それまでと変わらぬ生活を続けている。Aの四十九日法要が終わり、B・C・Dは、Aの遺産分割を行うこととしたが、本件土地建物を売却して代金の3等分を主張するC・Dと、和菓子屋をいつか再開したいとして売却に強く反対するBとが対立し、遺産分割は遅々として進まない。C・Dは、本件土地建物を売却するために、まずBを立ち退かせるべきと考え、Bに対して、本件建物の明渡しを求める訴えを提起した。C・Dの請求は認められるか。●解説●1. 共同相続財産の管理相続人が複数存在する場合、被相続人が有していた財産(遺産)は、共同相続人の共有となる(898条1項)。この共有について、かつては合有と解すべきという見解もあったが、現在は、民法249条以下の共有(狭義の共有)と理解するのが判例・通説である。共同相続財産の管理について、相続に特別な規定は存在しないことから、物権法の共有物管理規定に従ってなされる。したがって、本問は、基本的に共有関係として検討を行う必要がある。なお、遺言における各相続人の共有持分は、法定相続分または指定相続分が基準となる(888条2項)。2. 共有物の明渡請求共有は、各共有者が持分権という権利を有していることから、物権的請求権を行使することができる。したがって、共有持分権に基づく不動産の明渡請求も基本的には可能である。ところで、共有者間における不動産の明渡請求については、参考判例が併存する。その背景は、本問と同じく共同相続人間の紛争であり、多数持分権者から少数持分権者への建物明渡請求が問題となったところ、次のように判示されている。共同相続に基づく共有者は1人である少数持分権者の、他の共有者の協議を経ないで当然に共有物を単独で占有する権限を有するものではない。しかし、多数持分権者は、共有物を現に占有する少数持分権者に対し、当然にその明渡しを請求することができるものではない。なぜなら、①各少数持分権者は自己の持分によって、共有物を使用収益する権限を有し、これに多額の費用をかけている場合もあるからである。3. 明渡請求が認められない場合本問のように、共有者間において共有物の利用に関する特別の合意の存在が認められる場合にも、本件土地建物をA・B・C・Dの4人が共有している場合において、法定相続分どおりとすると、A・B・Cの持分(合計4分の3)の価格の過半数を超えるので、C・Dの持分(合計4分の2)を併せても過半数に満たないから、A・Bの決定がなされ、C・Dの明渡請求は認められないこととなる。4. 不当利得返還請求等本問では問われていないが、C・DのBに対する明渡請求が認められない場合、また、明渡請求が認められる場合であっても明渡が遅れるまでの期間について、C・Dは、Bに対して賃料相当額の金銭の支払を求めることができるか。参考判例③は、不動産の共有者の占有者に対して、明渡請求が認められない場合であっても、占有者が単数で占有することができる権限を主張しない限り、自己の持分割合に応じて占有部分にかかる賃料相当額の請求ができるとしている。●発展問題●Aの配偶者Bと居住する甲建物のほか、乙建物を所有し、いずれについても登記を備えていた。Aには子C・D・Eがいたが、特にEをかわいがっており、Eの結婚を機に、E家族を乙建物に無償で住まわせていた。Aが死亡し、Aの財産はB・C・D・Eが共同相続し、甲建物および乙建物について、法定相続分に従った登記がなされていた(不動産登記法76条の2参照)。遺産分割協議はなされていなかったが、その登記がなされてから、C・D・Eの間で、Bが元気である間は、Bに配慮し、遺産分割協議はしないでおくという趣旨の了解があったためであった。Aの死亡から5年後、Bが死亡し、C・D・Eの間で遺産分割をすることになり、紛争が生じた。その理由は、A・Bの主な財産は甲建物および乙建物のみであるところ、甲建物に比べると、Eの居住する乙建物の財産的価値が圧倒的に高いため、C・Dは甲建物および乙建物を売却し、その代金を3等分することを主張したのに対し、Eは乙建物に住み続けることを主張したからである。C・Dは、遺産分割を円滑に行うためには、乙建物を売却することが必要であり、まずFを立ち退かせるべきであると考えた。C・D・Eは話し合いをしたが、C・Dは乙建物の占有者とするCを提案した。Eは反対したが、C・DはCを乙建物の占有者とすることを過半数により決定した。CはEに対して、乙建物の明渡しを求める訴えを提起した。Cの請求は認められるか。●参考文献●片山直也・百選Ⅰ 150頁