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和解契約の解除
2025/09/03
XはYに対して売買代金ならびに遅延損害金の支払請求訴訟(前訴)を提起しこれが係属していたところ、第1審の口頭弁論期日において以下の内容の訴訟上の和解が成立し、これによって訴訟は終了した。「1. Yは、Xに対する売買代金の支払義務が存在することを認める。2. Xは、上記売買代金のかわりに、Yの有する甲土地をXに譲渡する。3. Xは、Yの遅延損害金支払債務については免除する。」しかし、甲土地の引渡期日が経過したにもかかわらず、YはXに対して一向に甲土地の引渡しを履行しようとしないので、XはYに対する履行の催告を怠った上で上記の和解契約を解除し、あらためて売買代金の支払を求める訴え(後訴)を提起した。これに対し、Yは、本案前の抗弁として、和解契約が解除されたのであれば、訴訟上の和解による前訴の終了効果も遡及的に消滅しているはずであるから、前訴はいまだ訴訟係属状態にあり後訴は二重起訴に当たると主張した。後訴裁判所としては、後訴提起されたこの提訴をどのように扱うべきか。また、Xとしては、後訴提起という手段以外にどのような方法でもって和解の解除を主張し得るか。●参考判例●最判昭和43・2・15民集22巻2号184頁●解説●1 訴訟上の和解の解除の可否本問のように、和解の内容についてその後に不履行があった場合に、Xが和解契約の解除をせず、和解条項の内容の履行を求めて強制執行(甲土地についての引渡執行)をすることは、訴訟上の和解の効力として執行力が認められている(民執22条7号)ことから、問題なく認められる。それでは、Xとしては、私法上の和解契約を法定解除し得ること(異論はない)として、さらに訴訟上の和解をも解除することができるであろうか。訴訟上の和解に私法上の和解としての要素を認め(→問題57)、既判力を否定する立場にある場合には、当然に債務不履行に基づく解除は肯定される。他方、訴訟上の和解の効力につき既判力肯定説に基づく判決の代用立つ場合であっても、その後の不履行に基づく解除の訴えは、基準時(訴訟上の和解の効力発生時)後に生じた新たな事由といえ既判力によっては遮断されないことから同じく解除は肯定される。問題なのは、解除に伴って生じた訴訟終了も消滅する(民545条1項参照)のか否かという点についてであり、解除の訴訟上の主張方法の問題とも相まって議論のあるところである。2 解除の主張方法この問題は、理論的には、解除権行使の効果として訴訟上の和解により生じていた訴訟終了効が遡及的に消滅するのか否か、という点に関わってくる問題である。解除により訴訟終了効も消滅すると捉えるならば、前訴はいまだ終了していないことになることから、当事者に対しては期日指定を申し立てるということになる(期日指定申立説)。これに対して、訴訟終了効はもはや消滅せず別個の紛争が新たに生じたに捉えるならば、当事者としては新訴を提起することになる(新訴提起説)。以下、両説の長短を検討するとともに、この2説以外の考え方についても検討する。(1) 期日指定申立説期日指定申立によると、和解の解除により訴訟終了効も消滅し、前訴が復活し審理が続行されることになる。これにより、前訴の訴訟状態を利用することができること、申立手続が簡便である、不履行の有無の判断の前提としての和解条項の解釈には前訴において関与した裁判官が適任である、といった利点がある。他方で、不履行の有無(=解除の有効無効)は、和解自体に付着していた瑕疵ではなく新たな紛争と捉えるべきであるにもかかわらず、場合によっては審級の利益が保障されないという難点がある。(2) 新訴提起説新訴提起説では、和解が解除されても訴訟終了効は消滅しない。この立場によると、和解を解除して新たに生じたと見なされるうえ、前訴とは別個の新たな紛念というになり、審級の利益が保障されるという利点がある。他方で、前訴の訴訟状態を利用できず不便であるという難点を伴う。参考判例①もこの立場に立っており、和解を解除した当事者が前訴と同じ訴訟物をあらためて後訴という形で請求しても、二重起訴の禁止(142条)にはふれないとしている。(3) 選択説訴訟終了効の消長とは別に、解除主張者に期日指定申立てと新訴提起のいずれかを選択させるとする立場(選択説)も有力に唱えられている。解除主張者の意思を尊重した考え方といえるが、相手方の利益や審理を実効的にするためには合理的な主張方法を定めておくべき、との指摘も他方ではなされている。3 本問の検討訴訟上の和解が解除されることにより、前訴について生じた訴訟終了効を消滅するという見解を前提とすると、本問のようにXが前訴と同じ訴訟物を後訴で提起することは二重起訴の禁止にふれた不適法な訴えとして却下されることになる。この立場に立つ場合には、Xとしては、前訴についての期日指定の申立てをすべきことになる。他方、参考判例①の新訴提起説のように、訴訟上の和解が解除されても前訴についての訴訟終了効は消滅しないという見解を前提とすると、Xにより提起された後訴は二重起訴の禁止にはふれないということになる。また、訴訟終了効の消長とは別に、前訴についての期日指定申立てと後訴のいずれかを選択可能とする選択説の立場からは、Xによる後訴の提起以外にも、前訴についての期日指定申立てという手段を認めることになる。

『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年

ISBN978-4-7857-3092-5

訴訟上の和解の効力
2025/09/03
XはYに対して売買代金ならびに遅延損害金の支払請求訴訟を提起しこれが係属していたところ、第1審の口頭弁論期日において以下の内容の訴訟上の和解が成立し、これによって訴訟は終了した。「1. Yは、Xに対する売買代金の支払義務が存在することを認める。2. 上記売買代金のかわりに、Yの有する甲土地をXに譲渡する。3. Xは、Yの遅延損害金支払債務については免除する。」なお、この和解の和解の成立に際し、Yは甲土地上にテナントビルを建設する予定である旨をXに明示し交渉を行っていたが、実は、甲土地については、建物を建ててもこれを維持しなければならないという行政上の規制があったにもかかわらず、Yがその事実を隠してXとの和解交渉を行っていたために、Xは予定どおりのテナントビルを建てることができなくなってしまった。この場合、Xは上記訴訟上の和解の効力を否定することができるか。また、その主張方法としてどのようなものが考えられるか。●参考判例●最判昭和33・6・14民集12巻9号1492頁最判昭和33・5・5民集12巻3号381頁●解説●1 訴訟上の和解訴訟上の和解とは、訴訟の係属中に口頭弁論等の期日において、両当事者が裁判所の面前で訴訟を終了させるために訴訟物について互いに譲歩し、その合意の内容が調書に記載されることによって確定判決と同一の効力が生ずることとなる(267条)。この「確定判決と同一の効力」として、訴訟上の和解は訴訟終了効、執行力(民執22条7号)、形成力を含むことは学説上も異論はない。議論があるのは、これに加えて既判力をまで含むかどうかという点についてであり、学説上古くから対立がみられる。訴訟上の和解に既判力が認められるかこの問題による当事者の自主的な紛争解決であることから、訴訟上の和解は当事者において錯誤や詐欺を介する可能性がないところ、その取扱いをどのように主張・立証することになるか、といったことを考える際に意義を有する。この点について、大別して、①既判力肯定説、②既判力否定説、③制限的既判力説という3つの異なる立場がある。既判力肯定説は、民事訴訟法267条の文言に最も忠実な立場で、判決による紛争解決機能を重視するとともに当事者による訴訟であるべきことを含め、訴訟上の和解の成立には裁判所が一定程度関与しており、その紛争処理機能を重視すべきであることを根拠とする。この説に対しては、取消しの主張は再審事由に準じる場合(338条1項)以外には認められないこととなり、当事者の意思であったという批判である。他方、既判力否定説は、訴訟上の和解が当事者による自主的な紛争解決であることを重視する立場であり、その取消についても再審手続を経由することなく主張することができるとする。この立場は、現在の学説における多数説を形成しているものの、民事訴訟法267条の文言や、和解の成立過程における裁判官の関与を軽視している、と批判されている。この両者のの中間に立つといもいえるのが、制限的既判力説である。これは、訴訟上の和解の紛争解決機能を確保すべく、基本的には既判力肯定説に立つものであるが、訴訟物に実体法上の瑕疵がある場合には訴訟上の和解は取り消され得ることによって無効となりはする見解である。(1) 訴訟上の和解に要素の錯誤がある場合①は裁判上の和解に要素の錯誤がある場合にはこれを無効とすることから、制限的既判力説に立っているものと一般には評されている(なお、当時の裁判所である東京地判平成15・1・21判時1828号59頁は、明らかに制限的既判力説を採用する)。この判決に対しては、既判力肯定説および否定説のいずれの立場からも、既判力の及ぶ対象をどのように判断するかについても批判がなされている。(2) 訴訟上の和解に詐欺がある場合この問題は、訴訟上の和解の法的性質の議論との関係において論じられてきた当面の争点であった。すなわち、訴訟上の和解における実体法上の和解契約と捉えこれを無効とすることは公序良俗に反する。これに対し、民事訴訟行為説の立場からは、訴訟上の和解は訴訟行為と私法上の和解との二重の性質をもつとする両説、あるいはこの2つの契約の性質を併有することから、既判力説も否定しないし、訴訟上の和解の無効を主張することから、既判力説も否定しない。これに対し、訴訟上の和解行為に結びつきやすいのに対して、訴訟上の和解行為と私法上の和解行為との二重の性質をもつとする(合同行為説)とすると、訴訟行為である訴訟上の和解に結びつきやすい。といった議論がかつてなされていたのである。しかしながら、実際には訴訟行為であるか否かが問題となるため、既判力の性質の問題とも必ずしも理論的に直接に結びつくものではなく、今日の法解釈論としては、法律関係の性質の問題というよりもむしろ、法律行為の性質の問題というよりもむしろ、実体法上の法律関係に基づく訴訟行為がなされているといえるであろう(新堂375頁、民事訴訟法〔有斐閣・2009〕342頁、重点講義1772頁、上田452-453頁など)。2 訴訟上の和解について無効の主張の方法(1) 錯誤による和解本問においては、まず、Xの意思表示に錯誤(「要素」の錯誤(民95条)。本問においては、和解の目的物について錯誤があったにすぎない。これに対し、当事者の同一性については錯誤があったわけではなく、物の性質に錯誤があったにすぎない。これには契約の「内容」の錯誤であったとした場合(基礎とした事情〔動機〕に錯誤があるにすぎない)とはいえない。動機、動機の内容が相手方に表示されていた内容と、かつそれが取引上重要なものであれば錯誤の契約要素となり、取消しの対象となる(民95条2項)。本問では、Xは甲土地へのテナントビル建設予定という動機をYに明示しており、しかも当該テナントビルを建てられるか否かは甲土地取得に当たって重要なポイントとなることから、要素の錯誤に該当すると考えてよいであろう。(2) 訴訟上の和解の錯誤による無効①によると、錯誤による訴訟上の和解の錯誤による無効を主張する場合、一般論として、既判力を有する確定判決の取消は、基準時においてYに生じていた錯誤の存在の無効(訴訟上の和解の効力発生時)の前に当たることから、Xが錯誤取消しを主張して本問の訴訟上の和解の効力を否定することができるか否かについては、訴訟上の和解の効力として既判力まで認めるか否かに係ってくることとなる。既判力肯定説に立つ場合には、基準時前の事由であるXの錯誤を主張して当該訴訟上の和解の効力を争うことは遮断効にふれることとなり、再審事由に該当する事由がある場合に限ってその効力を争うことができるにすぎない(再審の訴えに準ずる訴えが肯定される)。他方、既判力否定説に立つ場合には、私法上の和解について錯誤による取消しを主張できるのはいうまでもなく、実体法上の取消原因であることから訴訟上の和解について無効であり、既判力の取消原因は生じないから、原則肯定説と同じく、私法上の和解の錯誤取消しを主張して、訴訟上の和解の効力を争うことができることになる。(3) 当事者の救済方法既判力否定説ないし制限的既判力説に立ち、和解の効力を争うことができるとして、その手続方法にはどのようなものがあるか。和解が無効とされることにより、訴訟上の和解によりなされた訴訟終了もまた無効とされるのか、という理論的な問題とも相まって、議論されているところである。和解の無効により訴訟上の和解の訴訟終了効も同時に消滅するとする議論は、的確な立場を前提とすると、従前の訴訟(前訴)はいまだ終了していないということになり、期日の指定をあらためて提起すべきこと(期日指定申立説)となろう。期日指定の申立てをめぐると、旧訴の訴訟記録がすでに廃棄されているなどの手続上の困難を生ずることができ、手続として、旧訴の訴訟状態をそのまま継続することができ、和解の無効を前提とする訴訟を提起し、これが有効であれば請求棄却、無効であれば請求認容という判断がなされるべきであるとの見解(訴訟の再開を求める訴訟を提起し、これが有効であれば請求棄却、無効であれば請求認容という判断がなされるべきであるとの見解も有力である。しかしながら、この説に対しては、①和解した以上、訴訟が終了することについて当事者の意思が形成されており、②期日指定申立てができるまでの期間が長いと旧訴の訴訟記録が廃棄されるおそれがあり、③和解が有効か無効以外の法律関係や訴訟の第三者を含んでいたような複雑な場合にも対応できる、といった批判も挙げられている。他方、別訴提起説による場合には、和解の有効か無効かの主張が③で提起された場合に限ってその判断がなされることになる。なお、訴訟上の和解において和解が無効と確認された後の処理については、①旧訴は依然として係属を継続すると解すると期日指定の申立てによることとなり、②旧訴が和解の効力によって終了した場合には争いが解消されることになる。しかしながら、この説によると、①新たな訴訟を提起しなければならず、②旧訴が和解の効力によって終了した場合には争いが解消されることになる。このような学説では、訴訟期日指定の申立が認められるか、いずれかによってしか救済する方法はない(選択説が有力である:大判大14・4・24民集4巻195頁(和解無効確認の訴え)など)。近時の学説においても、救済を求める者の救済要求をどのような方法で取り上げるのが最も適切であるかという点が重視されるべきとして選択説は有力であり、当事者の救済方法の選択が不適切な場合には、釈明や移送(17条)によって調整し得るとする。この選択説に対しては、和解無効を主張する者の利益を重視しており(例えば、訴訟当事者の結束に訴訟上の和解が選択された場合、相手方としては、和解の有効無効を旧訴で回復させた元の訴訟物を着けたということであるのか)、理論としては、原則的な方法として期日指定申立てを考えておき、単純な旧訴続行で処理しきれない場合には和解無効確認の訴えを肯定するという見解も存在する(重点講義1785頁など)。

『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年

ISBN978-4-7857-3092-5

訴え取下げと再訴の禁止
2025/09/03
Yに対する貸金債権(甲債権:1000万円)を有する債権者Xは、Yを相手どって同貸金の返還を求める訴え(前訴)を提起した。審理の結果、第1審では請求認容判決が下されたのに対し、Yは控訴を提起したが、控訴審係属中、Yは「即座に1000万円全額を支払うことはできないが、全額の6割にあたる600万円の支払をしたら『い』旨をXに申し出、Xもこれを了承する旨の裁判外の和解が成立したので、XはYの同意を得てこの訴えを取り下げた。上記の裁判外の和解に従い、Xは前訴の取下げ後6か月間、Yに対する支払を求めなかったが、同期間を過ぎてもなおYはXに対して甲債権の履行をしなかった。そこでXは、Yに対し甲債権の履行を求めたが、Yは上記のような裁判外の和解は成立していないと主張して甲債権の支払を拒んだことから、甲債権の支払を求める訴えをあらためてYに対して提起した。裁判所は、この再訴をいかに扱うべきかについて検討しなさい。●参考判例●最判昭和52・7・19民集31巻4号693頁最判昭和55・1・18判時961号74頁●解説●1 訴えの取下げの要件・効果訴訟終了に関する処分権主義より、判決が確定するに至るまでのいつでも訴えを取り下げることができる(261条1項)。ここに、訴えの取下げとは、訴えによる審判申立ての全部の撤回を内容とする原告の意思表示をいう。これがなされると訴訟係属の遡及的消滅という効果が生じる(262条1項)。訴えの取下げ自体は原告によってなされる行為であるが、相手方が本案について準備書面を提出し、準備的口頭弁論において申述し、または口頭弁論(以下、「本案についての主張」という)後においては、相手方の同意を要しなければ取下げの効力を生じない(261条2項)。この相手方の同意という要件が加重されている趣旨については、原告の訴えの取下げの自由が認められる一方で、被告についても請求棄却判決を得て原告の請求権について本案についての主張をした後には、被告についても請求棄却判決を得て原告の請求を認めないことをもって確定するという利益を有しており、これを保護する必要があるためと理解されている。また、本案について終局判決が言い渡された後に訴えの取下げがなされた場合、当事者は同一の事件について再度訴えを提起することができなくなる(262条2項)。これを再訴禁止効という。2 再訴禁止効(1) 再訴禁止効の趣旨本案について終局判決が言い渡された後にする訴えの取下げに「再訴禁止効」が生じるとされる趣旨については、従来より大別して取下濫用制裁説と訴訟費用追求防止説という2つの考え方が唱えられている。取下濫用制裁説とは、訴えが取り下げられることにより、本案の審理に関与し判決までした裁判所の労力を徒労に帰せしめたことに対する「制裁」と捉える立場であり、学説上は多数説に立つといえる(兼子一『新民事訴訟法体系(増訂版)』〔酒井書店・1965〕297頁、三ヶ月・前掲355-356頁、松本=上野559頁など)。これに対し、再訴費用追求防止説は、訴えの取下げが繰り返されることにより裁判所が翻弄されるとともに、相手方にとってもその訴訟追行の紛争の解決を図ろうとする利益を不当に害することから訴えを提起するのは訴権濫用に当たると説く(上告棄却〔著〕「民事訴訟法(第2版)」(弘文堂・2011)152頁〔長谷部恭男〕、竹下=藤田『民事訴訟法(第4版)』〔有斐閣・2009〕991頁など)。取下濫用制裁説に対しては、終局判決後の取下げ行為が非難の対象であるにもかかわらず、取下げ行為自体を法が認めていることとの一貫性を欠くといった批判が挙げられる。他方、再訴費用追求防止策に対しては、訴えの取り下げが濫用と評価されるに当たっても、実体的な権利であることも否めないが、相互に矛盾するものである。なお、この点について参考判例①は、民事訴訟法262条2項は、「終局判決を得た後に訴えを取り下げた者に対する制裁的な規定であり、同一の紛争を蒸し返して訴訟制度をもてあそぶような不当な事態の再発を防止する目的に出たものにほかならない」として、両者の折衷的な立場に立つといえる(参考判例②も同様)。(2) 同一の訴え再訴禁止効が生じる「同一の訴え」の範囲については諸説あるが、その適用範囲については、取下濫用制裁説、再訴費用追求防止説のいずれの立場に立つか、これを限定的に解すべきとの傾向でなされている。例えば裁判所の判断が成立したことによる訴訟経済の要請も合致し、当事者もすでに本案判決を考慮して裁判所の訴訟追行の方向が定まっておらず、そこで、近時では、取下濫用制裁説、再訴費用追求防止説という立場の違いにかかわらず、前訴と後訴の同一性を判断するに際しては、当事者の同一性・訴訟物の同一性のみならず、原告に再度の訴えを提起を正当化できる新たな利益がある場合には、再訴の利益を正当化できる新たな利益がある場合には、再訴の利益を正当化できる新たな利益がある場合には、再度の審理をしてもよい。訴えの取下げがなされる態様については、実質的な理由が存する場合と敗訴濃厚となりその後の訴訟の再度の審理をしてもよい。再訴の利益を正当化できる事情の一例として、再訴の取下げの実現に即した妥当な解決が図られること。3 再訴を提起された裁判所の対応再訴の利益を正当化しうる事情の1つであることから、再訴の裁判所は、被告からの指摘がなくても自らのイニシアティブによって調査し、そこで、近時では、取下濫用制裁説、再訴費用追求防止説という立場の違いにかかわらず、前訴と後訴の同一性を判断するに際しては、当事者の同一性・訴訟物の同一性のみならず、原告に再度の訴えを提起を正当化できる新たな利益がある場合には、再訴の利益を正当化できる新たな利益がある場合には、再訴の利益を正当化できる新たな利益がある場合には、再度の審理をしてもよい。訴えの取下げがなされる態様については、実質的な理由が存する場合と敗訴濃厚となりその後の訴訟の再度の審理をしてもよい。再訴の利益を正当化できる事情の一例として、再訴の取下げの実現に即した妥当な解決が図られること。

『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年

ISBN978-4-7857-3092-5

反射効
2025/09/03
Xは、Yに対し金3000万円を貸し付ける旨の金銭消費貸借契約をYとの間で締結し、同時に、この貸金債権の担保としてYの債務者であるZとの間において連帯保証契約を締結した。その後、Xは、弁済期が到来したにもかかわらず上記貸金債権が履行されていないとして、Yを相手どって貸金返還請求訴訟(前訴)を提起したが、同訴訟においては、Yが抗弁として主張した弁済の事実が認められたことから、Xの請求を棄却する旨の判決が言い渡された。前訴判決の確定後、さらにXはZに対して保証債務の履行を求める訴え(後訴)を提起した。この場合、前訴確定判決の効力は、後訴に対して、いかなる作用を及ぼすことになるであろうか。●参考判例●最判昭和51・10・21民集30巻9号903頁最判昭和53・3・23判時886号35頁最判昭和31・7・20民集10巻8号965頁●解説●1 既判力の相対性の原則と反射効理論既判力の主観的範囲については、原則として当事者間にのみその効力が及ぶとされている(既判力の相対性の原則。115条1項1号)。したがって、本問のように、債権者Xが主債務者Yを相手どって提起した金銭の支払請求訴訟において、Xが請求棄却判決を受けたとしても、この判決の効力は、Y・Z間の関係が民事訴訟法115条1項2号から4号に定める例外に該当しない以上、相手方Zに対しては及ばないのが原則である。それゆえ、Xは別途Zを相手どって保証債務の履行を求める訴訟を提起することが可能であり、紛争解決の趣旨を重視するとする以上、後訴においてXが勝訴判決を得る可能性もある。しかしながら、このような事態は、前訴において主債務の不存在が確定されていながら、後訴では保証債務のみが存在するといった結論が、裁判を通じて生み出されたことを意味し、保証債務の付従性(民448条1項参照)を定める実体法関係においては不可解な事態ともいえる。このような問題を解決する1つの理論として、「反射効理論」というものが存在する。2 反射効理論反射効とは、第三者が直接に既判力を受けるわけではないが、第三者の法的地位が判決当時の当事者の法的地位に実体法上依存する関係がある場合に、当事者間に既判力が拘束力を有するが、第三者に対しても反射的に利益または不利益な影響を及ぼす効力があるとする考え方である(兼子一『新民事訴訟法体系(増訂版)』〔酒井書店・1965〕353頁参照)。この理論は、当初、既判力の本質論に関する実体法説(確定判決は実体法上の法律要件事実の一種と捉え、判決に基づいて実体法関係が変更された以上、当事者はもちろん裁判所もこれに服さざるを得なくなる(とする見解)を背景に、主債務者勝訴の確定判決により、たとえ存在していた主債務も消滅するとする更改契約が成立したものとみなし、主債務の消滅により保証債務も消滅させることが根拠となる。保証人に対する保証債務履行請求の棄却も要請される。しかしながら、既判力の水際論に関する訴訟法(既判力を訴訟法的な判断の統一要求という訴訟法上の効力であるとする見解)が一般的な理解につれ、反射効は既判力とは異なる効力として、実体法上の効果(保証債務の付従性など)を根拠として、保証人は主債務者勝訴の確定判決を援用すれば請求を免れる結果を導きうるとされるに至る。このように、今日では反射効は、既判力といった確定判決の本来の内在上の効力ではなく無関係に扱われる反射的な付随的効力であり、既判力とは異なり職権調査事項ではなく後訴当事者の援用を待って認められる反射効として、本問のような学説の発展に伴い、反射効は、たうえで、債務の連続性・付従性が実体法上承認される場合に限り、反射効を肯定する(山本・基本問題173頁以下、松本=上野683頁以下も同旨)。なお、判例は、反射効が問題となりそうな事例において、最高裁として反射効理論を正面から認めるものはない。参考判例①では、賃貸人の賃借人に対する請求棄却判決の反射的効力を否定した結果を裏返すことになった。参考判例②では、不正競争債務者の1人にすぎないことになり、その反射効は肯定し、参考判例③については被告はそもそも無関係である。4 反射効理論に対する評価反射効理論の学説上の評価については、最近では、本問のような保証人事例において反射効肯定説の説く帰結に対して、これに賛成する見解が有力である。これは、前訴債務の名について争い主債務が存在しないと判断を受けた債権者が、その後保証人を被告とする保証債務履行請求において主債務の不存在という蒸し返しを禁じられたとしても、債権者にとっての手続保障が尽されているとはいい難い点にある。加えて、債権者によるかかる蒸し返しを許すと、保証人は主債務者に対する求償の可能性が閉ざされるかもしれず、実体法上保証人の地位の悪い状況が悪化することから、紛争解決の相対性の原則を修正してまでもこれを回避すべき、といった要請が働くためである。かくして、反射効肯定説は別として、反射効否定説ないしそれに積極的な態度を示す学説においては、X・Y間の確定判決の結果として、X・Z間の後訴の問題において反射効によっても解決によっては、XとZとは別の関係であるから、XとZとの関係で前訴の判決の結果が有利に働くことはないという見解もある。しかし、この見解はXとZとの関係では反射効が生じないとするにとどまり、後訴でZが敗訴した場合のな保証債務の付従性(民448条1項)を根拠とする主債務者・保証人間の場合以外にも、相続の絶対効(民法439条)を根拠として債権者の1人が提出した相殺の抗弁を理由とする債権者敗訴の判決と他の債務者との間、持分会社の無限責任社員の責任(会社580条1項)を根拠として持分会社に対する請求認容または棄却判決と社員との間などに反射効が認められるとされている(その他この例については、伊藤606頁参照)。いずれの例についても共通の根拠とされるのは、当事者の一方と第三者の間に存するとされる「実体法上の依存関係」である。このような考え方が提唱された背景には、裁判所の負担回避、紛争解決の一回性といった訴訟経済的な要請もさることながら、多数の主体間の紛争につきその解決結果がまちまちになるのを回避し、実体法上の規律を判決に有力に結果に一致させようとする意図があるものと意識され、かつては有力に説かれた見解である。3 反射効理論に対する評価もっとも、反射効理論に対しては、その基準とする「実体法上の依存関係」が曖昧な上に、それだけでは判決が第三者に及ぶことの正当化根拠としては不十分というという批判をうける。といった指摘がなされるところでもある。かくして、反射効理論を支持する見解は次第に少なくなり、むしろ、反射効の効力は第三者に対する既判力の拡張と異ならいとして、禁反言的な性格をもつにすぎない。このような見解の背景には、明文の規定のない反射効の拡張は認められるべきではないとする反射効否定説(三ヶ月章『民事訴訟法』〔第3版〕〔弘文堂・1992〕41頁、伊藤607頁など)や、反射効として論じられてきた効力を第三者への既判力の拡張として処理すべきとする既判力拡張説(前掲・兼子267号[1971]28頁以下など)などが存在する。また、反射効の射程や効力の内容を第三者に有利な反射効については敗訴当事者による紛争の蒸し返しの防止を考慮する見解(新堂744頁以下、重点講義11749頁以下など)も、反射効理論と親和的な立場も、反射効を実体法的な効力と位置付けたうえで、債務の連続性・付従性が実体法上承認される場合に限り、反射効を肯定する(山本・基本問題173頁以下、松本=上野683頁以下も同旨)。なお、判例は、反射効が問題となりそうな事例において、最高裁として反射効理論を正面から認めるものはない。参考判例①では、賃貸人の賃借人に対する請求棄却判決の反射的効力を否定した結果を裏返すことになった。参考判例②では、不正競争債務者の1人にすぎないことになり、その反射効は肯定し、参考判例③については被告はそもそも無関係である。

『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年

ISBN978-4-7857-3092-5

口頭弁論終結後の承継人
2025/09/03
本件土地はAの所有名義に登記されていたが、これはXが本来所有する不動産でありAとの間で登記原因証明書によってなされた登記であった。Xは本件土地が自らの所有に属すると主張して、Aを相手どって異なる登記原因のために本件土地の所有権移転登記手続請求訴訟を提起し、この訴訟はX勝訴の判決が言い渡され確定した(前訴)。その後、Yは、前訴の事実審の口頭弁論終結後に、Aから本件不動産の贈与を譲り受け、Y名義の所有権移転登記を了した。X・A間での登記原因証明書の存在については後訴で争った。Yに対し、Xは、Yに対して所有権に基づく本件土地の所有権移転登記請求手続請求訴訟(後訴)を提起したところ、Yは、自らは民法94条2項の第三者に該当するので請求の無効は対抗されないと主張した。前訴確定判決の既判力は、後訴においてどのように作用することになるであろうか。●参考判例●最判昭和48・6・21民集27巻6号712頁最判昭和41・6・21判時464号25頁●解説●1 既判力の主観的範囲・原則と例外既判力の主観的範囲については、原則としてその訴訟に関与した者にのみその効力が及ぶとされている(既判力の相対性の原則、115条1項1号)。これは、民事訴訟が権利または法律関係につき当事者の私的な権限に属する手続である以上、既判力が主たる当事者間の私的な権限に属する手続である以上、既判力が主たる当事者間の私的な関係に関してのみ関与して十分であることに加え、処分権主義・弁論主義の下で自らが訴訟を追行した当事者がその判決に服すべきよう求め、訴訟に関与する機会の与えられなかった第三者に判決の効力を及ぼすことは第三者の利益を不当に害することになるからである。もっとも、この原則に対しては例外もあり、訴訟担当の場合の本人(同項2号)、口頭弁論終結後の承継人(同項3号)、請求の目的物の所持者(同項4号)に対しては既判力が及ぶとされており、主観的範囲の拡張が法定されている。2 口頭弁論終結後の承継人民事訴訟法115条1項3号にいう「口頭弁論終結後の承継人」とは、前訴における当事者の事実審の最終口頭弁論期日以後(すなわち基準時以後)における、当事者(および訴訟担当の場合の権利帰属主体)からの承継人を指す。この拡張が認められるのは、判決の紛争解決の実効性の維持のため(権利関係の安定のため)とされる。すなわち、仮に承継人に既判力が及ばないとすると、例えば、前訴原告から目的物を譲り受けた者が被告との間で再訴訟をしなければならないことにもなりかねないが、それでは勝訴原告から目的物を譲り受ける者はまずいなくなるであろうし、逆に、敗訴した被告は係争権利関係自体を第三者に処分したり係争物に関する占有を第三者に移転することによって、既判力の拘束を回避でき、前訴確定判決を無に帰せしめることになるといった弊害が生じること、これを防ぐために承継人への既判力の拡張を認めたものである。とはいえ、一般に既判力の正当化根拠は手続保障に求められるところ、既判力の拡張をうける承継人(とくに前訴が訴訟係属していたことについて、判決による権利関係については必ずしも十分ではない(判決による権利関係については必ずしも十分ではない。このような趣旨からすると、承継人とは、まず訴訟物たる権利・法律関係を承継した者を意味することは争いはない。問題なのは、訴訟物たる権利・法律関係そのものではないが、確定判決の紛争解決の実効性の観点から承継人と認めるべき場合があるか、そのような場合にについて承継の対象をどのように理論的に位置付けるかについては考え方が分かれる。承継につき訴訟法上に新たな地位に着目する考え方としては、当事者の適格承継と捉える見解(適格承継説)もかつては有力であったが、前訴と後訴とで訴訟物が異なる場合の説明に窮することもあり、近時では前訴で解決された紛争およびそれから派生した紛争の主体たる地位を承継の対象と捉える見解(新堂705頁、重点講義690頁など)が有力である。この立場によると、既判力の拡張を受ける承継人は、勝訴当事者の手続保障によってすでに押されているとする。他方、訴訟法上の地位ではなくむしろその基礎にある実体法上の権利関係を承継の対象として把握する立場(係争物説。上掲675頁、伊藤581頁など)も存在し、この立場からは承継人の実体法上の地位が訴訟当事者(被承継人)と依存する関係にあることをもって既判力の拡張の正当化根-拠と求める。3 承継人の固有的地位の主張確定判決の紛争解決の実効性の要請から承継人の基準時後の承継人に既判力を拡張する要請があるとしても、本問のようにその承継人が民法94条2項の適用を主張として善意無過失によるものである(本問では、民法94条2項にいう「善意の第三者」)にも、一律に既判力の拡張を認めてよいものであろうか。この点につき、後訴においてYの善意が認定される場合には、民事訴訟法115条1項3号にもかかわらずYを勝訴とすべきではないかという問題は、その理論構成をめぐってであり、口頭弁論終結後の承継人の場合には一律に既判力の拡張を認め、それによって固有の法的な地位の主張が遮断されるわけではないとする形式説(新堂708頁、重点講義180頁など)と、既判力の拡張が認められるような場合には当事者にすぎず、既判力の拡張は受けないとする実質説(道1860頁、三木浩一ほか編「条解民事訴訟法〔増補版〕」〔講談社・1965〕345頁、上田510頁など)とが対立している。学説では形式説が多数説といえるが、判例は参考判例のいずれについても実質説によるものであると評価されている。これに対し、判例がどの場合にどのような判断をするのかは明らかではないとする立場(中野1・219頁など)もある。もっとも、実質説、形式説のいずれの立場に拠ろうとも、結論自体には大差はないとされ、ただ、口頭弁論終結後の承継人に対する既判力の作用の仕方を、既判力理論との関係で整合的に説明できるという点においては、形式説のほうに利がある。められるとしても、前訴判決で確定された権利関係自体を争う(本問において、X・A間の売買契約は有効とする)ことで、X・A間の所有権移転登記請求をすることはできないといったように、もはや前訴の判決により許されない(既判力の積極作用)が、固有の法的な地位を主張することは、基準時後の新事実として遮断されない(既判力の消極作用)。第2に、実質説では、後訴当事者の主張が基準時後の固有の法的な地位が認められるかどうかによって、既判力が拡張されるかどうか(民事訴訟法115条1項3号の「承継人」に当たるか否か)が決することになるが、これは既判力の趣旨を没却することになるかねない。第3に、実質説によっても、前訴当事者(本問におけるA)が敗訴した場合にAからの承継人であるYへの既判力の拡張を認めることになるが、形成による、前訴当事者間(本問におけるA)の勝訴・敗訴にかかわらず一律に既判力の拡張を認めることを一貫して説くことが難しい。4 執行力の拡張と承継人の固有的地位口頭弁論終結後の承継人に対する既判力の作用という問題は、実際には、前訴の訴訟物を判断すると後訴とで訴訟物が問題となるのであり、これも同一の行為である。これに対し、本問とは異なりXが、前訴確定判決を債務名義としてYに対し強制執行に及んだ(具体的には、承継執行文の付与の申立て〔民執27条2項〕)に、固有的地位を有する人に対する執行力の拡張という問題が生じる。かつては、既判力と執行力の主観的範囲は一致するとの前提の下、執行力が及ぶ承継人は、既判力が及ぶ承継人と同一とするのが一般的な理解であった。しかしながら、既判力の拡張をうける承継人が、既判力を覆すに足る積極の事由の不存在を後訴で争えないのにすぎないのに対し、執行力の拡張を受ける承継人は自己の財産に対して執行がなされるのか否かの利益状況は著しく異なることを理由に、既判力と執行力の主観的範囲を必ずしも一致しないとする今日では有力である(上述の形式説は、既判力の及ぶ承継人であっても執行力が及ばない承継人の不存在を正面から認める)。そこで、執行力の拡張の局面において、承継人が固有の法的な地位を有する場合には、誰のイニシアティブでどのような手続段階で審査すべきかという問題が生じるが、この点については、権利確認説と訴訟責任転換説という考え方が分かれる。前者の見解は、第三者に固有の法的な地位が成立し第三者に対する請求権が存在しない場合には、この者に対する執行力の拡張は及ばないし、第三者に請求する請求権の存在が少なくとも義務的に確認できる場合にのみこの者を承継人として執行文を付与することができるとする立場にある。この立場によると、執行債権者は、承継の事実と第三者に固有の法的な地位が成立しないことを当然的に書面で証明する証拠を提出した場合を除いて、承継執行文の付与(民執27条2項)を受けることができ、これができないときは執行文の付与を訴え(民法33条)を提起しなければならないことになる。この判断に対しては、固有の法的地位の存否という実体権に関わる判断を、裁判官ではなく承継執行文付与機関(裁判所書記官)に委ねるのは妥当でない、という批判がある。これに対し、後者の見解は、債権者の承継執行文の付与を円滑にするとともに債務者の反対を平等に保護するという趣旨である(もっとも、反対債務者の見解は、債権者に固有の法的な地位がないにもかかわらず執行文が付与された場合でも、訴訟を提起できるのであって、その意味では、執行債権者は、承継の事実を証明することによって執行文の付与を受けることができ、承継人の固有の法的な地位の主張は、承継人からの請求異議の訴え(民執35条)によらなければならない。

『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年

ISBN978-4-7857-3092-5

将来給付の増額請求(確定判決の変更の訴え)
2025/09/03
Xが取得した本件土地の一部として、以前よりYの所有する本件建物(マンション)がその敷地の一部として存在していた。そこで、XはYに対し、建物収去および土地明渡しをした。2019年1月1日から本件土地の明渡しに至るまでの賃料相当損害金(月額20万円)の請求訴訟を提起した(前訴)。この前訴はXの全面勝訴に終結し、判決は確定した(参考・受領の日弁連・2020年4月2日、判決確定日)。Yは本件土地の明渡しに応じなかったことから、Xとしては最新の確定判決を債務名義として建物収去および土地明渡しの強制執行を求めようと考えたが、本件建物の入居者の退去がなかなか進まずに手ができない状態にあった。Yもその後本件土地の不法占拠を続けていたが、前訴の口頭弁論終結以後、本件土地の近隣に鉄道の駅ができたことから、本件土地の2022年4月1日における相当賃料額は月額50万円に達した。そこで、XはYに対し、前訴確定判決後に生じた経済事情の変更によりその認容額が著しく不相当となり、当事者間の衡平をはなはだしく害するような事情があることを理由として、2021年2月1日から明渡しに至るまでの間、相当賃料額と前訴認容額との差額の追加請求を求める訴えを提起した(後訴)。この後訴は、前訴判決の既判力との関係で許されるであろうか。●参考判例●最判昭和61・7・17民集40巻5号941頁●解説●1 将来の給付と増額請求本問における事実審の口頭弁論終結日から本件土地の明渡しに至るまでの間の賃料相当損害金の給付を求める訴えは、将来給付の訴え(135条)であり、「非行給付の訴えの評価については→問題18)。将来の給付の訴えが提起された場合、請求は、現在給付の訴えと異なり、将来の損害の発生の予測の基礎となった価格価価価物価価価物価変動など口頭弁論終結時には予測しえなかった事情の変更により、損害の増減をきたすことがある。この点、確定判決の既判力にかかわらず、口頭弁論終結後の事情の変更を理由に増額の請求をすることができるであろうか。本問のような将来給付の訴えは、将来の履行の可能性について前訴の口頭弁論終結時において主張・立証が可能であるため、口頭弁論終結後の価額を基礎にせざるを得ないところ、被告が不法占拠を継続しているにもかかわらず、実際には支払うことなく、実体法上も地代支払請求権(借地借家11条)が許されていることも鑑みて将来給付の訴えは、一般に認められるといえる。同様に、これについては見解が分かれる。2 一部請求的な訴訟物理論伝統的な「訴訟物=既判力」という図式を維持し、同一の不法行為に基づく損害賠償請求権は1個である(最判昭和48・4・5民集27巻3号419頁参照→問題50)。ことを前提とするならば、本問における後訴請求は前訴判決の既判力の範囲において許容されないこととなる。この点、参考判例①は、前訴の基準時後の物価価価価や土地価格の高騰といった通常事情により、前訴における認容額が適正賃料額に比較して不相当なものとなった場合に生じる差額相当損害金については、前訴の段階において主張、立証することが不可能であり、これを請求から除外する趣旨のものであることが明らかであるとみるべきであり、これに対する判決もまたそのような趣旨のもとに右請求について判断したものというべきであって、その後の訴訟で請求できるものと解するのが相当であるとして、前訴判決の既判力には抵触しないと判示して、前訴の請求は将来の損害額について明示的に一部請求と捉えることができるものとした。これより、「訴訟物=既判力」という図式は維持しつつも、前訴が一部請求であったと判断されるところにおいては、後訴における差額請求は認容されることとなることから(最判昭和37・8・18民集16巻8号1720頁参照→問題50)、増額請求を求める後訴は前訴の既判力には触れず適法な訴えとして認められることとなる。判例理論の採用する明示的一部請求肯定説は、一部請求が後訴請求を認めるという点に正当性を見出すことができるとするところ、本問も訴え提起がなされた時点での経済事情の変化によって高騰した部分を一部請求として主張する。その後の経済事情の悪化によって減額した部分については、後訴提起を予見すべきというもとになろう、というわけでは、後訴は全く同一の判決の許容性について問題視しており(例えば、最判昭和48・7・16民集21巻6号1559頁など)、(→問題50)、本問のような訴訟を用いることは一連の判例理論と整合性を欠くと評価しえ、反面、将来給付の減額といった事態に対しては、一部請求論を用いた対応は不可能であり、かかる事態への対応については本問の議論があるといわざるを得ない。3 その他の一理由構成判例が採用する一部請求論による理論構成としては、前訴が一部請求であった旨の何らかの窺えるような事情があることを前提とせざるを得ない。一部請求論は請求の趣旨の拡張の申出を本来のすべてのすべての額であり、また訴え提起がなされている。学説においては、これが、本来の給付の訴え、つまり、債権の全部額について判決を求める訴訟では、前訴の基準時までに保障されていた経済事情に基づくものと、強行法規の違反による無効であり、前訴において有効・無効を争うことができない場合にも既判力は及ばない、との見解が有力である。また、端的に、将来を予測してなされる将来給付の損害賠償額における認容額の既判力は柔軟性をもって、既判力の積極面から、将来の給付請求訴訟における認容額の既判力は柔軟性をもって、既判力の積極面と正面から認められる見解も有力である(道1860頁注18など)。さらに、口頭弁論終結前に生じた損害につき、定額金による賠償を命じた判決が確定した後に、損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる旨を定める民事訴訟法117条の類推適用を説く見解も存在する(伊藤眞544頁、松本=上野699-700頁など)、元来同条は、①家庭裁判所の判決によると、②口頭弁論終結前に生じた損害についての定期金判決による賠償に限る)変更の訴えを許すことを想定しており、将来継続的に発生する損害賠償を命じた判決について、同条の適用対象とされているが(法務省民事局参事官編「一問一答新民事訴訟法」〔商事法務研究会・1996〕132頁参照)、この立場は、本問のような場合であっても、前訴の基準時後の事情の変更によって金額が不相当になるという点では、同条の想定する現在の給付の訴えとしての定期金賠償請求の場合と共通性が認められ、同条の類推適用の余地がある。

『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年

ISBN978-4-7857-3092-5

既判力の時的限界
2025/09/03
X・Y間の土地売買契約に基づき、買主Yが売主Xを被告として、土地所有権移転登記手続を求める訴えを提起した(前訴)。前訴ではY勝訴の判決が確定し、XからYへの所有権移転登記もなされた。ところが、その後Xは、この売買契約がYの詐欺によるものであったとして、訴状において取消しの意思表示をし、Yに対し所有権移転登記の抹消登記を求める訴えを提起した(後訴)。取消権の行使によりX・Y間の売買契約は効力を失ったとするXの主張は、前訴判決の既判力によって遮断されるであろうか。●参考判例●最判昭和55・10・23民集34巻5号747頁最判昭和40・4・2民集19巻3号539頁最判平成7・12・15民集49巻10号3051頁●解説●1 既判力の時的限界(1) 既判力の基準時民事訴訟の対象となる権利・法律関係は、時間の経過とともに常に変動する可能性がある。したがって、既判力が生じる範囲についても、いつの時点での権利・法律関係についてのものかを明らかにしておく必要がある。この「いつの時点」を明らかにするのが、既判力の基準時(または標準時)である。当事者は事実審の口頭弁論終結時までにおける裁判資料を提出することができることから、既判力の基準時は事実審の最終口頭弁論終結時ということになる(民執35条2項参照)。(2) 遮断効当事者は、後訴において、基準時以前に存在した事由(例えば、基準時以前になされた債務の弁済など)に基づいて前訴で確定した既判力ある判断を再度争うことは許されず、仮に当事者がこのような事由を提出したとしても、裁判所はそのまま審理に入らずにこれを排除しなければならない。これを既判力の遮断効という。このことは、当事者が基準時以前の事由が存在していたことについて、当事者が知っていたか否か、知らなかったことに過失があったか否かにかかわらない(過失)。2 基準時後に形成権の行使と遮断効基準時以前にすでに生じていた事由を基礎として生ずることを前訴判決の既判力により遮断されるが、基準時後に発生した新たな事由は前訴判決で確定された判断内容を争うことは既判力によって妨げられることはない。このことから、基準時後にする形成権行使の可否という問題が生じてくる。すなわち、前訴の基準時よりも前に成立していた取消権や解除権といった形成権を、基準時後にはじめて行使して前訴判決の内容を争うことができるか、という問題であるが、そもそもこれが問題とされるのは、仮に基準時前に形成原因が発生していたとしても、形成権これを行使してはじめて新たに実体法的な法律関係の変動が生じるものであるという形成権の性質に起因する。この問題について、今日の判例理論は、個々の形成権の制度目的やその発生原因たる事実の発生原因の発生原因との結びつきの有無などに応じて結論を異にする。すなわち、形成権による自己の自白権を基礎にするについては、請求権自体に付着する瑕疵であるとして基準時までに行使するのが(参考判例①)、最判昭和57・3・30民集36巻3号501頁など)、相殺権については、自己の債権を積極的に行使して相手の請求の消滅を図るものである以上、前訴でこれを行使するか否かは相殺権者の自由であり、当然なすべき基準時であるとはいえないという点で、取消権の場合とは異なるとして基準時後の行使を認めている(参考判例③)。また、建物買取請求権や借地権の行使を認める(参考判例②)。学説においては、基準時後に形成権行使の効果の差異は既判力によりもたらされるものに過ぎないとする見解も有力である(中野1・243頁以下)。もっとも、この見解は既判力制度が目指す安定的な効果を強調して、基準時前に形成権が成立していた以上、前訴において形成権を行使し権利変動を生じさせておくべきであり、後訴における形成権行使は既判力によって遮断されると解する立場と、個々の形成権ごとに個別的に判断を認めるというとするものと、その理論構成についての選択肢は与えられている。例えば、提供責任説という考え方がある(上田徹一郎『判決効の範囲』〔有斐閣・1985〕235頁以下)。これは、形成権の遮断を伝統的な既判力の時的限界の問題として捉えるのではなく、①一方で、形成権を基準時前に提出しておくべき責任を強化する方向に働く要因として、当事者が内包するあらゆる攻撃防御方法が展開されたことを条件として生じる既判力が存在するが、他方で、②その事由を訴訟上主張・立証することがその者の実体法上の地位の否認として客観的に期待できない場合には、たとえその事由が基準時前に存在していたとしても、後訴でその提出が認められるべきであるとの要請が認められ、これを実体関係的に手続保障と称する。また、形成権行使責任説という考え方(河野正憲『民事訴訟法』〔有斐閣・2009〕384頁以下)は、既判力の遮断効を訴訟手続上に当事者に要求された攻撃防御方法の懈怠による自己責任(形成権行使責任)に求めた上で、形成権の遮断については、実体法において解除権や取消権の行使の催告権(民547条)や追認による取消権の消滅(同122条・125条)の規定があり、またこのような明文の規定がなくともこれらの場合と同視できる事情があれば、形成権者に対して形成権行使責任を負わせてもよいとする。さらに、形成権について一般的に遮断を肯定する多数説の立場の中にも、前訴において形成権の行使を主張することが期待できない特別な事情がある場合には、既判力による遮断効も生じないとして、期待可能性による調整を認める見解も存在する(道1614頁など)。3 個別的考慮判例がさらに多数説の立場に立つと、取消権、解除権、手付の白紙撤回権などの形成権は、請求権自体に付着する瑕疵であるとして基準時後の行使を否定することになる。とりわけ本問のような取消権については、取消しなくとも重大な瑕疵であるため裁判所が調査されることの対象が広いことも理由として挙げられる。他方、相殺権や建物買取請求権については、遮断を否定する。その理由としては、相殺権の場合は別個独立の債権に付着する瑕疵ではなく、訴訟係属中の請求権とは別の債権として行使すべきであって、相手の請求の対象の瑕疵であるからである。相殺権の行使については他の形成権以上に被告の判断の自由を尊重すべきであるといった点が、また建物買取請求権については、これもまた建物収去土地明渡請求権に付着した瑕疵ではなく別個独立した権利であり、基準時後の行使を認めることで借地人の保護にも資し、被告が原告の主張する借地権の不存在ないしは消滅を争うときに予備的抗弁として建物買取請求権を行使できることとする。これに対し、取消権については既判力の遮断効を肯定した参考判例①では、「当事者が右売買契約の詐欺による取消権を行使することができたのにこれを基準時前に行使しなかったものと認められる」旨の判示がなされているが、この判示の読み方につき、既判力の遮断効が認められるか否かの基準に期待可能性の観点をも取り入れたものと理解すべきか否かについては見解が分かれる。これに対し、遮断効否定説の立場からは、本問における取消権の場合についても後訴における行使は遮断されることになる。その理由としては、多数説の挙げる当然無効の主張をするについては、ある法行為を無効とするか取り消し得るものかは立法目的の違いであって期待可能性としては民事訴訟法をもとに加え、多数説のように既判力が既判力の範囲を逸脱し基準時後の行使を否定することは、取消権者に認められている取消期間(民126条)を奪うことになり実定法上の規定に抵触するといったことが挙げられる。次に、提供責任説の立場からは、形成権を基準時前に行使するか否かは、上述の①と②の2つの要素の緊張関係の中に論点を見出すべきであり、①の要求が②の要求に比べて圧倒的に強ければ提出責任は無条件に肯定(遮断効肯定)されるが、逆に②の要求が優先する場合には提出責任は否定(遮断効否定)されるとする。具体的には、相殺権の場合に被告にあたり提出責任は否定されるとする。他方、取消権については、取消権者が原告(債権者)の場合には、本来の履行を求めることも取消権を行使して原状回復を求めることもできる実体法上の地位にあり、前訴で債権者が取消権を行使しないで本来の履行を求めていた場合には、取消権につき前訴での提出責任は否定されるが、取消権者が被告(債務者)の場合には、本来の履行を求め得る実体法上の地位にないことから、取消権について前訴での提出責任が認められる(解除権についても同様)。最後に、形成権行使責任説の立場は、取消権・解除権・建物買取請求権についても取消権と同様の防御権能をもち、前訴においてその行使についての決断が促されているとする)については形成権行使責任が肯定され、遮断効が肯定されるのに対し、相殺権については、これが早期に行使すべきとする規定は存在せず、遮断効を認めることは自動債権の強制徴収機能を阻害し相殺権者に過度の要求になるとして形成権行使責任を否定する。

『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年

ISBN978-4-7857-3092-5

残部請求と信義則違反
2025/09/03
XはYとの間で、Yの所有する別荘を代金1億円で購入する旨の売買契約を締結したが、履行期に別荘が引き渡されるまでの間に、同別荘は焼失してしまった。Xは、同別荘の焼失はYの責めに帰すべき事由によるものであり、Yの債務不履行(履行不能)による損害賠дося 3000万円であり、そのうち一部として500万円の支払を求める旨を明示して損害賠償請求訴訟を提起した(前訴)。裁判所において、Yは自らに帰責事由はなかったとしてXの請求を争ったが、審理の結果、裁判所はYの過失の存在は認定できないとして、Xの請求を棄却する判決が言い渡され確定した。その後、Xはあらためて上記損害額の残部である2500万円の支払を求める損害賠償請求訴訟を提起した(後訴)。この後訴は、認められるであろうか。●参考判例●最判平10・6・12民集52巻4号1147頁●解説●1 一部請求に対する残部請求の可否数量的に可分な請求権につき、当事者(原告)が、その一部についてのみ訴求すること(一部請求訴訟)については、処分権主義の観点からも当然に認められる。しかしながら、一部請求を認めて原告の利益のみを図ろうとすることは、他方で、実質的には同一の紛争についての応訴の負担や重複審理による非効率といった被告側や裁判所の不利益も大きいことから、一部請求後にする残部請求が一般に許されるか否かという点が、古くから論じられている。この点について、学説上はさまざまな見解が存在するが、大別して、全面肯定説、全面否定説、中間説といった見解が見られる(→問題50)。他方、判例は、明示的一部請求肯定説の立場に立っているとされ、黙示の一部請求の場合には、訴訟物は債権全体であり残部請求はもはや許されないが(最判昭32・6・7民集11巻6号948頁)、明示の一部請求の場合には、訴訟物は明示された部分に限定され残部請求は許されるとする(最判昭和37・8・10民集16巻8号1720頁)。このように従来の判例理論は、「訴訟物=既判力」といった枠組みを前提としたものといえる。2 一部請求棄却の場合の残部請求本問のように、前訴における残部請求が棄却された場合の後訴請求の可否について、学説上の考え方に従うと、全面肯定説の立場では当然に残部請求は認められるのに対して、全面否定説の立場では当然に残部請求は認められないことになる。また、中間説の立場からは、一部請求が棄却の場合には残部請求を認めないとする見解が多いといえる。明示的一部請求肯定説に立つ判例理論による場合には、どのように考えるべきであろうか。本問のように一部請求である旨を明示していた前訴において請求が棄却された場合であっても、従来の判例理論に従う限りにおいては、明示がなされている以上残部請求は許容されることになりそうではある(なお、従来の判例はいずれも前訴で一部であるか否かが問題となった)。しかしながら、前訴で請求棄却という結論にまで至った理由としては債権全体の不存在という判断(もっとも、これは判決理由中の判断ではあるが)がなされたからであり、そうだとする残部請求を許容したところで結局は同じような審理経済の繰り返しを招来することになりかねない。そこで、参考判例①に掲げた最高裁は、全損害額の数量的一部請求を棄却する旨の判決は、債権の全部について行われた審理の結果に基づいて、当該債権がまったく現存しないかまたは一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって、後に残部として請求された部分が存在しないと判断を示すものにほかならないと前提したうえで、「一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されない」と判示し、信義則による残部請求の 後訴を制限する。これをどう理解するかについては、金融債権の数量的一部請求であってもおのずから債権全体の審理判断が必要となり、当事者の主張立証の範囲・程度も通常は全額請求の場合と変わらないこと、一部請求を棄却する判決は残部不存在の判断を示すものであるから、蒸し返し的後訴について被告の応訴についての被告の報告に理由がない、主張立証の負担を強いること、といった点が挙げられている。残部請求を既判力によって遮断することに対して疑問が呈され、一部請求の 後訴部分の矢櫃の可否が問題となり、信義則に基づく訴訟物の枠を超えた 失権効の一種であるとする見解も学説上では有力に唱えられているところで あり、信義則による残部請求の後訴を遮断する最高裁の考え方は、このよ うな有力説にも面する(ものでなく)。しかしながら、最高裁の論理は、債権全体の存否が一度は審理の対象とな りその不存在についての判断がなされたにもかかわらず、後訴においてこれ をあらためて主張することは蒸し返しであり信義則に反するとするもので あって、あたかも判決理由中の判断に拘束力を認めたともとられかねない。 そもそも従来の判例理論が、明示の一部請求に限り残部請求を許していたの は、一部請求訴訟を認めた場合に残部を証明すること可能性とを両方に 通じ、相手方当事者が前訴における訴訟において得ること期待した紛 争の全面的解決の幅をあらかじめ限定する場合にほかならない。したがって、 原告が一部請求で全部請求した場合に下した結論と矛盾が生じないことになり、それにもかかわらず前訴で一部請求が功を奏さなかったから あらためて残部請求をするというのは信義則(権利失効の原則)に反する、 と捉えるのであろう。3 信義則による残部請求の遮断参考判例①により用いられた信義則による残部請求の遮断という手法は、 従来の判例理論により構築された残部請求の可否を認める「訴訟物= 既判力」という枠組みを維持するものであるが、前訴における審理の対象が実質的には債権全体に及んでいるものであることから、従来の「訴訟物=既判力」の枠組みを超えて、実質的には紛争の蒸し返しと思われる後訴を信義則により遮断するという手法は、すでに最高裁自身も認めていたところであり(最判昭和51・9・30民集30巻8号799頁など)、参考判例①で示された最高裁の考え方は、一連の最高裁判例の延長線上にあるものともいえる。もっとも、信義則によって後訴が遮断されるのは、①後訴が実質的に前訴の蒸し返しであって、②前訴において後訴請求をすることに何ら支障がなかったのに、③後訴提起に至る時間経過により、被告の地位を不当に長く不安定な状態に置くことになること、といった要件を満たすことが求められるが、個別的に判断されるものである。これに対し、参考判例①の示す信義則による残部請求の遮断という手法は、一部請求の前訴の棄却判決となるためには、審理の範囲が債権全体に及ぶことになるところ、債権の存否が否定された部分については被告に紛争解決の合理的期待が生じているにもかかわらず、これに反して残部請求することは信義則に反するという理論に基づくものであることから、信義則の不遵守への「特段の事情」がごく例外的にしか当てはまらないとすれば、もはや信義則の個別適用の結果ではなく、制度的な効力に近いものとなるともいえ、信義則による残部請求の遮断を認める一連の判例理論よりもさらに踏み込んだものとなっている。それゆえ、参考判例①のいう残部請求が認められるための「特段の事情」がどのような場合に認められるか問題となる。この点については、棄却された理由として、事実認定を誤って事実を否定するものであり、この場合、請求棄却された損害項目についての残部請求は妨げられないとする(最判平20・7・10判時1463号4頁はその一例といえよう)。

『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年

ISBN978-4-7857-3092-5

一部請求と残部請求
2025/09/03
XはYとの間で、Yの所有する別荘を代金1億円で購入する旨の売買契約を締結したが、履行期に別荘の引渡しがされるまでの間に、同別荘は焼失してしまった。Xは、同別荘の焼失はYの責めに帰すべき事由によるものであり、Yの債務不履行(履行不能)による損害賠償として3000万円であるとして、そのうちの500万円の支払を求める損害賠償請求訴訟を提起した(前訴)。裁判所において、Y自身には帰責事由はなかったとしてXの請求を棄却したが、審理の結果、Xの請求を認容する判決が言い渡され確定した。その後、Xは再度上記損害額の残額である2500万円の支払を求める損害賠償請求訴訟を提起した(後訴)。この後訴請求は、前訴の確定判決の既判力によって遮断されるものであろうか。前訴における請求が、全損害額の一部である旨の明示がなされていた場合と、明示がなされていなかった場合につき、検討せよ。●参考判例●最判昭37・8・10民集16巻8号1720頁最判昭32・6・7民集11巻6号948頁●解説●1 一部請求訴訟の必要性数量的に可分な損害賠請求につき、当事者(原告)が、その一部についてのみ訴求すること(いわゆる一部請求訴訟)は、処分権主義(246条)の観点からも当然に認められるものといえる。このような一部請求訴訟が認められることの実践的な意味としては、訴額に応じてスライドしていくわが国の提訴手数料制度との関係で、訴額が高額にもかかわらず勝訴の見込みが立たないような事件において、訴額の一部のみに限定することで裁判所に判断を求めることにある(もっとも本問における損害額3000万円の場合の提訴手数料は11万円弱であることから、一部請求をする実益は乏しいかもしれない)や、不法行為における損害賠償請求訴訟において、被害者である原告が自らの過失の存在も自認しているような場合に、過失相殺を経て(過失相殺については→問題38)残る損害額であるとしてなされることが多かったことなどが挙げられる(一部請求をめぐる訴訟の利益の評価につき、三木浩一「一部請求訴訟について」民事訴訟雑誌47号(2001)30頁参照)。このように一部請求が認められるとすると、一部請求訴訟を提起した後に残部請求をすることは、それなりに必要性・合理性があるものといえる。他方では、複数の訴訟に付き合わされることになる被告サイドの不利益や、実質的には同一内容の紛争について重複審理(訴訟不経済・矛盾のおそれ)を余儀なくされる裁判所の不利益をどのように調整するかは別途検討されなければならない。このような問題意識から、一部請求の許否が論ぜられ、より激しい議論が残部請求が許されるか否かという点が問題とされてきており、激しい議論の対立がみられるところである。2 学説の状況(1) 全面肯定説全面肯定説の立場は、実体法上債権の分断行使が自由とされていることを根拠に、訴訟物設定についての原告の自由を保障する民事訴訟法246条を根拠として、一部請求訴訟に対する当然の認識から、前訴で一部請求である旨が明示されていたかどうかは問わず、実体的に一部であったかどうかだけで一部請求訴訟が成立するとし、原告によって分離された残部部分にまで既判力が及ぶことはないと主張する。この立場によると、原告によって分離された残部は訴訟物とされた一部にしか生じないとして、残部請求を求める後訴を許すことになる。この立場に対しては、紛争の一回的解決の要請や、実質的な審理の重複、被告の応訴の負担、といった見地からは問題が多いとの批判がなされている。(2) 全面否定説他方、被告の応訴の負担や審理重複による裁判所の不利益を重視し、一部請求訴えの提起を許さないとする立場であり、前訴の判決がなされると、残部請求訴訟は許さないとする立場である。残部請求も許されないとする肯定説の立場からすると、前訴で一部請求訴訟が、その全部について訴えを提起したと擬制し、訴訟物について一部認容または全部棄却の判断を下すべきであり、その既判力は全部に及ぶと考える。訴・非効率に巻込まれ、一部請求後に残部請求は許さないとする全面否定説の立場も学説上では有力である。この立場は、一部請求訴訟をしたという原告の利益に比べて、訴え提起段階での判断で許すことで十分にであるから、訴訟係属の途中で請求の趣旨を拡張すればよく、一部請求訴訟をするための訴訟提起という方法は認めるべきではないと考える。残部請求を否定する理論構成としては、一部請求訴訟でも債権全体が訴訟物となり残部請求権は既判力で遮断されるという説明や、併合提供義務を課し(民訴25条、民執34条2項参照)における請求債権の範囲を拡張する(一部請求後の残部請求は却下される、といった説明がなされている。(3) 中間説全面肯定説でも全面否定説でもなく、中間的な見解を認める立場も学説上は存在する。3 判例1つには、一部請求の前訴(一部請求である旨を明記していた場合)で、原告が一部請求する利益を考慮に入れて、原告が希望した場合には残部請求を認めるが、敗訴した場合には、一部請求訴訟も債権全体のについてその存在という判断があってはじめて出てくるのであるから、再訴を許して二重審判をする必要はなく残部請求を認めないと考える考え方である(中間説①)。同様に、原告が一部請求で勝訴した場合も敗訴した場合とで扱いを分ける見解はあるが、原告が前訴で請求を一部請求である旨を明示していたとしても、被告からすれば債権の不存在を主張・立証する必要は前訴と変わらないのであり、被告は、いずれにしても残部請求は認められるのであるから、一部請求で敗訴した原告にその後の訴訟を提起したのであり、残部の場合の矛盾を生じるおそれはないとして残部請求は許されないと考える(中間説②)。また、一部請求訴訪において被告も債権全体についての審理に既判力をもって対応しようとしたのであれば(相殺の抗弁等)、その結果は原告の勝敗の如何にかかわらず債権全体に及ぼすとする見解も有力である(中間説③)。4 本問に即して本問においてXは前訴において一部請求をなし、請求認容の判決を得た後に、残部の請求を求める後訴を提起している。一部請求訴訟を全面肯定説に立つ場合には、前訴において一部請求であることが明示されていたか否かにかかわらず、また、前訴でXが勝訴していようと敗訴していようとにかかわらず、残部の支払を求める後訴は認められる。これに対し、全面否定説に立つ場合には、残部の支払を求める後訴は一切認められないこととなる。これに対し、中間説①②の立場からは、一部請求の前訴が一部請求訴訟で敗訴した場合には残部請求の拡張は認められることになる。ただ、中間説③からは、前訴で一部請求である旨の明示があった場合には、残部請求の後訴について訴えの利益が認められ、また前訴で明示がなかった場合には、当該債権の金額(3000万円)が給付を求められた金額(500万円)をもって確定されたものであり、仮にそれと矛盾する主張をする(やはり損害賠償債権は3000万円であって、残部2500万円の支払を求めたい、といった主張を意味するものと思われる)ことは許されないとする(後者によると「既判力の反面性」に反するものとして許されないと説かれている)。

『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年

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信義則による後訴の遮断
2025/09/03
故Aが所有していた本件土地につき自作農創設特別措置法による農地買収処分(※注)がなされ故Bに売り渡されたが、Aの相続人XはBの相続人Yに対し、買収処分は実質的なものであり、Bの本件土地を占有しないXに買収処分する方途としてAとBとの間で仮装契約が締結されたとして、所有権移転登記請求訴訟を提起した(前訴)。審理の結果、裁判所は買収処分は有効なものであって、X・B間において売買契約が成立したという事実は認められないと認定し、Xの請求を棄却した(その後、前訴判決は確定した)。その後、Xは買収処分の無効を理由として、Yに対し、土地上の工作物を収去するよう訴えを提起した(後訴)。この後訴は、買収処分から20年が経過して提起されたものであるとして、このような後訴請求は、前訴判決と抵触するので許されるものであろうか。(※注)第2次大戦後、農地制度の民主化を図る目的で、政府により、不在地主や大地主等の所有農地を強制的に買い上げ、耕作者に対する売渡しが行われた。●参考判例●最判昭和51・9・30民集30巻8号798頁最判昭和59・1・19判時1105号48頁●解説●1 判決理由中の判断への拘束力既判力の客観的範囲については、前問でみたように、判例はこれを主文に示された権利・法律関係の存否(訴訟物)の判断に限定しており(114条1項)、判決理由中で示された判断については、前訴についての判断の外にあるものの(同一訴訟)と、既判力は生じないと解している。しかしながら、判決理由中において一度は裁判所によって認定された事実が後訴との関係において何らの拘束力を有しないというのは、判然としない。うので、紛争解決の一回性という訴訟制度の目的を十分に果たしえず、実質的には同一紛争と思われるような紛争の蒸し返しを引き起こしかねない。本問に即し実質的にみると、前訴の訴訟物は土地所有権に基づく返還請求なのであるのに対し、後訴の訴訟物は明渡請求であり、訴訟物を異にするものであるのではあるが、両訴とも確定判決の既判力が同じく、しかも、前訴・後訴が実質的に同一紛争というのであれば、前訴判決の理由中で示されるものであり、この部分は抵触はしない。かかる問題意識から、学説においては、判決理由中の判断にも何らかの拘束力を認めるべく、争点処理論(→問題48)、既判力の拡張(後述)といった主張された法理を前提に訴訟物を判断する(同一訴訟)必要性が強く説かれてきたが、それらが判例の容れるところではなく、別の訴訟物を構成するものとしても、後訴の請求は前訴の判決で目的としており、これをくつがえすものである。仮に、訴訟物は固定的でなく、反訴、訴えの変更として性質を兼ね備える、教示、再度の提出により変動するものであり、また先占的法律関係の優越を順次構成的要件とするものであるとの見解を前提とすると、上記のような見解も可能となり、中間確認の訴え(→問題48)といったさまざまな考え方が提唱されてきたものであるが、判例の採用するに至るところではない。2 信義則による後訴の遮断争点処理論を否定した最高裁判例(最判昭和44・6・24判時569号48頁)、同じ事件が紛争の長期化をもたらしたことについても批判的評価が多かった。その後実質的にみて後訴が前訴の紛争の蒸し返しとみられる場合には、信義則によって遮断するという処理を確立するにいたっている(→問題48)。3 本問に即して本問における第1訴訟の訴訟物は所有権移転登記請求権であるが、第2訴訟の訴訟物は本件建物の明渡請求権である。本件建物の所有権がX・Yのいずれに帰属しているか、第2訴訟に共通する主要な争点であるが、第2訴訟において裁判所によってなされた、その主張する詐欺の事実は認められないとの判断は、判決理由中で示される判断でありこの部分には既判力は生じない。それゆえ、第1訴訟につき裁判所がX勝訴の判決を下すことも、既判力を問題とする限り何らさしつかえないことになる。しかしながら、同一建物について、その登記はXに移転せずにYに移すというのでは、本件建物の所有権をめぐるX・Y間の紛争は少しも解決されないことにならない。参考判例①もこのことを意識したせいか、建物の所有権の存否については第3訴訟(所有権確認の訴え)を提起すればよいと判決文の中で示唆している。このように紛争解決手段は、まず解決までの費用と時間を費さざるを得ないだけでなく、仮に第3の訴訟でXが勝訴しXの所有権が確認されたとしても、将来、Yの訴訟追行は執行妨害となろうか。XはさらなるYに対して家屋の明渡請求訴訟という第4の訴訟の提起を余儀なくされるが、これは第2訴訟におけるY勝訴判決の既判力と矛盾せざるを得ることになり、実際問題として裁判による紛争解決が果たされないという事態に陥る。これに対し、争点処理論による場合には、訴訟の進行を阻害する、関連する第1訴訟と第2訴訟の一体的な紛争解決が図られることになる。その後実質的にみて後訴が前訴の紛争の蒸し返しとみられる場合には、信義則によって遮断するという処理を確立するにいたっている(→問題48)。3 信義則によって遮断される対象実質的にみて前訴の蒸し返しともいうべき後訴については信義則により遮断されるという考え方になった場合であっても、遮断される対象は何かという問題がさらに生じる。すなわち、後訴における請求レベルでの遮断がなされると考える場合には後訴は訴え却下という扱いがされるのに対して、主張レベルでの遮断がなされると考える場合には後訴については本案判決(前訴において敗訴した当事者が前訴において蒸し返し的な主張を行った場合には請求棄却となろう)が下されることになる。そもそも、実質的にみて前訴の蒸し返しともいうべき後訴を排斥するには必ずしも請求レベルで遮断しなくても、主張レベルでの遮断で十分である場合が少なくない。本問においても、Xの後訴請求そのものを訴え却下として遮断しなくても、後訴請求の先決的法律関係である所有権、あるいは買収処分の無効の主張を信義則に反するものとして遮断すれば、結果的には後訴請求の棄却を導くことが可能である。しかも、当事者が前訴において主張・立証を尽くした上での変動により後訴請求をすることができるのであれば、当事者責任に基づく遮断をやや緩やかにする。しかし、主張レベルでの遮断が可能な場合には、請求レベルでの遮断は避けるべきといえる。

『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年

ISBN978-4-7857-3092-5

争点効
2025/09/03
Xは、自己の所有する建物(本件建物)をYに売り渡しその旨の登記も経たが、約定の明渡期日に至っても本件建物を明け渡さなかった。そのため、Xは、売買の完済表示によるものであるので売買契約を取り消すとして、Yに対し、所有権移転登記の抹消を求める訴え(第1訴訟)を提起した。他方、YもまたXに対し、本件建物の明渡しを求める訴え(第2訴訟)を提起し、Xは売買契約の詐欺による取消しを抗弁として提出した。審理の結果、第2訴訟につきYの主張する詐欺の事実は認められないとしてY勝訴の判決が先に確定したが、その後、第1訴訟についてXの主張する詐欺が認められX勝訴の判決が言い渡された。第1訴訟のXの勝訴判決に対し、Yは上訴をし、Xの詐欺による取消しの主張は第2訴訟においてすでに排斥されており、本件建物がYの所有であることは確定していると主張したが、この主張は認められるであろうか。●参考判例●最判昭和44・6・24判時569号48頁最判昭和48・10・4判時724号33頁最判昭和55・7・3判時1014号69頁●解説●1 既判力の客観的範囲既判力の客観的範囲について定めた民事訴訟法114条1項によると、裁判所が下した判断であってもそれが判決理由中の判断にとどまる限りは既判力は生じない。法が判決理由中の判断に既判力を認めないこととした理由は、以下の点にある。第1に、当事者の手続保障の処理としては、現に当事者が判決による処理を求めた訴訟物たる権利・法律関係についての判断にのみ拘束力を認めれば必要十分だからである。第2に、判決理由中の判断の対象となる当事者の主張や証拠活動との関係においては判決理由なのであるからなおざりにするはずはない。このことからは、判決理由中の判断に既判力が生じないとすると、当事者は1つひとつの争点につき深く争わずあるいは積極的に自白をするといった自由かつ柔軟な訴訟活動を展開することができ、訴訟物に集中した柔軟な判断活動が可能になるからである。このことは、裁判所としても審理の省力・変更・消滅という実体法上の論理的順序にこだわらずに、訴訟物の判断を最も直接かつ簡便に導きうるような訴訟指揮をすることができようということを意味する。しかしながら、判決理由中でなされた判断とはいえ、前訴において一度は裁判所によって認定された事実が後訴との関係において何らの拘束力を有しないというのは、常識的にみても不自然であると同時に、紛争解決の一回性という訴訟の目的にも反する。しかも、当事者が前訴において判断の対象として一定の拘束力を生じさせざるべきではないか、といった問題意識が生じてくる。2 争点処理論上述のような問題意識に対し、法は、すでに係属中の訴えにおける訴訟物の前提となる先決的法律関係の確認を当該訴訟手続内で求める申立てを認めている(中間確認の訴え。145条)。本問においても、XなりYから第2訴訟係属中に、本件建物の所有権の存否の確認を求める中間確認の訴えが提起されていれば、建物の所有権の存否についてなされた裁判所の判断が第1訴訟に作用することから、本問のような事態は生じなかったといえるが、これはあくまでも当事者から中間確認の申立てがなされていた場合に限られる話である。そこで学説の中には、訴訟の趣旨に重要な意味をもつ先決的関係につき両当事者が真剣に争った場合には、選択的、予備的に争う場合を除き、中間確認の訴えの黙示の意思表示があったと扱って、先決的法律関係についてなされた判決理由中の判断に既判力を認めるべき、とする見解も唱えられている(坂原正夫「民事訴訟における既判力の研究」〔慶應義塾大学法学研究会・2000〕121頁以下参照)が、黙示の訴え提起という説明はいかにも技巧的にすぎるようである。他方で学説においては、判決理由中の判断についても何らかの拘束力を認めようとする考え方が模索され、その1つの代表的な見解として争点効理論が提唱された。争点効とは、前訴において当事者が主要な争点として争い、かつ裁判所がこれを審理して下した当該争点についての判断に生じる通用力で、同一の争点を主要な先決問題として争う後訴の審理において、①当事者がその判断に反する主張・立証を許さず、裁判所は自縛する効力を認め、②当事者がその判断を前提とすることを原則とする。理論による。争点効発生の要件は、①前訴請求と後訴請求の当事者の同一性、②前訴と後訴の主要な争点となった事項についての判断であること、③裁判所がその争点において実質的な判断をしたこと、④前訴と後訴の利益状況は同等である、⑤前訴の係争利益がその重大性において当事者が提出すること、の5つである。争点処理論がその正当性を真に備えた信頼の具体的内容としては、既判力の客観的範囲を限定した趣旨を維持しつつ、判例が掲げる手続上の公平の機会を保障するといった判例を前提に利用した以上、それに尽きる。この争点処理論に対する学説上の評価としては、実定法上の根拠を欠くにもかかわらず判決理由中の判断に拘束力を認めることについては問題がある、として消極的な見方も主張されてはいるが、今日ではこれを支持する見解のほうが多いといえる。もっとも、争点処理論に肯定的な見解も、争点効と訴訟物論との関係についての見直し、争点処理論を基礎としてその要件の定式化・具体化を追究する方向(適用要件説)と、信義則の具体適用の問題であるかを重視して信義則における正当な証拠の提出の効果を認める方向(信義則説)とに分かれる。他方、判例は、既判力およびこれに類似する効力(いわゆる争点効)を有するものではないと判示し、参考判例①から③にみられるいずれにおいても、理由を問くとに挙げることもなく争点処理論を明確に否定する。

『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年

ISBN978-4-7857-3092-5

既判力の客観的範囲
2025/09/03
AはBから甲土地を賃借していたところ、その後、BからY(Aの次女)への所有権移転登記がなされた。これよりしばらくしてAは死亡したので、Aの相続人であるX(Aの妻)は、Y(=Aの長女)とYを相手方として遺産分割の調停を申し立てたがこれは不調に終わった。そこで、XはYを相手どって、①甲土地についての所有権確認ならびに②移転登記手続を求めて訴え(前訴)を提起した。Xは、甲土地をBから買い受けたのはAではなくX1であると主張したが、Yは、甲土地をBから買い受けたのはX1ではなくAであり(理由付否認)、その後AからYに対し贈与がなされたので甲土地はYの所有物であると主張して争った。裁判所は、Bからこの土地を買い受けたのはAであると認定して、X1の請求を棄却したがこれが確定した(なお、裁判所は、CからAへの贈与の事実も認められないと判断した)。その後、遺産分割の調停が再び行われたが、Yが再度甲土地が自己の単独所有に固執したため、X2はX1とともにYを相手どって、①甲土地がAの遺産に属することの確認と、②おのおのの共有持分に応じた移転登記請求を求める訴え(後訴)を提起した。後訴のX1による請求に対し、前訴判決の既判力は及ぶか。●参考判例●最判平成9・3・14判時1600号89頁●解説●1 既判力の客観的範囲・所有権確認訴訟における訴訟物既判力の客観的範囲については、原則としてこれを判決主文に示された権利・法律関係の存否(訴訟物の存否)の判断に限定される(114条1項)。判決理由中の判断に拘束力を認める(訴訟物を基礎付ける前提となる権利関係や事実関係の存否)については既判力は生じないと解されている。ところで、後訴が前訴の判決理由中の判断に抵触するか否かが問題となるについては、前訴における訴訟物が何であったが重要なポイントとなってくる。すなわち、既判力が作用する場面として、前訴と後訴の訴訟物がどのような関係にある場合かが問題となってくるところ、これについては、①前訴と後訴の訴訟物が同一の場合、②同一訴訟物ではないが後訴請求が前訴請求と矛盾関係に立つ場合、③前訴の訴訟物が後訴の請求の先決問題となる場合、という3つの場合が挙げられる。土地の所有権確認訴訟においては、紛争解決の一回性の要請から、売買や相続といった所有権の取得原因ごとに訴訟物を捉えるのではなく、したがって既判力も所有権の存否の判断に生じると一般には解されている(これに対し、所有権の取得原因ごとに訴訟物を捉えるとすると、訴訟物は前訴の甲土地の所有権であり、後訴の訴-所有権に限定されることになる)。所有権の取得原因は訴訟物ではなく攻撃防御の方法たるにすぎないこととなり、「Bからこの土地を買い受けたのは広末である」、「亡AからYへの贈与の事実は認められない」といった判決理由中の判断には既判力は発生しない。したがって、X2が後訴で甲土地の広末に属することの確認を求める(後訴請求の①)ことは、前訴判決の既判力には抵触しない。2 所有権と共有持分権の関係所有権と共有持分権の関係については、共有者の有する権利は単独所有の権利と性質・内容を同じくするものであり、単にその分量・範囲に広狭の差があるにすぎず、全部、一部の関係にあると解されている。そのため、所有権確認訴訟において証拠調べの結果、原告と第三者との共有であることが判明した場合には、裁判所は(訴えの変更をまでもなく)共有持分権確認の判決を下すことになる。所有者の性質については、民法学においてさまざま議論があるが判例は所有権説を採用しており(最判昭和38・2・22民集17巻1号225頁など)、これを前提とすると、単独所有権と複数の共有持分権との関係も全部・一部の関係となろう。以上より、本問における後訴請求の②の訴訟物は移転登記請求権であるが、甲土地の共有持分権の取得を主張するものであることは明らかである。甲土地についてのX2の単独所有権を否定した前訴判決の既判力に抵触するのではないかとの問題が生じてくる(上述の既判力の作用③)。この問題につき、参考判例①は、所有権確認請求訴訟において請求棄却の判決が確定したときは、原告が訴訟の基準時において目的物の所有権を有しない旨の判断に既判力が生じるとして、基準時以前に生じていた所有権の一部である共有持分権の取得原因事実(相続)を後訴で主張することは、原告の確定判決の既判力に抵触する。との判断を下している。訴訟物の捉え方や意義や意義と共有持分権とをめぐってさまざまな理解からは、このような判断や結論は導きえないともいえる。しかしながら、前訴判決の既判力が後訴請求の②に作用するとなると、仮に、審理の結果、後訴裁判所が、甲土地は亡Aの遺産であるとの判断に至った場合には、甲土地が亡Aの遺産であるにもかかわらず、X1は同じ共同相続人であるYに対し自己の持分権を主張できなくなってしまうこととなり不都合な事態を招きかねない。この不都合な事態の処理としては、もともと、参考判例①の結論を前提として、その後の遺産分割の処理は図れるとする見解も存在するが、かかる不都合を解消する方途としては、所有権確認訴訟における訴訟物の捉え方について所有権の取得原因ごとに訴訟物を捉える見解や、共有持分は特定の原因の取得であることを前提としたものであり、共有持分権の取得方法も異なるなどとし、通常の所有権の取得方法とは異なることにもなるとして、後訴の請求には既判力は及ばないと解する見解も有力である(ジュリ688号(1976年)92頁、田中豊・判評420号(判時1476号(1994))201頁など)といったことなどが考えられる。参考判例①にも、前訴後の信義に反する相手方の行為(Yによる再度の単独所有の主張)前訴において予備的にでも相続による共有持分権の主張をしておくことに対する期待可能性の低さなどに鑑み、既判力に抵触する主張であっても例外的にこれを許容すべき場合があり得るとの反対意見が付されているが、これは上述のような不都合さに配慮したものといえる。3 既判力と矛盾の可能性訴訟物が前訴の客観的範囲を画することは一般的に認められているものの、これがまったくの例外を許さないテーゼかというとそうでもなく、基準時までに存在していた事実であっても前訴においてその提出がおよそ期待できなかったような場合には判決の遮断効は及ばない。とする見解が学説では有力に唱えられている(いわゆる失権効における既判力の縮小論。反対、鈴木正裕「既判力の遮断効(失権効)について」判タ678号(1988)4頁。中野(1)240頁)。参考判例①における反対意見も、このような考え方に親和性があるといえよう。また、さらに進めて、事実の提出の不都合だけでなく原告で問責されなかった法的観点についても既判力の縮小を認めうると解する見解も存在する。すなわち、法的観点の前訴的検討を怠って前訴を維持したことの問題点と、また、問題とすること期待することもできなかったため、その観点からする請求の当否をめぐっては、当事者に手続保障がなかったと認められる法的観点については既判力は及ばないとする見解や、あるいは、裁判所が法的観点における職務に違反してないか、といった観点、さらにその後の法的観点による判断は、判決の理由(ただし、審理した相手方と判決理由中の判断も、後訴原告が前訴において主張しなかったことにつき無過失であることまで要求する)を理解できる。このような考え方に依拠すると、本問においては、X2にとっては従前という法的観点と相続という法的観点の判断もまったく別のものであるところ、前訴の訴訟となった法的観点の後訴における前訴の矛盾を許さないとするが、しかし他方で、このような見解に対しては、前訴において訴訟の対象となる事実が提出されている以上、期待可能性がないとはいえないとする反対意見も存在する。4 さらに進めて本問のように、売買等を請求原因事実とする所有権確認請求が棄却された後に、あらためて相続を請求原因事実とする共有持分に関する訴えを提起しても、参考判例①に従うと、既判力によって遮断される可能性がある。そこで、前訴において相続の事実が認定し得るような場合においては、前訴裁判所は、相続を請求原因事実とする共有持分に関する訴えを後訴としてでも前訴判決の既判力に抵触するおそれがある旨を原告に対して釈明した上で一部認容すべきかどうかが判断すべきではないのか、といった疑問も生じ得る。参考判例①以後に登場した裁判例においては、そのような場合における前訴裁判所の釈明の必要性を説いており(最判平成9・7・17判時1614号72頁、最判平成12・4・7判時1713号50頁など)、参考判例①とセットで押さえておきたい。

『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年

ISBN978-4-7857-3092-5