訴訟告知
2025/09/03
債権者Xは債務者Zに対して貸金の返還を迫ったが、支払われないので、保証人Yを相手取って保証債務に基づく金銭請求をした。被告とされたYは、敗訴した場合の求償権を確保しようとZに訴訟告知をした。告知は、最初の口頭弁論期日においてXの訴状陳述、Yの答弁書陳述、次回期日を指定したという段階でなされたが、Zはこの訴訟に自ら参加してこなかった。その結果、Yの主張は認められず、Xの請求は認容され、Yの敗訴判決が確定した。その後Yは、Zに対して求償請求の訴えを提起した。この訴訟において、Zは主債務の存否を争うこと(XとZに消費貸借契約はないとの主張)ができるか。この場合、もしZとしては、借金したのは自分ではなくY自身であり、自分は仲介人にすぎない、訴訟告知があった当時も訴訟に参加する必要がないと考え、参加しなかったという事情があるとき、結論に違いはあるか。参考判例最判平14・1・22判時1776号67頁仙台高判昭55・1・28高民集33巻1号1頁解説1 意義と効果訴訟の係属中、当事者からその訴訟に参加できる第三者に対して、訴訟係属の事実を法定の方式によって通知することを、訴訟告知という(53条)。告知がなされる者(被告知者)は、補助参加(42条)できる者が典型であるが、それだけではない。共同訴訟参加(52条)をし得る者である。訴訟告知により、被告知者は訴訟に参加して自己の利益を守る機会を与えられ、告知者も被告知者の訴訟関与を期待できるが、現行制度の主な狙いは、告知者が敗訴後も日を待たないようにすることである(告知のための告知)。すなわち、告知を受けても当然に参加になるわけではなく、参加するかどうかは自由であるけれども、告知があると参加的効力が生ずるとされ、実際に参加しなくとも参加できたことに参加したこととみなされる(53条4項)。当事者(告知者)が敗訴すれば、第三者(被告知者)に損害賠償を請求できる見込みがあるとか、第三者から損害賠償の請求を受けるおそれがあるときに訴訟告知をしておけば、後日の第三者との訴訟で前訴の認定判断がなされることを防止できる。本問でも、Xはこれを狙ってZに訴訟告知をしたのである。しかし訴訟告知には、制度上のそれが残る。独立当事者参加できる者にも訴訟告知できるが、この場合は参加的効力は考えておらず、告知をなし得る範囲より参加的効力が及ぶ範囲は狭い。2 訴訟告知による参加的効力現在の多数説は、訴訟告知により参加的効力が生ずるのは、告知者と被告知者との間に告知を直接の原因として求償関係または賠償関係が成立するような実体法関係がある場合に限定する。このような実体関係がある場合には、被告知者がそれを見越して告知者に協力することが期待されるからである。したがって本問に示した保証人による主債務者への告知が典型である。逆に主債務者が被告である場合には、保証人も補助参加できるのであるからこれに訴訟告知はできるが、保証人は主債務者に協力すべきものでもないから訴訟告知による参加的効力は生じない(もっとも主債務者から保証人への訴訟告知が原因となる)。さらに、訴訟告知の告知を理由として専ら告知者の利益保護の制度と理解する前提に立つのは、反省も生じている。とくに告知者と被告知者が全面的に一致しないケースでは、被告知者が告知者側に補助参加して告知者(被参加人)と抵触する行為ができないので(45条2項)、被告知者(参加人)の利益保護として十分でなく、かといって両手続に補助参加することを無限定に期待できるものでもなく、告知を受けた第三者としては補助参加しないまままさに終わる場合もあり得る。このような場合に訴訟告知を受けたからといって、それだけで判決の効力を及ぼすのは、被告知者の主張を封じるあまりにも被告知者の立場を軽視している。そこで、訴訟告知による効力が及ぶための要件および範囲を厳格に解する必要が認識されるようになっている。3 拘束力の捉え方―主観的範囲と客観的範囲の限定この拘束力を、参考判例①は参加的効力であるとみる。Aの相続人Bによると、もともとAの所有権についてのCに対する移転登記抹消請求訴訟で、Cが「Aは代理人Dとの間で売買があった」と主張したため、甲がDに「代理権はなかった」と主張し、丙に訴訟告知した事案である。このとき、可能性としては丙は当事者のどちらにも補助参加の利益があったが(どちらから訴訟告知を受け得る)、代理人はCに免責が一切関与していないとして甲に参加したのではなく、実際には「代理権はあった」として乙に参加した。その後、「代理権の存在は確定できないが、表見代理にあたる」との甲の敗訴判決が出た。そこで甲が丙に、丙の無権代理行為により所有権を喪失したと、損害賠償請求を提起した。このように現実の訴訟告知による訴訟では、単なる訴訟告知による効力でなく補助参加の効力(呼ばれたことでなく実際に出てきたこと)を考えるべきである。すると、この効力は、参加人丙と被参加人乙(告知書面でなく)の間に生じ、「代理権の存在は確定できない」との判断に及ぶようにみえる。参考判例①は、「代理権はなかった」と主張し、甲の申出の根拠を裏付ける主張をしなかった。そしてその結果「代理権はなかった」との主張は「代理権はなかった」との判断は表見代理が成立するという判断の前歴は「代理権はなかった」でも「主張は認められなかった」でも、Cの主張は前訴における当事者の主張・立証代理でも乙の主張を受けたいとの程度であったと考えられるので、学説は拘束力を認めるべきこの反動か、参考判例①は逆に訴訟告知の効力を肯定した。甲側からの乙に対する代金支払請求訴訟で、乙が「本件商品の買い主は丙である」と主張したが、甲丙に訴訟告知したが、丙は参加しなかったというものである。この訴訟で請求棄却判決が確定し、その理由中に「本件商品の買い主は丙である」とされ、甲は丙に代金請求の訴えを提起した。参考判例①は、告知者の告知が参加利益を有する場合にのみ及ぶところ、参加利益は判決効が参加者の私法上、公法上の法的地位または法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合に認められるとした上で、甲・乙訴訟の結果により丙の代金支払義務が免ぜられる関係にはないため、丙の参加的利益はなく甲・乙訴訟の判決の効力は及ばないとした。参加的効力の客観的範囲については、最判昭45・10・22(民集24巻11号1583頁)[→問題68]を引用し、参加的効力が判決の主文の判断および主要事実に係る口頭弁論の判断に及ぶとした上で、「本件商品の買い主は丙である」旨の甲・乙判決の記載はこれに当たらず、参加的効力は発生しないとした。参考判例①に対しては、学説の反対が多い。まず、契約当事者が乙か丙かという択一的関係から甲が乙に敗訴すれば丙は買い主と認定されて補助参加の利益を肯定する説がある。また、甲・丙間に訴訟追行上の協力を期待する関係があるとして補助参加の利益を肯定する説もあり、少なくとも「本件商品の主は乙ではない」との判・訴訟の判断に協力を求め、丙・訴訟にも共同して行うべきである。4 制度運用の問題点判例を読解する中で、学説では訴訟告知制度の運用のあり方についても検討を深めていった。訴訟告知は、被告知者が実際に参加する利益だけでなく必要がなくても、しかも訴訟告知が現実に参加しても十分な主張・立証を尽くすことが期待できない場合に対処となるべきである。告知をするタイミングは、判決言渡し時までにいつでも学説があるが、この点は問題ない。また実務では、訴訟告知の申出があったとき、裁判所が参加の利益・訴訟告知の適法性につき深く検討することなく、訴訟告知をさせているようである。ただし、本問の後半のような被告知者の置かれた立場の現場は考慮すべきである。被告知者Zはどちらの側に参加しても、主債務者はYではない自分は仲介者という主張が主たる争点(被参加人)の主張と抵触して訴訟上の効力は生じない(45条2項)。ZがYに補助参加して上記の主張をしてもその主張が効力を生ぜず、最新ではZは自分は主債務者でないと主張できるので(民事訴訟法45条の除外例に当たり参加的効力が及ばない)[→問題68]、その意味で補助参加の効力はある。けれどもそれが目的で行わざるを得ず、補助参加を受けて告知者が補助参加(独立当事者参加)申立てをしても、後者の告知について見(訴訟告知に拘束ない訴訟関与の意思あり)を述べ、後の拘束力が及ばないことを明らかにする手続が必要である、とする学説がある。このようにみてくると、本問でZが主債務者であることが前提にされ、認定されていたとしても、Zは自分が主債務者でないと考えている本問後半のような場合、誰が主債務者であるかについて十分争われたかが問題となる。これはZ固有の言い分である以上、主要な争点を形成したとは言えにくく、Zとしてもこちらに補助参加してもうまくいかない事情があるので、結論として訴訟告知による拘束力はなく、あらためて自分は主債務者でないとの主張ができると解するのが妥当であろう。参考文献井上治典『実践民事訴訟法』(有斐閣・2002)201頁/重点講義民訴477頁/松井・百選206頁(安西明子)
『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年
ISBN978-4-7857-3092-5
参加的効力
2025/09/03
あるビルの1室につき、X・Y間に賃貸借契約が成立した。借主Yは、本件建物は貸主Xが所有するものと信じ、Xから本件貸室を賃借していたところ、A社がYを被告として、本件建物の所有権はA社に属すると主張して、本件貸室の明渡しと賃料相当損害金の支払を求めて訴えを提起してきた。Yは、本件建物についてのA所有権を否認し、本件建物はXが所有するものであり、YはXから本件貸室部分を賃借している旨答弁した。Yからこの訴訟について連絡を受けたXは、第2回期日に補助参加の申出をし、以後、本件建物はXの所有であることを主張してYの勝訴のために訴訟行為をした。しかし結果は、本件建物は賃貸当時からAの所有に属するとの判断がなされ、Y側の全面敗訴に終わった。控訴、上告がなされたが、Y側の主張は認められずY側が敗訴し、判決が確定した。にもかかわらず、その後Xは、あらためてAとの間で賃貸借契約を結んだYを被告として、ビルの所有権は終始Xにあることを主張して、X・Y賃貸借契約に基づく賃料と賃料相当損害金の支払を求める訴えを提起した。YはY・A判決の効力によりXの請求は認められないと主張できるか。参考判例最判昭45・10・22民集24巻11号1583頁解説1 補助参加人に対する判決の効力補助参加がなされた訴訟で下された判決は、その訴訟の当事者に効力が及ぶのはもちろん(既判力につき115条1項1号)、一定の要件の下で、補助参加人にも効力が及ぶ(46条)。これは、補助参加として十分に主張・立証を尽くした、あるいは尽くすことが期待できた事項については、補助参加人は自己を当事者とする第2の訴訟で補助参加訴訟で下された判断内容ををもはや争うことができないという趣旨である。そこで本問でも、Yに補助参加したXは、Y側が敗訴した責任をYとともに負い、補助参加した訴訟での判断に拘束されることになる。この判決の効力の性質については諸説がある。かつては判例・学説ともにこれを既判力ととらえる時期があったが、後述のとおり、既判力とは異質の補助参加訴訟に特殊な効力とするのが今日の通説であり、参考判例①もそうした。この効力、すなわち「参加的効力」は、参加人が参加しておきながら訴訟を追行した以上、敗訴の責任を公平に分担すべきであるという禁反言の原則により根拠付けられる。2 補助参加人の地位とその訴訟行為の制限補助参加の効力が生じるには、その前提として十分に訴訟において主張・立証の機会が保障されていなければならない。そこで補助参加人が十分に訴訟行為をすることができなかった場合、補助参加訴訟で敗訴はすでに悪かったり、被参加人の訴訟行為と抵触するなどしたときには参加的効力は生じない(46条)。ここで、補助参加人の地位について確認しておこう。補助参加人は、被参加人を勝訴させることにより自身の利益を守るため、補助参加人の代理人でも補佐人でもなく独自の補助者でもなく、独自に権能をもって訴訟に関与できる。従たる当事者といわれるように当事者に近い側面をもち、攻撃防御方法の提出、異議の申立て、上訴の提起、その他被参加人を勝訴させるに必要な一切の訴訟行為ができる(45条1項)。期日の呼出や訴訟書類の送達も当事者とは別にされなければならない。一方、補助参加人は他人間に係属している訴訟を前提とし、これに付着して訴訟を追行する者であり、自身の請求を持ち込むのではないから、本来の当事者に対して従属的な側面をもつ。まず、参加時までの訴訟状態に従って、被参加人がすでになし得なくなった行為はできない(45条1項ただし書)。例えば、時機に後れた攻撃防御方法の提出、自白の撤回、期権を放棄喪失した行為に対する異議などは、他人間の訴訟を前提に、これに事後的に介入を許すものとして許されない。次に、参加人の訴訟行為と被参加人の訴訟行為とが矛盾抵触するときは、参加人の訴訟行為はその限りで効力を生じない(45条2項)。したがって被参加人が自白していることを補助参加人が争っても否認の効果を生じない。さらに、補助参加人は他人間訴訟を前提として、それに付着して訴訟行為を行う存在であるから、訴訟そのものを発生させたり、変更消滅させる行為はできない。訴えの取下げや請求の変更、反訴の提起、訴訟上の和解、上訴権の放棄などがこれに当たる。もっとも、以上のような補助参加人の独立性と従属性との限界、境界線については、補助参加の機能の捉え方とも関連して、議論が分かれる。3 参加的効力の範囲参加的効力は既判力と異なる補助参加に特殊な効力と捉えられているが、その具体的差異は、①民事訴訟法46条所定の除外例が認められているように具体的事情によっては効力が左右されること、②判決効の存在は職権調査事項でなく当事者の援用を待つことが原則、③判決主文の判断のみならず理由中の判断にも及ぶこと、④被参加人敗訴の場合にのみ問題となり、被参加人・参加人間にしか及ばないことが挙げられている。まず客観的範囲(③)として、既判力とは異なり、判決理由中の事実認定や先決的法律関係についての判断にも効力が及ぶ。本問でいうと、訴訟物たるAのYに対する本件貸室の明渡請求権と賃料相当損害金支払請求権が既判力の及ぶ部分であるが、これの存否につき拘束力を認めたものでも、Xには届くも及ばない。本件建物がAの所有であるという理由中の判断にこそ拘束力を認める意味があるのであり、参考判例①も、X・Y間では本件建物の所有権が上記賃貸借当時にXに属していなかったとの判断に及ぶべきとしている。したがって、YはY・A判決の効力によりXの請求は認められないと主張できることになる。ただし、当事者でさえ効力を受けないとされる理由中の判断に補助参加人を拘束する根拠として、自己に属する請求が当面は審判対象とされていない補助参加人としての立場も当事者と区別すべき事項で、かつ参加訴訟で主張上の一切の制約がなく、将来に向けても効力を認めることで公平な場合等々である必要がある。これを本問でみると、本件建物所有権は、勝敗を決する重要争点であるとともにXにとり重大な利害関与を有する事項で、参加の利益の段階から十分に主張・立証の機会が付与されているところ、参考判例①でも実際、XはYの訴追行為を妨げた事実がみられた。これらところに拘束力を及ぼしてもよいとしている。次に主観的範囲の問題(④)として、通常にいわれる補助参加訴訟、被参加人及び参加人・相手方間では及ばない。したがって例えば、債務者と保証人間の保証債務請求訴訟で主債務者が被告保証人に参加し主債務の不存在を主張したが敗訴した場合、主債務者は、後日保証人から求償請求を受けたときにはもはや主債務の存在を争うことができないのに対し、債権者から主債務請求の訴えを提起されたときは、主債務者は補助参加訴訟の判決は不当として主債務の存在を争えることになる。A間では差し当たりX・Yの敗訴訴訟で補助参加の拘束力が前記のとおり生じれば足りるが、もし後日XがAに対して本件建物の所有権確認訴訟を提起してきたときに、問題が生じる。そこで同時、補助参加訴訟の判決の基準はA・X・Yの三者により固定され、XとA、YとAとの間で主張・立証を尽くす機会が十分保障されたことを根拠として、A・X間でも一定の場合に拘束力を及ぼす場合性も必要性があるとの考え方が示されている(新堂・前掲227頁、重点講義民訴463頁など)。4 参加的効力の判断力以上のとおり、通説・参考判例①は、補助参加訴訟の既判力の拡張力説と異質の差異を強調しているものの、この参加的効力のいう既判力との異質性が果たしてどこまで妥当するのかには疑問が向けられている(井上・後掲381頁)。まず参加的効力の性質につき、既判力は公権的な紛争解決として紛争の蒸し返しを許さない法的安定の思想に由来するのに対し、参加人と被参加人の訴訟追行上の責任分担という公平の見地に由来するといわれる。しかし蒸し返しの禁止という効力の現れ方は既判力と同じであり、主観的範囲についても前述のとおり相手方に対する効力が論じられるようになっている(前述3④)。さらに拘束力の除外例を認める点(3①)も、既判力にも具体的事情を一切考慮せずに画一的に及ぼされるべきでないことが明らかにされているようになっている。当事者の手続保障を前提に論じられることは両者共通と認識されている。また既判力をめぐる議論では、先決的法律関係や請求権の法的性質決定などの理由中の判断についての拘束力も議論されている(→問題9)。この傾向は、既判力そのものを当事者間の実質的公平に支えられた効力、当事者の手続保障を前提にした効力とみて、むしろ参加的効力として説かれている性格および内容のものが、判決効一般に通じる普遍性をもち、既判力の原型であると解しているのである。参考文献井上治典『多数当事者訴訟の法理』(弘文堂・1981)376頁/新堂幸司『訴訟物と争点効』(有斐閣・1988)227頁/伊藤眞=百選204頁(安西明子)
『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年
ISBN978-4-7857-3092-5
補助参加の利益
2025/09/03
航空機事故で死亡したAの遺族Xは、航空会社Yを相手方に損害賠償請求の訴えを提起した。この訴訟において機体の構造的欠陥が問題となっているとき、機体の製造会社Zはこの訴訟に参加できるか。同じ事故で死亡したDの遺族Eは、この訴訟に参加できるか。参考判例最判平13・1・30民集55巻1号55頁最決平13・2・22判時1745号144頁最判昭51・3・30判時814号112頁解説1 補助参加制度の趣旨補助参加とは、他人間に係属中の訴訟の結果について利害関係を有する第三者(補助参加人)が、当事者の一方(被参加人)を勝訴させることによって自己の利益を守るために訴訟に参加する形態である。補助参加人は、自らの利益を守るために自らの名と費用で訴訟を追行するが、相手方との間に自己の請求を勝ち負けで審判を求める者ではない。例えば債権者が保証人を訴えた訴訟で、被告保証人から主債務者が補助参加するという典型例でいえば、この訴訟の請求の当否は保証債務に関する請求であるが、訴訟物たる保証債務は主債務の存在を前提とする。そこでは、主債務の存否が補助参加の利益を判断する前提問題になっており、訴訟物は保証債務の存否である。主債務者は被告保証人に対する求償権の確保を考えて、訴訟に参加するのである。しかし主債務者は被告保証人を通じて求償を受けるにすぎず、原告債権者から直接求償請求を受けるわけではない。このように被告保証人の勝訴は主債務者にも有利であり、被告保証人から補助参加の申出がなされた場合を念頭におき、被告保証人の勝訴は主債務者に意味がある。2 補助参加の要件―補助参加の利益補助参加するには、他人に係属中の訴訟でなくてはならず(ただし、上告審でもよい)、判決確定後でも参加申出とともに再審の訴えを提起して訴訟を再開させることができる。43条2項・55条1項1号)、何より、参加を申し出る者が補助参加の利益をもたなければならない。ただし、これは当事者(参加を申し出る側でない相手方)から異議が出た場合に問題となるが、参加申出の趣旨および理由を書面または口頭で明らかにし(43条1項)、これに対して当事者の異議があれば、参加理由(補助参加の利益)があるかどうかが決定で下される。補助参加の利益の要件は、条文上「訴訟の結果について利害関係を有すること」(42条)と表現される。この利害関係は、単なる感情的な理由や事実上の利害関係では足りない。当事者の一方と親友であるとか、訴訟を提起されて店の客足が減る少なくなるだろうとか、扶養を受け地位が設定されるという理由も、それだけでは参加の利益としては十分とされる。また第三者利益の効力が及ぶことは、必要条件でも十分条件でもない。前述1のとおり、判決効が及ばなくとも主債務者は保証債務請求訴訟に補助参加が認められる。判決効が参加者に及ぶ場合、すなわち株主代表訴訟(商84条)で被告が敗訴した場合に(同一の株主が提訴した訴訟へは非訟参加が認められる。非訟参加は訴訟に参加できないので)、共同訴訟的補助参加(52条)ができる。これをしないとき補助参加も認められるが、これは民事訴訟法45条2項の解釈によるものであり、共同訴訟的補助参加と呼ばれる。したがって、通常の補助参加は判決効が及ばない場合に認められる。逆に判決効が参加者に及ぶ場合であっても、当該訴訟に参加を認められない(判例、当事者から目録を再所有する資格に関する訴訟。同訴訟42条・115条1項2号)。学説からは、補助参加の利益を認める者もある。3 補助参加の利益に関する判例・学説の展開いかなる場合に補助参加の利益が認められるかは微妙で難しい問題である。判例・学説一名利でない。かつての有力説は、「訴訟の結果」を判決主文と捉え、訴訟物についての判断と参加人の地位との関係を要求してきた。訴訟たる保証人に対する請求への主債務者の参加という典型例では、訴訟物の存否そのものが補助参加の利益を左右するものであり主債務の求償義務に貢献する。逆に主債務者に対する請求で保証人が補助参加するほか、買主が売買目的物の瑕疵等を理由に提供された場合の売主が補助参加する場合でも、売主が製造業者に対して求償関係がある。この方式に当てはまる。これが「判決の結果」を判決理由中の判断にまで広げたのが判例・通説(理由中判断説)である。これでは補助参加の範囲が限定的な狭い。そこで、参加の利益を実質的にみて、訴訟の前提をなす法律関係について利害関係の有無で判定する最近の有力説がある(多数当事者訴訟の研究[改訂]弘文堂・1981)65頁、81頁)。判例は、補助参加が許されるのは申出人が訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合に限られ、法律上の利害関係を有する場合とは当該訴訟の判決が参加申出人の私法上または公法上の法的地位に影響を及ぼすおそれがある場合をいう、と表現している。ただし、それが訴訟に関する利害関係かいかに相互に関連がないのかについては必ずしも明確でなく、「訴訟につい利害関係」を法律上の利害関係と解し、かつ参加申出人の私法上または公法上の地位に影響を及ぼすおそれがある場合に限られないとして申出を却下した原決定を破棄し差し戻した(前述最判平13・1・30)。その程度を検討した上でその許否を決すべきものと解されており、より具体的実質的に参加利益を検討した裁判例が注目される(東京高決平2・1・16判タ754号220頁)。参考判例③も、訴訟告知における会社の取締役への補助参加につき、訴訟の前提となる取締役会の決議の無効が会社の各期の計算等、ひいては会社の信用に影響するとして補助参加の利益を肯定している。この場合の規約をされるとその後に設定された会社法849条1項により、株主代表訴訟における会社の取締役の補助参加も同様に認められた。参考判例②も、一見無関係に見えそうでありながら、それよりも広く求償の密接関連も視野に入れて柔軟に参加利益を認めた判例と評されている。このような流れを踏まえ、本問では補助参加の利益が問題となる典型例を設例とした。まず第1類型は、被参加者が敗訴すれば補助参加申出人が求償、損害賠償、その他一定の法源を提起される関係にある場合である。第2類型は、当事者の一方と同様の地位、境遇にある者が補助参加を申し出る場合である。本問のY・Zには、事故原因が機体の構造的欠陥にあるとの理由でYが敗訴すると、後にYがB・Cに求償できるという意味で、第1類型に当たる(参考判例①〜③もここに含まれる)。本問のEは第2類型である。第1類型は伝統的に補助参加の利益が認められてきた類型とされる。第2類型はかっては参加利益を否定されてきたが、近時の有力説によれば、当事者の一方の敗訴により訴えられるおそれがあり、第2の訴訟で前訴判決の理由中の判断が事実上の拘束を及ぼし、第三者に不利益な認定判断がなされる蓋然性があれば、補助参加が認められる。下級審判例にも肯定例がある。ただし、このように類型に分けたは、それだけが補助参加の利益が認められるわけでもなく、これらに当てはまらなくとも参加利益を肯定した裁判例もある(所在不明の夫を被告とする金銭請求訴訟に妻の参加を許した名古屋高決昭43・9・30高民集21巻4号460頁)。このように、参加要件についての基本的考え方として、統一的基準を立ててそこから演繹的に個別ケースでの参加の許否を導き出すという手法も、単なる類型化も、具体的な事件における多様な第三者の利害状況に対応できない。現在の有力説は、訴えの利益と同様に、補助参加の利益を判断するのに、紛争の性格や事件の流れなどの個別事件の具体的状況を考慮する(井上・前掲69頁、重点講義民訴434頁)。4 補助参加の利益の判断―本問についてそこで、本問を用いて具体的に検討してみよう。前述のとおり、本問のB・Cは第1類型にあたり、一般的には補助参加の利益が肯定されよう。けれども、この訴訟でのパイロットの操縦ミスが問われているときには、機体製造者などには参加の利益はない(井上治典『実践民事訴訟法』(有斐閣・2002)198頁。山本・前掲257頁もそのような事実の認定を求めて参加してくるものにはより慎重になるべきとする)。本問のEは、このように参加を一般的に認めると対抗が効かなくなるなどの懸念から参加利益が否定されてきたと思われるが、主要な争点を共通にする場合には参加を認める説がある(新堂813頁、山本・後掲259頁)。このような参加要件の弾力化を前提として、判決の結果によっていかなる不利益を受けるかという観点よりも、具体的事情において第三者に自己の立場から主張・立証の保障をすべきかどうかという過程志向の必要を説く立場も現れた(井上治典『民事手続の実践と理論』(信山社・2003)167頁。十分な主張・立証が期待できるとして訴訟告知を受けていた者の補助参加を認めた大阪高決平12・5・11金法162巻62号21頁も参照)。この立場はそもそも後段の可能性を問題とせず、その訴訟における補助参加人の攻撃防御の利益を直視する。したがって本問で、訴訟物・訴訟の帰趨の展開や訴訟手続の中での経緯から、Bが製造した機体の構造上の欠陥かX・Yのいずれかにより主張されているか、主張されることが確実に送られる場合には、Bの参加が認められる。YがXに敗訴すれば将来Bはどうなるかという判決結果をもたらす法律関係よりも、X・Y間の訴訟での主張した機体の構造が事故原因となっているかどうかが問題となっているのに、肝心のBにその点について自ら裁判を尽くす機会を与えないでよいかという、手続保障そのものが問題とされる(井上・前掲『民事手続の実践と理論』191頁)。Eに関しても、Xと共通して機体の構造につき主張・立証を展開していこうとしているならば(主観的追加的併合を認めない実務[→問題9]を考慮に加え)、補助参加を認めることになろう。機体の構造が問題となっている訴訟状況では、同一事故の被害者でなくとも、同一構造の機体で同様の事故にあった被害者にも、主張・立証の機会を与えるために補助参加が認められる可能性がある。参考文献山本和彦『補助参加の利益」長谷部由起子=山本弘=笠井正俊編著『基礎演習民事訴訟法〔第3版〕』(弘文堂・2018)263頁(安西明子)
『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年
ISBN978-4-7857-3092-5
類似必要的共同訴訟
2025/09/03
A県は,宗教法人B神社の挙行した例大祭に9回にわたり車騎する玉串料を公金から支出したので,A県の住民X₁~X₃が「政教分離を規定した憲法20条3項などに違反する」として,上記支出相当額の損害賠償の請求をすることをA県知事に対して求める住民訴訟を提起した。その後,A県住民X₄~X₆も,同様の主張をして玉串料の支出相当額の損害賠償を求める住民訴訟を提起した。この訴訟はX₁らの訴訟と別の手続として進行させておいた。X₁らの訴訟とX₄らの訴訟が併合されず,訴訟手続が1つとなった場合,その後X₁が死亡したとすると,訴訟手続はどのような影響を受けるか。第1審はX₁らの請求を認容したが,控訴審はそれを取り消し,請求を棄却した。X₂らは上告したが,X₃のみ上告しなかった。またその後のX₂は上告を取り下げた。X₃抜きの上告,X₂の上告の取り下げは適法か。適法としては上告の利益の帰属などはそれぞれ,なお,なお上告人,X₂とX₃はそれぞれ,なお上告人の地位にとどまるか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 58・4・1 民集 37 巻 3 号 201 頁② 最判平成 9・4・2 民集 51 巻 4 号 1673 頁③ 最判平成 12・7・7 民集 54 巻 6 号 1767 頁[⚫] 解説 [⚫]1 類似必要的共同訴訟共同訴訟 (訴えの主観的併合) には各共同訴訟人 (共同原告,共同被告) につき判決がまちまちになってかまわない「通常共同訴訟」と,判決が合一に確定されることが要請される「必要的共同訴訟」に分けられる。後者のうち,共同で訴えまたは訴えられる必要はないが,そうなった場合は当事者間で合一的に解決されなければならない類型が,「類似必要的共同訴訟」である [必要的共同訴訟のうち,「固有的必要的共同訴訟」とその複合につき→問題63-64]。合一確定とは,同一人に対する判決効の効力の矛盾を避けなければならない法律的要請のある場合を指す。例えば,それは共同訴訟人の1人のみ受けた判決の効力が他の共同訴訟人にも及ぶ場合を指すとする。例えば数人の株主が提起する株主総会決議無効確認または取消しの訴え (会社 830 条・831 条),数人の株主による責任追及訴訟 (同法 847 条) 等がこれに属する。また反対効が生じる場合とされる数人の債権者の債権者代位に基づく訴訟 (民 423 条),数人の債権者の詐害行為取消訴訟 (民執 157 条 1 項),設備の訴訟 (地方自治法 242 条の 2 第 1 項 9 号) も類似必要的共同訴訟とされる。このような場合,ある住民との関係では違法な支出であると損害賠償の必要があるが,他の者との関係ではそうでないといったように,各共同訴訟人について勝敗をバラバラに決めてよいとする。各共同訴訟人自身が自己のつけた判決の効力と他の共同訴訟人に対する判決効から拡張される効力が矛盾衝突して収拾がつかなくなるからである。したがって,請求同一の理論による主張はもちろんのこと,そもそも異なる請求ができないとか (請求の数→複数の被害者への慰謝料請求),対立した利益の調整が必要というべき場合 (数人に対して特定物の引渡請求) があるわけでなく,類似必要的共同訴訟は判決効から論理必然的に要請されるものではないが,各共同訴訟人の訴訟上の利益を制限してでも一律的な解決をもたらさなければならないと考えるからである。以上みたように,本問の住民訴訟は参考判例①~③においても,類似必要的共同訴訟と解されている。X₁ らが欠けていても,X₄ らの訴訟は提起できる(他の住民と一様に訴える訴訟共同の必要はない)。また通常の類似必要的共同訴訟人と異なるので可能であるが,住民訴訟では,いったんX₁らの訴訟が提起された以上はX₄の別訴は許されず,当該地方公共団体の他の住民は当該訴訟を承継して同一請求をすることはできない旨の規定がある (地方自治法 242 条の 2 第 4 項)。2 必要共同訴訟に関する審判合一確定の要請が働く必要的共同訴訟では,通常共同訴訟における訴訟人独立の原則 [→問題63] を修正し,共同訴訟人間に関連を認めて訴訟資料の統一と訴訟遂行の統一を図る必要がある。民事訴訟法 40 条がこれを定めている。まず,共同訴訟人の1人がした有利な行為は全員のために効力を生じるが,不利な行為は全員そろってしない限り効力を生じない (40 条 1 項)。したがって1人でも相手方の主張を争えば全員が争ったことになるが,1人のした自白や請求の放棄・認諾は効力を生じず,固有的必要的共同訴訟の場合には共同でしなければならないが,類似必要的共同訴訟の場合には単独でできる (本問での上告の取下げが問題となる)。また相手方の訴訟行為は,相手の求めため,1人に対してなされても全員に対して効力を生じる (40 条 2 項)。共同訴訟人の1人について手続の中断または中止の原因があるときは,全員について訴訟の進行が停止する (同条3項)。弁論の分離は一部判決を認められず,判決の確定も全員について同時でなければならない。通常の訴訟であれば,X₁ が死亡すると,X₂,X₃ に訴訟代理人がいない限り,X₂ の相続人が訴訟手続を受継するまで手続は中断することになる (124 条) [当事者の死亡による中断と受継につき→問題72]。ただし住民訴訟では,原告の一人が死亡しその者に訴訟代理人がいない場合,他の共同原告が全員のために訴訟を追行するので,訴訟手続は中断しない。X₁ 以外の全体の訴訟は進行していくことになる (最判昭和 55・2・22 判時 962 号 50 頁)。3 共同訴訟人の一部による上訴上訴については諸説があるところ,1人が上訴すれば,全員に対して判決の確定が遮断され,全訴訟が移審し,共同訴訟人全員が上訴人の地位につくと解されている。このことから類似必要的共同訴訟においても,かつて参考判例③は,第1審の原告のうち,現に控訴した者だけを控訴人として表示し,自ら控訴しなかったが控訴審判決をなしえないとした原審判決を,第1審原告全員の利益を却下とすべきであったとして違法とした。しかし非上訴審での共同訴訟人は負担を伴い,一概に他の共同訴訟人に委ねられるものではない。上訴するかどうかは各共同訴訟人の自由な選択に委ねられるべきものであるとのである。そこで学説において,上訴しなかった者の上訴人の地位については現実には上訴した者に限られ,訴訟追行の権限は有するが上訴人としての見解も有力に主張されていた (民訴・1981, 204 頁)。参考判例①においても,上訴人は上告人から意思を表明した上訴人の地位につかないとする。本件裁判の反対意見もある。その後,本問に用いた参考判例②は,非共同訴訟人の1人が上告を取り下げた事案で,共同訴訟人の1人が上告すれば,上訴をしなかった共同訴訟人に対する原判決も確定遮断は生じるが,上告をしなかった者は上告人にはならないと判示し,参考判例①と変更した。続いて参考判例③は,株主代表訴訟につき,上告をしなかった共同原告は上告人にならないとした。したがって本問でも,X₃抜きでX₂らも許され,上告をしなかった X₃ は上告人にならないと考えられる (参考判例③)。上告をしなかった者が上告人と扱わないとすると,上告に関する訴訟費用の負担を負わない,期日呼出状等の送達が不要になる,上告の取下げは上訴人のみで可能である。上訴しなかった者に生じた中断・中止事由を考慮する必要がないなどの利点がある。本問の X₂ も 1 人で上告を取り下げることができ,上告審判決の名宛人となる。4 残された問題自ら上訴しなかった共同訴訟人は上訴人とは扱われないとしても,なお次の2つの問題がある。第1に,この考え方は,個々の住民や株主の個別的利益が直接問題とならない住民訴訟や株主代表訴訟 (参考判例①①②③) にのみ妥当する例外的扱いとして規定すべきか。参考判例②は,合一確定のためには控訴制度の上訴をすれば足り,住民訴訟と異なり,当事者間に利害の対立が生じ,控訴制度が複雑になることを挙げている。度で上訴の効力を生ずれば足る,住民訴訟の性質に鑑みると公益代表者とみるべきである。住民訴訟では共同訴訟人間の減少こそその審理の範囲,審理の態様・判決の効力等に何ら影響はない,という点を根拠にしている。つまり住民訴様や株主代表訴訟では,請求は本来,地方自治体ないし会社のものであり,個々の原告により請求内容が異なるわけでないから,請求は1個と観念することもできる。原告の数が減少しても審判範囲や審理態様等には影響がない,ということであろう。参考判例③も同様に,このような株主代表訴訟の性質を挙げるので,判例の射程はこれらに限定され,私益性の高い債権者代位訴訟が複数の債権者により提起された場合等には及ばないとみられている。一方,学説には,類似必要的共同訴訟一般を対象とするものが多く,さらに簡潔に有力説は必要的共同訴訟全般を視野に収めている。この問題は次の点にもつながる。第2に,このような訴訟で,上訴しない共同訴訟人の地位はどのようなものと考えられるか。参考判例①の木下反対意見は上告しなかった者は脱退し,ただ判決の効力だけを受けるだけの地位となると論じたにとどまり,参考判例②③は,この者がいかなる立場につくか明確にしていない。けれども,上訴している途中の訴訟に移審して確定未確定残存しているとみるみる限り,上訴審は上訴しなかった者の請求をどのように扱えばよいかが問題となる。共同訴訟人は上訴しない者は最終的には上訴した者に自己の請求について訴訟追行を委ねたもの (手続法上の訴訟担当) とみており,1つの理論上の指針となろう。もっとも,最近,類似必要的共同訴訟と解される養子縁組無効確認訴訟において,共同原告の1人の上訴により他の共同被告にも上告となることを前提とする判例が現れている (最決平成 23・2・17 判時 2120 号 6 頁)。[⚫] 参考文献 [⚫]伊藤眞・平成9年度重要判例 (1998) 129 頁/高橋宏志・私法判例リマークス 23 号 (2001) 116 頁/井上治典「多数当事者の訴訟」(信山社・1992) 94 頁(安西明子)
『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年
ISBN978-4-7857-3092-5
固有的必要的共同訴訟の成否
2025/09/03
XはYに対し,Y名義で登記されている土地について,それが訴外Aの遺産であることの確認および当該土地の自己の持分の所有権移転登記手続を求めて訴えを提起した。AにはXとYの他に,その死亡によりAのYとAの子らX,B,Cが相続人となったこと,Xの主張によれば,本件土地はAに渡り残されたものだが,便宜上Y名義の所有権移転登記がされていたのであり,本来はAの遺産に属するからXも法定相続分に応じた持分権を有する,という。この場合,XはYを被告として本件土地の遺産確認の訴えを提起することができるか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判平成元・3・28 民集 43 巻 3 号 167 頁② 最判昭和 61・3・13 民集 40 巻 2 号 389 頁③ 最判平成 26・2・14 民集 68 巻 2 号 113 頁[⚫] 解説 [⚫](1) 遺産確認の訴え本問では,遺産に関するXの訴えが,関係者全員が共同で訴えまたは訴えられること (訴訟共同) を必要とする固有的必要的共同訴訟に当たるかどうか問題となる。これが固有的必要的共同訴訟であればY以外の相続人B,Cも当事者にしなければ当事者適格は満たされないX以外の訴訟は却下されることになる。従来,訴訟共同の要否については,実体法的観点と訴訟政策的観点から判断されており [→問題63],判例も同じく共同所有者が原告になる訴訟では,まず実体法的に,固有的必要的共同訴訟となるが [→問題63],過去の共同相続は合有または総有と解され,共同相続財産が合有または総有に帰属している場合には固有的必要的共同訴訟となる [→問題63],通常の共同関係の場合には各共有者は自己の持分権を単独で自由に行使できる。そこで,本問のモデルとした参考判例①は,Xの持分の所有権移転登記請求については,そのみを被告とする訴えを認めて請求棄却の本案判決を下していた。一方,遺産確認訴訟については,共同所有関係そのものをめぐる共同所有者内部の争いとして,その管理処分権は共同相続人の全員に属するという実体法的な観点,その判決の既判力により遺産分割の前問題である当該財産の遺産帰属性につき合一に確定させるという訴訟政策的観点から,固有的必要的共同訴訟に当たるとしたのが参考判例①である。この判例は,遺産確認の訴えの訴訟共同が参考判例②を引用して結論を引き出している。(2) 遺産確認の訴えの利益確認の利益が認められる利益が他の相続人の遺産に属することを確認,過去の事実ないし法律関係の確認として不適切とされないかが [→問題28],参考判例②は次の理由から利益を肯定した。まず,遺産の帰属が対象であり,これは「遺産分割前の共有関係」という現在の法律関係と解しうると,遺産確認の利益は紛争の抜本的解決に役立つ。具体的には,遺産確認の訴えはその後の遺産分割の前提につき当該財産の遺産帰属を争うことができなくなる。後者の後者について述べると,本件のような場合に土地が遺産であるかどうかを確定しないと相続放棄や限定承認の審判 (家事 284 条・191 条以下。同別表第2の12) [→問題28] が定まらない。あるいはその手続は進み,土地が遺産であるとしてなされた分割審判が確定しても,その前提となっている財産の帰属については争いを蒸し返すことができ [→問題111],訴訟による解決手続による終局判断が不可能とされていること [→問題111]。審判や判決に直すことになりかねない。分割土地は遺産でなく,その所有権で争うとした遺産分割手続の前提問題につき,その確定の既判力によって後の紛争を封じておく必要がある。というのである。この場合,X の持分を確認することも考えられるが,X が共有持分を相続したという理由での Y の持分確認がされても確定しても,X がそれを超える部分,本件土地が遺産であると主張して争うことの判決の既判力は生じない。それ以外の部分については争いが残され,結局は共同相続財産全体の遺産帰属の確認をしなければならない。したがって,遺産分割審判の手続においておよびその後の分割後の遺産帰属性に争うことを許さず,紛争の解決を図るには,当該財産が遺産の帰属に属すること,という共同相続の発生原因の具体的内容の確認を求める必要があるというのが判例の理由付けである。2 訴訟政策的判断上記のとおり遺産確認訴訟の手続に争いを既判力により封じるに足りるだけのその手続に関わる共同相続人全員を当事者として争わせ,合一的に確定しておく必要がある,というのが遺産確認訴訟の実際的要請から,参考判例①に示されている。そうすると,Xは,Yに共同相続人のうち原告に加わらない者を被告に加えるなどして,共同相続人のうち原告に加わらない者を被告に加えるなど,共同相続人が全員被告になる必要があるとしており [→問題64],判例に沿うならば,本問では,BとCが原告にならないならば被告に加えるべきことになると考えられる。参考判例③も,同じく遺産確認訴訟と遺産分割後の地位の不存在確認の訴えを固有的必要的共同訴訟とした判例 (平成 16・7・6 民集 58 巻 5 号 1319 頁) も,共同相続人全員が当事者となる必要があるとしており,Y がほかの共同原告と共同で訴えを提起しなければならないと述べてはいない。遺産確認や相続人の地位の確認では争っている共同所有者であるから,共同所有者以外の第三者と訴訟する訴訟共同訴訟と異なり,訴訟を複雑にする。より方法に違和感がない。また最高裁は,遺産確認訴訟での共同所有関係の確認と違い,原告と被告の間で当該財産がAの遺産であることを確認するという結論は主観の共同所有に帰結するもので,共同相続人全員が当事者のどちらかに入っていれば足りるという考え方になじみやすい。さらに参考判例①の事案では,BらがYに加担している状況であったので,このような場合には紛争の総合的解決のため,遺産確認訴訟では常に共同相続人が加わらなくてはならない。この訴えが固有的必要的共同訴訟であることは前提としたうえで,新たなルールを加えたとされるのが参考判例③である。この事案では当初,相続人全員が当事者となっていたが,遺産係属中にその相続人の一部の他の共同相続人に譲渡したことから,原告は譲渡人に対する訴えを取り下げた。固有的必要的共同訴訟である遺産確認の訴えの一部に対する訴えの取下げは認められないが,参考判例③は,相続分全部を譲渡した者は,遺産分割手続等で遺産帰属財産をめぐる判断を前提とすることはなくなり,つまり両者の間で問題である遺産帰属性を確定すべき必要性がなくなる (紛争解決の余地がない) から,遺産確認の訴えの当事者適格を喪失するとして本件訴えの取下げを認めた。3 残された問題以上のとおり,判例は既判力による紛争解決を強調するが,従来の考え方に立てば既判力は被告と原告の間に生じるのであって,請求の立てられていない共同訴訟人間には生じない。Y・B・C間では土地の遺産帰属性が確定しても,Y・B・C間では既判力による確定はなされない (そこで,学説には共同訴訟人間に既判力を生じさせる効果のある提案もある)。[→問題64]。笠井正俊『遺産確認における確定判決の既判力の主観的範囲』[伊藤眞古稀記念論文集『民事手続の現代的使命』(有斐閣・2015) 155 頁等]。また,同じ遺産分割の前提問題であるのに,遺言無効確認訴訟は固有的必要的共同訴訟ではなく通常共同訴訟であるとするのが判例である (最判昭和 5・6・11 民集 35 巻 6 号 1013 頁) [→問題68]。現状では,この種の訴訟につき訴訟共同の必要を強く説く方が有力であるが,このほかにも,原告に加わらない者を被告にすることに,原告被告のどちらにつくか,あるいは消極的な第三者の地位にとどまるかの選択を認めようとする学説もある [→問題62]。他方,被告の判決で同時確定の利益が重視されることは,事案に応じた対処も考えられてよいのではないか。例えば,参考判例①の事案では第1審がYのみを被告とするXの各訴えに請求棄却判決をしたが,控訴審が遺産確認訴訟は固有的必要的共同訴訟であるとしてこの部分の判決のみを取り消し,訴えを却下した。B,Yに利害なしを共通することが現実的でないと判断される却下以上,あえてそのまま実体判決をすることが便宜性を優先するXの申立てに訴えの主観的追加組合せか [→問題60] を認める。Yのみに対する遺産確認訴訟で請求棄却が確定しても,XがBらを相手にさらに遺産確認訴訟を提起する余地は残るが,それに対しておおきな意味がある。Xによる遺産確認訴訟がYに自己の所有権確認訴訟を提起して (Xに対しては反訴,Bらも当事者にする場合,訴えの主観的追加組合せか [→問題60] だが),判例によれば別訴として提起されて併合されるか [→問題60],裁判所の裁量によることになる) 認容判決を確定させればよい。この事態の負担分担もありうる。なお,判例によれば自分による自己の所有権確認で棄却判決が確定した後でも遺産確認の訴えがされることを許している(参考判例③の場合と異なり,その後の訴訟が残る)。その意味で及ぼされる既判力にも疑問がある [→問題68]。笠井正俊「共有物分割訴訟と既判力」 [→問題68]。山本克己「ほか固有必要的共同訴訟の現代的課題——共有物分割手続と民事再生手続の交錯を契機に」[民事訴訟雑誌 62 号] (2017) 25 頁等。[⚫] 参考文献 [⚫]山本克己・ジュリ 946 号 (1989) 49 頁/山本弘「遺産分割の前提問題の訴えの利益に関する一考察――遺産確認の訴えの当事者適格を中心として」同『民事訴訟法・倒産法』(有斐閣・2019) 175 頁/高田・民法7 (有斐閣・2015) 198 頁(安西明子)
『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年
ISBN978-4-7857-3092-5
固有的必要的共同訴訟の成否
2025/09/03
X₁~X₁₀ によれば,X₁らと Z₁~Z₁₀ はこの土地を入会地とする入会集団の構成員である。本件土地は,(権利能力なき入会集団の名義では登記できないため) Z₁の名義で登記されていたが,後に Y が,本件土地を Z₁ から買い受けたと主張するようになった。このような事情から本件土地が入会地であるか,Y の所有地か争いがあるため,X₁ らが訴訟を提起して Y に対して土地の入会権を確認しようとした。しかし,Z₁ はもちろん,Z₂~Z₁₀ も訴訟を提起することに同調しない。この場合,X₁ らは自分たちだけで,同調しない構成員を原告に入れずに,入会権を有することの確認を求めて訴えを提起することができるか。できるとすれば被告として相手取ればよいか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判平成 20・7・17 民集 62 巻 7 号 1994 頁② 最判平成 11・11・9 民集 53 巻 8 号 1421 頁[⚫] 解説 [⚫]1 固有的必要的共同訴訟か所有権関係訴訟は固有的必要的共同訴訟かーー実体法的な考え方ですでに問題63で述べたとおり必要的共同訴訟では合一確定のため必要的全員が当事者 (規律 40 条) を受ける「類似必要的共同訴訟でも受ける) 上,関係者全員が当事者となっていなければならないという訴訟共同が必要とされる。そして固有的必要的共同訴訟とされるのは,①他人間との法律関係に変動を生じさせる訴訟の場合 (例えば取締役の解任の訴えでの当該取締役と会社,会社 855 条),②数人で管理処分・職務執行することになっている場合 (例:数人の受託者の信託財産関係訴訟の数人の受託者,同一選定者から選定された数人の選定当事者) と,③共同所有形態における紛争に関する訴訟である。通説は,③の共同所有関係を共有 (持分があり,処分権は共同でなくてよい) と合有,総有に分け,さらに合有における保全行為や処分権・職務といった実体法上の規律と併せて固有的必要的共同訴訟かどうかを決めるようとする。すなわち,総有や合有の場合は権利者が共同して1つの権利を処分しなければならないので,その財産に関する訴訟は原則として固有的必要的共同訴訟とされる。本問の入会権は,一定の村落住民に属するので,入会権確認の訴えは入会権者全員が共同してのみ提起できるとされる (最判昭和 41・11・25 民集 20 巻 9 号 1921 頁)。ただし,団体に当事者能力が認められること (29 条) を前提に,一定の場合に入会集団が原告となれるとした最判がある (最判平成 6・5・31 民集 48 巻 4 号 1085 頁がある [→問題 21])。これに対して,入会権者各人の使用収益権の確認および収益権に基づく妨害排除請求訴訟は,固有的必要的共同訴訟でなく,各入会権者が個別に提起できるものとされている (最判昭和 57・7・1 民集 36 巻 6 号 891 頁)。以上のような実体法上の管理処分権能に従って固有的必要的共同訴訟の範囲を決めようとするものであり,実体法説といえる。2 固有的必要的共同訴訟における訴訟追行本問の入会権確認訴訟は固有的必要的共同訴訟に当たるので,関係者全員が当事者となる訴訟共同の必要がある。こうすると,訴訟に参加しなかったり,訴訟追行の利益に影響を受け,裁判を受ける権利を奪われずにすむし,もし関係者の間でバラバラに訴訟をすること認めた場合の判決の矛盾,相手方の応訴の負担を防ぐことができる,とされる。しかし反面,一部の関係者の関係が漏れていた場合,例えば数百名もの入会権者のうち1人が抜けていたことが判決言渡し直前に判明した場合でも,当事者適格が認められず訴え却下となる。また,本問のように原告側で共同訴訟に賛成しない者がいる場合,訴えが提起できないという問題が生じかねない。そこで学説においては,実体法説 (前述 1) のような総合判断による総合的個別訴訟によって個人の利益を保護し,判例も,訴訟追行を重視して訴訟が提起されても当事者適格があるとみる場合がある。訴訟が提起できず裁判を受ける権利を奪われてはならない。した。そして,①訴え提起に同調する者のみの訴え提起を認めようとする説も主張された。しかし,固有必要的共同訴訟の範囲を広く広げると,本問では Z₂ らのような同調者が訴訟に関与する機会が奪われ,事実上のものであっても,自分たちの関与しない判決の効力,影響を受けることになりかねない。そこで,固有的必要的共同訴訟の範囲を維持し,その手続的メリットを生かしながら,共同原告となることを拒む者は,被告に回して提訴することを許すという考え方が主張されるようになった (重点講義 I 36 頁など)。この考え方によれば,本問では X₁ らは Y のほか Z らも被告に加えることにより訴えが提起できる。被告は全員当事者として手続関与の機会を与えられることになる。このほか,学説においては,構成員それぞれの訴訟の自由を認めようとの立場から,訴訟告知 (53 条) を活用して非同調者に訴訟係属を知らせれば,Xらだけで原告となれるとする説などもある。3 判例の展開——非同調者を被告に加える方法の許容判例は,もともと実体法説 (前述1) によりながら,固有的必要的共同訴訟の範囲を狭め,個別訴訟を許そうとする方向をとっていたが,実体法的に固有必要的共同訴訟に当たるとした類型では,やはり全員が加わなければ原告適格がないとしていた。具体的には,共有地と隣地との境界確定の訴えにおいて,15名の共同所有者のうち1名が行方不明でありかつ被告の兄弟である事案で,この訴えは固有的必要的共同訴訟であり,1名欠く訴えは不適法とした (最判昭和 46・12・9 民集 25 巻 9 号 1427 頁)。しかし後に,同じ共有地の境界確定訴訟で,これが固有的必要的共同訴訟であるとした上で,学説ののように,非提訴共同権利ないし者は被告に回して訴えを提起してよいとした (参考判例②)。ただしこの判例では被告側は形式的形成訴訟である (実質的に行政訴訟で,訴訟ではない) 点が強調されていたため,他の場合にも被告に回す方法が認められるのか疑問がもたれていたところ,最高裁は,本問に即した入会権確認訴訟は固有的必要的共同訴訟であることを前提に,一部の者が原告となった入会権確認訴訟は不適法とした第1審・第2審を覆し,提訴に同調しない者を被告に回すことを認めた (参考判例①)。この判例は,入会集団の構成員のうちに提訴に同調しない者がいる場合でも,入会権の存否について争いがあるときは,民事訴訟を通じてこれを確定する必要があるとして,入会権の存在を主張する構成員の訴権を保護するという見地から,非同調者の被告化を認める。そして,被告であっても構成員全員が訴訟の当事者に加わっていれば,その訴訟の判決の効力を入会集団の構成員全員に及ぼしてもよい,入会権確認訴訟を必要的共同訴訟と解釈した最判昭和 46・12・9 も,非同調者の被告化の方法を否定してはいない,として訴訟政策的観点を鋭く示している。ただし,判例は確認訴訟で被告化を認めただけであり,給付訴訟でどうなるかには触れていない。また非同調者の被告としての地位をどのように捉えるのか,この訴訟の構造について説明しておらず,残された問題は多い。4 被告化された非同調者の地位提訴に同調しない者の被告化は確認訴訟以外に給付訴訟でも認められるか。参考判例①によると,この確認訴訟において,X らにはまず Y に対して入会権確認請求をしているほか,Z らに対しても X らと Y の間の内部訴訟に自分たちが原告権をもっていることを確認しているとみられる。一方,給付訴訟を考えてみると,例えば本問で Y が土地所有権の移転登記を済ませていた場合,X らが Y に対して,その抹消登記手続を求める請求は成り立つが,Z らに対する請求は考えにくい (せいぜい立てれば,X らと Y の間で X らが Y に登記手続請求権をもつことの確認請求)。したがって判例の射程は確認訴あののみとされている。これに対し,学説は,Z らに対して訴訟で判決を立てる必要はないとして,給付訴訟においても同様に Z らを被告に回した訴訟を認め,Z らを「請求なき当事者」と捉える。次に,判決の効力が Y に及ぶの (主観的範囲) も問題となる。Y と Z らの間には請求が立てられていないので,ここには請求認容や棄却ということになるが,それでよいか。例えば本問で X らが勝訴を勝ち取れば,判決が確定した場合,X らと Y・Z 間では入会権の不存在に既判力が及ぶが,後に Z らが Y に対して入会権の確認を過ごすことは既判力によって封じられないのではないか (逆に X らの請求棄却判決確定後の Z らから Y に対する同じ土地の所有権確認も封じられない)。これを避けるため,学説は請求が立っていなくても Y・Z ら間に既判力等の拘束力が及ぶと考え,例えば Y から Z らへ矢印の請求に請求が立っていなくても,1つの中心をもって X ら・Y・Z らが当事者として関与して審理がなされていれば判決効も及ぶとするのである。さらに,提訴に同調しない者の自由をどう考えたらよいか。本問のように集団の中で提訴に同調しない者のほうが多数である場合は提訴すべきでない,という見方もあるかもしれない。しかし,このような多数決による処理は理論的でない。提訴しない者が大きい割合を占めるとする,提訴の可否は単なる反対利益だけではないとみて,学説は1名での提訴 (他の構成員全員を被告に回す) も可能とする。参考判例①も少数派原告による提訴を認めた。ただし,b提訴拒絶者が提訴時期を遅らせる限りはその利益があるとして,このような場合には一部の原告による訴えを却下すべき,としている。そうするとしかし,現段階の提訴が適切かどうかを,原告弁護士でなく裁判所が判断することになるが,それでよいかといった問題も生じてくる。そもそも固有的共同訴訟とせず,個別訴訟を許すべきではないかという問題にさかのぼる。[⚫] 参考文献 [⚫]重点講義II 329 頁/鶴田・争点 70 頁/棚橋・百選・百選 192 頁(安西明子)
『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年
ISBN978-4-7857-3092-5
固有的必要的共同訴訟の成否
2025/09/03
XはY₁に対し,Y₁がX所有の土地に権限なく建物を建てて不法に占拠しているとして,所有権に基づく建物の退去と土地明渡しを提起することにした。しかし,この訴え提起の準備中に,Y₁が死亡していて,第1審の被告になったのが,Y₁Y₂の共同相続人Y₁Y₂を被告にした。第1審ではXの請求が認容されたが,Y₂らが控訴したところ,控訴審の口頭弁論終結後,判決言渡しの直前に,Y₃が自分も共同相続人であるとして,弁論の再開を申し立てた。この場合,控訴審は弁論を再開しなければならないか。それも,これを行わずに,控訴を棄却し,X勝訴の判決を下すことはできるか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 43・3・15 民集 22 巻 3 号 607 頁[⚫] 解説 [⚫]1 固有的必要的共同訴訟本問では,共同相続人が被告となる訴訟が固有的必要的共同訴訟に当たるかどうかが問題とされる。共同訴訟には,共同訴訟人 (訴えの主観的併合) には,各共同訴訟人 (共同原告,共同被告) につき判決がまちまちになってもよい「通常共同訴訟」と,判決が合一に確定されることが要請される「必要的共同訴訟」とがある。前者には,合一確定の要請がない。共同で訴えまたは訴えられる必要もない。一方,合一確定が要請される必要的共同訴訟はさらに2つに分けられ,全員が共同で訴えまたは訴えられなければならない「固有的必要的共同訴訟」[→問題63]と,共同で訴えまたは訴えられる必要はないが,そた場合は当事者間で合一的に解決されなければならない「類似必要的共同訴訟」[→問題68] がある。つまり,両者は,後者と同様に合一確定の必要のため審判規律 (40 条) を受ける上,関係者全員が当事者となっていなければならないという訴訟共同が必要とされる「合一確定の必要」「訴訟共同の必要」。したがって,本問の訴訟が固有的必要的共同訴訟とされれば,共同相続人全員を共同被告としなければ被告適格がないとして訴え却下となるから,Y₃ のため弁論を再開しなければならない。固有的必要的共同訴訟でないとすれば,Y₃を欠いたまま,他の被告には判決を下してよい (Y₃とはこれから別に訴訟する) ことになる。そして固有的必要的共同訴訟とされるのは,①他人間との法律関係に変動を生じさせる訴訟の場合 (例えば取締役の責任の訴えでの当該取締役と会社,会社 855条),②数人で管理処分・職務執行することになっている場合 (例:数人の受託者の信託財産関係訴訟の他の受託者,同一選定者から選定された数人の選定当事者) と,③共同所有形態における紛争に関する訴訟である。2 実体法による判断通説は基本的に,③の共同所有関係を所有権 (共有持分があり,処分権は共同でなくてよい) と合有に分け,さらに合有における保全行為や処分権・職務といった実体法上の規律と併せて固有的必要的共同訴訟かどうかを決めようとする。すなわち,原告側については,総有か合有の場合は権利者が共同して1つの権利を処分しなければならないので,その財産に関する訴訟は原則として固有的必要的共同訴訟だが,共有の場合は各共有者の地位の独立性から固有的必要的共同訴訟ではない。民法上の組合・共同相続財産の債務は各自の債務となるから,合有ではあるが固有的必要的共同訴訟ではない。総有に被告でも固有的必要的共同訴訟とはならない。判例は変遷があり,固有的必要的共同訴訟となる場合を制限していこうとする傾向があるが,そうでない例もみられ,錯綜している。実体法によってこう定めようとする点は基本的に通説と同じであるが,実体法理解において異なるため結論も通説と食い違うことがある。原告側では,通説と同じく総有は固有的必要的共同訴訟としたが,その後,入会権に基づく使用収益権については入会権者各自の権能であるから個別訴訟で確認できるとする (最判昭和 57・7・1 民集 36 巻 6 号 891 頁) など,実体法による判断に修正を加えている (入会権確認につき→問題65)。被告側では,総有の判断はないが,共同相続の例が多く,参考判例①がその例である。本問に即してみると,判例によれば,本問の分割前の共同相続財産は共有と解されている。建物の収去土地の明渡請求権も債務とされておらず,参考判例のほかにも類似訴訟が認められる場合には,もっとも請求が認められる場合には,個々の各相続人が各自の持分権割合の限度でしか負うので,XはY共同相続人各自に対して順次請求権を行使でき,必ずしも全員に対して同時に訴えを提起し,同時に判決を得なくてよい,と述べている。このように共同相続に固有の実体法上の性質から固有的必要的共同訴訟かどうかを判断するという方法がとられてきた。3 訴訟政策による判断上記の実体法的観点に加え,参考判例①は,次のとおり訴訟政策的観点からもこの訴訟は固有的必要的共同訴訟ではないとした。すなわち,もし固有的必要的共同訴訟とすると,①建物収去土地明渡請求訴訟が遅延すること (争う意思のない一部被告が訴訟を遅延させ,または原告が他の被告に訴状を送達することができない),②さらに建物の共同相続登記が未了で所有者が誰であるか不明であるとか,一部の所在が不明であるなど,共同相続人すべてを被告とすることを原告に期待することが困難な場合がある。一方これを通常共同訴訟と解すると,①土地所有権者が建物所有者に対し明渡しと損害賠償をすることができ,②各共同相続人各自に対して債務名義を取得するか,その同意を得る必要があるから,被告の権利保護に欠けることはない。参考判例①は,実体法的観点よりもこれら訴訟政策的観点を決め手として判決した。共同相続への訴訟を固有的必要的共同訴訟とはしなかったのでこの最高裁判決であり,多数説と一致する。しかし,このように個別訴訟を許すことに対しては,実質的に1つの訴訟を省略し,一部被告は紛争を完全に解決できないとの批判がある。上記①のとおり,Xが建物収去土地明渡しの強制執行をするには Y₃に対する請求権も必要であり,いままでY₁・Y₂らに請求したとしても,もし Y₃に敗訴すれば執行できず,前の勝訴判決が無意味になりかねない。また,XがY₁Y₂に対する勝訴判決を取得しないうちに Y₃らに対する勝訴判決を債務名義として強制執行をしてきたときに,Y₁Y₂らの債務名義が足りないことが執行裁判所に明らかにならないと,不当に執行されるおそれもある。この批判に多数説は反論して,実際には Y₃らへの勝訴判決が影響して Y₁に敗訴するような複雑な判決矛盾は生じず,もし不当執行が行われた場合は Y₁から第三者異議の訴え (民執 38 条) をして防げばよい,とする。けれども,そうだだとすれば Y₁が欠けたまま Y₂に事実上少なからぬ影響を与える訴訟を許すことになり,それでよいかという再反論もある。結局,抽象的な訴訟政策としては,固有的必要的共同訴訟の範囲を限定して個別訴訟を許す判例・多数説が妥当であるが,問題も残っている。4 個別訴訟への柔軟な対応の必要具体的な事案の処理としてはどうすればよいか。判例は,全員だと思って訴えたところ被告の一部が欠けていた場合の処理として妥当である。とくに,本問に用いた参考判例①の実際の事案では,当初の被告 (X によれば不法占拠者) が多数であった上,Y₁ が外国人であったために相続関係が調査困難であった (さらに,訴訟係属中に Y₁ が死亡し,さらに Y₁ の訴訟代理人が辞任したために,共同相続人による訴訟手続の受継が問題となった。この訴訟手続の受継については問題が複雑になるのでこちらでふれない) など,相続人や他にも存在していたことが不明確であった。ここまででなくとも,X のほうから不法占拠者である Y₃ らを把握できない事情があり,X の被告選択に責任がないというような事案では,不利な判決を受けた後,あるいは受ける直前に Y₃ が欠けていたことを主張することは,X との関係で公平とはいえない。この後,X は新たに Y₃ に対する訴訟を提起し,勝訴しなければならないが,これに Y₁Y₂ に対する勝訴判決が X に事実上有利に影響を及ぼすとしても,あなたが公平ではない。以上のような考慮も踏まえ,学説においては,全員を相手に訴えることが困難でなく,かつ将来の再訴可能性が高い場合には全員を相手にすべきであるとの説や,共同訴訟となった以上は類似必要的共同訴訟 (訴訟共同の必要はないが合一確定の必要はある) と解すべきであるとの説,通常共同訴訟,類似必要的共同訴訟,固有的必要的共同訴訟の境界を流動的に捉え,個別事案にあった柔軟な処理を唱える説なども主張されている。つまり近時の学説においては従来のように,訴訟共同の必要性があるかないかの問題に置き,後者に固有の必要的共同訴訟では1人欠けても却下であり,後者の通常共同訴訟ではまったくの個別訴訟を許す,というような両極端の発想では足りないと考えられている。固定的な枠組みにとらわれない柔軟な思考,弾力的な処理の必要性が認識されるようになっているといえよう。[⚫] 参考文献 [⚫]重点講義II 329 頁/中島弘・百選 196 頁(安西明子)
『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年
ISBN978-4-7857-3092-5
主観的予備的併合 (同時審判申出共同訴訟)
2025/09/03
XはY₁から350万円借り入れた際,X所有の本件土地の登記をY₁に移転した。Xは弁済の提供をしたが,Y₁は土地を返さない。そこで,Y₁への登記移転は担保目的であり,所有権の移転の意思によるものではなかったとして,Y₁に対する所有権移転登記の抹消登記を提起した。ところが,Xの新訴提起直前に,Y₁はY₂(本件土地を使用し所有権移転登記をした。そのため,Xは,主位的にY₁に対して所有権移転登記を請求するとともに,仮にその請求が認容されない場合にはY₂がXの権利行使を妨げ,Xに損害を被らせたことになるとして,Y₂に対して予備的に1400万円(土地代金から借入金債務を引いた額)の損害賠償請求をした。このようにXがY₁・Y₂に対して順位を付け,主位的被告Y₁に対する請求認容を解除条件として,予備的被告Y₂に対する請求で訴えを求めることはできるか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 43・8・8 民集 22 巻 8 号 551 頁[⚫] 解説 [⚫]1 主観的予備的併合の意義数人のまたは数人に対する請求が論理上両立し得ない関係にあって,いずれが認められるか判定し難い場合に,共同訴訟の形態をとりつつ,それぞれの請求に順序を付けて審判を申し立てることを,訴えの主観的予備的併合と呼ぶ。例えば,代理人 (代表者) と契約したが無権代理の疑いがあるときに,第1次的に本人 (会社) に請求し,これが棄却される場合に備えて予備的に代理人 (代表者) に対する請求をも併合提起する場合 (民訴 117 条 1項),土地の工作物の瑕疵による請求を第1次的に占有者に,第2次的に所有者に対して請求する場合 (民法 717 条) などである。この併合形態をとらず,両被告を別々に訴えることはできるが,別訴だと一方では代理権がないとして本人に対する請求を棄却,他方では代理権ありとして代理人に対する請求を棄却されて両方で敗訴するおそれがある。被告側のみならず原告側に順位付けがなされる場合も含まれるが,ここでは本問のとおり前者をおもな対象としていく。2 この併合形態の問題点同一当事者の請求の複数に順位を付ける,訴えの客観的予備的併合は問題なく認められるのに,主観的予備的併合については議論が分かれている。否定説の理由は主に,①予備的被告の地位が不安定であること,②審理の統一が保障されているわけでないことの2点にまとめられる。すなわち,①この併合形態は,第1次被告に対する請求が認められれば予備的被告に対する請求の判断がされないので,第2次被告の地位が極めて不安定であること,②第1次被告に対する請求認容判決が確定すれば,予備的被告に対する訴訟は遡及的に訴訟係属を消滅させられ,予備的被告の地位が不安定なものになること,と。③この併合形態には共同訴訟人独立の原則 (39 条) [→問題61]が適用される結果,いずれか一方に対し勝訴できるという原告の保護の統一の保障は必ずしも図られず,この併合形態を認めるメリットはあまり大きくないこと,とくに原告との関係では,第1次被告に対する請求が認容されれば,判決は第1次被告との間でしか言われず,控訴審ではじめて第1次被告で敗訴となり,被控訴審にいくのに主観予備的併合だけでできる。また第1次被告につき請求棄却,予備的被告に対し請求認容となるも通常共同訴訟であって,原告が控訴したとき予備的被告にいくのは第1次被告に対するとおりであり,結局,どちらにも負けることを防止するという趣旨が害される危険がある。参考判例①は主観的予備的併合の当否について初めて明示し,否定説に立つことを明示したが,その後も下級審においてはこれを認容する判例が報告されている。3 肯定説からの反論肯定説は,上記問題点は致命的なものではない。①は,通常共同訴訟における独立原則を修正して必要的共同訴訟の規定 (40 条) を準用すれば,主張の問題だけでなく,攻撃防御方法の提出や自白,和解を含めて一応解決できる。もともとこの併合形態を否定するより肯定するほうが,より統一的裁判を保障できる。①についても,両立しない請求の関係から,主位的請求認容判決は同時に予備的請求棄却を意味し,両者が確定すれば申立ての趣旨の再判断を迫ること解消すると解すればよい。これらは技術的問題として,クリアできるのである。ただし,根本問題につながる①については,もう少し検討しておこう。①は,主位請求が認容されると予備的請求は棄却判決を受けることなく消滅するという判決脱漏での不利益のほかに,⑥原告申立ての自分に対する請求に審理に入るのか不明で,終始訴訟に関与していなければならず,しかも主位請求に対する請求の審理中はほとんど何もできない,という審理過程での不利益がある。③④前述のとおり技術的にクリアできた。⑥も,予備的被告に対する請求に関する弁論,証拠調べは第1次被告に対する請求が棄却されてから始めるという条件付きにできる。請求である以上,2つの同時並行的に審理されると考えられ,予備的被告がいつ自分に対する審理が始まるか不明という不安定な地位に置かれるというより,むしろ終始弁論の機会があることは否定も考えられる。4 肯定説の展開と本問への対応問題なのは,原告が「択一的に」両被告を相手にしている状況において,なぜ両被告,とくに予備的被告に不利益をかけるのか不満な原告の申立てで許してよいか。この不利益の根拠を,両請求が両立し得ないという請求の実体的関係に求める考え方もある。しかしそうではなく,訴訟主体間の関係を重視し,予備的被告が異議を述べずに応答している場合や,紛争の経緯から両被告がともに1人に絞る責任がない場合に,この併合形態を認めようとする考え方が主張されている。以上によれば,本問では,厳密な意味で両請求が両立し得ない関係にあるのか若干疑義もあるが,Y₂に対する請求はXに所有権が存在することを前提とし,Y₁に対する請求はXに所有権がないことを前提とする点で法的に両立し得ない関係にあると考えられ,Y₂に対する損害賠償請求が本件土地の代物であるから,実質的経済的にみても主観的予備的併合を許す方向へ傾く。また何より,原告がこのような併合形態をとらざるを得なくなったのは,係争物処分 (土地の売買) という Y₁の行為によるものであり,この場合 Y₂は係争物処分という問題の根拠を承継した,本問ではXが訴えを提起しようとした直前に,Y₁は土地を処分し始めたと想定したことから,もっぱら参考判例①の事案のように,土地は登記は無効であった,実際の売買のほうY₂のほうがより安い値段で買い取ったとすると,いずれにせよ X の所有権が真実にもとづいてその処分を許さず,かつ Y₂が原告からより安い値段で買い取ったわけではないのである。このようなY₂の行動からも,Y₂は被告にされること当然ともいえるし,Xとしては土地を返してもらいたいのが第1であるから,まずY₁に対する所有権移転登記請求,それが認められなかったらY₂に損害賠償請求という順序付けがあるので,このうに紛争の経緯,当事者間の関係からみて,主観的予備的併合が自然であり必要でもある。5 同時審判申出現行民事訴訟法では,主観的予備的併合を巡る議論の意見は相対的に縮小した。法律上併存し得ない2人 (以上) の被告に対する訴訟につき,原告が申出があれば,弁論および裁判を分離しないで行う共同訴訟の申出があったとは (41 条)。そこで前述の民法 117 条や 717 条の例は,原告が申し出れば両被告に対する請求の審理判決は同一手続でされるので,事実上裁かれる,両共同被告が届け出られる。なお,この裁判の形態は,通常共同訴訟として,共同訴訟人独立の原則が適用される。主観的予備的併合のニーズは,この同時審判申出によってもかなり吸収されうるだろうが,今後も主観的予備的併合を必要とする立場も有力である。まず,共同訴訟への訴訟を請求が法律上併存し得ない場合 (法律上排他) で,請求が両立しないこと。前述の本人と無権代理人ケースでは代理権を授与したとの真実が本人に対する請求原因事実,無権代理の主張は抗弁になり,主観的予備的併合の請求で両立しないと仮定すると,本問のような場合が認められるか微妙になる (ただし前述のとおり,請求は両立しない関係にあるこを前提とし,Y₁に対する請求はXに所有権がないことを前提とする点で法的に両立し得ない関係にあるとの説もある)。加えて,事実上被告をどちらにしてよいかわからないような場合 (契約相手や不法行為の加害者が確定できない等) が取り残されてしまう。また,この条文では複数の被告に対する請求の同時審判を原告が申し出た場合にしか規定されていないが,逆に原告が複数で単一被告に対する請求が両立できない場合も,主観的予備的併合の領域とされてきた。そこで,これらにも条文を類推すべきであろう。さらに,同時審判申出では,当事者が請求に順位を付けることができないし,手続を分離しないというだけで完全に通常共同訴訟であれば,統一的審判の問題は弱い,とくに上訴審では,2つの控訴がされた場合には当事者が併合される (41条3項),控訴するかどうかは各自の自由なので,片方だけが上訴された場合には審判の統一はない,例えば「代理権なし」として X が Y に敗訴,X が Y₁ に勝訴という場合,負けた Y₂ は控訴したが X は Y₁ に控訴しないで,控訴審では判断が逆転して「代理権あり」となったとすると,控訴審でXはY₂に勝訴し,結局Xは両方に敗訴する。これを防ぐには,X は,Y₂に対して勝訴しある程度の利益を確保していても,常に控訴しておかなければならず (Y₂が控訴してくるかどうかわからなくても,控訴期間経過直前に控訴してくることもあり得,Y₂の控訴提起を知ったときには間に合わないことにならないように),制度上の不備とされている。[⚫] 参考文献 [⚫]井上治典『多数当事者の訴訟』(信山社・1992) 3頁/重点講義I 94 頁(安西明子)
『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年
ISBN978-4-7857-3092-5
共同訴訟人独立の原則
2025/09/03
Y₁はある土地をその所有者であるXから譲り受け,その上に建物を所有していた。その後,本件建物の所有権は Y₁ から Y₂,Y₂から Y₃ へと移転し,Y₂とY₃がそこに居住していた。Xは本件土地所有権に基づき,Y₃に対しては建物退去・土地明渡しを,Y₂に対しては建物退去・土地明渡しを,Y₁に対しては本件建物を所有していた期間の賃料相当額の支払を,それぞれ求める訴えを提起した。この訴訟でY₁・Y₃は本件土地の占有の適法性を主張し,本件土地の賃借権を有するとの答弁を提出したが,一方,Y₂はXに対する権原の存在を争った上で上記の請求はせず,口頭弁論を欠席し,答弁書も提出しなかった。このような審理状況において,Y₁・Y₃が,Y₂が賃借権を有することを推認させる間接事実として,Y₂が本件建物を取得して以降,自分たちがXに賃料相当額の支払を続けてきたことを主張し,裁判所は,Y₂が賃借権を有するとの理由でY₁・Y₃に対する請求を棄却しようとしているとき,Y₂に対する請求についてはどのように処理したらよいか。Xも上記 Y₁・Y₃の共同訴訟の支払の主張を明らかに争わなかった場合に,Y₂が建物を所有権を有していた期間,Y₁・Y₃が賃料相当額を支払っていたという事実を認定してXのY₂に対する請求を棄却することはできるか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 43・9・12 民集 22 巻 9 号 1896 頁[⚫] 解説 [⚫]1 共同訴訟本問は,共同訴訟のうち通常共同訴訟に当たる場合である。このような訴訟において共同被告となった Y らの地位はどのようなものか,互いに関係するかどうかが,ここでの問題である。共同訴訟とは,1つの訴訟手続の当事者の一方または双方に数人の当事者がいる訴訟形態であり,訴えの主観的併合とも呼ばれる。共同訴訟は,各共同訴訟人 (共同原告,共同被告) につき判決がまちまちになってかまわない「通常共同訴訟」と,判決が合一に確定されることが要請される「必要的共同訴訟」に分けられる。共同訴訟のうち圧倒的多数は通常共同訴訟である。この訴訟では,合一確定の要請が働かず,共同で訴えまたは訴えられる必要さはない。一方,合一確定が要請される必要的共同訴訟はさらに2つに分かれ,全員が共同で訴えまたは訴えられなければならない「固有必要的共同訴訟」[→問題63] (合一確定の必要+「訴訟共同の必要」がある)と,共同で訴えまたは訴えられる必要はないが,そうなった場合は当事者間で合一的に解決されなければならない「類似必要的共同訴訟」[→問題68]とがある。2 通常共同訴訟この類型では,各当事者と相手方の間で一挙に勝敗を決する必要がなく,もともと別の訴訟で処理されても差し支えない性質の事件が1つの手続に併合されているにすぎない。そこで共同訴訟人は各自独立して係争権利ないし利益を処分する権能を認められ,訴訟追行上も各自独立の地位が与えられている。ただし,共同訴訟には,併合して審理するだけの妥当性・合理性が必要である。民事訴訟法はこの主観的併合要件として,各共同訴訟人の請求またはこれに対する請求が相互に一定の関連性・関連性がある場合を,次のとおり3つ示している (38 条)。① 訴訟の目的たる権利義務が共通であるとき (例:数人の連帯債務者に対する支払請求,数人に対する同一物の所有権確認)② 訴訟の目的たる権利義務が同一の事実上および法律上の原因に基づくとき (例:同一事故に基づく数人の被害者の損害賠償請求,主たる債務者と保証人に対する請求)③ 訴訟の目的たる権利義務が同種であって,事実上および法律上同種の原因に基づくとき (例:同種の売買契約に基づく数人の買主への代金支払請求),なお,当事者が複数になるということは請求も複数になるから,共同訴訟=訴えの主観的併合の前提として,請求の併合=訴えの客観的併合の要件を満たしていなければならない。すなわち各請求が同種の訴訟手続で処理されるものでなければならないし,共通の管轄権がなければならない (ただし上記①②の場合,請求相互に関連性が強い場合には,1人について管轄のあるところにも併合して提起できる。7 条ただし書)。以上をみると,本問では Y₁・Y₂ と Y₃ の関係は上記①②③に当たると考えられる。3 共同訴訟人の地位通常共同訴訟では,各共同訴訟人は他の共同訴訟人に制約されずに独立に相手方に対する訴訟を追行する。共同訴訟人の1人の訴訟行為,共同訴訟人の1人に対する相手方の訴訟行為は他の共同訴訟人に影響しない (39 条)。これを「共同訴訟人独立の原則」という。通常共同訴訟では共同被告 (または共同原告) が各訴訟につき単独で当事者の地位に立つことができて有利であるからである。そこで例えば,各自独立に請求の放棄・認諾,和解,訴えの取下げ,上告,自白などができ,その効果はその行為者と相手方との間にしか及ばない。1人についての中断・中止の事由が生じても,他の者には影響はない。裁判所は,ある共同訴訟人の訴訟についてだけ弁論を分離し (152条),一部の者につき判決をすることもできる (32 条 2 項)。1人の共同訴訟人が上告しても,他の共同訴訟人は上告人とみなわけでなく,上告の効果も及ばない。このように,通常共同訴訟では裁判の統一の保障上の保障はない。しかし,弁論および証拠調べが共通の期日に行われるので,一種の共同審理的に効力行為はしない限り,同一の合議体による統一的な裁判が期待され,事実上は裁判の統一がもたらされる。4 共同訴訟人間の主張共通・証拠共通上記の事実上の統一の帰結を,より実質化しようと,判例・通説は共同訴訟人間に「証拠共通」の原則を認めている。すなわち,共同訴訟人の1人が提出した証拠はこれに対して他の共同訴訟人が意識しなくても,他の共同訴訟人に関連する係争事実につき,とくに使用されなくても他の当事者の主張事実を認定する資料とすることができる,とする (ただし本問では証拠・証明の問題となる主張が出ていないことが問題となっている。前提を欠いているので,証拠共通の適用はない)。この原則は「自由心証主義の歴史的所産」といえる事実認定のあり方そのものを根拠として生まれたもので,そこから「当事者が自覚していない事実をも裁判の基礎資料とすることができるか」 (心証形成の基礎資料をすべて弁論に顕出させること) の当否など弁論主義との相克も問題となりうる (弁論主義の第1テーゼ。自己に不利益な事実の承認「裁判上の自白」もしかり得ない) と裁判官の心理に事実認定を委ねることによる弊害を指摘する声もあるが,共同訴訟人全体の証拠資料を統一的に一体処理をしなければならないという点では,現在ではその合理性が認められている。そこで,理論的には,共同訴訟人の一方が提出した証拠は証拠能力を有するものとして他の共同訴訟人にも有利に斟酌されうるが,他方で不利に斟酌されることはない。このような証拠共通の原則を認めることから,一方の共同訴訟人の主張を他の共同訴訟人の主張と共通に扱うこと (「主張共通」) ができるかどうかについてである。この点につき,かつて判例は,主張共通の原則を認めたが (大判大正10・7・4民録7輯1302号),その後,否認するかどうかも各共同訴訟人に任せられるべきである,として主張共通の原則を否定した (最判昭和41・3・22民集20巻3号547号)。しかし,この最判は,必要的共同訴訟の事案であり,通常共同訴訟について判断したものではないとして,このほか,通常共同訴訟においても共同訴訟人間で主張事実が認められることを要件として「当然の補助参加」を認める学説がある。当該補助参加の認められるときの主張共通の原則を認めるのは,上記の判例と異なり,後者が主張の食い違いに寛容であることと対照的である。本問に用いた参考判例①は,当然の補助参加を否定した。すなわち第1審 (名古屋地判昭和 42・4・12 判時 481 号 18 頁,民集 22 巻 9 号 1912 頁参照) が第2審 (名古屋高判昭和42・4・28判時481号18頁) において,Y₂はいわゆる共同訴訟人間の補助参加関係にある,自己の利益を守るために Y₁ を補助させるといった形で,補助参加を認めたて参加している関係にあるため [補助参加については→問題65],Y₂ と Y₁・Y₃ 間の資料相当額の支払の事実について X の自白 (明らか争わない以上,自白成立) は Y₂・X 間にも妥当するとして Y₂ の請求を棄却した。これに対して,参考判例①は,通常共同訴訟では,たとえ共同訴訟人に共通の利害関係がある場合も,共同訴訟人独立の原則が働くのであって,共同訴訟人の1人の行為はその相手方との間のみで効力を生じ,他の共同訴訟人との関係で効力を生ずることはない。Y₁・Y₃ が支払の事実を主張しても Y₂ がこれを援用しない限り Y₂ のための補助参加とみることはできない,として原判決を破棄した。参考判例①は Y₂ について補助参加を認めても,Y₁・Y₃ の主張と X の自白を Y₂ のための補助参加人の主張として,その効力を認めた原判決を否定したものである。参考判例①についてはそもそも,Y₁・Y₃ が Y₂ に補助参加する利害関係を有するのかどうかが,疑問視する見解もある。この点,主張共通ではなく補助参加関係がなくても,Y₁・Y₃ の主張の資料が X の自白で認められれば Y₂ にも有利な事実が得られるという意味で共同訴訟人間で利益に働く同一の事実主張といえ,Y₂ が積極的に反しない限り,この事実の認定に影響を及ぼすとして X は Y₁・Y₃ に対して自白をしないとして,欠席した Y₂ に対しては,Y₁・Y₃ の弁論の利益を自白して請求棄却を導くこと (新堂・後掲 53 頁以下)。しかし,学説の多くも,当然の補助参加や主張共通を認める少数説に対し,共同訴訟人の一部がした訴訟行為が他の者に「利益」かどうかは単純に決められないとし,その訴訟行為に対して積極的に積極的に行動をしないからといって,その者の訴訟行為に自動的に同調させてしまうことはできない,などと批判している (判例と結論は同じく,本問では Y₂ の主張がない以上 Y₁・Y₃と X 間の自白を用いて当然の補助参加は認められない)。ただし,少数説により,通常共同訴訟だから当然の補助参加は認められないとして,共同訴訟人独立の原則を形式的に一律に判断することに対する疑問,問題提起がなされていることは同様に認識されなければならない。[⚫] 参考文献 [⚫]新堂幸司『訴訟物と争点効』(有斐閣・1991) 33 頁/三ケ月章・百選 188 頁(安西明子)
『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年
ISBN978-4-7857-3092-5
主観的追加的併合
2025/09/03
AはY₁ とある土地の所有権の帰属につき訴訟で争っていたが,Aが 7000 万円支払うときは,Y₁ はAに所有権を移転し,移転登記を行う旨の裁判上の和解が成立し,これに従ってAは全員を支払い,本件土地所有権を取得し移転登記を経由した。上記和解金算定の重要な資料となったのは,Y₂ 銀行に勤務する不動産鑑定士作成の鑑定評価書であったが,この評価書は本件土地を宅地見込地として評価していたところ,その後,本件土地は和解当時保安林指定(※注)されていたことが判明した。このため,Aの債権者であるXはAに代位して,Y₁に対し,購入した土地に瑕疵があったとして損害賠償を求める訴えを提起した。この損害賠償請求訴訟の第1審で,XはY₂を新たに追加で追加する旨の申立てをした。その理由は,第1審でのY₂の不動産鑑定士を証人尋問したところ,Y₂の従業員である不動産鑑定士が土地の時価を鑑定するに当たり不法に瑕疵を隠蔽したために代金額が算定されたことがわかった。Y₂ がその顧客である Y₁ の利益を図ったもので,Y₂ は Y₁ と連帯して支払え,というものであった。この訴訟において,被告Y₂の追加は認められるか。(※注) 保安林とは,水源のかん養,土砂の崩壊その他災害の防備,生活環境の保全,形成等,特定の公共目的を達成するため,農林水産大臣または都道府県知事によって指定される森林[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 62・7・17 民集 41 巻 5 号 1402 頁[⚫] 解説 [⚫]1 訴えの主観的追加的併合の必要性と許容性係属中の訴訟において当事者を追加することを,主観的追加的併合という。訴訟の当初から共同原告として訴えまたは共同被告として訴えられていなかった(当初は主観的併合でなかった)が,後に第三者自ら当事者として訴訟に加入したり,在来の原告または被告が第三者に対する訴えを併合することが,ここに広く含まれる。この主観的追加的併合には,明文の根拠がある場合とない場合がある。明文があるもののうち,第三者自ら参加してくる場合として共同訴訟参加 (52 条) や参加承継 (51 条) が,原告が第三者に対する訴えを併合提起する場合として引受承継 (50 条・51 条),被告による同様の引受承継がある。このほか,取立訴訟の原告が債権者を引き込む場合 (民執 157 条 1 項) も含めてよいであろう。ここでの問題は,明文の規定がなくても,当事者の機能として主観的追加的併合を認めうるかどうかである。2 判例による主観的追加的併合の否定判例・実務は,明文の規定がない場合にこのような併合形態を認める必要はないとしている。実務では,係属訴訟への追加でなく,別訴として訴え提起したもの (本問ではXからY₂への訴え) を,裁判所が裁量で係属中の訴訟 (本問ではXからY₁への訴え) と弁論を併合するという扱いをしてきた。それで間に合うと考えてきたからか,判例も少ない。上記の併合形態のうち,本問の,原告が訴訟係属中に第三者を新被告に追加する場合をみると,下級審判例には肯定例もあったが,上記の参考判例①が否定的立場をとった。すなわち,原告はY₁に対する別訴を提起した上で,Y₁に対する訴訟と口頭弁論を併合 (152 条) してくれと裁判所に促し,裁判所が併合判断をするのを待つべきである,仮にY₁に対する訴訟とY₂に対する訴訟が併合要件 (38 条) を満たしていたとしても,Y₂への新訴が裁判所の判断なく当然に併合されるという効果を認めることはできない,としたのである。主観的追加的併合が認められない実質的な理由としては,「かかる併合を認める明文の規定がないのみでなく,これを認めた場合でも,新被告の訴訟状態を当然に利用することができるかについては問題があり,必ずしも訴訟経済にかなうものでもなく,かえって訴訟を複雑化させるという弊害も予想され,また,軽率な提訴ないし濫訴が増えるおそれもあり,訴訟の提起の時期いかんによっては新訴訟の遅延を招きやすいこと」などが指摘されている。この内容をさらに説明すると,被告の追加を許しても係属中の訴訟 (本問の X・Y₁ 間の訴訟) の訴訟の資料を当然に流用できるとは限らないという訴訟経済の観点と,原告が訴訟に慎重に臨んで被告を選ぶということをしなくなり,被告や被告に追加しようとする関係者に迷惑だという当事者の公平の観点にまとめられるだろう。3 学説による主観的追加的併合の許容 (判例への批判)これに対して学説では,古くから主観的追加的併合の理論が立てられ,被告から第三者を引き込む形態を含めて追加的な共同訴訟の理論が広く唱えられてきた。主観的併合については併合要件があり (38 条),追加的な併合もとくに差し支えないと考えられるし,被告や第三者からも,原告の訴えが提起された機会に,その訴訟手続を利用して,広く紛争の終局解決を図ることは望ましい (ただし第2審での追加は追加された者の審級の利益を奪うので,第1審係属中に限るとされる)。現在では,一定の要件の下,在来の当事者が第三者を訴訟に引き込んで,その第三者と共同訴訟人として訴訟を続けることを認めるのが有力となっている (後掲・121 頁)。とくに原告が被告を追加する本問の形態は,主観的追加的併合の中で最も許容しやすい基本的形態で,学説では当然承認済みであったのに,上記のとおり判例が別訴の提起と弁論の併合によれば足りるとし,併合審判も裁判所の裁量に任せて (併合するかどうかは裁判所次第で併合される保障がない),当事者の地位としては認めることに批判が強い。このような併合形態を認める学説も,共同訴訟の要件 (38 条) を満たせば常に後発的併合を認めてよいとはしておらず,一定の要件を提示し,それについて裁判所の審査を経ることを前提としている。訴訟併合を裁判所の裁量に委ねるのでなく,その指針と申立権者の権限を明確にしようとしているのである。判例のように弁論の併合で目的を達することができるとして訴えの主観的追加的併合に消極的な学説 (裁判所の裁量に任せ,その裁量をコントロールしようという立場) もある。しかし,有力説は,軽率な提訴ではなく訴訟遅延を招くおそれもない場合で,新被告に対する訴えを併合する方が一定程度認められる紛争についても一挙に当事者は別訴提起しか認めず,この併合判断を否定する点は被告がたとえ訴えているのである。そこで学説においては原告による追加的併合の要件が議論され,まず,民事訴訟法条文前段にある場合に主観的追加的併合を認め,同条後段の場合には認めない立場が生まれた。その後,主張および証拠の共通性が高く,原告が当初から共同被告としなかったことに重大な過失がなかった,かつ従前の訴訟手続に著しく遅延しないことを要件とする立場などが主張されるようになった。たしかに学説の議論はいまだ十分とはいえないが,前述の参考判例①で示された訴訟経済と当事者間の公平の観点からいえば,近時は後者に重点を置く学説がいくつも主張されている。4 主観的追加的併合の要件,許否を見極める指針では,当事者によるこのような併合の申立てを一律に否定するのでなく,判例の指摘するデメリットを避ける要件,指針はどのようなものか。訴訟経済や紛争の1回的解決という観点もあり得るところだが,やはり当事者の公平の観点,戦争の具体的状況における当事者の関係の重要性だろう。つまり引き込む側,ここでは原告が当初から共同被告とせず,後に引き込むことが本当に始まる第三者と従来被告に対して公平か,が問題となる (民訴・後掲122頁以下)。本問では,第1審の終盤からY₂が紛争に関係することがはじめて明らかになった。Y₁と直接の契約関係になかったこともあり,当初にY₂が被告に加えるべき状況にはなかったとすれば,追加的併合を許す意義と認めることができよう。けれども逆に,証人尋問の結果から紛争申立ての契機を得るという状況の疑いもあり,遅延によっても被告の側の防御権が合併訴訟さえ許されない可能性があるし,このような状況による追加的併合を許容する根拠も十分でない可能性がある (高橋宏志・法学協会雑誌 106 巻 11 号 [1989] 154 頁)。いずれにせよ個別事件の具体的な状況,訴訟の経過の中で,原告が最初からその者 (本問ではY₂) も被告にしなかったことに責任がなく,後から被告を加えることが関係者間で必要であり,かつ公正でない証拠を示すことができれば,原告による追加的併合を許してよいと考える。この併合形態が認められる場合には,以後の訴訟は通常共同訴訟となる (共同訴訟人独立の原則については→問題 61)。従前の訴訟の資料が,追加された X・Y₂ 間の訴訟には影響を及ぼすかどうかについては,通常は,旧訴訟の訴訟状態の利用は当然ないとされ,証拠については X・Y₂ 訴訟と X・Y₁ 訴訟で共通とされる。判例のように (追加を許さず) 別訴を併合した場合にも訴訟の資料は流用される。ただし,有力説はこの原則自体を問題にしており,まずは X や Y₁ の援用を待ち,当事者双方の立場を考慮して旧訴訟の資料を利用しない場合もあり得るともしている。なお上記の問題とともに,本問とした参考判例①では,別訴の提起,弁論の併合という方法をとる場合,新被告に対する訴えについて新訴と同様の手数料を納めなければならないかが問題となった。参考判例①の第1審は,新訴としての手数料の納付命令にXが応じないとして訴えを却下し,この判断が控訴審,最高裁でも維持された。しかし,もし判例と逆に主観的追加的併合を適法とするのであれば,二重訴訟の経済的利益が共通するので追加の納付は必要ないとされる。[⚫] 参考文献 [⚫]井上治典「多数当事者の訴訟」(信山社・1992) 115 頁/安西明子・百選 190 頁(安西明子)
『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年
ISBN978-4-7857-3092-5
訴えの変更
2025/09/03
XはYとの間で,Yの所有する甲家屋についての売買契約を締結したが,履行期になってもYから甲家屋が引き渡されないので,甲家屋の引渡しおよび所有権移転登記を求める訴えを提起した。Yは本件売買契約には要素の錯誤があり無効であるとしてXの主張を争い,争点整理の結果,契約の有効性が争点であることが確認されたが,証拠調べの前に,甲家屋は焼失してしまった。Xは,甲家屋の焼失はYの帰責事由によるものであるとして,従前の請求を履行不能による損害賠償を求める訴えに変更する旨の申立てを書面で行った。Xによってなされた訴えの変更は認められるか。また仮に,Xによる訴えの変更がその要件を満たしているとして,裁判所は従前の請求をいかに扱うべきか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 32・2・28 民集 11 巻 2 号 374 頁[⚫] 解説 [⚫]1 訴えの変更訴えの変更とは,原告が,すでに係属している訴訟手続を維持しつつ,当初申立てていた審判対象 (訴訟物) を変更することをいう。これによって,原告は当初提起していた審判対象では被告との間での紛争解決にとって有効適切でないことに気づいたような場合であっても,あらためて別訴を提起する必要はなくなり従前の審理を無駄にすることなく利用することができる。しかし他方で,これが無制約に認められるとすると,被告にとっては防御・応答の困難等の不利益が生じ,また審理も長期化・複雑化するといった弊害が生じることから,民事訴訟法は,①請求の基礎に同一性があること,②著しい訴訟遅滞をもたらさないこと,という要件の下に訴えの変更を認めている (143 条 1 項)。(1) 請求の基礎の同一性 この要件は,従前の請求とまったく関係のない請求が既存の手続に持ち込まれることによって生ずる被告の防御の困難を防ぐため,すなわち被告の利益保護のために設けられたものである,と解するのが一般的である。いかなる場合に請求の基礎に同一性があるといえるのか,という点については諸説唱えられているが,判例・実務は,請求の基礎の同一性を,「旧訴訟物的な利益給付請求」におけると同一性,新旧両請求の主要な事実が「その間において共通する関連性」などと解し実体的関連性を重視する立場と,② 「新訴と旧訴の事実資料の間に審理の継続的施行を正当化する程度の同一性を有し,両者が肯定できる」場合といった,裁判資料の利用可能性に重点を置く立場,さらに,③両者をもとに考慮する立場 (併用説),などがあるが,具体的帰結においては必ずしも大差は生じていないとも言われている (上田 82 頁など)。また,併用説をさらに進めて,訴えの変更の時期が後になるほど①の側面 (実体的側面) からの請求の基礎の同一性を限定的に解すべきとする見解も存在する (谷口安平『民事訴訟法』〔改定2版・1987〕 183 頁)。(2) 著しい訴訟をもちきたさないこと 請求の基礎の同一性という要件に加え,民事訴訟法はさらに,訴えの変更を認めることによって著しく訴訟手続を遅滞させないことという要件 (143 条 1 項ただし書) を付加している。これは,訴えの変更を認めることによって生ずる訴訟経済の要請に対処するために設けられた要件とされる。よって,現実の訴訟追行の見地は,この要件を,被告の利益保護を図るためのものではなく,訴訟経済や審理の迅速性の防止といった公益保護を図るためのものであると捉え,この要件の判断は具体的状況に応じて裁判所が裁量で判定すべきとされ,また,被告の同意等があってもその判定には無関係とされる。ただし,ここでいう訴訟遅延が生じることによってもたらされる公益の侵害というものは,当該訴訟が長引くことによる抽象的な意味合いでの公益的要請(司法資源の無駄) といった点が考えられるが,上述の通説的見解も,訴訟手続に著しい遅滞が生ずるとして訴えの変更が認められないときでも別訴提起の余地は認められることからすると,限られた司法資源の有効利用という問題の解決には資さないようにも思われる。2 訴えの変更の態様訴えの変更には,次の2つの態様があるとされる。1つは,従前の請求 (旧請求) を維持しつつ,新たな請求 (新請求) を追加する場合であり,訴えの追加的変更と呼ばれる。これに対し,旧請求と交換して新請求を定立する場合を訴えの交換的変更と呼ぶ。訴えの交換的変更を,独自の類型として捉えるかどうかについては争いがある。多数見解は,訴えの追加的変更と,訴えの追加的変更と旧請求についての訴えの取下げとが結合したものと捉えている (複合行為説)。もっとも判例は,相手方が異議なく応答すれば旧請求の取下げについて黙示の同意ありとする (最判昭和41・1・21 民集 20 巻 1 号 94 頁)。一部の学説はこの考え方を支持し,訴えの変更の態様としては追加的変更のみを認めれば足り,訴えの変更の一態様としての交換的変更という独自の概念を定立する必要はないとする (三ヶ月 139-140 頁など)。他方で,学説の多くは,旧請求の訴え提起による時効の完成猶予の効果の新請求変更後における持続や,新請求の審判のために旧請求についての従前の審理 (裁判資料) の流用を説明するためには,訴えの交換的変更を独自の類型として位置付けるべきとする (独自類型説。新堂 771 頁,伊藤 646-647 頁,松本=上野 727 頁,上田 530 頁など)。この両説の実際的相違は,旧請求の訴訟係属が消滅するためには,訴えの取下げ,とりわけ被告の同意を要するかという点に現れてくる。しかしながら,独自類型説に基づく見解も,被告の利益保護という観点から,交換的変更の場合には被告の同意 (261 条 2 項類推) を要すると解している (独自類型説のうち,被告の同意を不要とするのは,伊藤 647 頁)。ことに鑑みると,結論において両説に大差はないともいえる。3 本問の検討本問の訴訟については,Xによってなされた訴えの変更の申立てが,訴えの変更の要件を満たしているかどうかが問題となる。まず,甲家屋の引渡請求という従前の請求と履行不能による損害賠償請求という新たな請求との間には,請求の基礎の同一性があるといえるかについて検討する。従前の請求原因は,X・Y間での売買契約の成立でありその有効性が争われていたところ,新請求における請求原因においても,Yについて本来の債務 (甲家屋の引渡義務) が成立していることが前提となることから,実体法的にみれば,両請求の基礎の同一性があるといえる。また,手続法的な側面に着目しても,売買契約の有効性に関する審理が有る程度まで進んでいたのであれば,これを新請求にも流用する実益は大きく,同様に請求の基礎の同一性が肯定されやすいといえよう。もっとも,旧請求についての審理が裁判をするのに熟するにいたり,新請求の審理のために新たな裁判資料の収集を必要とするといった,訴訟手続を著しく遅滞させると判断される場合には,訴えの変更は認められないことになる。このような場合には,Xとしては履行不能による損害賠償請求の訴えを提起せざるを得ないことになるが,1 注でも指摘したように,果たしてこのような区別によらせることが真に訴訟経済に適うことになるかについては疑問の余地があろう。本問の後段については,Xによる訴えの変更がいわゆる訴えの交換的変更に当たるものであることから,その同意の要件が問題となる。この点,複合行為説に立つと,訴えの交換的変更という独自の概念を認めないことから,旧請求については訴えの取下げがなされない以上,単に追加的変更として扱われることになり,旧請求についても本来判決を求める対象(判決事項)となる。他方,独自類型説に立つと,これが訴えの交換的変更を許容するに際しては訴えの取下げは必要とはされないものの,独自類型説の多くも被告の利益保護の観点から,交換的変更の場合であっても被告の同意を要すると解していることを踏まえると,Yの同意がないかぎり X による訴えの変更は単に追加的変更として扱われることになる。[⚫] 参考文献 [⚫]沢津浩・百選 66 頁(畑 宏樹)
『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年
ISBN978-4-7857-3092-5
訴えの変更
2025/09/03
XはYに対して売買代金ならびに遅延損害金の支払請求訴訟 (前訴) を提起しこれが係属していたところ,第1審の口頭弁論期日において以下の内容の訴訟上の和解が成立し,これによって訴訟は終結した。「Yは、Xに対する売買代金の支払義務が存在することを認める。」「Xは売買代金の代わりに、Yの有する甲土地をXに引渡す。」「Xは、Yの遅延損害金支払債務については免除する。」しかし、甲土地の引渡期日が経過したにもかかわらず、YはXに対し一向に甲土地の引渡しを履行しようとしないので、XはYに対する履行の催告を行った上で上記の和解を解除し、あらためて売買代金の支払を求める訴え (後訴) を提起した。これに対し、Yは、本案前の抗弁として、和解契約が解除されたのであれば、訴訟上の和解による前訴終了の効果も遡及的に消滅しているはずであるから、前訴はいまだ訴訟係属状態にあり後訴は二重起訴に当たると主張した。後訴裁判所としては、Xにより提起されたこの後訴をいかに扱うべきか。また、Xとしては、後訴提起という手段以外にどのような方法でもって和解の解除を主張し得るか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 43・2・15 民集 22 巻 2 号 184 頁[⚫] 解説 [⚫]1 訴訟上の和解の解除の可否本問のように,和解の内容についてその後に不履行があった場合に,Xが和解契約の解除をせず,和解条項の内容の履行を求めて強制執行 (甲土地についての引渡執行) をすることは,訴訟上の和解の効力として執行力が認められている (民執 22 条 7 号) ことから,問題なく認められる。それでは,X としては,私法上の和解契約を法定解除し得ること (異論はない) として,さらに訴訟上の和解をも解除することができるであろうか。訴訟上の和解に私法上の和解としての要素を認め (二元論),既判力を否定する立場に立つ場合には,当然に債務不履行に基づく解除は肯定される。他方,訴訟上の和解の効力につき既判力肯定説ないし制限的既判力説に立つ場合であっても,その後の不履行に基づく解除権の行使は,基準時 (訴訟上の和解の効力発生時) 後に生じた新たな事由といえ既判力によっては遮断されないことから同じく解除は肯定される。問題なのは,解除権行使の効果として,和解によって生じていた訴訟終了効も消滅する (民訴 267 条 1 項参照) のか否かという点についてであり,解除の訴訟法上の主要方法の問題とも相まって議論のあるところである。2 解除の主張方法この問題は,理論的には,解除権行使の効果として訴訟上の和解により発生していた訴訟終了効が遡及的に消滅するのか否か,という点に関わってくる問題である。解除により訴訟終了効も消滅すると捉えるならば,前訴はいまだ終了していないということになることから,当事者としては期日指定を申し立てるということになる (期日指定申立説)。これに対して,訴訟終了効はやはり消滅せず別個の新たな紛争が生じたと捉えるならば,当事者としては新訴を提起するということになる (新訴提起説)。 以下,両説の長短を検討するとともに,この2説以外の考え方についても検討する。(1) 期日指定申立説 期日指定申立によると,和解の解除により訴訟終了効も消滅し,前訴が復活し審理が続行されることになる。これにより,前訴の訴訟状態を利用することができる,申立手続が簡便である,不履行の有無の判断の前提としての和解条項の解釈には前訴において訴訟に関与した裁判所が適任である,といった利点がある。他方で,不履行の有無 (=解除の有効性) は,和解自体に付着していた瑕疵ではなく新たな紛争と捉えるべきであるにもかかわらず,場合によっては審級の利益が保障されないという難点がある。(2) 新訴提起説 新訴提起説では,和解が解除されても訴訟終了効は消滅しない。この立場によると,和解を解除した上で新たに訴えを提起する考えは,前訴とは別個の新たな紛争ということにあたり,審級の利益が保障されるという利点があるが,他方で,前訴の訴訟状態を利用できず不便であるという難点を伴う。参考判例①はこの立場に立っており,和解を解除した当事者が前訴と同じ訴訟物をあらためて後訴という形で請求しても,二重起訴の禁止 (142 条) にはふれないとしている。(3) 選択説 訴訟終了効の消長とは別に,解除主張者に期日指定申立てと新訴提起のいずれかを選択させるという立場 (選択説) も有力に唱えられている。解除主張者の意思を尊重した考え方といえるが,相手方の利益や審理を実体的に進めるためには,Xとしては前訴についての期日指定の申立てをすべきことになる。3 本問の検討和解が解除されることにより訴訟終了効も消滅すると捉えるという期日指定申立説の立場からは,前訴がいまだ訴訟係属中にあることになり,後訴は二重起訴の禁止にふれて違法な訴えとして却下される。この立場に立つ場合には,X としては前訴についての期日指定の申立てをすべきことになる。他方,参考判例①の新訴提起説のように,訴訟上の和解が解除されても前訴についての訴訟終了効は消滅しないという理解を前提とすると,X により提起された後訴は二重起訴の禁止にはふれないことになる。また,訴訟終了効の消長とは別に解除主張者の訴訟追行の便宜を認める選択説の立場からは,Xによる後訴の提起以外にも,前訴についての期日指定の申立てという手段を認めることになる。[⚫] 参考文献 [⚫]近藤隆司・百選 186 頁(畑 宏樹)
『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』 山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著・2024年
ISBN978-4-7857-3092-5