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物上代位と相殺

Aは、5階建てのオフィスビル(以下、「本件建物」という)の所有者である。2022年11月15日、Aは、Yに対し、本件建物の1階および2階部分を賃貸し(以下、この契約を「本件賃貸借契約①」という)、これを引き渡した。賃貸借の期間は15年、賃料は月額500万円、敷金は1500万円、保証金は5000万円とされた。同日、Yは、Aに対して定められた敷金と保証金を交付した。2024年5月10日、Xは、Aに対する1億5000万円の貸金債権(以下、「本件貸金債権」という)を担保するために、Aから本件建物について抵当権の設定を受け、その旨の登記を経た。2027年5月10日、Aは、Zに対し、本件建物の3階部分を賃貸し(以下、この契約を「本件賃貸借契約②」という)、これを引き渡した。賃貸借の期間は10年、賃料は月額300万円で、敷金は1000万円、保証金は4000万円とされた。同日、Zは、Aに対し、Aとの間で定められた敷金と保証金を交付した。2029年1月15日、Aは、本件貸金債権にかかる債務について、履行遅滞に陥った。そこで、Xは、抵当権に基づく物上代位権の行使として、同月25日、AのYに対する本件賃貸借契約①に基づく賃料債権およびAのZに対する本件賃貸借契約②に基づく賃料債権について差押命令を申し立て、同月27日、それぞれYとZとに送達され、同月29日、いずれもAに送達された。差押命令の範囲は、AのYに対する本件賃貸借契約①に基づく賃料債権およびAのZに対する本件賃貸借契約②のいずれについても、2029年1月分から同年12月分までである。YとZとは、Xから同賃料債権の取立てを受けたときに、どのような反論をすることができるか。●解説●1. 物上代位と相殺に関する判断枠組み抵当権者は、抵当権に基づく物上代位の行使として、抵当不動産の賃料債権を差し押さえることができる。この場合において、差押命令が抵当不動産の所有者に対して送達された日が、抵当不動産の所有者に対して(民事193条2項の東定による155条1項本文の準用)、抵当権者が賃料債権の取立てをすることができる日である。(1) 抵当権設定登記の後に取得した債権を自働債権とする相殺判例によれば、抵当不動産の賃借人が抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とし、賃料債権を受働債権とする相殺をもって、抵当権者に対抗することはできない(参考判例①)。物上代位により抵当権の効力が公的に公示されているからである(このことについて、最判平成10・1・30民集52巻1号1頁→本章Ⅲ)。(2) 抵当権設定登記の前に取得した債権を自働債権とする相殺これに対し、抵当不動産の賃借人が抵当権設定登記の前に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とし、賃料債権を受働債権とする相殺をもって、抵当権者に対抗することはできる(参考判例①)。この場合には、抵当権に基づく物上代位による差押えがされたものと評価される(372条・304条1項ただし書)からである。2. 自働債権の特殊性:敷金・保証金自働債権が敷金である場合は、物上代位と相殺との優劣に関する一般ルール(前述1)が適用される。これに対し、敷金返還請求権が問題となった事案について、その内容に立ち入らずに判断を下したものとして、参考判例③がある(参考判例③を参照)。3. 相殺の合意の効力抵当権設定登記の後に取得した賃借人の賃貸人に対する債権と賃料債権とで、相殺の合意が成立した場合には、その相殺合意の効力を抵当権者に対抗することができる。4. 2017年民法改正の影響2017年民法改正は、物上代位と相殺との優劣に関する判例法理を前提とするものである。5. 敷金と相殺敷金は、賃貸借契約の期間満了後、賃借人が賃貸人に対して有する敷金返還請求権(622条の2第1項)を自働債権として、賃貸人が賃借人に対して有する賃料債権とを相殺することを予め合意したものであるとみることができる。