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民事訴訟のIT化

(1) 原告Xの申請求において、金銭貸付の事実を立証するため、被告Xの申請により、貸付の場に立ち会っていたとされる証人Aを尋問することになった。Aは、足が不自由であるため、ウェブ会議に参加を希望した。Xはこれに同意したが、被告Yは法廷での尋問を求めている。裁判所は、ウェブ会議での尋問を認めることはできるか。(2) B弁護士は、2026年4月1日、依頼者から不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の提起の依頼を受けた。同月10日に時効期間の経過が迫っていたので、Bは急いで訴状を作成し、4月10日の朝、訴状を裁判所の事件管理システムにアップロードしようとしたところ、インターネットが使えないことが判明した。Bとしては、どのようにすればよいか。●解説●1 民事訴訟のIT化の進展:令和4年改正の概要従来の民事訴訟においても、情報通信技術の利用は一定程度可能であった。例えば、電話会議システムによる争点整理、テレビ会議システムによる証人尋問、ファクシミリによる準備書面の交換等である。ただ、インターネット時代にITには十分対応しておらず、諸外国のIT化に比べてその遅れが顕著になったこともあり、2017年頃から積極的なIT化を進めていくことが政府の方針とされた。そこで、まず現行法でも可能な方策として、2020年以降、争点整理手続におけるウェブ会議の利用が可能とされ、折からのコロナ禍もあって急速に普及した。その後、さらに準備書面の提出や交換も裁判所の事件管理システム(mints)を通じて行うことも可能となった。ただ、現行法ではできることに限界があるので、IT化に向けた民事訴訟法の全面改正が企図された。その結果、2022年に民事訴訟法の改正(令和4年改正)が実現した。改正法は、①オンラインにより訴状その他の文書の提出を可能とすること(e提出)、②ウェブ会議によりさまざまな期日を実施を可能とすること(e法廷)、③訴訟記録をデジタル化し、裁判所外からの閲覧やダウンロードを可能とすること(e事件管理)という「3つのe」を実現し、民事訴訟の全面的なIT化・デジタル化を図ったものである。これによって、諸外国に比べて大きく遅れているとされた日本の民事訴訟のIT化に貢献し、世界標準に近づいたものと評価できよう。ただ、訴訟を利用しやすくするためには、このようなIT化をいかに利用者の利便につなげるかという実務上の工夫が重要になってくると考えられる(その一例として、IT化を活用し、当事者の意向に基づき最初の期日から原則として6か月以内に審理を終結する特別な訴訟手続として、令和4年改正で新たに設定整理期間手続(381条の2以下)を新設した)。また、民事訴訟法以外の分野(民事執行、民事保全、倒産、人事訴訟、非訟・家事事件等)についても、令和5年改正によって同様にIT化が図られている(その施行は原則として2028年頃になる予定である)。2 ウェブ会議による期日令和4年改正によるIT化として、まずウェブ会議による期日の実施がある。すでに令和4年改正前から、争点整理手続についてはウェブ会議システムの利用が可能となっていた。すなわち、弁論準備手続では電話会議システムによって期日を行うことができたし、書面による準備手続でも電話会議を用いた協議が可能とされていた(→本書66頁)。そして、コロナ禍の中、このような規定に基づきウェブ会議を用いた争点整理が活用された(ウェブ会議で口頭弁論準備手続が行われたものであり、従来の実務を実質上解釈されたものである)。そこでは、一方当事者の出席が必要である弁論準備手続ではなく、両当事者ともにウェブ会議でできる書面による準備手続が活用された。これをうけて、令和4年改正では、弁論準備手続において、一方当事者出席型、遠隔地居住者もウェブ会議の活用を可能とした(170条3項参照。この改正事項については2023年から施行されており、今後、争点整理期日でウェブ会議が実施される、注目される)。令和4年改正では、口頭弁論期日についてもウェブ会議による実施が可能とされている。口頭弁論期日は、裁判所と当事者が、公開法廷で実施されるものである。令和4年改正では、裁判所は、当事者の意見を聴いて、ウェブ会議の方法によって口頭弁論期日を実施できるものとし(161条の2第1項)、その際、裁判所・裁判所書記官は、当然法廷に出頭することとされている。これと併せて期日の呼出もウェブ会議の方法によって行うことができるとされ、当事者・代理人が期日で実際に出頭することが困難でないと認めるときはこの限りでない。この規定は、2024年から施行されている。なお、このほか、準備期日でも電話会議・ウェブ会議の利用が可能とされる(87条の2第1項・187条3項)。検証においてもウェブ会議の利用が認められる(232条の2)。ウェブ会議の活用は証人尋問においても利用できる。ウェブ会議については特に直接主義の要請が強く、出廷において裁判官が証人の表情や仕草を直接観察して心証をえる必要が大きいと考えられる一方、証人はその訴訟には無関係の者であり、審理に協力を求めるという観点からは、特に遠隔地に居住する証人にまで出廷についてウェブ会議を認める、その便宜を図る必要が大きいとも考えられるからである。このような観点から、令和4年改正は、ウェブ会議で証人尋問を実施する要件として、証人の住所・年齢・心身の状態等から出廷への困難を緩和することを優先したものとした(134条)。これによれば、本問(1)のような場合は、Yがウェブ尋問に異議を述べたとしても、証人Aの出廷困難の要件が認められるのであれば、裁判所は、Yの反対があってもウェブ会議尋問が可能である。この要件を満たすとして、その要件を満たすとして、証人Aの承諾などに鑑み、なお対面で尋問する必要があると考える場合には法廷に出頭を命ずる場合もある。3 オンラインによる訴状の提出次に、訴訟の提起に関するさまざまな手続がデジタル化・オンライン化される(以下の記述はいずれも民事訴行法システムに関する今後の措置が前提とされており、施行日も2025年から施行の予定である)。オンラインで訴状等の文書を提出することが可能となるとともに、手数料の納付も、オンラインで電子納付が可能となる。すなわち、民事訴訟における申立等の文書は、当事者は、書面に代えて、オンラインで電子情報処理組織(いわゆるナショナル・センター経由で、裁判所のシステムに接続する)を提出することができる(132条の10)。具体的には、裁判所が設置する新たな事件管理システム(Treesと呼ばれるもの)に直接アクセスするのではなく、裁判所が作成する民間事業者のPDFを変換したり、フォーマットに入力したりした形式で申立等をを行うことができる。そして、本人でこのようなオンライン利用は当事者の選択に委ねられるが、代理人弁護士については、その利用が強制され、原則として書面により訴状等を提出することは許されなくなる(132条の11第1項)。なお、裁判所外の専門機関に既に認証を願っていたが、今後はマイナンバーと公共料金等の支払システムと結び付けることとなる。このように、オンライン利用が義務化された場合に問題となるのは、さまざまな事情でオンラインが使えなくなる場合の取扱いである。規定上は「裁判所の使用に係る電子計算機の故障その他の責めに帰することができない事由によりオンラインで申立てができないときは、書面でも申立て可能とされている(132条の11第3項)。問題は、この「責めに帰することができない事由」の解釈であるが、裁判所に問題が生じた場合にこれが認められることは(条文の例示からも)明らかである一方、申立人のコンピューターの故障等はこれに当たらないものとされる。議論があろうものは、本問(2)のように、インターネットが使えなくなったような場合であるが、プロバイダ側に問題があるような場合にはこれに含まれると解してよかろう(他方、事務所の所属するマンションの回線等についてはなお議論があろう)。以上のように、オンラインで訴状等の提出がなされることを受けて、提出された訴訟記録もオンラインで保管される。オンラインで訴訟記録もオンラインで送達される仕組みもとられる。これをメールアドレスに届けておくと、裁判所は、送信書類を事件管理システムにアップロードし、その旨をメールで相手方に通知することで、その閲覧を可能にするものである。もちろん、相手方当事者の閲覧やダウンロードが可能である。これらがなくても、上記通知から1週間が経過すると送達が効力を生じる(109条の3)。また、システム送達が一般化していくことを前提にすると、(120条の3)、また、システム送達が一般化していくことを前提にすると、令和4年改正では民事訴訟費用に関する法律も改正し、忌避等の郵便費用を手数料に組み込み、郵券の予納は不要としている。なお、公示送達についても、従来の公示に裁判所の掲示場に掲示すること等に加えて、裁判所のウェブページにおける公示が示される(111条)。さらに、証拠調べの分野でもデジタル化が進展する。社会生活のデジタル化によって、従来紙で作成されていたものの多くが電子データの形をとることになっている。例えば、契約書も紙ベースではなく、電子データでの交換によって作成されることが一般的になっている。そこで、訴訟になった場合にも、電子データの証拠調べが必要になることが多い。従来はそのようなデータを一旦紙にプリントアウトして書証として取り調べていたが、令和4年改正は、電子データを直接証拠調べの対象にすることを可能とした。「電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べ」である(231条の2以下)。そこでは、書証の規定の多くが準用されているが(231条の3)、オンラインで提出された電子データをそのままの形で証拠調べすることが想定されている(例えば、従来の文書提出命令は「電磁的記録提出命令」と呼ばれる)。4 訴訟記録の電子化・裁判所外からの閲覧等さらに、裁判所において作成されるさまざまな書類も、今回の改正によってすべてデジタル化されることになる。例えば、裁判官の作成する判決書は電子判決書となるし(252条)、裁判所書記官の作成する調書は電子調書となる(190条など)。このように、裁判所に作成する文書が電子化され、また当事者の提出するさまざまな文書も多くは電子化されることになるになると、訴訟記録もデジタル化することが効率的となる。そこで、訴訟記録も原則としてデジタル化し、それを電磁的訴訟記録と呼んでいる(91条の2第1項参照)。ただ、そのためには、例外的に当事者が書面で提出する文書についても電子化する作業が必要となり、それは裁判所書記官が担当するものとされる(132条の12・132条の13)。以上のような形で訴訟記録の電子化が完成すると、その閲覧・謄写の形態も変化する。当事者や訴訟代理人はいちいち裁判所に出向かずに、オンライン経由で、裁判所外からの訴訟記録の閲覧等が可能になるからである。したがって、当事者および利害関係人の電磁的訴訟記録の閲覧等については、裁判所外の端末からの閲覧やダウンロード(複写)が可能とされる(91条の2第2項など参照)。その具体的な方法は最高裁判所規則に委ねられている。なお、営業過程では、より一般的な形でオンライン閲覧を求める意見もあったが、当事者のプライバシーに対する侵害のおそれもあり、訴訟の提起を躊躇する弊害が生じうるので、利害関係のない者は引き続き裁判所に行って裁判所内の端末から記録にアクセスする必要がある(ただ、ある裁判所に行けば日本全国の電磁的訴訟記録にアクセスが可能とされる予定である)。●参考文献●山本和彦「民事手続のIT化」(弘文堂、2023)(山本和彦)