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留置権の成立および効力

2024年4月1日、Xは、所有の甲建物を、Yに賃貸した。XとYの間の賃貸借契約では、賃料月額25万円、賃料の支払方法は、翌月分を当月末日までに支払うこと、賃貸期間は2年間であることが合意されていた。Yは、Xとの契約締結後、ただちに甲建物の引渡しを受け、居住を開始した。その後、Yは、2025年2月分以降の賃料を支払わないので、Xが請求したところ、Yが賃料を減額してほしいというので、Xは、同月以降の賃料を月額20万円とした。しかし、Yは、同月以降の賃料を支払わないので、Xは、同月7月3日付けの催告で、同年7月15日までに、未払賃料6か月分を支払うように催告した。この催告は、内容証明郵便で、同月7日に、Yに到達した。Yからの賃料の支払がないため、XはYに対し、2025年7月31日付け書面で、賃料不払を理由に、Yとの賃貸借契約を解除する意思表示をし、この書面は、同年8月1日、Yに到達した。Yは、Xからの書面を受け取った後も、甲建物に居住し続けていた。同年8月末、台風に伴う豪雨のため、甲建物の屋根が損傷したので、Yは、A工務店に修理を依頼し、修理費用として、20万円を支払った。また、その頃、Yは、A工務店に依頼して、玄関に、システムキッチンの交換工事を行い、2025年9月20日、Yは、Aに工事費用50万円を支払った。2025年10月10日、Yは、Xに対し、甲建物の明渡しを求めて訴訟を提起した。この場合に、Yは、Xの明渡請求に対して、どのような反論をすることが考えられるか。そして、Yの反論は、認められるか。●解説●1. 賃貸不払による解除と明渡請求賃貸借契約において当事者の一方が債務不履行をしたときには、相手方は、賃貸借契約を解除することができる。賃料の支払は、賃借人の義務であり、賃借人が賃料支払義務を履行しない場合には、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができる。2017年民法改正前の判例・学説においては、不動産賃貸借について、賃借人に賃貸借契約上の債務不履行がある場合でも、賃借人の行為が当事者間の信頼関係を破壊するに至らないときには、賃貸借契約の解除は認められないと考えられていた(信頼関係破壊の法理)。2017年民法改正後も信頼関係破壊の法理は否定されていないと考えられている。本問では、賃貸人Xに対して相応の期間を定めて催告を行っているが、期間内にYは履行をしていないから、Xは賃貸借契約を解除することができる。そして、Yは、Xに賃料の減額を申し入れ、減額が認められても、6か月分の賃料を支払わず、賃料不払が継続するそれがあることを考慮すると、その信頼関係は破壊されているであろうから、契約の解除は否定されない。そうすると、Xによる契約の解除は認められることになる。賃貸借契約が解除により終了すると、賃借人は、賃借人に対し賃借物の目的物の返還を請求することができるから、本問のXのYに対する甲建物の明渡しを請求することができることとなる。2. 留置権の成否(1) 留置権の意義たとえば、建物の賃借人が賃貸借契約期間中に賃貸人が負担すべき修理費用を支出しない(→賃貸人は、賃貸建物を修繕する義務(606条1項)を有する)場合に、賃借人は、賃貸建物に要した必要費の償還を請求できる。このときに留置権が成立する。(2) 留置権の成立要件民法295条1項によれば、留置権が成立するためには、①他人の物を占有していること、②その物に関して生じた債権を有すること(債権と物との間の牽連性)、③その債権が弁済期にないときは認められないこと(被担保債権の弁済期の到来)、④占有が不法行為によって始まった場合ではないことの4つが必要である。(3) 被担保債権と物との牽連関係留置権の被担保債権は、債権者が占有している「物に関して生じた」債権であることが必要である。この場合には、留置権が認められると、債権者は、目的物が弁済されるまで、その物を留置することができるのであるから、被担保債権と占有物の間に牽連関係があることは、重要な要件である。(4) 不法行為によって占有が始まった場合留置権は成立しない(295条2項)。Yの占有は賃貸借契約によって始まったものであり、権原のある占有であったから、占有が不法行為によって始まった場合に該当しないようにみえる。●発展問題●(1) Aは、自己の所有する甲土地をBに譲渡し、Bは甲土地の引渡しを受けた。Bが甲土地の所有権移転登記手続を行う前に、Aは甲土地をCにも譲渡し、Cは、Bよりも先に、甲土地の所有権移転登記を完了した。CがBに対して、甲土地の引渡しを請求したところ、Bは、Aの売買契約上の債務不履行によってAに対する損害賠償請求権を取得してこれを被担保債権に基づく留置権を主張したうえで、甲土地の引渡しを拒絶した。Bの主張は認められるか。(2) Aは、Bに500万円を貸し付けたが、この間に、Bは、この貸金債務の担保として、B所有の甲建物をAに譲渡し、甲建物の所有権移転登記を経由した。甲建物のAへの譲渡後も、Bは、甲建物に居住していた。Bが、弁済期に貸金債務の弁済をしなかったのでは、譲渡担保権の実行として、甲建物をCに800万円で売却し、Cは甲建物の所有権移転登記を経由した。CがBに対して、甲建物の明渡しを請求したところ、Bは、Aに対する清算金請求権を有しており、この清算金請求権を被担保債権とする留置権を主張できることを理由に、Cへの甲建物の明渡しを拒絶した。Bの主張は認められるか。●参考文献●古積健三郎・百選Ⅰ 162頁道野真弘・リマークス20号(2000)14頁鎌田薫=高見澤・民法Ⅰ岡本裕樹・百選Ⅰ山田卓生ほか『分析と展開・民法Ⅰ(第3版)』(弘文堂・2004)275頁山田誠一・争点132頁