第三者による再審の可否
Yは, ドライブインの経営等を目的とする株式会社であり, X1, Yら10名が, その株主として各110分の1の株式を有するが, Y1はコロナ禍で経営不振に陥り, これ以上Y会社により事業を継続するのは得策はしいとして, これまでの会社を廃業し, 新たに個人経営の会社を設立するために電磁株主総会を開催したが, 株主のうちXら5名が解散に反対したため議決に至らなかった。 Yらは, Y会社として何ら事業を行っていないのに事業年度毎に負担している状況を脱しようと, Yに解散事由を認めるうえ, 当事者は株主Xらの一部を被告として訴えを提起し (会社833条1項・834条20号), Yは会社の解散を請求する訴え (会社833条1項・834条20号) を提起した。Y1は請求するも, Y1の請求原因たる会社の事業の失敗を認め, 解散事由 (同法833条1項1号) の存在を争わなかった。 裁判所は第1回口頭弁論においてY1の請求を認諾し, Y1の事業継続は極めて困難で解散以外の方法では現状を打破できないとして解散事由の要件を満たすと判断し, 請求認諾判決を言い渡した。この判決の確定後にその存在を知ったX2は, 上記訴訟はY1取締役とY2がいずれも解散を望んで組んだ馴れ合い訴訟であり, Xは参加することができた上記訴訟の帰趨を知らされず, その審理に関与する機会を奪われたとして上記判決の効力を争いたいと考えている。 この場合にXは再審の訴えを提起することができるか。 可能性として, どのような手続により, どのような再審事由を主張することが考えられるか。●参考判例◎① 最決平26・7・10判時2237号42頁② 最決平25・11・21民集67巻8号1686頁■解説●1 対世効が及ぶ第三者による再審確定判決の効力は訴訟当事者に及ぶのが原則である (115条1項1号)。 多数の関係者の間で法律関係を確定する必要から, 例外的に, 判決効が広く第三者にも拡張されることがあり, これを対世 (的) 効 (力) と呼んでいる。 団体関係訴訟や身分訴訟がその例である (人訴24条, 認諾の場合の会社838条)。 ただし, 訴訟に関与しない第三者に対世効を認める前提として, 第三者への手続保障が欠かせない。 そこで, 当該法律関係について最も密接な利害関係をもつ者に当事者適格を付与し (例: 会社833条・834条, 人訴12条・43条・43条), それにより充実した訴訟追行ができるようにする等の方策が備えられている。 さらに, こうして当事者適格を認められた者が, 関係者の知らないうちに訴訟そして判決を確定された場合には, それにより不利益を受ける一定の者が, その取消しを求める再審の訴えを認めることも, ひとつの考案となりうる。では, 株主による責任追及等の訴え (会社853条) のような明文のない場合でも, 本問で上記のとおり確定判決の効力が及ぶXは再審の訴えを提起することができるか。 できるとすればどのような方法によるべきか。 この問題につき, 参考判例②は, 新株発行の無効確認を求める訴訟の請求認容確定判決に対し, 新株を取得した株主に再審の訴えを提起することを認めた。 まず再審事由については, 原決定が元の訴訟当事者の訴訟の係属を知らせず判決を確定させても民事訴訟法338条1項3号の再審事由があるとはいえないとしていたのに対し, 3号事由を認めた (→問題22)。 すなわち, 元の訴訟で被告適格を付されている会社は (会社834条2号), 上述のとおり対世効を受ける第三者に代わって手続に関与する立場にあるので第三者の利益に配慮して一層審議に従った訴訟活動をすることが求められるのに, 会社がそのような訴訟活動を行わないどころか, その訴訟活動が著しく信義に反し, 第三者に判決効を及ぼすことが手続保障の観点から許されない場合には3号事由が認められるとしたのである。また当事者適格については, 独立当事者参加の申出とともにする再審の訴えの提起を認めた。 その理由として, Xのような者は元の訴訟の当事者でない以上, その訴訟の本案について訴訟行為をすることはできず, 当該判決で判決の判断を左右できる地位にはないが, 再審の訴えを提起するとともに独立当事者参加の申出をした場合には, 再審開始の決定が確定した際, 当該独立当事者参加に係る訴訟行為をすることにより, 合一確定の要請 (40条) を介して確定判決の判断を左右することができるようになるので, 再審の訴えを提起する有利になることを示した。 ただし参考判例②では, 再審の訴えを提起する手続に不明点が残っている。2 再審の訴えを提起する手続再審の訴えを提起することができるのは一般に, 確定判決の効力を受け, かつ判決の取消に固有の利益を有する者とされ, これに該当すれば元の訴訟当事者以外にも再審の訴えの提起が認められてきたが, その方法については議論がある。 学説により有力視されてきた方法としては, 再審の訴えを独立当事者参加の申出 (明記されないが旧来の訴訟の参加) とともに提起する方法 (通説), 再審の訴えにつき債権者代位権を有する者への (共同訴訟的) 補助参加の申出とともにする方法 (43条2項・45条2項・46条) がある。 そして参考判例②は, 固有の利益に応じではないものの, 上記通説を共通している。しかし, 独立当事者参加では元の訴訟の請求について当事者となれるわけではないので再審の訴えを提起する資格を取得できないのではないか。 だとすると, 再審の訴えは元の訴訟の請求に補助参加を申し出るとともに提起することとなる。 けれども, 補助参加では, 被参加人の主張できる再審事由しか主張することができず, 訴訟係属を知らされず関与できなかったというX固有の理由を提出できるか, 疑問もある。 そのため通説は独立当事者参加の形式を採ることを主張していた。 ただし補助参加の方法を支持する説も, 判決効が及ぶ第三者が補助参加する場合は単なる補助参加ではなく, 参加人が被参加人と抵触する行為のできる共同訴訟的補助参加となるから, 元の訴訟当事者とほぼ同等の立場を想定している。一方, 参考判例①は, 独立当事者参加の申出を求める意味を, 再審開始決定後の本案審理において合一確定の限度で独自に訴訟追行できることに求めている。 ただし, これについても共同訴訟的補助参加であれば合一確定の要請を介して補助参加人に同様の訴訟追行が可能であると考えられる。 にもかかわらず, 再審の訴えを提起するに独立当事者参加の申出によるなければならないか。 まず, 参考判例②では, 当事者が判決していた独立当事者参加を受け, そのまま再審の訴えを提起する資格が肯定されたため, (共同訴訟的) 補助参加が明確に否定されたわけではないとの見方もあった。3 詐害防止参加における請求の定立再審の訴えを提起するには補助参加でなく独立当事者参加の申出とともにしなければならない。 しかも, 元の訴訟の当事者の少なくとも一方に対し請求を立てなければならないという判例の立場を明確にしたのが, 本問のモデルとした参考判例①である。 この事件では, 株主 (本問のX) が独立当事者参加の申出とともに再審の訴えを提起したものの, 請求を立てることなく元の被告の請求認諾を求めていたところ, 参考判例②を引用して独立当事者参加によることは肯定しつつ, 独立当事者参加につき片面参加を認めていなかったため民訴法下(最判昭45・1・22民集24巻1号1頁)を引用し,再審の適格を認めず訴えを却下した。しかし, 独立当事者参加において参加人独自の請求を定立する必要があるかについては, 参考判例②の企業価値の意見, 山浦善樹裁判官の反対意見の通り, 従来から疑問とされてきた。 有力説によれば, とくに詐害防止参加[→問題23]では当事者による馴れ合い訴訟を阻止すれば十分であり, 訴訟について独自に請求を立てる必要はないとされている (井上治典 「多数当事者訴訟の法理」 (弘文堂・1981) 299頁, 槌田和幸 「離婚訴訟の基礎理論」 (信山社・2008) 187頁, 高橋・重点講義 (下) 520頁等)。そもそも3号再審事由は, 当事者による再審の訴えのように, つねに本案請求について独自の再審事由が必要か, 学説は疑問としている。 判決効を受ける第三者としては, 確定判決を取り消すことができれば目的を達する。 現行法が再審を2段階構造に定め, 再審の訴えの適法要件および再審事由の存否についての審理である第1段階をクリアして再審開始決定が確定してはじめて (348条), 本案の審理に進む (348条) という2段階構造としていること [→問題71] からも, 再審事由の存否, 再審開始を審理する第1段階の手続を提起する資格は, 第2段階の本案当事者の適格の有無と切り離すべきではないか。 企業関係法関連の訴えの被告適格は会社に限定されている以上, 株主が単に請求棄却を求めて被告の立場で独立当事者参加を申し出ることはできないとするが, 第三者としては, まず再審開始決定が得られればよく, その結果は本案訴訟に参加されればよいのである。 不法行為で当事者となれず, しかも会社より強い利害をもって本案訴訟の請求当事者適格を求める地位に立てることも重要である。 信義則対抗も, 無理に技巧的な請求を立てることを要求するのは実情に合わないと指摘している。4 再審事由参考判例①の原決定も原々決定も, 会社の利益理由がないとの主張判断が先立ってか, 3号の再審事由は否定して再審請求を棄却していた。 上記の企業価値から見れば, Y1らは会社の精算後も存続するXらを排除して解散の認容判決を得ることで利益が一致しているともいえるのかもしれない。しかし, 本問のモデルとした参考判例①の事案では, 日本の株主しかいない会社において解散反対者3名の関与を排除した訴訟をし, 会社が積極的に争わなかったわけでない。 元の訴訟の被告 (本問のY) が会社の解散に反対と主張して訴状を作成していた等, 信義則対抗もそれは3号再審事由が認められる余地があった。 参考判例①では, 元の訴訟関係から会社に対して株式の発行の有効性を主張していた株主に訴訟係属を知らせず, 訴訟で被告会社が信義則の請求をまったく争わなかったことが明らかな活動が著しく信義に反し, Xの手続保障を害するとされていたこととからすれば, 参考判例②に基づく本問のほうが, 3号再審事由にあたる可能性が高いのではないか。●参考文献◎杉山悦子 「第三者による再審の訴え」―最決平13巻3号 (2014) 81頁/三木浩一・百選234頁/安西明子・新判例解説Watch16号 (2016) 145頁(安西明子)