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法人でない社団の登記請求権

X会は、P会社の従業員で構成される法人でない社団団体であり、構成員は常時500名を超える。Xの現在の代表はAである。規約によれば、Xの意思決定機関は年1回開催される総会であり、出席者の過半数の賛成により決議がなされる。Aは、X専用の会館の建設を企画し、その用地として土地所有者Yから1億円で購入することを総会に諮ったところ、過半数の賛成を得て可決された。そこでAは、XY間で甲の売買契約を締結し、1億円をYに支払った。その後、Yが甲の所有権移転登記に応じないので、Aは、XY間の売買契約の成立を主張して、A名義への所有権移転登記手続請求の訴えを提起した。訴状の原告欄には「X 上記代表者A」被告欄には「Y」と記載され、また、Xが上述の性質を有する団体である旨も記載されている。Yは、「本件訴えの原告適格はXには認められないから、本件訴えは却下されるべきである」と主張した。証拠調べを経て、裁判所は、Xが民事訴訟法29条の適格のある社団であることを前提としたうえで、Aの本案に関する主張はすべて認めることができ、Yは甲の所有権移転登記手続に協力する義務があると判断するに至った。裁判所は、どのような判決をするべきか。■参考判例■① 最判平成6・5・31民集48巻4号1065頁② 最判平成23・2・15判時2110号40頁③ 最判平成26・2・27民集68巻2号192頁●解説●1 法人でない社団の当事者能力と当事者適格本件X会は法人格のない社団であり、民事訴訟法29条の適用を受けると考えられる(最判昭和32・12・18民集12巻12号2422頁、最判昭和39・10・15民集18巻8号1671頁等) [→問題27]。同条の趣旨は、法人でない社団であっても、それが1個の社会実体として活動し取引主体となることがあると想定され、そのような社会実体を訴訟上にも反映させることが紛争の相手方にとっても便宜であることから、一定の要件を満たす社団には当事者能力を認めるものである。本件は、判例等により確立された同条の要件を満たすと考えられるので、まず、当事者能力を認めることができる。問題は、登記請求権を訴訟物とする裁判訴訟の原告適格を認めることができるか、である。民事訴訟法29条の趣旨を単純に当てはめれば、Xに原告適格を認めてよいようにもみえるが、いくつか検討すべき点がある。まず、Xに権利能力を認めることができるかが問題となる。権利能力がないとすれば、給付請求訴訟判決が確定しても実体権の帰属先が存在しないから、請求を認容判決を下せないからである。そこで、誰を実体権の帰属主体とし、それとの関係で、Xに原告適格を認めるとすればどのような根拠に基づくかを検討する必要がある。また、不動産登記については、不動産登記法上、登記申請者・義務者の本人確認を要するが、法人でない社団に関しては、社団および代表者の証明について、法人登記簿のような定型的で蓋然性の高い審査資料を登記官に提出することが困難との実情がある。そのため、登記実務・判例とも、法人でない社団(X)または社団代表者Aの肩書きのついた個人名義(X代表者A)の登記のいずれも否定してきた(判例①・6・2民集26巻5号957頁)。したがって、Xが原告適格を有するとしても、A個人名義への移転登記を求めざるを得ないが、そのような請求の意義に問題点を検討を要する。さらに、当事者適格の議論において検討された訴訟担当による訴訟追行も可能か(特に非典型任意的訴訟担当とすれば、訴訟の相手方は訴訟法による法的安定性を期待するが、他方で、X構成員が別個訴訟を提起することができなくなるのはなぜか、その理由を説明する必要があろう。2 社団固有財産に係る登記請求訴訟の原告適格(1) 登記請求権の権利主体と原告適格 民事訴訟法29条の適用のある社団に実体法上の権利能力がないとすると、上記のとおり原告適格を認めても訴訟判決を得ることができず、両者の実質的な意義が失われるとして、当該事件限りで権利能力を有するものとする考え方も有力に主張されてきた。しかし、判例は、このような考え方を採用せず、社団の財産は、その構成員全員に総有的に帰属されると解している(最判昭和32・11・14民集11巻12号1943頁、最判昭和55・2・8判時961号60頁参照)。したがって、いわゆる管理処分権を前提として当事者適格を考えるならば、土地甲の移転登記請求の訴訟の訴えは、X構成員全員が共同原告として行わなければならないことになる。もっとも、そのためには500名以上の会員全員が共同原告になるに同意しなければならないし、多数の当事者の間で訴訟資料や訴訟記録の統一化を図るために手続が煩雑となるおそれがあり、現実的ではない。そこで、判例は、次のような判断を示して、この問題に手続的に対応してきた。すなわち、①X代表者は、構成員全員のために包括的に当該不動産の登記名義人とみなしたのであり、移転登記請求訴訟の原告適格が認められる(最判・昭和判昭和47・6・2)。新代表者の下で移転登記請求の訴訟における中断である。参考判例③が引用されている、②Xの総会決議により登記名義人とされた構成員は、構成員の全員(総有権者)から登記名義人となることを委任(実体法上の委任)され、登記請求訴訟を自己の名において追行する権限を与えられている(訴訟遂行権の授権)から、自己への移転登記手続請求の訴えの原告的確が認められる(参考判例③)。③権利能力のない社団の構成員全員に総有的に帰属する不動産について、実質的には当該社団が所有しているとみるのが紛争の実態に即していることを前提として、X自身に原告適格を認める(参考判例③)と判断してきた。結局、判例は、社団代表、規約に基づく決議により授権された者は、社団自身にも原告適格を認めるに至ったことになる(なお、最判・昭和判昭和47・6・2は、傍論において、社団自身の規約の定めるそれでは、これらの判例において、原告適格はどのような性質のものと解されているか。当事者適格の考え方として管理処分権を前提とするならば、登記請求権が構成員全員の総有に属するかによると、上記①~③で整理したように、判例が示す原告適格はいずれも構成員全員を被担当者とする訴訟担当と考えられる。その根拠として、任意的訴訟担当または法定訴訟担当が考えられるが、見解は分かれる。①最判・昭和判昭和47・6・2が「社団構成員全員のために固有不動産は、右構成員全員のために信託的に社団代表者個人の所有とされる」と論じている構成員全員のために信託的に社団代表者個人の所有とされる」と論じている点や、②(参考判例①)が総会決議における委任・授権を認定している点からは、任意的訴訟担当と解することも可能である。もっとも、任意的訴訟担当は、本来被担当者が担当者の授権に働きかけられるところ(明文の任意的訴訟担当の規律として、30条参照)、総会決議は規約の定める割合の賛成を得れば成立するから、決議に反対した構成員も被担当者となるかが問題となりうる。この点については、社団という概念は、構成員全員の意思をとりまとめる機能を説明する意義があるとしたうえで、とくに団体の強い結合という共同所有形態においては、その必要性が顕著であると説明することもできよう。他方、法定訴訟担当とをとれば、上記の議決反対者の問題をクリアすることができる。また、参考判例①③が、決議等の授権に関する事実を認定せず、登記手続・訴訟手続の便宜・安定の観点から社団の原告適格を認めていることからも、判例が明文の規定のない法定訴訟担当を創設したものと解することもできよう。③判決は、「当事者適格は、特定の訴訟物について、誰が当事者として訴訟を追行し、また、誰に対して本案判決をするのが紛争の解決のために必要で有意義であるかという観点から決せられるべき事柄である」として、実質的な権利の帰属や管理処分権にふれていないことも特徴的である。とはいえ、同判決は上記②の点を指摘したわけではないし、事実との関係で授権を要しない(固有財産の処分に関する決議があれば足りる)と判断したことによるものと考えられよう。ところで、上記の説明は、X構成員を被担当者とする訴訟担当が、Xの訴訟追行および人の登記保持を含む包括的なものであることを前提としている。これに対して、A個人のへの移転登記を求める訴えにおいては、XのほかにもA構成員からの授権を得ているものとして、いわば二重の訴訟担当がなされていると解する考え方もありうるように思われる(2参照)。なお、Xが法人でないことから生ずるもう1つの違いとして、AがX代表として訴訟追行をする際の資格の問題がある。参考判例①は、法人でない社団が総有権確認の訴えを提起する際に原告適格を有する判断をしているが、その訴訟で際に訴訟追行を担当する社団の代表者については、規約上、財産の処分に必要とされる決議等による授権が必要と判断している。法人の代表であれば当然に訴訟追行が認められることとの相違に留意すべきであろう。(2) 社団代表者への移転登記に伴う問題 上述の通り、Xの請求はAへの移転登記を求めるものであり、確定した請求認容判決を債務名義とすることによって、A個人の名義で所有権移転登記がなされることになる(この場合の執行は、民事執行法174条1項本文により、裁判の確定と同時にYの意思表示の擬制の効果が生ずるから、Aが承継執行文(民執27条2項)を得る必要もない)。そうすると、A固有の債権者が、土地甲を引当財産として強制執行をする等のおそれも否定できない。これは、Xが法人でないために生ずる問題であるが、民事執行法上は、Xが第三者異議の訴えを提起してXの所有権を主張し、強制執行の不許可を求める方法が用意されている(民執38条1項)。さらに、Xの債権者がXの所有する不動産(登記名義はA)に対して強制執行をする場合の執行方法についても、やはり所有権の帰属と登記名義人のずれが問題となるが、これについては、最判平成22・6・29(民集64巻4号1235頁)[→問題27]を参照されたい。(3) 社団を原告とする判決の効力 Xに原告適格を認めた場合に、その判決の効力、とくに既判力はX構成員に及ぶと考えられるか。この問題が論じられるのは、とくに相手方が勝訴した場合であるが、X構成員、とくに決議に反対した構成員による再審を封ずることがXY間の公平に適うと考えられる。そうでなければ、YはX構成員の数だけ応訴しなければならないからである。他方、X構成員の不服申立権は、X内部の意思決定の瑕疵は、X内部の意思決定の問題に収れんすると考えるべきであろう(したがって、解釈上Xの構成員の授権が認められない場合やXの意思決定手続に関する規約に問題があったりその不遵守がある場合には、Xの原告適格(場合によっては当事者能力)が認められないとの結論もあり得よう。X構成員への判決の効力について、Xの原告適格として訴訟担当構成を採る場合には、構成員は被担当者として判決の効力を受けることになる(115条1項2号)。上述のように、任意的訴訟担当構成において、決議に反対した構成員に判決効を及ぼすことには困難もあり、社団の性質や共同所有形態によって個別の判断を要する場合もあり得よう。これに対して、Xに事件限りの実体権の帰属を肯定する考え方を前提とする場合には、判決効はXのみに及び、構成員への判決の効力は、いわゆる反射効ないし判決の反射的効力で説明されることになる[→問題25]。以上より、本設問の裁判所は、Xの原告適格を認めて、請求認容判決をすることができると考えられる。その主文は、「被告YはAに対し、別紙目録記載の土地甲について、年月**日付け売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ」と記載されることになる。「X代表者A」に対する移転登記手続ではないことに注意されたい(参考判例③参照)。■参考文献■工藤達雄・百選22頁 / 染井善治「不動産登記訴訟における権利能力なき社団の当事者適格」法教409号 (2014) 63頁 / 山本和彦「法人格なき社団をめぐる民事手続上の諸問題 (10)」 法教374号 (2011) 127頁・375号141頁(山田・文)