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民法94条2項類推適用とその限界②

Xは、自己所有の甲不動産を賃貸して収益を上げようと考え、以前より不動産取引につきXの相談に乗っていた知人のAに、甲の賃貸・管理を任せることとした。Xは、2021年12月ごろ、Aから甲に関する登記識別情報の提供を求められ、これに応じた。またその翌月には、XはAから実印と印鑑登録証明書を交付するよう指示され、それらを渡す際にAに理由を尋ねた。なお、XはAを信用していたため、特にそれらの使途を問うていなかった。さらにその翌月、XはAから、甲をAに売却する旨を記した売渡証書を提示され、内容を確認せずに署名し、登記申請書にAがXの実印を用いて押印するのを漫然とみていた。Aは甲につき売買を原因とする自己名義の所有権移転登記を具備したうえ、2022年4月、甲をYに売り渡して所有権移転登記手続も行った。Yは甲を買い受けるに当たり登記簿の記載を確認したものの、Aが甲を処分する事情については特に説明を求めなかった。Xは甲がY所有名義で登記されているのに驚き、Yに対して所有権移転登記の抹消登記手続を請求した。これは認められるか。[参考判例]① 最判昭43・10・17民集22巻10号2188頁② 最判平15・6・13判時1831号99頁③ 最判平18・2・23民集60巻2号546頁[解説]1 民法94条2項類推適用(権利者型)の限界民法94条2項類推適用が認められるには、外形自己作出型はもちろん、外形他人作出型であっても、不実登記が本人の承認に基づいていることが要求される(外形意思対応型)。それでは、①本人が作出した虚偽の外観が利用(例:虚偽の他人名義の仮登記)に対して、さらに他人の行為が加わって不実登記が行われるに至ったとか、本人はそれを知らなかった場合(同意意思非対応型)、②本人が他人を信用して交付した重要書類等が濫用されて不実登記がされた場合など、「不実登記の原因・基礎の作出」への本人の関与があるとされる場合(外形参与型)はどうであろうか。このような場合、不実登記それ自体は本人の意思を反映しているため、これを通じて権利関係を築いた第三者が現れたとしても、もはや虚偽表示規定の類推適用によってその保護を図ることはできない。そうすると、こうしたケースにおいては、不実登記に対する本人の帰責性が権利を失わせるほど大きいとはいえず、第三者を保護すべきではないと解すべきであろうか。2 民法110条との適用による第三者保護この問題につき注目すべきは、表見代理、特に民法110条における取引安全のバランスである。①本人が信用して無権限者処分の原因・基礎を作出している点、②そのことによって本人の意思を逸脱した処分行為が行われた点に、同条との類似点が見いだされるからである。もっとも、③本人が代理による代理権授与があるとは限らない点、④無権限者処分が代理人としてではなく自己名義の処分行為である点において代理とは異なるが、代理人による処分であった場合には、本人が外観の作出にどのような形で関与したとしても、代理権ありと信じるにつき正当な理由があれば相手方が保護されることとの比較において、どのようなときに考えるべきかが問われる。判例は、無権利者取引における規範の根拠として広く民法94条2項と民法110条の共通の目的を有していると捉え、両者の「注意」または「趣旨の根拠」適用により、このような場合にも善意無過失の第三者を保護する途を与えた。両制度の要求の組合せによるかような柔軟な解決は、同法94条2項類推適用をさらに拡大するために、本人の帰責要件が緩和され、第三者に無過失要件を付加することによって、本人の帰責要件の厳格化および表見代理との均衡に配慮した点に特色がある。3 民法110条の要件と注意点それでは、民法94条2項・民法110条重畳適用の要件は民法110条と同一でよいか。両者の適用場面と共通点は何か。この問いに対しては以下の点に注意を要する。民法110条では、「代理権」に対する信頼保護の当否が問題となるのに対し、民法94条2項重畳適用においては、これに対応するものに関する信頼が保護の対象となる。いずれも信頼保護の外観という点では共通しているが、次のような相違がある。まず、代理人による処分は他人の財産を前提とする取引であるため、代理人の処分権限の有無につき、相手方に高度な調査確認義務が通常ある。これに対し、自己の名義に属する不動産として処分する場合、処分者の所有名義で登記されていれば権利利鑑定が働くことから、処分者の所有権取得につき、その意思形態や処分経緯などから特に疑念を生じさせるような事情がみられない限り、これに対する信頼が正当なものとして評価されやすい。その上で、ここで問題とされている自己名義の処分において、本人の関与につき、表見代理と同じように、基本代理権の授与あるいは対外的な関係を予定した事務処理の委託で述べるとすれば、結果として表見代理以上に過度に第三者が保護されるおそれが生じる。そこで、第三者の側に無過失要件を付加するだけでなく、本人の要件についても民法110条において要求される関与+αを求めてバランスを図る必要がある。そこに民法94条2項類推適用の要素を加味する趣意がある。判例は、①不実登記の承認・黙認となった虚偽の外観が本人の意思に基づく場合(不実登記に対する承認はなくても、少なくともその前提となった虚偽の外形作出という意思が認められる場合)、②不実登記に対する本人の関与につき、不実登記に対する承認と同意あるいは程度に重大な帰責性が認められる場合を要件としている。4 民法94条2項・民法110条本人側の要件上記2つのについては、本人が他人において登記申請を行うため、登記済証の仮登記申請を行う意思に基づいて他人に登記手続に必要な重要書類を交付した場合、その他人がこれを利用して自己の名義に登記を為したような場合や、第三者に処分した場合などに該当しよう。問題は①の設定であるとか、本人に外形の作出の意思がないため、他人を信用して登記手続に必要な重要書類を交付してしまったというだけでなく、不実登記がされた事実について知らなかったとか、主張しない程度に、本人の意思関与ないし不実登記を承認・放置したうえ、さらに、本人の重大な関与ないし善意の内容、自己の不動産が他人のほほいまきに処分される危険の程度、その放置の有無・期間、③売買契約書の作成あるいは登記申請の手続に対する関与の有無・程度などを考慮し、これらを総合的に判断しながら、意思関与に匹敵する非難可能性の有無を評価することが求められよう。本問では、A所有名義登記の作出の過程を通じてXは継続的に重大な関与を行ったようすがうかがえる。それがごく短期間に集中している点などをどう評価するかが問われよう。また、Yにおける場合は、登記の経緯・事情に関する調査確認義務を常に負うか。発展問題においては、XはAに対して必要な重要書類を交付したものの、不実登記やAへの関与は相対的に継続的とはいえず、不実登記の助長ともいえるが、早急に処分されてしまったため、もっと留意すべき。なお、判例は、「不実登記に対する意思関与」と「同程度の帰責性」要件および第三者の善意無過失要件について、民法94条2項単独枠内においてもちうる可能性もあるとして、民法110条を併用する必要性につき疑問を提起するものもあり、民法94条2項単独、民法110条との区別は区別は流動的となっている。発展問題Xは自己所有の乙不動産を売買代金に充当する目的でAとの間で不動産業者であるAと売買契約(以下、「本件売買契約」という)を締結した。AはXの不動産に無断で乙を建築し、管理経営をしているようにみせかけ、XはAの不動産に無断で乙を建築しようと、印鑑・印鑑登録証明書・白紙委任状ならびに甲の登記識別情報の提供を求め、XはAに聞かれて慌ててこれらを交付した。しかしながら、Xは事情を確認せずにAに重要書類等を預けたことに不安を抱き、翌日Aに問い合わせたが、Aは巧みな言をいれてXをだました。Aはその後ただちに上記書類等を冒用して登記原因情報を偽造し、甲につき売買を原因とする自己名義の所有権移転登記を経由したうえで、すかさずこれをYに転売して所有権移転登記が経由された。XはYに対して、甲につき所有権移転登記手続の抹消登記手続を求めることができるか。[参考文献]中舎善朗・争点65頁 / 佐久間毅・百選Ⅰ 46頁 / 磯村保・平成18年度重判66頁(武川幸嗣)