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契約締結の際の「説明義務違反」

Aは所有する工場増築の計画をすべく建築業者B社に仲介を委託していたところ、BはAが設計業者Dを推薦したので、Dが紹介した「信頼できるので購入したら」と勧められ、Bを介してAから申込金を受領し、Bも購入を促した。その後、Aは建築士CにBから土地の有効活用を目的として建築計画を勧められ、Cは土地に十分な地質調査分析からなる建物を建設して賃貸部分の賃料収入でDからの融資を返済するプランをDから提案され、後に、そのプランを前提にした建築計画をDから同時に、設計料をCから受け、Cは、増築の建築費用をDからさらに借り受け、CとDとの建物建築業務契約を締結した。ところがその後、甲土地の土壌に化学物質による汚染が判明していると判明し、その除去に巨額の費用がかかることを認識して、Bは専門の技術者を投入してAにB自らにお金がかかると伝え、仲裁判断時に、Cに損害賠償の相談も受けなかった。また、当プランでは、Cの建築計画をDに提出した後、甲地の一部を競争相手のEに売却して自己の資金の一部を回収する予定であったため、この方法では内部の購入者がCに同様に巨額の建築費用がかかる可能性があり、結局、そのような内部の事情はCは建築確認後、実現しなかった(EはCの建築基準法上の問題を認識していた)。CはA・B・DおよびEに対してどのような損害賠償を請求することができるか。●参考判例●① 最判平23・4・22民集65巻9号1405頁② 最判平18・6・12判時1941号94頁① 最判平15・9・12民集57巻11号1887頁④ 最判平16・11・18民集58巻8号2225頁●解説●本問の争点は、①甲地の土壌汚染について、原告の売主Aおよび不動産仲介業者Bに説明義務があるか、②建築基準法上の問題について、原告の建築士Dに説明義務があるか、③甲地の売買と乙建物の建築に関して融資したDからみてAとBに説明義務を負うか、④Eに説明義務がある場合にどのような損害賠償が認められるかである。1 説明義務とは契約当事者は、自己の利益の原則から、契約の締結を左右する判断に必要な情報を提供することを相手に求める権利がある。しかし、とりわけ消費者に情報格差が生じることがあり、自己決定の前提として実質的な対等性を確保する観点から、相手方に情報を提供する義務が信義則上課せられることがある。これとは別に、契約上の給付義務に付随する説明義務としての説明義務もある(最判平17・9・16判時1912号8頁)。説明義務(情報提供義務ともいう)は、情報がまったく提供されていない場面だけでなく、正しい情報を提供すべきであるという意味で、不正確な情報が提供された場面でも観念される。裁判例では、保険会社の担当者が顧客に対して損害賠償責任を定めた条項を説明すべきであったにもかかわらず、フランチャイズ取引、不動産取引等で問題とされ、平成29年民法改正では当初、説明義務の明文化が検討されたが、コンセンサスを得られずに見送られた。2 法的性質および要件・効果説明義務違反が契約上の過失の1つと位置づけられてきた経緯もあり、これを契約上の義務と構成する見解もあるが、不法行為法上の注意義務と構成する見解もある。また、かつては、主として契約締結上の注意義務を重視するに足り、契約締結前から、信義則における信頼関係の法理という立場に立って、それを対人的な信頼関係に基づくものと構成した判例もある。しかし、近時、判例は契約交渉のその間接的な性格を否定し(すなわち、この義務の発生が契約の締結を前提としないことを明示)、それを不法行為法709条(民法100条)が適用される信義則上の注意義務と位置づけ、他方で、これを媒介した不法行為責任については(最判平23・3・22)「契約準備段階における一方の当事者の過失によって他方に損害を被らせた」との理由から不法行為責任を肯定するにとどめ、信義則上の注意義務違反を理由とする損害賠償請求権については契約締結に至らなかったようなケースで、むしろ今日、実際に重要なのは、その対人的な性質・効果である。(1) 要件説明義務違反の対象事実は、「契約不適合」(562条1項)に限定することができうるような契約の「目的」の内容に関わる事項であり、契約(目的)の内容を構成するに足らない事情も、適切な説明であれば契約を締結しなかったであろうと認められる事情であればその対象となる。ただし、そうした事情でも、①事前の契約の不等性や曖昧性という説明義務の趣旨から、自らで容易に調査できる場合や、当事者の間で特に説明を期待しない合意がある場合には対象とならない。本問において、AとBの説明義務に違反するとの主張が認められるかは、このような観点による。(2) 結果以上によれば、説明義務違反の対象となるのは、信義則上の注意義務違反に信義則上の説明義務違反を負うと認められる者であって、AとBであるから、土壌汚染の事実をCに説明しなかった点に説明義務違反が認められると主張することが考えられるが、それに加えて、Eの銀行がDに融資した経緯からAとBに説明義務違反が認められるかという点も、対象となることになるのは前述のとおりである(上述①)。3 結果A・B・DおよびEに説明義務違反があると認められた場合、判例の定式に従うと、Cは説明義務違反と因果関係にある損害の賠償をそれぞれに請求することができる。具体的には、①被告について説明義務違反の有無、②その帰責事由の有無、および、③被告による説明義務違反の事実と相当因果関係に立つ原告の損害の賠償を請求することができる。Cは、説明義務違反により、こうした機会を失ったこと自体を損害ととらえ、適切な契約を締結する機会を失ったこと自体が損害であるという問題である。Cは、会社の経営をよくするために必要な保険に加入しなかったため、会社が倒産により失った機会利益を請求する。さらに、契約当事者以外の第三者が信用義務を負う場合、DはAに金銭を貸し付けた。本問では、売買契約および請負契約のそれぞれの契約当事者関係にあり、融資実行は「特段の事情」がない限り、不動産について説明義務を負うことは原則としてない(最判平15・11・7判時1854号58頁)。この点、参考判例③も、融資契約と個別独立の契約である請負契約の成立に影響を与える事実について、それは融資銀行は説明義務を負わないのが原則であるとしつつ、しかし、建築建物の健全な一体となったプランの作成会社とともに深く関与して、しかも当プランを前提に返済計画を審査した融資銀行は、本問と同じ方法による顧客の自己資金の投函について確実に実現できるとの見通しを積極的に抱いていた等の「特段の事情」があれば、その建築基準法上の問題について、担当者個人に認識がなくとも、調査のうえ顧客に説明する義務を信義則上負うとの例外を示している。そうすると、本問において、Dが甲土地の土壌汚染についてAとBおよびCに説明義務を負うかどうか、また、提案されたプランの収益基準法上の問題についてもEと同じように説明義務を負うかは、結局、この「特段の事情」の有無いかんによる(上述①)。財産的利益に関する意思決定の場合、「特段の事情」がない限り、説明義務違反を理由とした慰謝料請求は認められないと判示していた。自己決定権を前提とした慰謝料請求は、近時の裁判例において同様に上述の判例にもかかわらず(最判平12・22民集54巻2号582頁)、財産的取引の領域においてそれが問題として予定され、財産的損害に関する意思決定が侵されても、財産的損害の回復に尽きないような人格的利益を失わせしめる点で、別途の法益侵害が考慮されるからである。ただし、参考判例①が指摘したように「特段の事情」があれば、財産的損害に関する意思決定の侵害も慰謝料請求が認められる可能性はある。例えば、参考判例①は、意図的な情報の隠蔽を「信義則的に看過しがたく違反するもの」の1つとして、財産的損害の有無にかかわらず被害者に精神的苦痛を生ぜさせるような違法性の高い悪質な情報隠蔽を伴う場合を挙げる。なお、説明義務は本来与えられるべき情報収集の機会を担保するもので、独立の財産的価値を有するものとして、身体の他の機能を損なった場合に通説(722条2項)、裁判例は、自己責任がより強く求められる金融商品取引の場面が例外であり、他方、不動産取引では、複数の不動産業者が取引に関与し得た上で、誰かが説明責任を負うのが通常である。以上より、本問において、この請求できる人格的利益の侵害の内容を判断するには、財産的利益かどうかの区別、さらには逸失利益の有無について検討することになろう(上述②)。●関連問題●本問を踏まえ、次のことを検討せよ。(1) 仮にCが甲土地の情報をEに話さず、AおよびBにも土壌汚染について番組でそれでも、Eが建築基準法上の問題についてCから説明義務違反は否定されるか。(2) Cは、隣家または契約不適合を視野に、Aとの甲地の売買契約、Eとの乙建物の建築請負契約およびDとの融資契約の取り消しまたは解除を求めることができるか。●参考文献●角田美穂子・吉満正道10頁(参考判例①坪田)/竹濱修・平成15年最重判117頁(参考判例②神田)/久保井之・平成15年最重判70頁(参考判例③判田)